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株式会社 日立ハイテクノロジーズ

新幹線運行の「いま、ここ」 社会を豊かにするハイテクソリューション07 高速鉄道輸送における世界最高水準の安全を担保する検測技術

1964年10月1日、日本における高速鉄道輸送の歴史が幕を開ける。最高速度210㎞/h、東京-新大阪間を4時間で結ぶ東海道新幹線の開業だ。その後、山陽新幹線や東北・上越新幹線を整備するに至り、新幹線鉄道網は全国8路線に拡大する。現在、新幹線による1日当たりの輸送人員は平均90万人を突破し、東京駅を発着する新幹線だけでも1日に600本を超える。注目すべきは、開業からこれまでの49年間、新幹線は鉄道事業者側に起因する乗車中の死傷事故をただの一度も起こしていないという事実だ。背景には、新幹線の安全運行を支える“検査用新幹線”の存在があった。

『East-i』の検測技術

『East-i』(イースト・アイ)の愛称で親しまれるE926系。正式名称は「新幹線電気・軌道総合試験車」[提供:JR東日本]

『East-i』(イースト・アイ)の愛称で親しまれるE926系。正式名称は「新幹線電気・軌道総合試験車」
[提供:JR東日本]

新幹線の安全運行を支える電気・軌道総合試験車『East-i』

東日本旅客鉄道株式会社 新幹線運行本部 施設指令室 室長 桑原克也
東日本旅客鉄道株式会社
新幹線運行本部 施設指令室 室長
桑原克也

 「当社管轄の新幹線運行路線では、国内営業最高速度320㎞/hに達する東北新幹線『はやぶさ』『はやて』をはじめ、総重量が最大1,000tを超える16両編成の高速列車が1日に327本*1走行しています。当然のことながら、その荷重や衝撃によってレールは歪み、変位します。この微小な変位が大きくなると、列車の乗り心地に微妙な変化を与え、さらに放置すれば走行安全性に影響が出始めるため、私たちは定期的に『East-i』(イースト・アイ)を運行し、レールや電車線を検査しています」。こう語ってくれたのは東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)の桑原克也氏だ。

 『East-i』は、JR東日本の新幹線鉄道網で活躍する「新幹線電気・軌道総合試験車」。新幹線の安全運行を実現するため、東北・上越・長野新幹線の標準軌新線は概ね10日に1度、新幹線と在来線の直通運転を行う山形・秋田新幹線、いわゆる「ミニ新幹線」路線は3カ月毎にレールや電車線の検測を行っている(図Ⅰ参照)。

レーザー光を用いたトロリ線(電車線)磨耗検出器 [提供:JR東日本]
レーザー光を用いたトロリ線(電車線)磨耗検出器
[提供:JR東日本]

 東北・上越・長野新幹線の検測経路は1日目が「仙台〜東京〜新潟〜大宮〜長野」、2日目が「長野〜東京〜仙台」、3日目が「仙台〜新青森〜仙台」が基本。検測パターンも主要駅のみ停車する速達タイプと各駅停車タイプ、その中間タイプと3つのパターンを織り交ぜている。これは、本線以外の通過線、待避線のレールまでもれなく検測する必要があるからだ。山形・秋田新幹線の検測経路については、それぞれ「仙台〜秋田〜仙台」、「大宮〜新庄〜大宮」となっている。

 電車線のチェックも重要だ。常にパンタグラフの押し上げを受けている電車線は、徐々に摺(しゅう)面が摩耗していく(図Ⅱ参照)。限界値を超えると断線する恐れがある。また、電車線がパンタグラフの特定部分にばかり接触していると、その部分だけがすり減ってしまう。そこで電車線の設備には、電柱毎に左右ジグザグに張るという工夫が凝らされている。この偏位が限界を超えないようにすることも電車線の検測のポイントである。

*1
2013年3月16日ダイヤ改正定期列車

図Ⅰ JR東日本の新幹線鉄道網
図Ⅰ JR東日本の新幹線鉄道網

図Ⅱ 架線(電車線)検測の測定内容
図Ⅱ 架線(電車線)検測の測定内容

時速275kmで走行しながら、コンマ数ミリの歪みや摩耗を検測

株式会社日立ハイテクファインシステムズ 社会インフラ事業部 事業部長 石綿 修
株式会社日立ハイテクファインシステムズ
社会インフラ事業部 事業部長
石綿 修

 注目すべきは、『East-i』がレールや電車線の「動的管理」を実施している点だ。動的管理とは、『East-i』を新幹線の営業速度で走行させながら、レールや電車線の状態を把握することである。実際、日中と夜間ではレールとレールのつなぎ目や、レールそのものに変位が生じる。終電の運行が終わった真夜中に、レールや電車線の状態を調べることは決してムダではないが、JR東日本が確保したい安全とは旅客を乗せて走る“営業列車の安全”。『East-i』が営業ダイヤの合間を縫って走行し、レールや電車線を検測するのはこのためである。

 この「動的管理」に欠かすことのできないコア技術が、レーザー光を応用した非接触のセンシング技術。この技術を用いた検測装置の開発で、時速275kmという新幹線の営業速度でのリアルタイムな軌道(レール)検測・架線(電車線)検測を可能にしているのが、日立ハイテクノロジーズの100%子会社である日立ハイテクファインシステムズ(以下、HFS)である。HFSは、公益財団法人 鉄道総合技術研究所やJR各社と共同で技術開発を行い、非接触のセンシング技術を確立させたことで、高速走行における軌道や架線の動的管理を飛躍的に進化させてきた。

 この技術の素晴らしいところは検測の精度にある。時速275kmで走行する車両から、触れもしないレールが0.3mm歪んでいることや、電車線が0.2mm摩耗していることがわかる。しかも、車両の振動やノイズ、電磁波をものともせず、それが悪天候などの厳しい条件下であっても安定的に検測できるというのだから驚く。

 HFSの石綿修氏がこう付け加える。「レール頭部面から一定の高さの場所とセンサー間の距離を、重力加速度の何十倍もの加速度が発生したり、大型台風以上の強風が吹く環境下でも安定して測定する技術に、長年培ってきた私たちのノウハウが詰まっています」(図Ⅲ参照)。また、データのアウトプットについても「検測装置に蓄積された生データのままでは役に立ちません。アルゴリズムに基づいて生データの判定、取捨を行い、お客様が求めるデータに加工するソフトウェアにも独自の技術が生かされています」という。

図Ⅲ 光切断法を用いた光式レール変位検出器と測定原理
図Ⅲ 光切断法を用いた光式レール変位検出器と測定原理

日立グループとJR各社とのパートナーシップ

2015年春に長野-金沢間が開業する北陸新幹線用の新型車両「E7系」[提供:JR東日本]

2015年春に長野-金沢間が開業する北陸新幹線用の新型車両「E7系」
[提供:JR東日本]

日立グループは90年にわたって日本の鉄道システムの進化に貢献

国産1号の大型電気機関車ED15形の誕生 [提供:日立製作所]
国産1号の大型電気機関車ED15形の誕生 [提供:日立製作所]

いまから約半世紀前、完成した新幹線0系車両が笠戸工場の専用岸壁から船積みされる様子 [提供:日立製作所]
いまから約半世紀前、完成した新幹線0系車両が笠戸工場の専用岸壁から船積みされる様子 [提供:日立製作所]

 日立グループと日本の鉄道システムとのかかわりは古く、1920年代にさかのぼる。日立製作所(以下、日立)・笠戸工場(山口)において8620形蒸気機関車を製造したほか、1924年には国産初の大型電気機関車ED15形を開発。当時の鉄道省が進めていた東海道本線の電化計画に応える形で、計3両のED15形を納入した。

 戦後いち早く車両の製造を再開すると、ディーゼル電気機関車DF90形や、快適な車両の先駆けとなる冷房装置付き客車(寝台特急「あさかぜ」用) を次々と製作。また日本初のオンライン座席予約システム「MARS-1」を開発、運用。現在稼動中のMARS-501に至るまで、座席予約システムの高度化を支えてきた。

 また、日立は1964年の東京五輪にあわせて開業した東海道新幹線のプロジェクトに開発初期から参画。車両、主制御器、自動列車制御装置などの製作を担当し、70年までに212両の新幹線0系車両を日本国有鉄道(以下、国鉄)に納める。翌71年には、新幹線運転管理システム「COMTRAC」を納入。コンピュータ制御による新幹線の、高密度ダイヤ・高速大量輸送の礎を築く。

 その後、JR東日本の東北・上越・長野・山形・秋田新幹線における、列車ダイヤなどの輸送計画、列車の運行管理、保守作業管理など新幹線業務全般を一貫して管理する、新幹線総合システム「COSMOS」を納入。さらに東京圏の超高密度ダイヤを支える東京圏輸送管理システム「ATOS」など、日本の鉄道輸送をハード、ソフトの両面から支えてきた。

 こうした長年の実績が、国鉄分割民営化後も「日立グループとJR各社とのパートナーシップを強固なものにしてきた」と語るのは、日立 交通システム社の作田大輔氏だ。「『East-i』に搭載されている軌道・架線検測装置は、これほどの高速走行でこれだけの精度を誇る装置は他にないと思います。しかも最高時速210kmからスタートした検測技術も現在は270km。このように新幹線の進化にあわせ、留まることなく技術革新を続けることこそが、私たちのミッションなのです」。

株式会社日立製作所 交通システム社 輸送システム本部 輸送システム部 主任技師 作田大輔
株式会社日立製作所 交通システム社
輸送システム本部 輸送システム部 主任技師
作田大輔

ワンランク上の安全性を追求 在来線における軌道のモニタリングを開始

『East-i』の車内 [提供:JR東日本]

『East-i』の車内 [提供:JR東日本]
『East-i』の車内 [提供:JR東日本]

 現在、JR東日本では首都圏を走行する京浜東北線の営業車両下部に、線路の状態を監視するモニタリング装置を搭載し、軌道の状態を精密に検測する走行試験を実施している。これは営業車両を活用することで軌道検測作業の効率化につなげ、検測データの検証を通じてさらなる安全性の向上を目指すためだ。この他、レーザーセンサーなど機器類の耐久性を確認する狙いもある。

 「在来線で検証した結果については今後新幹線にも応用していきたいと考えています。やはりリアルタイム検測による高頻度、高密度のデータ取得は、高速鉄道輸送におけるより適切な安全管理につながりますから」(桑原氏)。JR東日本は、日立グループとこれまで以上に協働しながら、新幹線の安全運行に注力していく考えだ。

 一方、「新幹線運行の安全・安心を担保することが我々の使命」というHFSの石綿氏も「お客様の要望に応えるだけでなく、お客様が必要とするデータを想定し、先回りするような新たな技術開発に取り組みたい」と述べる。差し当たっては「E5系、E6系の最高速度となる320km/hでの軌道・架線検測技術の確立を目指す」。と同時に「よりコンパクトな検測装置の開発と精度の向上」、「メンテナンスコスト削減も実現したいテーマのひとつ」だという。

 また、『East-i』は2002年10月の使用開始から10年以上が経つ。このため、今年度は『East-i』に搭載されている各種測定機器の老朽取替をスタートしている。

国内営業最高速度320㎞/hを誇る東北新幹線車両E5系と秋田新幹線新型車両E6系
国内営業最高速度320㎞/hを誇る東北新幹線車両E5系と秋田新幹線新型車両E6系

鉄道技術のグローバル化

英国・アシュフォードの車両基地[提供:日立製作所]

英国・アシュフォードの車両基地
[提供:日立製作所]

グローバルで通用する「新幹線」という名の製品

新型車両は最高時速200km/h、2017年からロンドンと主要都市を結ぶ路線で運行される予定だ [提供:日立製作所]
新型車両は最高時速200km/h、2017年からロンドンと主要都市を結ぶ路線で運行される予定だ [提供:日立製作所]

笠戸事業所の車両製造現場 [提供:日立製作所]
笠戸事業所の車両製造現場 [提供:日立製作所]
[Courtesy of Hitachi, Ltd.]

 日本の高速鉄道の代名詞である新幹線は、その正確さ、安全性、快適性、利便性において世界屈指の鉄道システムといえるだろう。その新幹線運行を支えてきた日立は、2005 年に英国鉄道省からロンドンとドーバー海峡トンネルを結ぶ高速新線向け車両(Class395)を174両受注する。その際、日立は保守サービス事業まで受注することになる。英国ではメーカーが鉄道車両の保守業務を担当することになっていたからだ。ところが、日立にはそのノウハウがなかったため、保守・メンテナンスビジネスのパートナーとしてJR東日本およびそのグループ会社とコンサルティング契約を結び、アシュフォード国際駅近くにメンテナンスを行う車両基地を設置した。

 こうしたコラボレーションについてJR東日本の桑原氏は「日本企業の協働によるトータルビジネスは、海外に対して大きなアピールになったのでは」と分析する。事実、日立は12年に596両、13年7月には追加で270両、合計で866両の英国都市間高速鉄道計画(IEP)向け車両を英国政府から新たに受注することになる。

 車両の品質のみならず、英国においてもパートナーと共に“安全第一”を最優先し、これまで培ってきた新幹線の安全運行に関するノウハウを遺憾なく発揮して、英国の鉄道関係者の期待にしっかり応えた成果が現れた形だ。

 こうしたビジネスを踏まえ、桑原氏は今後のビジョンについて次のように語ってくれた。「当社も海外拠点の拡大、設備部門における海外勤務や留学、出向など人材の交流と育成に努めるなど鉄道事業のグローバル化に向けた取り組みを強化します。そして、いずれは新幹線の車両・運行管理・メンテナンスのすべてを1つのソリューションとして、海外の鉄道マーケットへ積極的に参入していきたい。その時、安全運行を大前提としながらサービスの質的向上や省コスト化を日立グループと一緒に取り組んでいけたらと思います」。

軌道・架線検測技術で世界の鉄道インフラに「安全」を

牽引式軌道検測車両
牽引式軌道検測車両

 グローバル化の動きを加速させたいのはHFSも同じだ。ただ、同社の製品サービスが軌道・架線を非接触でセンシングする検測技術であり、装置が主力であったため、これまでは『East-i』をはじめとするJR各社の総合検測車両や、営業車両に搭載してもらうという具合に販路が限られていた。「理想は日立の高速鉄道車両やJR東日本の新幹線パッケージと一緒に売り込んでもらうことでしょうか」(石綿氏)。

 ところが最近は1両タイプの自走式軌道検測車両や、けん引式の軌道検測装置をラインアップしたことから、JR以外のお客様へのアプローチが可能になったという。私鉄や地下鉄、中小の民間鉄道をターゲットにした国内市場でのプロモーションにも力を入れる予定だ。

 これと並行して世界の鉄道マーケットで販路の開拓にも力を入れている。たとえば日立が受注に成功したベトナム・ホーチミンの地下鉄案件についても、検測車両の受注に向けて取り組んでいる。これを皮切りにまずはASEAN市場での新規開拓を行う計画だ。

 石綿氏は言う。「我々の仕事は、人命にかかわる仕事です。検測データは正しいのか、判断は適切なのか。ニュースなどで脱線という言葉を耳にすると心が締め付けられる思いがする、そんなプレッシャーの中で仕事をしています。でも我々の仕事は、安全・安心を担保する一助になっている。世界中の鉄道インフラに“安全”を提供する仕事だから、我々はモチベーション高く仕事に取り組めるのです」。

株式会社日立ハイテクノロジーズ

東京都港区西新橋1-24-14 〒105-8717
TEL:03-3504-7111 FAX:03-3504-7123

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ここに掲載しているコンテンツは、日本経済新聞 電子版広告特集「社会を豊かにするハイテクソリューション」として、2012年6月~2015年3月まで掲載されたものの転載です。