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シリコンフォトニクスとは~高速伝送、省電力の光集積回路が量産を変える

シリコンフォトニクスとは、シリコンのマイクロチップ上に光と電子の集積回路を製作する技術で、2000年代から、大手企業の研究機関などで研究開発が進められてきました。近年では通信技術の発達により、データの高速かつ高効率での送受信への要求が高まり、シリコンフォトニクスへの注目が集まっています。そして、最近の研究でいよいよ実用化フェーズへと進展、サービス提供・製品製造を行う企業も現れ始めました。 本記事では、光集積回路をデザイン・提案し、幅広いファウンドリとのネットワークを活かしたサービス提供を行うVLC Photonics社協力のもと、シリコンフォトニクスの基礎や事例などの情報をご紹介いたします。

シリコンフォトニクスとは、シリコン基板上に受光器などの素子を集積する技術のこと

シリコンフォトニクスとは、シリコン基板上に、光導波路、光スイッチ、光変調器、受光器などの素子を集積する技術です。 近年、高度情報通信社会が進展し情報流通量が増大するなかで、それを支える情報通信技術には、より高速な処理と、膨大な経済的負担、消費エネルギー量への対応が求められるようになりました。 シリコンフォトニクスは、その経済性、高集積密度、エネルギー効率といった特徴から注目を集めており、近年では通信やセンサ機器への活用、さらにはIoTや5Gの発展と普及に向けた応用が期待されています。

シリコンフォトニクス3つの特徴

  1. 光通信の強みである高速伝送
  2. デバイスの小型化、低消費電力化による環境的負荷の削減
  3. シリコンCMOS集積回路の製造インフラを活用し、比較的安価に製造することが可能

シリコンフォトニクスなどの光集積回路と光学ユニットとの違い

同じ光学技術でも、光集積回路の違いはどこにあるのでしょうか。光学素子を複数組み合わせた光学ユニットとの比較から考えてみましょう。

光集積回路は光学ユニットよりも小型化できる

個々の光学素子を筐体に固定、配置しアセンブルする光学ユニットと比べ、光集積回路ではワンチップに集積化することができるため小型化が可能。

光集積回路は光学ユニットよりも微小な光エネルギーで動作できる

筐体上に配置された光学素子間で動作させる光学ユニットと比べ、光集積回路は集積化された微小光学素子を組み合わせた構造のため微小な光エネルギーで動作。さらにフォトニック結晶構造による強い光閉じ込め効果を利用しているため、素子の小型化や必要となる光エネルギーの低減が可能。

シリコンフォトニクスの研究開発・実用化に関する3つの事例

今日、シリコンフォトニクスの研究開発や、実用化に向けた取り組みは世界中で行われています。

1. シリコンフォトニクスで変調器を1000分の1に小型化/インテル

2020年12月に開催された「Intel Labs Day 2020」にて、注力する研究テーマとしてシリコンフォトニクスをあげ、従来のコンポーネントサイズから1000分の1にまで小型化した変調器を紹介。

2. シリコンフォトニクスを用いた光送受信モジュールを開発/NTT(日本電信電話株式会社)

ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクスベースの技術を導入するオールフォトニクス・ネットワークの実現に向けシリコンフォトニクスを用いた光送受信モジュールを開発。

3. チップ製造ファウンドリとのネットワークを構築し柔軟なソリューションを提案/VLC Photonics

スペイン・バレンシアにあるVLC Photonics(以下、VLC社)は、シリコンフォトニクスを含む光集積回路の開発をサポートしており、光通信や自動走行車用のLiDAR(Light Detection and Ranging、光を用いたリモートセンシング技術)、ファイバーセンサーなどに用いられるシリコンフォトニクスなどの設計を手掛ける。ファブレス企業として、チップの製造を行うファウンドリとの幅広いネットワークを通じ、製品や用途に応じた最適なソリューションを提案。

シリコンフォトニクスで光集積回路化を導入するための6つのステップ

シリコンフォトニクスは現在、光通信やセンシング、バイオフォトニクスなどの領域での活用が注目されていますが、実際のシリコンフォトニクスによる光集積回路の設計、製造の工程を見てみましょう。

  1. 適合性調査 用途や事業に対する光集積回路化の適合性を調査・検討
  2. エンジニアリングスタディ 光学システムの仕様から、光集積回路に求められる仕様を検討
  3. 光集積回路設計 光学部品の構成要素と回路レイアウトを設計
  4. 製造 設計した光集積回路をファウンドリで製造
  5. 評価・テスト 完成した光集積回路の特性評価、性能が要求を満たすかのテストを実施。その後、周辺部材などと合わせて組み立てた状態でシステムレベルのテスト
  6. パッケージング 光集積回路とその他部材を合わせてパッケージング

光集積回路の設計・製造のフロー

光集積回路化までは、設計やテスト、製造の各段階において専門的な知識やノウハウが求められますが、VLC社では、この試作開発から量産化まで、一貫したサポートが可能とのことです。

通信、自動車、医療などの分野での応用が期待されるシリコンフォトニクス

シリコンフォトニクスは、通信に限らずさまざまな分野への導入が期待されています。 日本でも、自動車分野では自動運転に欠かせないLiDARへのシリコンフォトニクスの応用について実用化に向けた研究が進んでいます。 また、量子通信関連では、シリコンフォトニクスや光集積回路を活用した実験が大学や研究機関にて行われ、研究が進められています。本記事の執筆にご協力頂いたVLC社でも、研究段階から製造段階に至るまで、実用化に向けたサポートが可能とのことです。 さらに昨今さらに注目が高まるバイオフォトニクスの分野においても、光集積回路技術の応用が期待されます。VLC社では、PIX4lifeという、欧州のライフサイエンス分野における光集積回路技術導入のためのオープンプラットフォームに参画、医療分野への光集積回路化への取り組みにも乗り出しています。 今後ますますの発展と応用の期待されるシリコンフォトニクス。 光集積回路化に関心のある方、確かな知識とノウハウを持つパートナーをお探しの方はVLC社に相談してみてはいかがでしょうか。

本記事の執筆にご協力いただいたVLC社ご紹介

ビジネス面、技術面問わず顧客の光集積回路化をトータルで支援

スペイン、バレンシア工科大学からスピンアウトしたVLC社は、シリコンフォトニクスをはじめとする光集積回路のデザインを行うファブレス企業です。2011年、同大学の教授のJose Capmany氏、准教授のPasqual Muñoz氏らが創業、学術的にも高い知識を持つメンバーが所属し、顧客企業の光集積回路化を支援しています。

VLC社メンバー
VLC社メンバー

技術面だけでなく、ビジネスサイドからもサポート

VLC社は、各業界動向や規格といった情報を把握しており、求められるスペックと光集積回路化によるコストの評価が可能です。さらにR&Dから量産段階でのコスト見積りが可能であり、顧客のビジネスと技術の両面から評価・検討を行うことができます。

シリコンだけでなくほかの化合物半導体を使った光集積回路の設計も可能

VLC社では、シリコンフォトニクスに限らずInP(インジウムリン)やGaAs(ガリウムヒ素)などの他の化合物半導体を用いた設計も得意としています。 今後、光集積化技術はあらゆる用途で適用されることが期待されますが、用途によってはシリコンでは要件を満たすことができない場面も考えられます。通常、光集積回路の設計を行う他の企業では、シリコンであればシリコン、と使用する材料を特定して設計を行うことが多いそうですが、所属するメンバーが、シリコンに限らず様々な半導体化合物についての研究実績と深い知識を持つVLC社は、顧客の要望に応える幅広い解決策の提示が可能です。

光集積回路設計イメージ(提供:VLC社)
光集積回路設計イメージ(提供:VLC社)

光集積回路製作後のテストも対応

他のファブレス企業では、設計のみ行うところが多いと言われていますが、VLC社では設計、製作後の評価にも対応しています。 製作後の光集積回路の特性を検査し、それが要求を満たしていない場合にどのような改善を行うべきかという提案も行い、設計、製造、パッケージングまで試作を一貫してサポートしています。そのために、社内で製作された光集積回路のチップを駆動させるために必要な半導体や光プローブなどの周辺部材およびテスト装置を用意しており、顧客からテストの依頼があればすぐに対応ができる体制も整えています。 さらに、VLC社では光集積回路を個片化せず、ウェハレベルでの検査を実現する検査装置も取り揃えており、検査時間の大幅な短縮を実現しています。 シリコンフォトニクスのさらなる実用化、量産化に向けた課題として、設計の際のシミュレーションと実際にパッケージングを行った際のパフォーマンスに大きなギャップがあるということが挙げられます。VLC社では、自社での特性評価のノウハウや結果のデータを蓄積することで、この課題の解決に向けての取り組みも強化しています。

テストアセンブリソリューションイメージ(提供:VLC社)
テストアセンブリソリューションイメージ(提供:VLC社)

幅広いファウンドリとのネットワーク

VLC社は、さまざまなシリコン系、化合物の光集積回路の設計を手掛けると同時に、その設計の基盤材料に応じたさまざまな得意領域を持つファウンドリとのネットワークも強みです。また、製作した光集積回路のパッケージングにおいても、多様なパッケージング企業と提携をしているため、顧客の要望に応じたパッケージングサービスも提供可能です。 光集積回路は設計ができたとしても、実際に製造できるのか、歩留まりはどのくらいなのか、といった製造段階での課題についても検討が必要です。VLC社では、これまでファウンドリと協働するのなかで、製品の特性やファウンドリの特徴を加味し、より歩留まりの高い設計をするといったノウハウが蓄積されています。また、これらのノウハウから、顧客が希望する設計に最適なファウンドリの選定、提案を行うことも可能です。

国際的にも評価される技術力

VLC社の技術力は、国際的にも高く評価されています。2019年、光集積回路のデザインで最も優れた活躍をした企業に贈られる「Best Achievement In PIC Development」を受賞、さらに同年光集積回路に限らず、光通信分野での活躍を認められ「Lightwave innovation award」を受賞しました。 また、欧州で行われている研究開発プロジェクトにも多数参加しています。たとえば「CiViQ」という量子通信の欧州でのプラットフォームを構築する国際プロジェクトでは、高度なセキュリティの通信モジュール内部の光集積回路のデザインで参画しました。