未来の新材料開発のカギ握るMI
リチウムイオン電池の需要拡大で生じる資源枯渇や調達不安を
MIで解決
データドリブン型社会を目指して多くの企業でDXが進められています。データを活用するのは経営改革だけではありません。脱炭素や省資源、低コストが求められる製品開発や材料開発も、企業の内外にある様々なデータを活用することで効率化が進められています。そこに用いられているのがMI(マテリアルズ・インフォマティクス)です。
脱炭素など地球環境対策に適応した材料開発が重要に
カーボンニュートラルへの貢献や安定した原料の調達、さらにコスト削減といった、素材産業を含む製造業の取り組むべき課題は多くあります。例えばプラスチックでは、CO₂排出量を削減するために、石油系原料に代わる新たな非石油系原料の開発が求められます。

また、EV(電気自動車)の動力源として一般的に搭載されているリチウムイオン電池も、課題はあります。電極材料の産出地が限られるため、安定供給を求めると新規の材料探索が必要です。純金属や合金、化学素材や化合物など、膨大に存在する物質の中から最適な材料を発見するには、探索・実験・評価などといった一連のプロセスに膨大な時間とコストがかかります。これをAI技術を活用し機械学習モデルを構築してスピーディな開発を行えるのがMIです。
MIはすでに様々な分野で静かに浸透し、活用されています。例えば半導体分野では、超微細化に対応した材料開発が進んでおり、プラスチック分野では、環境負荷の小さいバイオプラスチック開発やリサイクルプラスチックの最適利用法が研究されています。金属分野では、排ガス浄化に使用する貴金属の代替材料開発やレアアースフリーの高性能磁石開発が行われています。医薬品分野でも膨大な化学物質の配合調整やバイオ医薬、ゲノム医薬といった未知の有効成分開発にもMIが活用されています。このようにデータドリブンな開発が進んでいるため、データサイエンティストの活躍の場が広がっています。また、医薬品開発では、すでに多くのIT人材が活躍する専門組織を有する企業もあります。
MIのかなめは社内実験データやオープンデータの探索と活用
MIのメリットは、過去のデータを活用して最適な化合物や配合比率などを導き出せることです。導き出された配合比率や製造プロセス条件の精度を確認し絞り込んだ実験候補に対してのみ、検証実験を行えます。従来のように考えられる配合比や製造プロセスの組み合わせを膨大な時間をかけて何度も試作を繰り返す場合と比べて、MIを活用するとはるかに少ない実験回数と短い時間で新材料を開発できます。
MI活用に欠かせないのがデータです。過去からの実験結果や“経験と勘”に頼ってきたノウハウの部分も含めて、まずはデータを集めることが重要です。社内データだけでなく、特許や論文などのオープンデータの活用も有用です。収集したデータから不要なデータを除外し、必要なデータを整理・統合するなどのデータ整形を実施し、機械学習モデルを作り分析を行うのがMIの流れです。自社でのデータ整形が難しければ、MIソリューションを提供しているベンダーにサポートを依頼する方法も考えられます。
モデル構築・最適化により物性値を満たす材料開発までの工数を削減

MIで8割程度の実験を削減し材料開発を大幅短縮
日立ハイテクでは2021年から、日立製作所と共同でサービス提供している「材料開発ソリューション」を含むMI関連ソリューションの提供を開始しました。以来、100社以上かつ200事例以上の材料開発、生産性向上などのテーマに貢献してきた実績があります。
日立ハイテクのMI関連ソリューションでは、具体的に以下のような支援を実施しています。
- ① 実験データの収集
- ② データサイエンティストなど専門家のコンサルティングを通じた課題解決や分析支援
- ③ 過去の実験データの分析を通じて機械学習モデルの構築可能性などを検討
- ④ 機械学習モデルに基づき材料開発に対して有望な実験候補の導出とその推奨
- ⑤ 説明変数の寄与率やモデルの適用領域に基づく分析者の結果解釈の支援と、分析により得られた結果の可視化および実現可能性の探求
日立ハイテクが支援を提供するなかで、実際に実験回数を大幅に削減した事例が出てきています。膨大な組み合わせをひとつひとつ検証・分析する手間が省けたことで、実験回数を8~9割程度削減し開発期間を短縮した事例もあります。実験回数の削減は、企業に様々な効果を与えます。研究開発スタッフの労働時間の短縮による健康維持や、各種実験装置の長時間稼働によるCO₂排出量を削減が可能です。また、時代のニーズに合わせたタイムリーな製品開発によるブランド価値向上と、開発コストの最適化という大きなメリットもあります。
需要拡大するリチウムイオン電池の材料開発でもMI活用に期待
現在、MIの活用が進められている分野の一つに、リチウムイオン電池の開発があります。リチウムイオン電池は、モバイル機器などの用途で小型化やバッテリーとして性能向上や、データセンターなどの非常用電源として大型化のニーズに応えるため素早い開発が求められています。また、昨今特に注目を集めているのが、EVやPHV(プラグインハイブリッド車)など電動車向けのリチウムイオン電池開発です。

リチウムイオン電池は正極、負極、電解液、セパレータを主な構成材料とします。なかでも、正極の材料のうち一般的に活物質に使用されるのはコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムのいわゆる三元系化合物です。しかし生産地が一部の国に集中しており、需要が拡大し続けることで原料の供給不安が懸念されています。そのため以前から代替可能な電極材料の探索や開発が進められていますが、その決定打は見いだせていません。
その代わりに、性能を極力阻害しない形での構成比率の変更や、他の物質を混ぜるということも検討されています。最終的に電極材料として有望かどうかは、実際に実験してデータを分析する必要があります。しかし、検討する物質が多いと時間がかかるため、絞り込む手立てが必要です。
MIでは過去の実験データを元に、機械学習モデルを構築し、求める物性値を満たす条件の候補を確認し、考察を行います。求める物性値を満たさない組み合わせを次の実験候補から除外し、より精度の高そうな配合比率や製造条件に絞り込んで、次の一手を考えることができます。従来のようなすべての組み合わせを総当たりする実験をしないで済むのです。
機械学習モデルを構築するときに、説明変数と目的変数を定めることがあります。説明変数は、配合比や製造条件などの変数、目的変数は、実験で得られる物性値(導電性や耐久性など)を設定します。機械学習を構築することで、説明変数の各パラメータが目的変数にどれくらい寄与しているかなどを可視化することもできます。
MIから導出された結果から実証実験を行い、説明変数や目的変数を増やして再度MIを活用することで、導き出される結果の精度は向上します。何度か繰り返すことで、研究者が求める最適解にたどり着けます。
AIによる画像解析技術を用いて検査・分析も効率化
実験で得られた物質の画像解析も人手に頼らず、AI技術で分析・評価を行い、自動化することが可能になりました。日立ハイテクと国立大学法人大分大学は10月に開催された「日本化学会秋季事業第14回CSJ化学フェスタ2024」で、AIを活用した固体高分子燃料電池の長寿命化について共同発表を行いました。固体高分子燃料電池用電極触媒(PEFC)の劣化メカニズムの解明と長寿命化が目的です。
PEFCは、高分子材料を電解質として使用し、2つの電極で水素と酸素を化学反応させて電気(エネルギー)を得る燃料電池の一種です。車両の駆動源や家庭用電源、携帯用電子機器など日常生活において幅広い用途で使用されています。
本共同発表の技術は、大分大学独自のIL-FE-SEM技術(同一箇所電界放出型走査電子顕微鏡技術)と日立ハイテクのAIによる画像解析技術を用いて分析しました。
電子顕微鏡事業を手がける日立ハイテクは、観察画像の解析に関する豊富な知見とMIなどの技術を生かし、AIと電子顕微鏡画像の解析技術を組み合わせて研究をご支援しています。大分大学は、触媒であるプラチナ粒子の有効表面積が減少する劣化メカニズムを解明するために、IL-FE-SEM技術による観察画像から目視で一つひとつの粒子を確認しそれぞれにナンバリングを行ってから分析を行うため、作業量の多さが大きな負荷となっていました。今回、日立ハイテクのAIによる画像解析技術を用いて、撮影した画像から粒子の検出を実施しました。粒子の消滅・合体・発生の状態変化を追跡して粒子の数を自動で集計することを実現しています。
このように日立ハイテクのもつ電子顕微鏡の技術や計測技術などをMIに適応していくことで、MIによる材料開発の効率化が可能になります。
MIを用いることで、電池分野においても、より低コストでスピーディな材料開発の実現が可能になってきています。日立ハイテクでは、電池を含む様々な分野でのMIを用いたご支援の実績があり、研究開発以降の工程においても高度化・効率化させるソリューションを多岐に渡ってご用意しております。お困りごとがございましたら、お気軽にお問い合わせください。