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株式会社 日立ハイテクノロジーズ

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これまで述べてきたグルタールアルデヒドやオスミウム酸は蛋白質と化学的な結合をして構造を保存する方法であり、急速凍結法は瞬時に凍らせることで構造を保存する方法である。
一般に凍結は氷晶形成による構造の損傷が起きるが、最も簡単な固定法であること、物性の保存に優れていること、そして何より光学顕微鏡では凍結による構造破壊がそれほど問題にならないため、20世紀初頭から光学顕微鏡による組織化学に頻繁に採用されてきた。 しかし、電子顕微鏡では分解能が高いため、微細構造の損傷は無視できない。そこで、無氷晶凍結が必要となるが、これが困難であり、現在までつづいている。
ここで言う氷晶とは水分子が水素結合により形成する立方体の結晶、いわゆるcubic iceを意味している。結晶の成長により、また周りから水分を奪うため細胞の微細構造は破壊される。無氷晶凍結にはいくつかの方法があるが、その一つが急速凍結である。 105K/secぐらいの速さで凍結するとガラス状の氷(vitreous ice)のまま凍結される。
このような凍結速度を得るための方法として、冷却金属への圧着凍結がもっとも一般的である。これは金属の熱伝導率が高いことに由来している。冷媒への浸漬は気化を伴うため冷却速度は非常に遅くなる(気体の熱伝導率が低いため)。 しかし、非常に小さな試料では沸点と凝固点が離れている液体、例えば液体エタンなどに浸漬することで急速凍結ができる。抽出した蛋白質分子などの氷包埋法がこれに当たる。
一方、無氷晶凍結にはもう一つの方法がある。それは結晶形成のための水素結合を作らせない方法である。例えば圧力を上げて凍結する加圧凍結がそれである。しかし、高圧下に細胞を長くさらすことはそれ自体アーチファクトを引き起こすので、 瞬時に高圧の液体窒素を噴射し凍結する方法を採用している。その他、化学的無氷晶凍結させるためにグリセロールやDMSOを混ぜる方法もあるが、これらはそれ自体新鮮な細胞にとって毒性の強いものであり、化学固定なしには使用できない。 したがって、急速凍結本来の目的からは外れてしまう。グリセロール添加は化学固定した試料のフリーズフラクチャーレプリカ法にはよく使われるのでそこで紹介する。
ここでは急速凍結法について解説する。

(1)冷却金属圧着凍結

歴史的に様々な工夫がなされ幅広く行われてきた方法である。
初期の頃は熱伝導率が高い銅や銀を液体窒素で冷却して使用されてきたが、凍結良好な部分が圧着面から僅か1ミクロンぐらいなので、現在では液体ヘリウムを使用することが多い。
液体ヘリウムで冷却した鏡面仕上げの銅ブロック表面に圧着した場合、約20ミクロンぐらいの深さまで凍結良好部分が広がる。それでも極めて狭い部分であるから凍結した試料を如何に使用するかを十分考えて実験計画をたてる必要がある。凍結した試料を剥がして別の試料台に載せることは無理である。例えば凍結エッチングレプリカとして観察するのか、凍結置換固定して超薄切片として観察するのかを決め、試料台を選択する。
凍結置換用にはどんな試料台でも基本的に可能であるが、凍結エッチングレプリカは装置に依存する。我々は凍結エッチングレプリカ用の試料台を急速凍結用試料台としてに採用している。
このような共用はJohn HeuserやMartin Mullerの研究室でも同様であった。ところで凍結装置であるが、Heuserが開発し、改良した装置がもっとも普通に出回っている様であるが、ここでは我々が開発したエイコーエンジニアリング製のRF10(現在は受注生産)(図1、図2)を用いて説明する。しかし、原理的にはどれも同じであるので十分参考になると思う。

試料台への試料の載せ方

生物試料は熱伝導が悪いこととそれ自体かなりの熱容量を持っているので、出来るだけ小さくかつ薄くする。厚さは0.5mm以下で2mm×2mm程度がいい。
このような試料を図2のようにリンゲル液で湿らせた濾紙を敷いた試料台に載せる。濾紙またはキムワイプの紙縒などで余分な水分を除いた後手動で冷却銅の表面に圧着する。このplungerの場合内部にバネが組み込まれており、圧着時の過剰な圧力を吸収できるようになっている。
さらに細胞の変形を防ぐために濾紙の代わりにゆで卵の白身を薄くスライスして使うこともできる。
Heuserの研究室ではマウスの肺を固定して、洗浄したものをやはり薄くスライスして使用していた。凍結時の試料処理はそれぞれの研究室で工夫している。我々のところでは別に問題も起こらないので長い間濾紙を使用している。

凍結試料の保存

液体ヘリウムを用いた急速凍結では高価な液体ヘリウムを効率よく使用するため、2時間ぐらいの間に20~30の試料を凍結する。そのため凍結した試料は一時的に液体窒素中で保存する必要がある。
8mL程度のねじ口ガラス瓶に油性ペンで試料名と実験日を書き、図3のようなデュアーに入れ、液体窒素を満たしておくと便利である。このような小さな瓶を試料の種類数だけ用意する。凍結しては次々とこの小瓶に入れる。そして、最終的には次の実験までは保存用液体窒素タンクのキャニスターに瓶ごと入れ保存する。この際ねじ口のキャップはゆるめにしておく。
急速凍結試料は液体窒素中で1年以上保存がきくが、freeze-etchingにしろ、凍結置換にしろなるべく早く次の実験で使用すべきである。

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