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株式会社日立ハイテクノロジーズ株式会社日立ハイテクノロジーズ
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日本科学未来館 展示企画開発課課長 キュレーター 内田 まほろ氏
日本科学未来館 展示企画開発課課長 キュレーター 内田 まほろ氏

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INTRO
いま起きている現象を解き明かし、未来の姿を描く科学。東京・お台場の日本科学未来館では、展示やワークショップを通して、日々の疑問から生命の不思議まで、さまざまなスケールの科学技術体験を提供している。その展示企画開発課でキュレーターを務めているのは、内田まほろさん。常設展や、2019年2月8日より開催の「『工事中!』~立ち入り禁止!?重機の現場~」、過去には「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」(2014年)、「『恋愛物語展』-どうして一人ではいられないの?」(2005年)など、ユニークな企画展の数々を手がけ、アートと融合した新しい科学の伝え方を模索している。
「科学的視点が加わると、毎日の生活はもっと豊かに楽しくなる」。だから多くの人にその魅力に気づいてもらいたい、と「伝え方」をとことん追求する。こだわりの影には、「もっと早く科学の面白さを知りたかった」という悔しい思いがあった。

自由な思考と
発信力を育てた父
生活の中で
「科学力」を育てた母

父親が働き、母親が家庭を守る。私が育った時代はそんな家庭が一般的でした。でもわが家では鉄鋼メーカーの研究者として働く母はいつも忙しく、遊んでくれるのは大抵父の方。父は文系の研究者で、「子どもは最大のレジャーだ」などと言いながら妄想たっぷりの私の話に何時間も付き合ってくれました。一方で母とは話す機会が少なかったのですが、たまにデパートに一緒に行くと、お鍋を手にとって底をコンコンと叩きながら「これはニッケル●%ね」などと教えてくれたり、お風呂に入れば「なぜ石鹸の泡ができるのか」と解説してくれたり……。ちょっとした会話の中でもモノの仕組みへの関心を育ててくれました。いま思うと、父からは自由な思考と発信力を、母からは会話の中で科学的なものの見方や論理的な思考を育ててもらったような気がします。

保育園の頃の私は母に憧れていたのか、卒園式に「科学者になりたい」と言ったそうです。本も大好きでしたが、小学校から中学校時代に得意だったのは国語より理数系の教科。何かの仕組みがわかって答えがひとつ出るという明快さがとても好きだったのです。

突然、
苦手になってしまった数学。
疑問を解いた
新しい視点との出会い

ところが、高校に上がったとたん、私は数学に苦手意識を持つようになってしまいます。変数をなぜXやYで表現するのかという疑問に始まり、sin(サイン)・cos(コサイン)が出てくると、もはや「えっ、何のこと?」という状態に。結局、数学を避けるかのように、大学受験に向けた進路選択では文系を選びました。しかし、自分でも不思議なことに、「数学を理解したい」という願いをあきらめきれなかったのです。苦手ながらも高校では数学Ⅲまで履修。大学の科目でも数学を選択しました。そしてある日、大学の授業で、教授が微分積分についてこんな説明をされたのです。

「丸いグラスに入った液体の量は、そのままでは量れない。でも、丸いグラスに小さい立方体をたくさん詰めて、その合計の体積から大体これくらいの量かなというのを計算するのが、微分積分なんだよ」

聞いた瞬間、私がずっと抱えていたモヤモヤした疑問がパーッと解けていくのを感じました。「ああ、そうだったのか!」と腑に落ち、数学や科学に対する視点が大きく変化したと思います。それと同時に、面白さも難解さも、「伝え方」ひとつで変わるものだと身をもって知ることになったのでした。

科学とアート、
双方の専門家が高めあい、
新しい表現を生み出していく

大学卒業後はフリーランスで展覧会の企画などを手掛けていました。メディアアートという分野で、アート&サイエンス、アート&テクノロジーの展示プロデュースを得意としていましたが、そのころは「アーティストがテクノロジーやサイエンスを表現に生かした」というもので、本質的に融合している感じがない物足りなさも感じていました。そんな時に舞い込んできたのが、日本科学未来館の求人の話です。正直なところ、それまでアート関係の仕事をしていた私にとって、「科学館」という響きに最初は魅力を感じませんでした。ところが、応募条件が「文系・芸術系」の人材だと聞いて興味がわきました。科学の専門家ではなく、あえて文系・芸術系の人材を採用するということは、新しい表現や考え方が求められているのだろうと。ここならアートとサイエンスが融合した面白いことができそうな気がしたのです。

未来館での仕事をイメージしたときに考えたのは、科学に対する苦手意識がある人と科学の接点を作りたいということでした。高校生時代の私のように、学生の間に理系アレルギーになって文系コースに進んだという人は少なくないでしょう。一度、文系・理系に分かれてしまうと、多くの場合「文系」の人の科学知識は高校時代で止まってしまいます。大人になると、ますます新しい科学の情報を得る機会が減ってしまいがちです。でも実際の科学の世界は、文系の世界よりもずっと早く進化しています。宇宙や遺伝子、人工知能(AI)……私たちが高校生の頃には教科書にすら出てこなかった、SFの世界で描かれていた話が、現代の社会常識にもなっています。

科学の視点を日常生活の中にちょっと組み込むだけで、世界の見え方はとても豊かになる。やっとその面白さに気づいたとはいえ、私の中には「もっと早く知りたかった」という悔しい思いもくすぶっていました。かつての私と同じように科学に苦手意識を持ってしまった方も大勢いることでしょう。けれど、それはとてももったいないことだと思うのです。

展示の企画における私の大切な役割は、科学者とクリエイターと共に、お客さまとのコミュニケーションの方法を模索することです。科学者が面白い研究を行っていても、それが上手く発信できていないことが少なくありません。そこで、まずは科学者に自分自身の言葉で研究内容を説明してもらい、クリエイターが深く理解し、表現できるまでとことん話し合います。そうやってお互いに伝えあい刺激しあううちに、誰もが想像していなかったようなアイデアが生まれるのです。これまで数式と専門用語で表現されていた内容が、クリエイターの手を介して美しいビジュアルとなって立ち上がる時には、科学者も私もワクワクします。そして、そのビジュアルに刺激された科学者が思いつく新しいプランが、さらなる企画のブラッシュアップにつながります。

こうして、まさにサイエンスとアートの掛け算が繰り返されてお互いの価値を高めあう。この一連の展示を作り上げていく過程をサポートするのが、私の最もやりがいのある仕事であり、面白さだと自負しています。

展示を経験思考型に一新
「問える力」を
次の興味につなげる

日本科学未来館は2016年に常設展の約半分を改修し、展示のコンセプトを体験型から経験思考型へと一新しました。遊園地のように感覚を刺激するアトラクションを楽しんで「ああ、面白かった」で終わるのではなく、その場で何かの問いを受けて自分なりの思考を深めてもらい、さらなる疑問がわき上がるような仕掛けを紛れ込ませています。

今は子どもから大人までがスマートフォンやタブレットを駆使して、日常的に動画サイトを見ています。簡単な操作で情報を得られる時代だからこそ、私たちは人が情報を得る時の快適さを重視し、お客さま目線での展示を徹底しています。お子さんは何も読まなくても楽しめるのが基本。解説は大人がお子さんに「なんで?」と聞かれたときに答えを助けるものです。

また、特に意識しているのは、お子さんを連れてきた親御さんや、カップルのどちらかなど「連れてこられた」お客さまのことです。たとえば、企画展「『工事中!』~立ち入り禁止!?重機の現場~」では、重機など工事現場ではたらく車が好きな子どもたちの期待を裏切らないのはもちろん、工事や重機に興味のない人の好奇心を刺激して、興味をもってもらいたい。重機に吹き出しをつけて擬人化し、言葉の語尾に特徴をつけたりなどして、「面白い!」「なんだこれ、気になる」と好奇心をくすぐる工夫をしています。

そして、ひと通り観た後、何かしら心に留めて帰っていただきたい、というのが私たちの願いです。気になっていろいろ考えてしまう、で十分。さまざまな展示で見た「問いかけ」について考え、家で会話を交わしてほしいのです。人は「なんでだろう」と思う力、「問える力」がないと何かを解決することもできない。家族やカップル、お友達の間で生まれた会話がさらなる科学への興味につながり、いずれ一人ひとりの血肉になると信じています。

想像を超える
出来事が起こった時、
科学の知識が
私たちを支えてくれる

たとえばAI(人工知能)が人間の知性を超える「シンギュラリティ*1」という概念が現実になる時代はやってくるでしょう。自然環境の変化や地球外生命体の存在など「まさか」なできごとが今後起こらないとは誰も断言できません。

私たちは予想もできない未来が現実になった時、冷静に受け止め解決に導かなければならない。進化していく科学技術を駆使し、あるいは進化する科学技術に向き合い、社会のルール作りを重ねていけば、突然パニックになるようなことはないでしょう。そうした時代の動きについていくためにも、広く科学の知識を持つことが必要だと思うのです。

日本科学未来館の展示にもご協力をいただいている、ロボット科学者の石黒浩*2先生はよく「人間は技術があるから人間だ」と話されます。科学技術があるからこそ、人間社会は成り立っているわけです。
科学は生活と切り離された場所にあるものだと思われがちですが、実はそうではなくて、私たちの生活の中で生まれる課題をより快適に解決してくれるために必要なものです。そんな科学が描く未来像を、美しいものとして文化的な文脈に乗せて、多くの人に伝えること。それが一度は理系に挫折しながら、再び科学を楽しめるようになった私の役目と受け止めています。

*1 シンギュラリティ:科学技術が発展し人工知能(AI)が加速することで、人間の知性を超え、生活が大きく変化するという概念。技術的特異点。
*2 石黒浩:大阪大学教授、ロボット工学者。日本科学未来館には、大阪大学石黒浩研究室(ロボット工学)と東京大学池上高志研究室(人工生命)がタッグを組んだアンドロイド「オルタ」が常設展示されている。

PROFILE

内田 まほろ

日本科学未来館 展示企画開発課課長 キュレーター
アート、テクノロジー、デザインの融合領域を専門として2002 年より当館に勤務。05~06 年には、文化庁在外研修員として、米ニューヨーク近代美術館(MoMA)に勤務する。 企画展のキュレーションとして「時間旅行展」「恋愛物語展」「チームラボ展」や、常設展示「ジオ・コスモス」とビョーク、ジェフミルズとのコラボレーション企画を行うなど、大胆なアート&サイエンスのプロジェクトを推進する。ロボットや情報分野の常設展示開発および、「メイキング・オブ・東京スカイツリー展」や「The 世界一展」、2019年2月~5月開催の企画展「『工事中!』~立ち入り禁止!?重機の現場~」など、技術革新、日本のものづくり文化の紹介にも力を注ぐ。


日本科学未来館
https://www.miraikan.jst.go.jp/

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