サステナビリティへの取り組み
アミノ酸は「生命の元」と呼ばれる物質で、体を形づくるタンパク質の構成をはじめ、私たちの健康や活動を支える重要な役割を担っています。また、栄養や旨味を左右する成分として、食の分野でも広く利用されています。
アミノ酸の種類や量を正確に計るのが、アミノ酸分析計です。日立ハイテクは1960年代初頭からその開発に取り組み、分析時間の短縮や精度向上を通じて、食やヘルスケアをはじめとする多様な産業の発展を支えてきました。
近年は、その活用領域がグローバルに広がっています。新興国での栄養改善プロジェクトや、成長が期待されるペプチド製剤などの新たな医薬分野でも活用が進み、生命と健康を支える現場で存在感を高めています。
日立ハイテクのアミノ酸分析計は、さまざまな分析装置の開発で培った技術やノウハウをもとに進化を続けています。より高精度に「生命の元」を分析することで、人と社会のウェルビーイング向上と持続可能な未来の実現に貢献していきます。
アミノ酸とは、生命活動を支えるさまざまな分子の総称で、しばしば「生命の元」とも呼ばれています。現在までに約500種類が確認されており、中でもよく知られているのがタンパク質を構成するアミノ酸です。
人間の体には約10万種類ものタンパク質が存在し、皮膚や毛髪、筋肉、内臓などを形づくっています。これらのタンパク質は、わずか20種類のアミノ酸が配列パターンの組み合わせを変えることによって作られます。
20種類のうちイソロイシン、バリン、ロイシンなどの9種類は「必須アミノ酸」と呼ばれ、体内で合成できないため食品から摂取する必要があります。
アミノ酸の役割は、タンパク質の構成にとどまりません。例えば、グルタミン酸は脳をコントロールする神経伝達物質として、記憶力や集中力をつかさどります。システインには抗酸化作用があり、ストレスや紫外線でダメージを受けた細胞の回復に欠かせない存在です。
このように、アミノ酸はさまざまなかたちで人間の生命活動を支えています。
日立ハイテクアナリシス・フィールドアプリケーションセンタの宮野桃子は、こう話します。
「ある食品や医薬品に『どんなアミノ酸がどれくらい含まれているのか』を測るのが、アミノ酸分析計です。この『定性と定量』と呼ばれるプロセスは、食品やサプリメント、医薬品の開発やバイオテクノロジーの研究において、非常に重要です」
例えば、健康食品の場合、含まれるアミノ酸の種類と量を明らかにすることが品質の保証につながります。よく「何種類のアミノ酸を含有」と表示された製品を目にすることがありますが、その品質管理ではアミノ酸分析計による厳密な分析が行われています。
先に紹介したグルタミン酸は、昆布などの海藻や魚介類の旨味成分としても知られており、調味料ではおなじみの存在です。アミノ酸分析計は健康や栄養価の向上だけでなく「美味しさ」にも一役買っています。
アミノ酸分析計は、1958年にアメリカで誕生。1972年には、アミノ酸分析の原理を考案したアメリカの2人の研究者がノーベル化学賞を受賞しました。「生命の元」であるアミノ酸の可視化は、人類の悲願でもあったのです。
国内では、日立ハイテク(当時は日立製作所那珂工場)が1962年に国産第一号機を発売。それから60年以上にわたる進化の中で、当初は1回の分析に22時間を要していましたが最新型では約30分、条件によっては10分程度に短縮されました。
その中核となるのが「ポストカラム・ニンヒドリン法」です。この分析手法では、まず「カラム」と呼ばれる筒状の部品を用いて試料中のアミノ酸を分離した後、「ニンヒドリン」という試薬によって着色することで定性・定量を行います。
アミノ酸は、種類ごとにカラムから溶離する時間が異なるため、その時間を測ることで種類を特定できます。さらに、アミノ酸は無色で可視光をほとんど吸収せず、そのままでは検出が困難であるため、着色によって可視化します。ポストカラム・ニンヒドリン法は、こうした特性を持つアミノ酸に特化した分析方法です。
近年は分子の重さを計測する質量分析などの新しい手法も普及していますが、日立ハイテクは一貫してポストカラム・ニンヒドリン法を採用しています。
理由の一つが、この手法が世界標準として確立されていること。各国の薬局方などの規制にも採用されており、過去のデータと比較する場合などは同一手法で分析されている必要があります。
もう一つの理由が、長年にわたるノウハウの蓄積。これにより安定した測定が可能になり、試薬や分析条件も標準化され、導入や運用がしやすい環境が整っています。
2017年に登場した最新機種「LA8080 AminoSAAYA(アミノサーヤ)」は、これまでの技術を継承しつつ、さらなる進化を遂げています。
小型化により従来機から設置面積を約30%縮小し、床上から卓上への設置が実現しました。また、人間工学に基づいた設計により、試薬の設置位置を目線の高さに配置し、腰をかがめずに作業ができるようにしました。
誰もが使いやすく、ユーザーフレンドリーに進化した背景を、日立ハイテクアナリシス・フィールドアプリケーションセンタ所属でAminoSAAYAの開発者である成松郁子が説明します。
「近年は、女性の分析者も増えています。中には妊娠中の方もいらっしゃり、より楽な姿勢で扱えるようにしたいという要請が高まっていました。また、研究室のスペースが限られているケースも多く、コンパクト化も歓迎されています」
さらに、重要なのは「再現性」の向上です。食品や医薬品の製造現場では、誰がいつ、どんな条件で測定しても同じ結果が得られることが求められます。同装置は、分析精度を向上させることで、高い再現性を実現しました。
日立ハイテクのアミノ酸分析計は、食品や飲料、医薬品の開発、生命科学の研究などさまざまな分野で活用されています。
食品分野では、製品開発や品質管理において重要な役割を果たしています。特に近年は、健康志向の高まりにより、アミノ酸の含有を訴求する商品も増え、その裏付けとなるデータの重要性が高まっています。
自治体による地産品のブランド化における活用も進んでいます。農産物や水産物の付加価値を高めるため、「特定のアミノ酸を豊富に含む」とPRするケースが増えています。これに伴い、分析を支える農業試験場や水産試験場への納入が増えています。
活用事例は国内にとどまりません。日立ハイテクのアミノ酸分析計は世界で約30%のシェアを占めており、現在では海外市場が主流となっています。さらに、アジアやアフリカを中心とした新興国では、人々の生命と健康を守る重要な役割を担っています。
これらの地域では、子どもの発育障がいや低体重、貧血といった健康課題があり、原因の多くがタンパク質不足です。その解決に向けて保健機関や研究機関が栄養改善プログラムに取り組んでおり、基礎データづくりにアミノ酸分析計が活用されています。
これはSDGsが掲げる「飢餓をゼロに」や「すべての人に健康と福祉を」にもつながる取り組みです。
成松は、日本と海外の印象について、こう話します。
「アミノ酸という言葉がこれほど社会に浸透し、人々に親しまれている国は、日本の他にはありません。100年以上前にアミノ酸を使った調味料が発売されるなど、日本がアミノ酸産業の発展をリードしてきた歴史があります。こうした背景とともに、日立ハイテクのアミノ酸分析計も進化を遂げてきました」
宮野は、こう話します。
「あるお客さまから『そもそもアミノ酸をどうやって計ればいいのか』という相談をいただき、前処理から分析までをトータルでサポートしたことがあります。装置の提供だけでなく、お客さまが抱える課題に寄り添い、解決に向けて伴走することがとても大切だと感じています」
食品と並んでアミノ酸分析計が多く使用されているのが、ヘルスケア分野です。例えば、患者の栄養補給を行う輸液(点滴)や注射剤にはアミノ酸が必ず含まれており、その製品開発や品質管理に使われてきました。
そして、近年特に需要が高まっているのが、ペプチド製剤です。ペプチドとはアミノ酸が数個から数十個つながった化合物で、これを有効成分として活用したのがペプチド製剤です。代表的なものとして糖尿病の治療に使われる「GLP-1受容体作動薬」、ガン領域でホルモンの動きを抑えるペプチド医薬などがあり、他には感染症分野でも期待を集めています。
2030年代前半にはペプチド製薬の市場規模が現在の約2倍になると予測されており、医薬品開発の中でも注目度の高い分野となっています。
ペプチド製剤の製造においては、ペプチドを構成するアミノ酸の種類や量を厳密に管理する必要があり、分析の重要性は一層高まります。他には、サプリメントや美容分野などでもアミノ酸やペプチドの需要が拡大しており、アミノ酸分析計の活躍の場はさらに広がっています。
加えて、AIやデータ解析技術との融合も進んでいます。分析データを活用したプロセス最適化や品質予測など、新たな価値創出が期待されています。今後は単なる分析装置にとどまらず、データを軸としたソリューションへと進化していく可能性があります。
日立ハイテクグループは日立グループサステナビリティ戦略PLEDGES*のもと、一定のプロセスを通じて選定した経営上の重要課題を「サステナビリティ注力領域」として定めています。
*PLEDGES:日立グループの持続的成長のためサステナビリティを経営戦略の中核に据えた「サステナブル経営」の深化をめざし、グループ全体で取り組んでいくサステナビリティ戦略。
アミノ酸分析計は「健康で安全、安心な暮らしへの貢献」と「科学と産業の持続的発展への貢献」に深く関係しています。
近年は、新たなタンパク源として「代替肉」が注目を集めています。これは植物性の原料や培養細胞を使った食材で、牛肉や豚肉よりも生産時の温室効果ガスを抑えることができます。その生産を支えるアミノ酸分析計は「持続可能な地球環境への貢献」との関係も深いといえます。
食やヘルスケアをはじめ、さまざまな分野でより一層の活用が期待されるアミノ酸。日立ハイテクのアミノ酸分析計はその一翼を担いながら「生命の元」を可視化し、人と社会のウェルビーイング向上に貢献していきます。