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日立ハイテク

日立卓上顕微鏡Miniscope® TM3030Plusの特長と応用

Features and applications of Hitachi tabletop microscope TM3030Plus

西村 雅子*1市川 薫*2安島 雅彦*3

はじめに

日立卓上顕微鏡Miniscope®シリーズ1-4)は、絶縁物や水分・油分を含んだ試料でも前処理なしに簡単に観察/分析できる卓上の低真空走査電子顕微鏡(低真空SEM)として、材料・電気電子・食品・バイオテクノロジー分野など、あらゆる産業分野の研究開発から品質管理に至るまで幅広く活用されている。今回開発したTM3030Plus(図1)は、上位機種で採用している低真空二次電子検出器5)を搭載することにより、新たに低真空環境下で二次電子像の観察を可能にした。本稿では、Miniscope®の使いやすさを継承しながら、さらにアプリケーションの幅を広げたTM3030Plusの特長と応用例について紹介する。

日立卓上顕微鏡Miniscope® TM3030Plus の外観
図1 日立卓上顕微鏡Miniscope®TM3030Plusの外観

TM3030Plusの特長

低真空環境下で二次電子像観察が可能

一般的な高真空SEMでは、検出信号として通常二次電子が用いられており、試料表面の凹凸形状を反映した像を形成する。しかし、二次電子は保有エネルギーが数10 eV以下と非常に小さいため、低真空環境下では残留ガス分子と衝突して容易にエネルギーを失い、高真空環境下で用いられる一般的な二次電子検出器に到達することができない。そのため低真空観察では、入射電子とほぼ同じエネルギーを持つ反射電子を信号として検出し、像形成を行っている。反射電子の放出効率は試料の平均原子番号が大きくなるほど大きくなり、より明るい像として観察されるため、反射電子像は試料の組成差を反映したコントラストとなる。
一方、TM3030Plusでは、図2に示すように上位機種で採用している低真空二次電子検出器を搭載することにより、二次電子像の観察を可能にした。試料から発生した二次電子は、検出器近傍に配置されたバイアス電極による電界で加速されて残留ガス分子と衝突し、残留ガス分子は正イオンと電子に電離して、その際励起光を放出する。二次電子および発生した電子は再度電界により加速されて電離が繰り返され、正イオンと電子は指数関数的に増幅し、それに伴って励起光も放出される。低真空二次電子検出器はこの励起光を検出して像形成を行っており、励起光は二次電子情報を有しているため、低真空観察においても高真空二次電子像と酷似した試料表面の凹凸形状を反映した画像を得ることができる。ダイヤモンドバイトの同一視野の観察例では、反射電子像で平均原子番号の違いを反映した組成情報、二次電子像で試料表面の凹凸形状を反映した像になることを示している。

低真空観察における信号検出と画像
図2 低真空観察における信号検出と画像

反射電子像と二次電子像をミックスした合成像観察が可能

反射電子像と二次電子像をミックスした合成像観察では、試料の「組成情報」と「試料表面の凹凸形状」が同時に観察可能である。反射電子像、二次電子像、合成像への切り替えはGUI上のボタンをワンクリックするだけで素早く行える。図3にセラミックス破面の同一視野を反射電子像、二次電子像および合成像で観察した例を示す。反射電子像ではアルミナ(暗い部分)中のジルコニア(明るい部分)の分布状態を組成情報として明瞭に捉えることができ、二次電子像では破面の凹凸形状、合成像では組成情報と凹凸形状を同時に観察することができる。

セラミックス破面の観察例
図3 セラミックス破面の観察例
加速電圧:表面モード(5 kV)、真空度:標準モード(30 Pa)、観察倍率:1,000倍

大口径SDDによるEDX迅速分析

TM3030Plusに搭載するエネルギー分散型X線分析装置(EDX)は、30 mm2の大口径シリコンドリフト検出器(SDD)であるため、効率よく迅速に定性分析、元素マッピングを行うことができる。図4にバリスタ(電子部品)破面のマッピング結果を示す。EDX分析により、数分で各元素の分布状態を把握することができる。

セラミックス破面の観察例
図4 バリスタ破面のEDX分析結果
加速電圧:分析モード(15 kV)、真空度:帯電軽減モード(50 Pa)、観察倍率:3,000倍

応用例

レーザープリンターで印字した上質紙の観察

レーザープリンターで印字した上質紙の同一視野を金属コーティングなしで反射電子像と二次電子像で観察した例を図5に示す。画像右半分が印字部分である。反射電子像では、上質紙に含まれる炭酸カルシウムが組成差により明るいコントラストで観察される。一方、二次電子像では、上質紙の繊維の凹凸やトナーの付着状態(矢印)を立体的に捉えることができる。

レーザープリンターで印字した上質紙の観察例
図5 レーザープリンターで印字した上質紙の観察例
加速電圧:表面モード(5 kV)、真空度:帯電軽減モード(50 Pa)、観察倍率:1,000倍

歯磨き粉の観察

試料台の上に薄く塗布した歯磨き粉の同一視野を前処理なしでそのまま観察した例を図6に示す。反射電子像では歯磨き粉に含まれる研磨剤が明るいコントラストで観察され、二次電子像では塗布時の凹凸形状、合成像では組成情報と凹凸形状を同時に観察することができる。

歯磨き粉の観察例
図6 歯磨き粉の観察例
加速電圧:表面モード(5 kV)、真空度:帯電軽減モード(50 Pa)、観察倍率:600倍

アイシャドウの観察

アイシャドウの同一視野を金属コーティングなしで観察した例を図7に示す。(a)と(b)は加速電圧15 kVでの反射電子像と二次電子像、(c)と(d)は加速電圧5 kVの反射電子像と二次電子像である。同一加速電圧において比較した場合、反射電子像では組成の違い、二次電子像で試料表面の凹凸形状が明瞭に捉えられている。加速電圧15 kVと5 kVで比較すると、5 kVでは、15 kVに比べて入射電子の試料内部への侵入深さが浅くなるために、反射電子像では(a)より(c)で、試料表面の微細構造の組成差が明確になり、二次電子像でも(b)より(d)で、試料表面の微細構造がより立体的に観察される。このように、試料や解析の目的に応じて取得信号や加速電圧を最適化することによって、多様な情報を取得することができる。

アイシャドウの観察例
図7 アイシャドウの観察例
真空度:帯電軽減モード(50 Pa)、観察倍率:2,000倍

高真空SEM観察用に前処理した生物試料の二次電子像観察

高真空SEM観察用に前処理した生物試料の二次電子像観察例を図8に示す。(a)は前処理として「固定→脱水→乾燥→金属コーティング」をした腎臓の糸球体、(b)は金属コーティングした蝶の燐粉の断面である。金属コーティングにより、二次電子の放出効率が増大し、低真空観察においても高真空観察と同等の信号量の多いシャープな像を観察することができる。

生物試料の観察例
図8 生物試料の観察例
加速電圧:通常モード(15 kV)、真空度:標準モード(30 Pa)、観察倍率:(a)10,000倍、(b)20,000倍

終わりに

Miniscope®TM3030Plusは、低真空二次電子検出器を搭載することにより、反射電子像に加え、新たに低真空環境下で二次電子像と合成像の観察を可能にした。試料の前処理をすることなく、「組成情報」と「試料凹凸形状」を迅速に観察できるようになったことから、今後は様々な分野において多角的な評価や解析への活用が期待できる。

参考文献

  • 平根賢一:SI NEWS Vol.48 No.2,15-17(2005).
  • 平島小百合:SI NEWS Vol.52 No.1,18-21(2009).
  • 坂上万里 他:SI NEWS Vol.54 No.1,18-20(2011).
  • 根本直也 他:SI NEWS Vol.57 No.1,22-24(2014).
  • 西村雅子 他:SI NEWS Vol.56 No.1,37-41(2013).

著者所属

*1
西村 雅子、安島 雅彦
株式会社日立ハイテク
科学・医用システム事業統括本部 科学システム設計開発本部 電子顕微鏡第二設計部
*2
市川 薫
株式会社日立ハイテク
科学・医用システム事業統括本部 科学システム営業本部 科学システム二部

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