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日立ハイテク

連続切片SEM法

Serial section scanning electron microscopy

旭川医科大学 解剖学講座 顕微解剖学分野 准教授
甲賀 大輔 (医学博士)

はじめに

近年、樹脂に包埋した標本の連続断層SEM像を3D再構築する手法が生体構造解析に応用され、脚光をあびている。これには、集束イオンビーム(FIB)を用いたブロック面観察法(FIB/SEM)1, 2)や、ミクロトームを鏡体内に組み込んだ切削ブロック面観察法(SBF/SEM)3)などがある。また、超薄連続切片をガラスなどの硬い基板に載せ、SEMで観察した像を3D再構築する技法も報告されている4~7)。連続切片SEM法(またはArray tomography)といわれるこの技法は、(1)TEM連続切片観察法の高度なグリッド操作技術を必要とせず、容易に連続切片を回収することができる、(2)広領域の標本観察が可能である、(3)観察した切片を何度でも再観察することができる、などの特長があり、様々な点で大きな可能性を秘めたイメージング技法である。本稿では、連続切片SEM法について紹介すると共に、ゴルジ装置の3D構造解析に応用したので紹介する。

連続切片SEM試料作製法について

連続切片SEM法は、超薄連続切片を硬い基板に載せ、その切片像をSEMで取得する技法である(図1)。ここでは、この手法について順を追って解説する。

  1. 樹脂のトリミング
    樹脂ブロックを両刃カミソリを用いて台形状にトリミングする。台形の上辺と下辺を平行にトリミングすることが連続切片をリボン状に作製する上で重要となる。最終的な台形のサイズは、目安として上辺0.7 mm、下辺1 mm、高さ0.4 mm以内になるように整形している。
  2. 連続切片のリボンの作製と整列
    連続切片の切削には、ダイヤモンドナイフを用いている。連続切片のリボンの長さは、内径7 mmのリングでピックアップできる長さにする。この場合、一回に切削する連続切片の枚数はおおよそ10-15枚となり、睫毛を使って連続切片のリボンをダイヤモンド刃から丁寧に離す。再びリボンの作製・剥離を繰り返し、4列のリボンを順番に並べることで、約40-50枚程度の切片が整列することになる(図2A)。
  3. 切片の回収
    連続切片のリボンをリングでピックアップする(図2B)。
  4. 切片の移動
    リングにすくい取った連続切片のリボンを、スライドグラス上に静置する。

    連続切片SEM法のフローチャート
    図1 連続切片SEM法のフローチャート(顕微鏡: 2014. 49, 171-175:図1を改変)
    連続切片SEM法の流れを簡単に示した図である。

  5. 切片の貼り付け
    切片が載ったスライドグラスをホットプレート上に置く(図2C)。ホットプレートは、予め60℃に設定しておき、切片を完全に接着させるため、30分以上静置する。このように(2)~(5)までの一連の過程を数回繰り返すことで、必要枚数の連続切片を採取する。
  6. ウラン・鉛染色
    連続切片SEM法では、試料を破壊的に観察するFIB/SEMやSBF/SEMとは異なり、観察試料を連続切片として残すことができるため、その切片を採取後に重金属染色することができる。連続切片が載ったスライドグラス上に、1%酢酸ウランを数滴(約50 µL)垂らし、10分間染色する。その後、蒸留水で数回洗浄し、Reynoldsの鉛液で5分間染色する(図2D)。
  7. 載台
    切片が貼り付いたスライドグラスをSEM試料台に載台するため、ダイヤモンドペンで約1 cm x 1 cmの大きさに傷つけ、注意しながら手で割る。その後、カーボンテープを用いて、スライドをSEM試料台に貼り付ける(図2E)。
  8. 金属コーティング
    切片をスライドグラスに貼り付けただけでは、SEM観察中に帯電現象(チャージアップ)が生じてしまう。これを防ぐために、白金パラジウムによるスパッタコーティングをおこなっている(図2F)。コーティングの厚さは、1 nm以下に設定している。
  9. SEM観察
    導電処理した試料をSEM観察する。私たちは連続切片を、熱電子銃型(日立SU3500)により、加速電圧7 kVの条件で観察し、反射電子(BSE)像を撮影している。

連続切片SEM法
図2 連続切片SEM法
A:連続切片のリボンが整列した様子(4列)。一列のリボンには、15枚前後の切片が連なっているため、一度に回収できる切片数は約50枚となる。
B:リングを使った切片の回収。
C:切片の貼り付け。ホットプレート上で約30分間静置する。
D:ウランと鉛の染色。スライドグラス上の切片は、容易に電子染色が可能である。
E:載台。ダイヤモンドペンで傷つけ、既定の大きさに整形したスライドをSEM試料台の上に載せる。
F:金属コーティング。試料のチャージアップを防ぐため、白金パラジウムによるコーティングを施す。

超薄切片のBSE像について

図3Aは、超薄切片のBSE像であり、図3Bは、その白黒反転像である。BSE像を白黒反転することで、TEM像のようなコントラストを得ることができる。例えば、ゴルジ装置をオスミウムで染色した場合、ゴルジ装置のシス側の槽にオスミウムの沈着がみられるため、BSE像の信号強度が強く観察される。そのほか、ウラン・鉛の二重染色を施すことで、核や分泌果粒などの細胞小器官も観察することができる。

超薄切片のBSE像
図3 超薄切片のBSE像
A:超薄切片のBSE像。
B:図Aの白黒反転像。切片のBSE像を白黒反転することで、TEMで撮影したような像を得ることができる。オスミウム染色により、ゴルジ装置のシス槽にオスミウムの沈着がみられる(矢印)。

3D再構築法について

連続切片をSEMで観察した後は、目的の構造物を3D再構築する必要がある。ここでは、3D再構築法について簡単に紹介する。3D再構築の流れを図で示した(図4)。

  1. 観察領域の選択
    例えば、300枚の連続切片を作製した場合、連続切片の真中に位置する150番目の切片前後から観察すると良い。この切片の情報から3D再構築したい領域を決める。
  2. 連続切片の撮影
    観察領域を決定した後、そこから対象構造が無くなるまで観察・撮影を繰り返す。
  3. アライメント調節
    連続撮影した像を3Dソフトウエアに読み込み、連続切片像の自動整列をおこなう。目視で確認後、必要に応じて手動でアライメントの微調節をおこなう。
  4. セグメンテーション
    アライメントの調節を終えた画像を画像処理ソフトウエアに読み込む。次に、3D再構築する構造体(ゴルジ装置、核、細胞質)について、領域選択をおこなう。
  5. スタック&3D再構築
    目的の構造にセグメンテーションを施した連続画像を3Dソフトウエアに再び読み込み、サーフェースレンダリング法により3D再構築像を作製する。

連続切片像の3D再構築法の流れ
図4 連続切片像の3D再構築法の流れ

連続切片SEM法の応用例

図5Aは、精巣上体管上皮主細胞の核、細胞質、ゴルジ装置を再構築した像である。この細胞では、300枚の連続切片を作製し、そのうち150枚の切片領域を再構築した。ゴルジ装置は、精巣上体管の管腔側に位置して、細胞質頂上部の広領域を占めている。図5Bは、図5Aのゴルジ装置の3D再構築像を拡大したものである。ゴルジ装置が空間的に複雑な形状を呈していることがわかる。1枚の切片では、ゴルジ槽の連続性は確認できないが、3D再構築像を作製することで、ゴルジ装置が一連のつながった構造体であることがわかった。このように、連続切片SEM法と3D再構築法を併用することで、これまで観察が困難であったゴルジ装置の全体像を電顕レベルで解析することが可能となった。

精巣上体管上皮主細胞とゴルジ装置の3D再構築像
図5 精巣上体管上皮主細胞とゴルジ装置の3D再構築像
A:精巣上体管上皮主細胞のゴルジ装置(緑)、核(青)、細胞質(茶)の3D再構築像。
B:精巣上体管上皮主細胞のゴルジ装置。この細胞のゴルジ装置は、空間的に複雑な形状を呈し、まるでチューリップの花びらのようである。

連続切片SEMの利点について

連続切片SEM法には、様々な利点がある。ここでは、この手法の利点についていくつか述べたいと思う。

  1. 連続切片の回収が容易
    TEMによる連続切片法では、リボン状に並べた連続切片を単孔メッシュに回収しなければならない。このグリッド操作は、熟練した高度な技術を必要とし、未熟な操作では切片を傷つけたり、ロスするリスクが高い。一方、連続切片SEM法では、切片をスライドグラスなどの硬い基板に貼り付けるため、高度なグリッド操作の必要がない。特に、リングによる切片回収法は、容易で切片のダメージが少ない。
  2. 試料の再観察が可能
    FIB/SEMやSBF/SEMでは、樹脂に包埋した組織の表面を収束イオンビームもしくは、ダイヤモンドナイフにより取り除き、新たに露出したブロック面をSEM観察するので、繰り返し試料を観察することはできない。一方、連続切片SEM法では、連続切片を基板に貼り付けるため、半永久的な保存が可能であり、試料を何度でも再観察することができる。
  3. SEM観察領域の設定が可能
    トリミングする樹脂ブロックの領域、すなわちSEM観察領域を自由に設定することができる。試料によっては広い範囲を観察できた方が良い場合と、狭い領域で十分な場合もあり、組織に合ったトリミングを行うことができる。また、z軸観察領域については、連続切片の数に依存するため、切削する連続切片の枚数が多いほど、観察できる深さ情報も増えることになる。
  4. 切片のダメージが少ない
    TEM連続切片法では、グリッドに載った切片を観察するため、電子線による切片の伸縮や損傷などが起きやすく、最終的な3D再構築において致命的な問題となる。一方、連続切片SEM法では、連続切片をスライドグラスなどの硬い基板に貼り付けるため、電子線による切片の損傷を最小限に抑えることができる。
  5. ウラン・鉛による電子染色が可能
    スライドグラスに載せた切片は、ウラン・鉛による電子染色を施すことができるため、一般的なTEM試料作製法と同じ条件でSEM観察が可能となる。
  6. 切片の導電処理が可能
    スライドグラスに載った切片をSEMで観察すると、チャージアップ現象により、像にドリフトがみられたり、熱ダメージを受ける。そこで、切片に金属コーティングやカーボンコートなどの導電処理を施すことで、これらの問題を解決することができる。
  7. 免疫組織・細胞化学染色(免疫染色)の可能性
    スライドグラスに貼り付けた切片は、免疫染色を施すことが期待できる。特にLR whiteなどの水溶性樹脂を連続切片SEM法に応用することで、蛍光免疫染色像と3D再構築像との相関顕微観察法への期待も高まる9)

連続切片SEM法の欠点

連続切片SEM法では、xy分解能は使用する装置の分解能に依存するが、z軸分解能は切片の厚みに依存している。安定した切片を取得するには、切片の厚さは70~100 nmの範囲が最善であり、これはFIB/SEMに劣っている。また、連続切片SEM法では、撮影した像のアライメント調節を必ず行わなければならず、正確なアライメント作業が良好な3D再構築像の取得に必須である。

どうして連続切片SEM法なのか?

オスミウム浸軟法は、今から30年前ほど前に鳥取大学の田中敬一教授のグループにより開発されたイメージング技法で、SEMにより細胞小器官の観察ができる魅力的な手法である10, 11)。私たちはこれまで、この手法を用いて細胞内微細構造の3D構造解析を行ってきた(図6A)。しかしながら、オスミウム浸軟法では、細胞の割断面を観察するため、ミトコンドリアのクリステや粗面小胞体上のリボソーム、ゴルジ槽の微細構造観察には有効であったが、細胞質内の広い領域を占めるゴルジ装置や小胞体の全体像を解析することは困難であった(図6B)。この問題を解決するため、連続切片SEM法の必要性を強く感じた。私たちは身近に、FIB/SEMやSBF/SEMを使用できる環境になかったため、この連続切片SEM法を独自に開発することを考えた。約1年の間、試行錯誤を重ねることで、何とか連続切片法を習得することができた。その結果、オスミウム浸軟法では断片的にしか観察することができなかったゴルジ装置の全体像を電顕レベルで解析することが可能となった。

オスミウム浸軟SEM像
図6 オスミウム浸軟SEM像
A:肝実質細胞のオスミウム浸軟像。ミトコンドリア(青)や粗面・滑面小胞体(rER・sER)、ゴルジ装置(緑)の割断面が観察できる。ミトコンドリアの内部(基質)には、クリステがみられる。
B:小腸杯細胞のオスミウム浸軟像。細胞の割断面を観察しているため、各ゴルジ層板の連続性が確認できず、ゴルジ装置(緑)の全体像を解析することが困難である。Sg:分泌果粒、N:核

オスミウム浸軟法 vs 連続切片SEM法

最後に、オスミウム浸軟法と連続切片SEM法について、私なりの意見を述べてみたいと思う。オスミウム浸軟法は、再構築することなく直接ミトコンドリアやゴルジ装置の微細構造を3D解析することができる。一方、連続切片SEM法では、連続断層像をコンピューターソフトウェアで再構築するため、出来上がった3D像はあくまでもパソコン上で作り上げた産物であることに注意しなければならない。一方、オスミウム浸軟法では、細胞の割断面を観察するため、ゴルジ装置や小胞体など細胞質中に広く分布している構造体の全体像を把握することは難しい。しかし、連続切片SEM法では、細胞1つを丸ごとイメージングすることが可能であるため、目的の小器官の連続性や全体像を解析することが可能である。以上の利点と欠点を理解した上で、私はこの2つのイメージング技法に関して、どちらの手法が良いかではなく、何をみたいかという目的に応じて使い分けることが重要であると考える。またSEM試料作製法には、オスミウム浸軟法だけではなく、近年では見落とされがちな多くの素晴らしい手法があるため、今後は様々なSEM試料作製法と連続切片SEM法を組み合わせた多角的な解析を行うことで、新たなSEMの世界を広げていきたいと思う。

おわりに

本稿では、連続切片SEM法について紹介した。この手法は、TEMによる連続切片法より容易であり、FIB/SEMやSBF/SEMのように高価で特殊な装置を用いずに、それと同等で高精度な3D再構築像の作製が可能である。特に、この連続切片SEM法は、ゴルジ装置の3D形態解析に有効であり、これまでイメージングが困難であったこの小器官の全体像を解明することが期待できる。さらに、SEMは近年の連続断層像解析において、俄に注目され始めたが、様々な試料作製法による組織・細胞のダイレクトな3D観察もSEMの醍醐味であることを忘れてはいけないと考えている。

参考文献

1)
Ohta, K., Sadayama, S., Togo, A., Higashi, R., Tanoue, R. and Nakamura, K.: Micron, 43, 612-620(2012).
2)
Wanner, G ., Schäfer, T., and Lütz-Meindl, U.: J. Struct. Biol., 184, 203-211(2013).
3)
Denk, W. and Horstmann, H.: PLoS Biol., 2, 1900-1909(2004).
4)
Micheva, K. D. and Smith, S. J.: Neuron., 55, 25-36(2007).
5)
Horstmann, H., Körber, C., Sätzler, K., Aydin, D. and Kuner, T.: PLoS One., 7, e35172(2012).
6)
Reichelt, M., Joubert, L., Perrino, J., Koh, A. L., Phanwar, I. and Arvin, A. M.: PLoS Pathog., 8, e1002740(2012).
7)
Wacker, I. and Schroeder, R. R.: J. Microsc., 252, 93-99(2013).
8)
甲賀大輔, 久住聡, 牛木辰男:顕微鏡, 49, 171-175(2014).
9)
Koga, D., Kusumi, S., Shodo, R., Dan, Y. and Ushiki, T.: Microsc., in press(2015).
10)
Tanaka, K. and Naguro, T.: Biomed. Res., 2, Suppl: 63-70(1981).
11)
Tanaka, K. and Mitsushima, A.: J. Microsc., 133, 213-222(1984).

謝辞

本稿の研究は、新潟大学医歯学総合研究科顕微解剖学分野の牛木辰男教授の下、行ってきたものです。また、連続切片SEM法の開発には、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科形態科学分野の久住聡助教に協力頂き、完成することができました。あらためて感謝申し上げます。
なお、本研究の一部は、文部科学省(日本学術振興会)科学研究費(若手研究(B))の支援により実施されました。

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