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株式会社日立ハイテクノロジーズ株式会社日立ハイテクノロジーズ
理学博士 荒井 朋子氏
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INTRO

幼い頃から、身近な存在だった宇宙。その多様性に気づかせてくれたのは、中学生時代に取り組んだブラックホール研究だった。大学に進み「隕石学」に心奪われ、地球外天体物質の分析と探査にのめり込む。人生を通して取り組んできた研究、その根幹にいつもあるのは、宇宙の神秘を解き明かしたいという強い思いだ。

ブラックホールの
数式解明に挑んだ
中学3年の夏休み

「パパは火星から、ママは金星から来たんだよ」。
幼いころ、父が口ぐせのように言っていたセリフです。おかげで地球の近くに火星や金星があって、そこには生き物がいるんだと、小学校に入るまで思っていました。
大のSF映画ファンだった父と一緒に、よく『スター・ウォーズ』などを観ていました。それでいつの間にか、宇宙への関心が育まれていたのかもしれません。小学校3年生ぐらいで、月のクレーターを観察したくなり、望遠鏡をおねだりしたこともあります。

初めて本格的に宇宙と向き合ったのは、中学3年生の夏休み。中高一貫校で高校受験がなかったかわりに、興味のある事柄について原稿用紙100枚ほどのレポートが課せられ、ブラックホールを研究対象にしました。愛読していた科学雑誌『Newton』の特集で、たまたまブラックホールが取り上げられていたのを見たのです。理論的に予測されているブラックホールとは、質量が一点に凝縮され、そこに向かう時空が歪んでいるという状態です。そのことが、解説とともにきれいなイラストで描かれているのを見て衝撃を受けたのです。
そこで無謀にも、ブラックホールが導き出される一連のプロセスを自分なりに調べて、レポートにまとめようと考えました。早速、大学の専門書を買ってきたもののさっぱりわからない。数学塾の先生につきっきりで解説してもらい、何とか理解できた結果を一生懸命にまとめたレポート、なのに評価は最低ランクでした。なぜなら、その時の担任は家庭科の先生。「何が書いてあるのかよくわからない」という評価だったのです。

月の石に感じたワクワク感

これを研究したい!

それに懲りることなく、その後も私の興味は宇宙に向いていました。しかし、私がより強く心をひかれたのは、数式で解明されるブラックホールではなく、もっと「目に見えて、手に取れるような」宇宙でした。

東京大学理学部地学科に進み、地球以外の天体を研究対象に選びました。研究室には、アポロが月から持ち帰った石や隕石が転がっている。もうワクワクしましたね。「これこれ、手にとって触れることができる宇宙こそ、私が解明したいテーマなんだ」って。
一見すると何の変哲もない石なのに、その中には地球上では決して作ることのできない鉱物が潜んでいたり、その鉱物を同位体分析*すると45億年以上前の昔に我々のいる太陽系で起こったできごとがわかったりする。空間と時間を一気に飛び越えた世界へと連れて行ってくれる隕石は、すでに地球上に何万個もあり、さらに今この瞬間にも地球に降り注いでいます。一生を研究に捧げても、調べきれないほど調査対象があるなんて、私にとってはこれ以上なく恵まれた研究分野だと思っています。

*同位体分析:岩石に含まれる放射性同位元素(ウラン、鉛、カリウムなど)の半減期を用いて、岩石が作られてから現在までに経過した時間を調べる分析方法。同じ元素で中性子の数が異なる核種の関係を同位体と呼ぶ。同位体には、安定なものと不安定のものがあり、不安定なものは時間の経過と共に、放射性崩壊をして、放射線を出す。ある放射性同位体が、放射性崩壊により、そのうちの半分が別の核種に変化するまでにかかる時間のことを半減期と呼ぶ。例えば、ウラン238は半減期が44.68億年と長く、太陽系の初期にできた小惑星や月の石の年代を求めるのに使われる。

隕石が教えてくれる
地球の歴史と生命の起源

隕石は、太陽系の初期に作られた鉱物が寄せ集まってできた石です。その石が集まって天体ができ、やがて地球のような星になる。隕石によって地球以外の天体の成り立ちを知ることは、相対的に地球の歴史や生命の起源に対する理解を深めることにつながります。隕石はたとえるなら、数十億年前の宇宙の姿を教えてくれる歴史書のような存在です。

隕石は、“地球が「酸素が多くて水にも恵まれている」という意味で非常に特殊な天体である”ということを教えてくれます。たとえば隕石と、地球上の岩石に含まれている鉱物には、決定的に違うことがあります。それは、金属鉄を含むかどうか。鉄は酸素と結合しやすいという性質があり、酸素の豊富な地球上では、FeOなどの酸化鉄として存在します。ところが、隕石から酸化していない金属鉄が見つかることから、隕石は酸素のない空間からきた、ということがわかります。
もう1つ、これまで地球以外での存在が確認されていない物質が「水」です。氷や水蒸気ではない「液体の水」が存在するためには、その天体が極めて特殊な温度条件を維持していなければなりません。地球の水は、太陽との絶妙な距離がもたらしてくれたものなのです。
ちなみに、地球上の生命の種が宇宙からやってきた可能性についていうと、炭素質の隕石の中に、アミノ酸(RCH(NH2)COOH)が複数種見つかっていることから「あり得る」と考えられています。地球上の生命を作り、継続させるために必要なたんぱく質を構成するアミノ酸が見つかるということは、そこに生命の種があった可能性を示します。「C(炭素)・H(水素)・O(酸素)・N(窒素)」は、地球以外の天体にも存在するのです。そのことを考えると、地球上の生命の種が宇宙からもたらされた可能性はありえますし、宇宙のどこかで地球と同じような環境を持つ別の天体で、生命が育まれている可能性も否定できません。

流星の光で追究する
宇宙の姿
メテオプロジェクト

2013年からは『メテオ』プロジェクトに取り組んでいます。これはNASA(アメリカ航空宇宙局)と連携し、ISS(国際宇宙ステーション)に設置した超高感度のハイビジョンカメラを使って流星の長期観測を行うプロジェクトです。私は、千葉工業大学津田沼キャンパスにあるメテオ運用室から、ISSにいる宇宙飛行士やNASA の地上管制官と日々会話をして、カメラ調整や観測映像を記録したハードドライブの交換などの作業をしてもらっています。
流星とは、すい星や小惑星から放出された塵(ちり)が大気に突入する際に、高温高圧のプラズマ状態となり発光する現象です。地上からも観測できますが、天候に左右されてしまいます。高度400kmを飛ぶISSからは、常に天候の影響を受けずに約100kmの高度で光る流星を見下ろす形で観測できます。
たとえば、毎年冬の初めになると、ふたご座流星群という名前を耳にされるでしょう。流星群*にはそれぞれ、塵を出す天体(流星群の母天体と呼びます)がわかっていて、ふたご座流星群の場合は小惑星フェートンがそれにあたります。地上から行われた分光観測の結果、ふたご座流星群はほかの流星群に比べてナトリウムの濃度が非常に低いという報告があるのですが、観測数が少なく、この流星群の一般的な特徴であるかは不明です。今後、『メテオ』プロジェクトによる観測データが解き明かしてくれると期待されています。
小惑星フェートンについていえば、『メテオ』の次期プロジェクトとして、探査機を送り、どのような組成の塵がどのように放出しているかを調べる『デスティニープラス』プロジェクトも始まっています。フェートンはふたご座流星群として毎年地球に塵をもたらす天体で、小惑星といいながら直径約6kmもあり、地球に衝突する可能性のある天体の中では最大級。今後も監視と実態の理解が必要だからです。千葉工業大学とJAXA(宇宙航空研究開発機構)が共同で2022年の探査機打ち上げをめざしています。

*流星群:地球の軌道と交差する塵の帯の中を地球が通過する際に、限られた時間に決まった方向からたくさんの流星が観測される現象。ふたご座流星群のほかに、しし座流星群などもある。

科学の根源「地球の誕生」

科学の課題「地球の未来」
を解き明かしたい

メテオプロジェクトで収集しているのは、ハイビジョンの映像データです。通信衛星を中継してISSと地上を結ぶ通信では通信速度に制限があるため、膨大なデータをすべて地球に送るのは不可能。可能な限り有用なデータだけを送るため、映像の中から流星の映っている部分だけを抜き出せるように、ソフトウェアの性能向上が課題です。
プロジェクトを通じて得られたビッグデータを、統計処理などを駆使して解析すれば、やがては私が研究対象としている40数億年前の宇宙の姿を解明できる日が来るでしょう。その先には地球誕生のプロセスが見えてくるはずです。
宇宙の研究は、気の遠くなるような長いスパンで取り組む必要があり、この分野の研究者はおそらくみんな、研究のバトンを次の世代に引き継ぐことを常に意識しています。研究とは何世代にも渡る検証を積み重ねるものです。自分が解き明かした「知」が世代を超えて受け渡されていく中で、いつか必ず宇宙の全貌に迫る日が来る。そんな大きな夢を思い描きつつ、日々隕石を分析し、ISSから流星観測を行う日々が、私は楽しくて仕方ありません。

PROFILE

荒井 朋子

東京都生まれ。東京大学理学部地学科卒業、同大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。大学院在学中、日本学術振興会特別研究員としてNASAジョンソンスペースセンター及びUCLAに留学。学位取得後約7年間、宇宙開発事業団(現・JAXA)にて有人及び無人宇宙機の開発・運用に携わる。JAXA退職後、国立極地研究所、東京大学総合研究博物館を経て、2009年4月の千葉工業大学・惑星探査研究センター設立時より現職。2014年にはフィンランドで開催された国際会議「小惑星・彗星・流星2014」において、小惑星22106は、その業績が評価されて「Tomokoarai」と命名された。

千葉工業大学惑星探査研究センター
http://www.perc.it-chiba.ac.jp/

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