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High School+

熊本県立第二高等学校熊本県立第二高等学校

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日本各地で科学を学ぶ高校生たちを訪ねる本コンテンツ。第5回は秋田県立秋田中央高校を訪問し、先進的な理数系教育のもと、自ら課題を見つけ、科学を探究している高校生のみなさんにお話を伺いました!

秋田中央高校は、2020年に創立100周年を迎える伝統校。文武両道を掲げており、硬式野球やラグビーなど、さまざまな部活動が全国で活躍しています。2013年からは、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けており、秋田県立大学などと連携しながら地域の特色を生かした課題研究に取り組み、「探究する学校づくり」を進めています。

*スーパーサイエンスハイスクール(SSH):国際的な科学技術系の人材を育成するため、文部科学省が指定し、支援する、先進的な理数教育を実施する高等学校。

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今回訪れた秋田中央高校は2016年に校舎を建て替えたばかり。人工芝のラグビー場や屋内野球練習場などもあり、伝統と最新施設設備が融合する理想的な教育環境です。なんと取材の前日には45年ぶりの甲子園出場が決定!応援の熱気が冷めやらぬ中での訪問となりました。

今回の訪問先は「躍進探究部」です。秋田中央高校ではSSH事業の一貫として、課題発見能力、課題探究能力、多様な発信力を育成する「躍進」という科目を設定しています。その延長線上で、各自が興味のあるテーマを深掘りし、研究活動を行う部活動が「躍進探究部」です。

2年生原田さん
2年生薄田さん
2年生秋山さん

3年生の秋山さんと、2年生の原田さん、薄田さんが行っているのは「秋田平野のため池における水生植物の生態と保全に関する研究」。ため池に生えている水草の生態を観察し、その水草を守るための研究を行っています。

これから近くのため池でフィールドワークを行うということで、同行しました。神社の横の細い山道を降りていくと、全長300mはあろうかというため池が出現。夏のどんよりとした空気が辺りに漂う中、秋山さんはさっそうとゴムボートをふくらませ、調査を開始します。

ため池では、生育する水草を採取するとともに、水温や水深、水質などの環境条件を調べています。
「過去のデータと比べると、水中に生える沈水植物が減少しているので、その理由を明らかにしたいと思っています。ある論文によると、沈水植物の種子の中には何年も池の土の中に埋まったまま、発芽しないものもあるそうなので、池底の泥の調査も始めました」と秋山さん。

採取した泥から種子を探し、光学顕微鏡を使って観察します。すると、まだ生育していない植物の種子がたくさんあることが分かりました。原田さんは「種子を見つけた時は本当に感動しました」と語ります。

「ため池の水を抜いて泥を取り除く『かいぼり』という昔からの農事があるのですが、近年は行われておらず、泥が溜まってしまったことが影響しているのでは?」と、秋山さんは種子が発芽しない原因を推測しています。また、水草を食べる魚類が水草の減少に影響を及ぼしているという海外の論文もあり、外来生物の生態も調査しています。

  • 採取した水草を選別。いつも手元に置いている図鑑の水草は全部覚えているそうです。

  • 泥を洗い流し、種子を探します。地道な作業だからこそ種子を見つけた時の感動は大!

秋山さんが水草に興味を持ったのは、環境省が行った北海道の湖畔調査に参加したのがきっかけ。そこで、水草のことをもっと知りたいと思ったそう。「採取するまで、どんな水草がいるか分からないというワクワクがあります。これまでの調査で存在が確認されていない『オオトリゲモ』の種を、泥の中から発見した時はびっくりしました」

本研究は、日本ストックホルム青少年水大賞 審査部会特別賞をはじめ、数々の賞を受賞。間もなく引退する3年生の秋山さんのバトンは、2年生の原田さんと薄田さんに引き継がれます。「水草はキレイで、見ているだけで楽しい」という2人。美しい水草を守るために、研究をさらに深化させていきます。

1年生四十物くん
1年生長門くん
2年生石郷岡くん
2年生朝香くん
2年生宇佐見くん

次は「ハリエンジュの樹齢と燃料化に関する研究」を行っている生徒さんと、校舎の裏山へ。生い茂る植物やぬかるんだ山道に足を取られながらも、ぐんぐん登っていく生徒さんに必死に付いていきます。しばらく進むと、突如視界が明るくなり、開けた場所に出ました。

ハリエンジュはニセアカシアとも呼ばれる北アメリカ原産の外来種。明治に入ってから日本にやって来て、今や日本列島の各地で見られる樹木です。「これも、あれも」と指された先を見てみると、そこら中に群生していることに気付かされます。

実はハリエンジュは「日本の侵略的外来種ワースト100」に指定されている要注意外来生物です。「昔から見ていた身近な木が、山の生態系を侵害していると聞き、驚きました」と石郷岡くん。ハリエンジュは繁殖力が高く、一度生えると空間を占有してしまうため、土着のマツやヤナギの生育を阻害するそうです。しかも根が浅いため、台風などで倒れる危険性があり、市が定期的に駆除しています。そして、伐採された大量の木は産業廃棄物として処分されます。

「廃棄されるハリエンジュをバイオマス発電の燃料として有効活用できないかと考え、この研究を始めました」と朝香くん。まず、成長錐(せいちょうすい)という器具で、棒状のコアを採取し、年輪を数えます。さらに木の直径や高さ、土の硬さなどを測り、データベース化しています。
「現在はサンプルをたくさん集めている段階。今後は採取された木を炭にして、樹齢と燃焼効率の関係を調べていきます」と宇佐見くん。

*一般社団法人 日本生態学会が定めた日本の外来種の中でも
特に生態系や人間活動への影響が大きい生物のリスト

  • フィールドワークは、チーム5人で分担。
    色違いのチームウェアがカッコいいですね!

  • 成長錐をくるくる回して木に突き刺し、棒状のコアを採取。
    縞模様の年輪から樹齢を数えます。採取には力が必要で筋トレになるんだとか。

フィールドワークの楽しいところを聞くと「いろんな生物と出会えるところ」と口を揃えます。「見たこともない虫を見つけたりするのが楽しい。この前はイトトンボを見つけました」と宇佐見くん。虫だけでなく珍しい動物に遭遇することもあり、カモシカに出会ったこともあるそうです。一年生の2人は、フィールドワークに参加したばかり。これからたくさんの生物たちと出会い、彼らの興味の幅はさらに広がっていくことでしょう。

2年生長門くん
1年生加藤くん
1年生進藤くん
1年生佐藤(仁星)くん
1年生佐藤(陽)くん
3年生田村くん
3年生長谷川くん

校舎に戻ると、「発電効率の良い風力発電の風車」について研究する生徒さんたちが待っていました。
秋田は風力発電が盛んな地域です。教室の窓からも数基の風車が見えます。秋田県沖は、国の洋上風力発電の促進地域としても有望視されています。また、古くから油田が開発され、火力発電所もあります。だから秋田で育った子どもたちは、自然とエネルギーに関心を持つそうです。

そんな彼らが研究しているのは「サボニウス型風車」というフィンランド発祥の風車です。半円筒形の羽根が2枚重なる構造の風車で、設置場所を選ばず、弱い風でも発電できる特徴があります。「町中にある微弱な風でも発電できるこの風車は、実用性も高く、将来性が期待されています」と長谷川くん。

どのような形状の風車が効率よく回るのか、2枚の羽根の重なり具合、オーバーラップ比を変えて実験。すると、オーバーラップ比が3:1のものが一番良く回りました。さらに気流の流れを観察すると、風車の中央に空気の渦や滞留が生まれており、これが回転に良い影響を与えていることが分かりました。

気流の観察に使っているのはドライアイスの煙です。「ドライアイスは自転車で往復1時間かけて買いに行っているので、調達するのが大変」と長門くん。暗くならないと気流が見えにくいため、放課後にドライアイスを買いに行って20時頃に実験することもあるそうです。

  • 気流の観察に使っている風車。方向性のある風を作るため、風洞を用意。
    先輩たちから受け継いだ手作りのモックです。

  • 扇風機の風を受けたドライアイスの煙が気流となって可視化されます。
    暗くなってからスマートフォンで撮影。

本研究は、全県の研究発表会でも高く評価され、文化部のインターハイとも呼ばれている「第43回全国高等学校総合文化祭(2019さが総文)」に出場が決まりました。「2年かけて研究してきたことを全国の舞台で発表できることになり、すごく嬉しい」と田村くん。

1年生千田くん
1年生塩谷くん
1年生岩谷くん
2年生佐々木くん
2年生嵯峨くん
2年生田口くん
1年生菅原くん
1年生奈良くん
1年生柏木くん
1年生山野辺さん
1年生東海林さん
1年生天野さん

最後に訪れたのは化学実験室。たくさんの生徒たちが集まって実験の真っ最中です。「これキレイでしょ」と見せてくれたのは、銀結晶の電子顕微鏡写真です。日立ハイテクが無償提供した卓上電子顕微鏡を使っています。

バラの花びらのような形、サンゴのような形、14面体などの電子顕微鏡写真が並んでいます。「これらは全部、濃度や手順を変えて、硝酸銀水溶液と還元剤を反応させた銀結晶なんです。どうして入れる順番や濃度を変えるだけで、こんなにも異なる形になるのか。それがとても不思議で面白い」と田口くん。

  • 反応で生じた10µmの純銀のバラ(左)、
    濃度を変えるだけでブロック状の銀に(右)

  • 還元剤と化学反応した硝酸銀水溶液(左)。
    とてもキレイなアクアブルーです。反応で得られた銀粉末(右)。

「昔から金属や石などの鉱物が好きだった」という田口くん。初めは「キレイだな」という単純な動機から参加しましたが、知るほどに「どうしてだろう」という疑問がムクムク湧いてきて、探究心は広がるばかり。今は「さまざまな分野に適用できる触媒の発見につながる」と、未来を見据えています。
嵯峨くんは「電子顕微鏡の中には、肉眼で見ているのと全く違う世界があります。銀は細かな結晶の集まりだと知って驚きました。自分が思ってもみなかった結果になった時、新しいことを知れたという感動があります」と研究の楽しさを語ります。

「考察するのは大変で、まだまだ時間はかかりますが、仮説を立て、仮説に基づいた別の実験を行っていく予定です」と佐々木くん。躍進探究部は、SSH事業の一貫として秋田県立大学と連携しており、大学の研究に触れる機会も多くあります。そこから、研究の新しい刺激を得ているようです。

その一方で、躍進探究部では年に3、4回、地元の小学生、中学生に向けた科学実験教室を開いています。「教える側が分かってないと教えられないので、分からないことは先生に聞いたりして、しっかり勉強してから臨みます。教えるのも楽しいですし、部員全員で作り上げるのが楽しいですね」と佐々木くん。大学生から高校生、そして小学生へ。人から人へと科学を学ぶワクワクが伝播していく。聞いているわたしたちもなんだか楽しくなってきました。

取材を終えて

「中央高校の良いところは?」と尋ねると、「やりたいことがすぐにできる」ところだとみんなが即答します。「自分がやらなきゃ始まらないけど、自分が動けば必ずバックアップしてくれる」「どの分野にもエキスパートの先生がいて、どんな質問でもすぐに返してくれる」「SSH指定校だから大学の先生と話ができたり、他の高校では得られない経験ができている」…。
そんな彼らの「やりたい」のきっかけとなっているのは、いつも先生方の言葉でした。「フィールドワークの帰りに先生からハリエンジュの話を聞いて、興味を持ちました」(朝香くん)、「水草の研究に興味を持ったのは先輩と先生のおかげ」(原田さん)。
生徒たちの興味を起こし、無限に広がる好奇心を、先生方のバックアップや大学との連携により、しっかりと受け止める。より良い未来を創造していくためには豊かな土壌が大切なのだと改めて気づかされました。

※本文中の情報は、2019年7月当時のものです

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