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株式会社 日立ハイテクノロジーズ

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免疫細胞化学は標的蛋白質の細胞内局在を明らかにする方法で、免疫組織化学から発展的に開発された。原理的には抗原抗体反応を利用して蛋白質を標識する。後に述べるfreeze replica法とともに20世紀の細胞生物学発展に寄与した方法である。
電子顕微鏡下で観察するためには電子線を散乱させ十分なコントラストが得られることが必要であるが、同時に観察に耐えるだけの増幅的標識が必要と考えられた。そのため、1970~1980年代にかけては抗体を検出するためのプローブとして酵素が使用された。いわゆる酵素抗体法である。この方法は前包埋標識(pre-embedding)を採用しており、Horse radish peroxidaseで標識された二次抗体を用いて、一次抗体を検出するのが一般的である。これはdiaminobenzidineを基質として、二次抗体の存在場所のコントラストを上げ、一次抗体並びに標的蛋白質の局在を明らかにしようとする技法である。しかし、前包埋で組織塊のまま標識するため細胞内への抗体の浸透が不均一であるとともに酵素反応により標識の電子密度(コントラスト)を上げるため結果的に細胞内微細構造の保存が悪くなる。また標識の酵素的増幅作用が蛋白質の局在箇所をかえって不正確にするという欠点もあり、最近では一般的でなくなった。
1980年にJurgen Rothが金コロイドProtein Aをプローブとして、一次抗体を検出する方法を開発してからは金コロイド標識が主流となった。 さらに金コロイド標識の二次抗体が市販されるようになり、一次抗体検出の特異性が高まったため、現在ではこの金コロイド二次抗体を使用して標識するのが一般的である。また、Lowicryl K4Mのような水溶性樹脂が開発されてからは抗体の組織内への浸透を心配する 必要のない後包埋(post embedding)法が主流である。ここではこのLowicryl K4Mに包埋された組織の切片を金コロイド付着抗体で標的蛋白質を免疫標識する方法を詳述する。
免疫標識は超薄切片法に適用されるだけではなく現在ではfreeze etching法にも適用され新しい構造細胞生物学を切り開きつつある。このことについてはそれぞれの技法を紹介するところで改めて詳述する。
(図1)は免疫標識がどのような電顕技法と結びつけられるかを示したチャートである。この章では赤字で書かれた部分を解説する。

(1)免疫細胞化学の固定と包埋過程

抗原性を残しながら構造の保存にも優れた固定液があれば望ましいが、この二つは相反する事象であるので難しい。
一般的には超薄切片法で用いた前固定液(2% Glutaraldehyde + 2% Paraformaldehyde)を用いる。オスミウム酸はもちろん使用できないが、前固定液でも抗原性はかなり失われるので抗体(特にモノクローナル抗体)によっては標識できないことがある。そこで、抗体の性質に合わせ固定液の濃度を変化させる必要がある。

固定:
我々は通常30mM HEPES緩衝液中に1% Glutaraldehyde、2% Paraformaldehydeとなるように溶かした固定液を用いているが、特にデリケートなモノクローナル抗体を使用するときは30mM HEPES緩衝液中に4% Paraformaldehydeとなる固定液を採用している。固定時間は約2時間である。

脱水:
超薄切片法と同じエタノールの上昇系列で行う。ただし包埋樹脂が親水性樹脂であるため100%エタノールによる脱水は必要ない。溶液の交換法は超薄切片法の脱水と同じ要領である(1.基礎技術としての超薄切片法(2)図7参照)。

浸透:
Lowicry K4M樹脂混合液と99.5%エタノール溶液の1:1混合液に移し、約2時間放置し浸透させる。時々瓶を振って撹拌するといい。その後、100% Lowicry K4M樹脂混合液に移し、冷蔵庫中(4~10℃)でovernightする。この時試料瓶はアルミ箔で包み光を遮断する。なお残りのLowicry K4M樹脂混合液は翌日の包埋に用いるので、やはりアルミ箔で光を遮断した状態で冷蔵庫(4~10℃)に保存する。

Lowicryl K4M樹脂の混合法:
樹脂をキットで購入するとマニュアルが付属してくるのでこれにしたがって混合すればいい。ただし、混合比は容積比ではなく重量比で記載されているので注意が必要である。また、加速剤が粉末であるので、混合に際してはスターラーやガラス棒で十分撹拌できるビーカーなどの使用をすすめる。

Lowicryl K4M樹脂を作るための混合比

項目 20mL 30mL 40mL
Cross-linker A 2.7g 4.1g 5.4g
Monomer B 17.3g 26.0g 34.6g
Initiator C 0.1g 0.15g 0.2g

我々はLowicryl K4M樹脂の混合のためにディスポーザブルのトリポッドビーカーを用いている。具体的な手順は(図3)を参照。

包埋と重合:
Lowicry K4M樹脂は紫外線重合法を用いるので、紫外線の透過しやすいゼラチンカプセルを使用するのが一般的である。しかし、これまでの経験から曇りのあるビームカプセルの使用や平板包埋も可能である。
00号のゼラチンカプセルにLowicry K4M樹脂混合液を9割程度まで注ぎ、組織試料を投入する。試料はすぐに底まで沈むはずである。
カプセルに蓋をし、紫外線重合装置に持ち込み硬化させる。紫外線重合装置は市販されているが、自作することもそれほど難しくない。また、経験上、ライカ社製の凍結置換装置 EM AFS装置を使用するときはマニュアル通り低温重合を行う方がいい。
この装置の場合紫外線ランプの出力の割にはチャンバーが小さいので、-5℃以上では重合が急激に進み、組織深部の未硬化樹脂の移動がおこり、均一な重合が得られないことがある。
我々は(図4)のような自作の重合箱を作り、その箱ごとコールドルームに持ち込み、5日間紫外線を照射し重合している。見かけ上は1日で十分な堅さになるが、経験上4~7日間紫外線に当てたほうが薄切しやすい。

トリミング、切片作製過程:
切片作製過程は形態観察用と同じであるから超薄切片法を参照。一般的に親水性樹脂は薄切が難しい。薄切中にボートの水が試料ブロック表面に移動してしまうことがある。これを防ぐにはエポキシ系樹脂を切るときよりもボート内の水面を僅かだけ下げてやるといい。また切削速度をすこし速く(1.5mm/sec)するのも効果的である。

低温脱水、包埋の薦め

Lowicryl K4Mは重合時の収縮が激しく、また硬化した後も吸湿性が高く、超薄切片の作製が容易ではないと思われている。しかし、重合が適切であるとこれらの点はかなり改善される。
設備が整っていれば一度低温脱水、包埋を試すことを薦める。ライカ社製の凍結置換装置 EM AFS装置があれば一番良いが、なくてもドライアイスやディープフリーザーがあれば工夫できる。脱水、浸透とそれにつづく包埋過程は以下の通りである。

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