
サステナビリティへの取り組み
技能五輪は、若手がモノづくりの技能を競い合う「技能者版オリンピック」といえる大会で、毎年開催の全国大会と2年に1度の国際大会があります。日立ハイテクは、その両方に50年以上にわたって挑戦してきました。
日立ハイテクの製品やサービスを支えているのは、絶え間ない最先端技術の開発と、それを形にする最高水準の技能です。これを担うのが一人ひとりの技能者であり、技能五輪というステージを通して「世界一のモノづくり」を担う次世代の育成と技能伝承に取り組んできました。
日立ハイテクは技能五輪で、金メダルを筆頭に多くの受賞を重ねてきました。これらの結果はもちろん重要ですが、それと同じ位重視しているのが「挑戦の過程」と「出場者のその後」です。日本一・世界一を目ざした経験が、技能者として飛躍的な成長をもたらすからです。
挑戦に先立っては2〜3年かけて訓練を行い、技能だけでなく自主性や責任感といった人間力の部分にも磨きをかけます。こうして個人のスキルを向上させることが、日立ハイテク全体の技術力・組織力の底上げにもつながります。
そしてSDGs目標年の2030年が迫る中、日立ハイテクは気候変動をはじめとする地球規模の課題解決をマテリアリティ(重要課題)に掲げています。これらを可能にするイノベーションを生み出す「技と心」を育むためにも、技能五輪へのチャレンジはますます重要性を増しています。
技能五輪は1950(昭和25)年、スペインの職業青年団が隣国ポルトガルとの間で開催したのが始まりです。日本では1962年から毎年開催しており、若手技能者が技能を競い合う最高峰のステージとなっています。
日立ハイテクは前身の日立製作所・那珂工場時代の1968年から全国大会に、1973年から国際大会に出場してきました。そして50年以上にわたるチャレンジの中で獲得した金・銀・銅メダルは、全国・国際大会を合わせて100個以上になります。
モノづくり・技術統括本部 那珂地区生産本部(以下 モノ統・那珂)技能訓練グループ・主任技能士の石川豊和は、日立ハイテクが技能五輪に挑戦する意義を「若手技能者の育成と技能伝承」とした上で、3つの目的を挙げます。
「よく『モノづくりは人づくりから』と言われますが、日立ハイテクは技能五輪への挑戦はモノづくりの原点につながると考えています。社外に出てトップレベルの技能者が集う場で切磋琢磨する経験から多くのものが得られると考え、50年以上にわたって挑戦を続けています」と、石川は語ります。
2024年9月にフランス・リヨンで行われた「第47回技能五輪国際大会」では、モノ統・那珂 製造部機械課の田澤大(たざわ・だいむ)がCNC旋盤で銀メダルを獲得しました。
CNC(Computerized Numerical Control)旋盤とは、材料を工作機械(旋盤)で回転させ、削ったり溝を切ったりして加工を行い、複雑な形状の部品に仕上げる競技です。通常の旋盤と異なり、刃物の位置や回転数をコンピュータで制御します。
大会では1日4時間の競技を3日間行い、図面に基づきプログラムを作成して加工を行い、精度や完成度を競い合います。競技課題や材料の種類は当日まで非公開。今回の課題は低炭素鋼の加工、工具鋼(刃物、各種工具に用いられる鋼)5部品の量産、真鍮(しんちゅう)と工具鋼の組み付け課題の3つでした。
田澤はこのように振り返ります。
「出場に向けての訓練で難易度の高い課題をこなしていたため、本番も自信を持って取り組むことができました。競技に入る前にはルーティンとして指のストレッチと深呼吸を欠かさずに行い、競技中に心が乱れることもありませんでした」
技能五輪の出場権には22歳以下(国内大会は23歳以下)という年齢制限があり、出場を目ざす選手は技能訓練グループに配属され2〜3年の訓練に専念します。田澤の場合は高校時代に技能五輪への出場を決意し、日立ハイテク入社後すぐ訓練に入りました。
指導員として3年間にわたって田澤を訓練したモノ統・那珂 製造部機械課の酒井瑠太は、こう語ります。
「指導では技能面だけでなく、メダリストにふさわしい人間性も重視しました。特に感謝の気持ちは大切です。誰もが技能五輪に出られるわけではなく、まずは出場できる環境に感謝し、競技生活を終えた後はその経験を後輩に伝えて欲しいと願っています」
酒井もCNC旋盤の選手として第43回国際大会(2015年・ブラジル・サンパウロ)に出場し、敢闘賞を獲得しました。「現在は製造現場に戻り、ターニングセンタという装置を使って加工を行っています。五輪で得た経験を無駄にせず、さらに高度な要望に応えられるよう技能を磨きたいですね」と、今後を見据えます。
日立ハイテクの製品やサービスを支えているのは絶え間ない最先端技術の開発とそれを形にする最高水準の技術で、これを担うのが「人」です。つまり、一人ひとりの技能者が高度な技能を身に付けることが、日立ハイテクという企業全体の技術力や組織力の底上げにつながります。
現在、日立ハイテクは技能五輪において旋盤、フライス盤、メカトロニクス、機械製図の4職種に出場しています。いずれも主要事業である電子顕微鏡や各種分析・計測装置の設計や製造に必要不可欠な技術で、これらの技能を磨くことが、より難易度の高いモノづくりを可能にします。
冒頭で触れた通り、日立ハイテクは技能五輪に挑戦する意義を「若手技能者の育成と技能伝承」としています。実際に出場した若手は飛躍的な成長を遂げ、現在はそれぞれの製造現場をリードする立場を担っています。
モノ統・那珂 製造部機械課の海老根章友は、選手として全国大会に2回(2004・05年)、国際大会に1回(2007年)出場。現在は技能エキスパートとして日立ハイテク製品の機械加工を担当しており、技能五輪での経験をこう振り返ります。
「技能向上はもちろん、何よりも責任感を強く持つようになれました。実務においては、問題が起きれば原因を追究し、何が何でも解決させる気持ちが大切です。チーム力の大切さも学べたので、自分の担当業務のみならず職場全体の技能・知識向上に取り組もうという気持ちも高まりました」
モノ統・那珂 技能訓練グループの沼畑辰也も2回の全国大会(2017・18年)、1回の国際大会(2019年)出場を経て、その後は医用製品に係る設計や海外への生産移管を担当しました。海老根と同様に、技能五輪での経験が自分を大きく成長させたと語ります。
「何事にもあきらめない姿勢、誰にも負けないという気持ち、そして自主性がしっかりと身につきました。制限時間内に仕上げなければならない時間厳守の意識や、課題が発生した場合は自分の意見を持って解決に臨むという業務に必要不可欠な姿勢が、技能五輪を通して培われたと感じています」
沼畑は2024年の第62回全国大会(愛知県)で、機械製図の指導を担当。同大会で日立ハイテクはメカトロニクスで銀、フライス盤で敢闘賞を獲得しました。同時に開催された「第44回全国障害者技能競技大会(全国アビリンピック)」では、グループ企業の日立ハイテクサポートの社員がデータベース種目で銀メダルを獲得するなど、高みを目ざす挑戦は続いています。
日立ハイテクグループはSDGs(持続可能な開発目標)を踏まえて、社会課題の解決に向けて5つのマテリアリティ(重要課題)を掲げています。
技能五輪への挑戦は「モノづくりは人づくりから」という理念の通り、「5)多様な人材の育成と活用」を担うことで1)〜4)のマテリアリティにも間接的に貢献します。
現在は気候変動や生物多様性の減少といった、これまでにない地球規模の課題解決も迫られています。モノづくりの技能で、これらに貢献する人財の育成。この観点でも、技能五輪への挑戦はますます重要性を増していきます。
近年、技能五輪においても競技中の消費電力量を抑える、持ち込む工具の重量を減らすなど、省エネや省資源などのサステナビリティを意識した流れが生まれています。
冒頭で技能五輪に挑戦する意義を語ったモノ統・那珂の石川は、こう結びます。
「社会課題の解決では、時間や資源の制限がある場面も少なくありません。日立ハイテクは訓練を限られた就業時間の中で行い、最大限の成果を上げることを重視しています。日頃からこうした姿勢を育むことが、難易度の高い課題を解決する力にもつながると考えています」
SDGsの目標年が2030年に迫り、世界は2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ(ネットゼロ)を目標としています。期限がある中でスピード感を持って課題解決を進めるには、イノベーションが求められます。技能五輪で培った「技と心」は、これらを生み出す原動力になるでしょう。