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株式会社 日立ハイテクノロジーズ

被災地支援の「いま、ここ」 特集 社会を豊かにするハイテクソリューション01 国立天文台『星・宇宙を身近に感じる特別授業』@石巻市立北上中学校

日本では25年ぶりの天体ショー、金環日食に列島が沸いた5月21日から4日後のこと。宮城県石巻市の北上中学校では、国立天文台による理科の特別授業が行われた。今回の取り組みは、震災直後から被災地における情報通信環境の整備を通じて、地域による情報格差の解消に取り組んできた国立天文台・天文データセンター 大江将史助教の発案によるもの。日立ハイテクノロジーズ(以下、日立ハイテク)が寄贈したテレビ会議システムを、実際の教育現場に利活用した復興支援プログラムのひとつである。

子どもたちの目を曇らせたままにしておくわけにはいかない

次第に天文学の世界へと引き込まれていく生徒たち

子どもたちの目を曇らせたままにしておくわけにはいかない

 給食が終わると一斉に歯磨きを始める北上中学校の生徒たち。午後からは、いよいよ国立天文台の特別授業。そのせいか、学校全体がそわそわしているような雰囲気だ。教室から自分の椅子を運び出し、体育館へ向かう100名の全校生徒。舞台のスクリーンには「ようこそ!星・宇宙を身近に感じる特別授業へ」という文字が並ぶ。

 5校時(13:30から50分間)を利用した「座学」編では、ビックサイエンスの最前線である国立天文台・ハワイ観測所(米国)と北上中学校とをテレビ会議システムで結んだ遠隔授業が行われた。ハワイ観測所では、国立天文台・ハワイ観測所 林佐絵子准教授がスタンバイし、体育館では、国立天文台・天文情報センター普及室 縣(あがた)秀彦室長が授業の概要を説明する。林先生の顔がスクリーンに映し出され、声が聞こえてくると、生徒たちはハイビジョン映像に釘付けとなる。カメラに向かって手を振る生徒たちに、すぐさま林先生が笑顔で応えると、生徒たちの表情は緩み、その瞳はキラキラと輝きはじめた。

 ふたりの先生の、軽妙なやりとりで進行した授業は、ハワイの紹介から始まり、マウナケア山頂(ハワイ島)に設置された巨大な天体望遠鏡「すばる望遠鏡」の話題、太陽系外惑星の“星の色”や、木星、土星などの“環”をテーマにした話までおよぶ。時には、林先生がまるで壇上に居るかのように「向かって右端のその人」と特定の生徒を選び出し、質問を投げかける。逆に生徒たちから林先生に質問してもらうなど、子どもたちは身を持って先端のネットワーク技術が実現する、インタラクティブなビジュアルコミュニケーションを体験する。

テレビやラジオでおなじみの縣(あがた)先生
テレビやラジオでおなじみの縣(あがた)先生

生徒たちの質問にハワイから答える林先生
生徒たちの質問にハワイから答える林先生

その昔、ガリレオが体験した興奮と感動を子どもたちに

星や宇宙、ハイビジョン生中継、望遠鏡 大切なことは子どもたちなりに感じてもらうこと

1年生の理科の授業も受け持つ及川教頭
1年生の理科の授業も受け持つ及川教頭

特別授業の発起人、国立天文台の大江先生
特別授業の発起人、国立天文台の大江先生

 14:30から始まった6校時は、天体望遠鏡づくりにチャレンジする「実践」編。国立天文台から無償提供された20個の天体望遠鏡キットを、5名一組のグループに1つずつ配布。みんなで協力しながら望遠鏡を組み立てた。完成後は、縣先生から望遠鏡を使った天体観察のレクチャーが行われ、合計100分間の授業があっという間に終わった。

 「5月21日の日食を機に天文の特別授業をやりませんか、と大江先生からお話をいただいた当初は、素朴な子どもたちが授業に果たしてついて行けるのか、不安はありました」。授業終了後、正直に胸の内を話してくれたのは、北上中学校の及川てい子教頭だ。中学理科のカリキュラムでは、天文の授業が3年生の2学期に設定されていることもある。それでも、子どもたちが成長する機会を提供することが教育者の使命であり、大人の務めだと考えた及川教頭をはじめ、北上中学校の先生方は、「ぜひとも」とお願いした。「生徒たちの笑顔を目の当たりにし、興奮した声を耳にすると、子どもたちになりにそれぞれ感じるところがあったようで。特別授業をお願いしてよかったと心から思いました」(及川教頭)。

 星や宇宙への興味、関心を口にする生徒のみならず、「ハワイの先生には自分たちがどんな風に映っているのか気になった」とネットワーク技術そのものに興味を示した生徒や、「テレビで見たことのある先生が目の前でしゃべっている」事実に驚く生徒、「この望遠鏡もらえるの?こんど授業で使う?いつ?いつ?」と望遠鏡に興味津々の生徒。すばる望遠鏡に見学ツアーがあることを知る生徒は、ハワイの映像を見て改めて「新婚旅行で行きたい!!」と先生に話したそうだ。今回の特別授業は、子どもたちに様々な感動を与えたのである。

一本の電話から生まれた復興支援の絆

今回の舞台である北上中学校も震災直後は半壊状態に陥った

「インターネットを引きませんか」一本の電話から生まれた復興支援の絆

  北上中学校と大江先生との出会いは昨年の4月に遡る。「北上地区をはじめ、沿岸部は壊滅的な被害を受けました。あの日以来、子どもたちを取り巻く環境は一変したのです」。自身、気仙沼市内で被災したという及川教頭が当時を振り返る。北上中学校の体育館は避難所に変わった。食料も水も衣類もままならない。電気やネットワーク回線が不通のため、メディアやネット上から情報を収集することも発信することもできない。まさに“陸の孤島”となった。

 翌4月に入り、避難所の暮らしに変化が訪れる。「何の前触れもなく、国立天文台の大江先生からお電話がありました」(及川教頭)。電話口で「インターネットは必要ありませんか」といきなり尋ねられたという。当時、大江先生は避難所などに衛星通信のパラボラアンテナやモバイルルーターなどを設置してインターネットの接続を確保するとともに、避難所となっている学校などにLANを敷設してPCを設置するといったプロジェクト(「災害復興インターネット」)に取り組んでいた。この一本の電話から、北上中学校と国立天文台との付き合いが始まる。

北上川に沈む橋梁の残骸(高台に見えるのが北上中学校)
北上川に沈む橋梁の残骸(高台に見えるのが北上中学校)

 ひとりでも多くの避難所の人たちが楽しみを得る娯楽ツールとして、インターネットが役に立つと考えた北上中学校は、大江先生の呼び掛けに応えることにしたのである。子どもたちはゲームやアニメなどの娯楽番組を楽しみ、大人たちはニュースや動画の視聴、SNSを通じたコミュニケーションなど、オンデマンドでの情報収集と発信に励んだ。「大江先生と出会えたおかげで、不便な暮らしの中にあっても心が豊かになる時間を、みんなで分かち合うことができました」と及川教頭は感謝する。

中央の建物が避難所となった体育館(手前は仮設住宅)

水、食料、毛布と同じ、インターネットは被災者に欠かせない緊急物資

対岸には多くの尊い命が失われた大川小学校が見える
対岸には多くの尊い命が失われた大川小学校が見える

 そもそも、大江先生がこうした復興支援活動に取り組んできたのは、地域による情報格差を解消することが目的。誰もがインターネットの利活用による恩恵を享受できるような環境を構築し、その利用を広く根付かせていきたいと考えたからだ。情報に限らず、格差が生じれば、そこには必ず弱者が生まれる。「実際、被災地では、情報を使いこなした避難所には、全世界へ支援の必要性を情報発信することで、食料や衣類などの支援物資が潤沢に届き、そうでない避難所には、潤沢には届かないといった支援の格差が生じました」(大江先生)。

 間違った情報に踊らされる危険性ははらんでいるものの、今回の東日本大震災で、災害時や緊急時にはインターネットが有用であることは証明された。飢えや渇きをしのぐ食料や水、煮炊きするためのガスや電気、防寒のための衣類や毛布と同じように、オンデマンドで情報を得るためのインターネット環境が、災害時には必要不可欠な時代になった。だからこそ大江先生たちは、レンタカーにパラボラアンテナを積み、瓦礫の中を走りまわっていた。

 「結果的に宮城・岩手県内の避難所や学校など、53カ所にインターネット環境を提供したわけですが、そのうちの約30カ所ではNTT東日本さんによる光ファイバーの敷設が困難な場所でした。当時、〈○○町のネットワーク回線復旧〉と報じられた町でも、避難所によってはインターネットのつながらないエリアがあったのです」(大江先生)。各避難所に直接連絡をして、ニーズがあるところに駆けつける。その機転と機動力が、とりわけ壊滅的なダメージを受けた被災地のシステムを復旧し、引いては情報格差解消に大いに役立ったのである。

 また、大江先生は、ネットワーク環境の復旧を進める一方で、テレビ会議システムの利活用に注目する。たとえば、災害対策本部と沿岸被災地、各避難所と医療機関といった遠隔地間で、それぞれのスタッフがインタラクティブなビジュアルコミュニケーションを通じて情報共有や意思の疎通を図れば、復旧作業はさらに加速するからだ。こうした大江先生のアイデアに賛同し、「協力させてほしい」と名乗りを上げたのが日立ハイテクである。

ビジュアルコミュニケーションの可能性

被災地の復興を願う気持ちを、アイデアに、行動につなげたい

被災地の復興プロセスにおけるビジュアルコミュニケーションの可能性

図1 <震災復興支援 テレビ会議システム> 構成イメージ

図2 <震災復興支援 テレビ会議システム>設置場所

 国立天文台は日立ハイテクが提供するテレビ会議システムのユーザー。その国立天文台が震災直後、「震災復興データセンタDATEC(国立天文台・水沢キャンパス内)」を立ち上げる際、同社が技術支援を行ったという経緯もあった。「DATECのシステム構築では、私たちの稼働イメージを日立ハイテクさんに最適な形で具現化してもらいました。おかげで、遠隔地であってもAndroidスマホや、iPhone、iPadでテレビ会議に参加できるシステム(図1参照)が構築でき、被災地の復興支援を目的としたNPO団体などのニーズにしっかりと応えられるようになったのです」(大江先生)。

 「どんな形でもいい、我々が取り扱う製品やサービスを被災地や被災者のために役立てたい」。震災直後から復興支援のあらゆる可能性を模索してきた日立ハイテク。被災地では、時間の経過とともに新たな課題が噴出し、地域によって顕在化するニーズにも温度差が生まれはじめていた。こうした状況を見極めつつ、「支援は押し付けではなく現場に寄り添う形で」をテーマに、熱い議論が繰り返された。そんな同社の思いが国立天文台とのコラボレーションという形で実を結ぶ。

 テレビ会議システムの寄贈先は、多地点接続装置の設置、運用を行う国立天文台・水沢キャンパスを含めた13カ所(図2参照)。地域医療の崩壊を食い止めるため、遠隔医療システムの仕組みづくりに生かそうとする日本プライマリケア学会や、ボランティア間の情報共有や地域のコミュニケーションツールとして利用したいというNPO事業サポートセンター。また、授業への活用や、学校間の子どもたちの交流に使わせてほしいという小・中学校など、いずれも日立ハイテクがイメージした、被災地の復興プロセスにおけるテレビ会議システムの有効利用を、期待させる団体や組織ばかりだ。

 中でも、早くから手を挙げていたのが北上中学校。その北上中学校で実施された復興支援プログラム『星・宇宙を身近に感じる特別授業』がテレビ会議システムを利活用した被災地初のビジュアルコミュニケーション事例となった。

復興の障害となる巨大な瓦礫の山が、石巻市内には点在している

テレビ会議システムとともにサスティナブルな被災地支援を目指して

数年後には、この子どもたちが復興の担い手となるだろう
数年後には、この子どもたちが復興の担い手となるだろう

望遠鏡から見える世界に「希望」が広がっていることを願う
望遠鏡から見える世界に「希望」が広がっていることを願う

 「今日の特別授業には2つのテーマがあったと思います。ひとつは純粋に天文学、未知なるものへの興味、関心。もうひとつは情報革命とも言うべき時代に生き、ITCの進化を目の当たりにすることです。この2つが一体となった、これまでにない授業になりました。国立天文台や日立ハイテクさんをはじめ、周囲の皆様の思いが幾十にも積み重なり、実現したプログラムであることは、生徒たちにも十分伝わったのではないかと思います」と謝意を表す及川教頭。この貴重な体験は、子どもたちの心のケアにもつながり、きっと将来の財産になるはずだ。

 「個人的には陽が沈むまで学校に留まり、完成した望遠鏡を使って、子どもたちと一緒に星空を観察したかった」と名残惜しそうに話してくれたのは縣先生だ。「私たちの授業に真剣に耳を傾けてくれた生徒さんや、私たちを気持ちよく迎えてくださった先生方のためにも、テレビ会議システムのインタラクティブ性を最大限活用するなど、教育プログラムのパッケージ化をしっかりと意識した授業内容へと、完成度を高めていきたい」と気持ちを新たにする。テレビ会議システムを利用したビジュアルコミュニケーションに大きな手応えを感じた大江先生は「今後も予算の許す限り、『星・宇宙を身近に感じる特別授業』は続けていきます。私たち国立天文台には、活動を支援してくれる日立ハイテクさんの思いにしっかりと応える責任がありますから」とプログラムの継続に意欲を見せる。

 思えば今回の特別授業は、被災地が復旧から復興へと着実に前進していることを物語る、象徴的なプログラムといえるだろう。被災地は、少しずつだが震災前の日常を取り戻しはじめている。近く岩手県大船渡市の公民館でもテレビ会議システムが稼働するとのこと。こちらは、NPO事業サポートセンターが主体となり、被災者支援者間の遠隔会議や、被災者の遠隔カウンセリングなどに利用される予定だ。新たなビジュアルコミュニケーションの可能性に期待したい。

株式会社日立ハイテクノロジーズ

東京都港区西新橋1-24-14 〒105-8717
TEL:03-3504-7111 FAX:03-3504-7123

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ここに掲載しているコンテンツは、日本経済新聞 電子版広告特集「社会を豊かにするハイテクソリューション」として、2012年6月~2015年3月まで掲載されたものの転載です。