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日立ハイテク
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水素バリューチェーン構築と協創の力

脱炭素社会の実現に向けて、水素エネルギーが世界的に注目を集めています。日立ハイテクでは燃料電池自動車(FCV)向け部材の取り扱いから始まり、水電解装置分野に事業領域を拡大し、さらにCO2還元技術への展開も計画しています。
今後さらなる成長が予測される水素市場での日立ハイテクの取り組みについて、マーケティング戦略統括本部の山本朱音、産業・社会インフラ事業統括本部の朱 沁怡、日立ハイテク中国 機能材料部の辛 碧韵が解説します。
日立ハイテク マーケティング戦略統括本部
山本 朱音
日立ハイテク 産業・社会インフラ事業統括本部
朱 沁怡
日立ハイテク中国 機能材料部
辛 碧韵

商事事業の新たな柱として、水素事業を展開

日立ハイテクでは現在、水素バリューチェーンの構築に向けた事業開発を進めています。水素バリューチェーンは「つくる」「ためる・はこぶ」「つかう」というサイクルで構成されますが、私たちがいま注力しているのは、水電解装置を使って水素を「つくる」領域と、燃料電池自動車(FCV)や燃料電池などで水素を「つかう」領域です。

社内で4つある事業統括本部のうち、3つはメーカー部門としてモノづくりを行っていますが、もう1つの産業・社会インフラ事業統括本部は商社機能を担っており、水素関連は商社事業としての位置付けになります。水素領域でのお客さまの困りごとに対しては、日立グループ全体の商材やアセットを活用し、One Hitachiとしてトータルソリューションの提案ができることが私たちの一番の強みです。

日立ハイテクの水素事業は、FCVメーカー向けに、燃料電池に使用する「セパレータ」という金属製の薄い板を取り扱う事業から始まりました。燃料電池とは、水素と酸素の化学反応によって電気を発生させる装置です。セパレータ、膜電極接合体(MEA)、ガス拡散層(GDL)、ガスケットなど複数の部材が1枚のセルを構成し、セルが300枚程度積層されて燃料電池となります。一方、水電解装置は水の電気分解により水素と酸素を生成する装置であり、燃料電池とは逆反応の原理で動作します。セル構造(セパレータ、ガスケットなど)には共通点があるものの、MEA やコーティング、材料に求められる特性は大きく異なります。そのため日立ハイテクでは、燃料電池向けに培った部材の知見を基盤に水電解メーカー向けにも応用展開することで、事業領域を拡大しています。

中国のリードで拡大する、世界の水素市場

現在、さまざまな国が2050年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げており、その一つの道として水素の活用が大いに期待されています。具体的には、例えばこれまで大量にCO2を排出していた鉄鋼プラントや化学プラントでの工程を、水素に代替していくことが重要視されています。さらにアンモニアなどを製造する化学プラントでは大量の水素が必要になることから、この水素を輸入に頼らず、水電解装置で国内生産しようという動きも広がっています※1。モビリティ分野では、長距離を走るトラックやバス、船舶、航空機などは、リチウムイオンバッテリー(LIB)よりも1回の充填で長く走れる燃料電池のほうが向いています※2。2050年には世界の水素需要が2022年比で5倍に増加すると予測されており、水素社会の実現に向けた支援策や支援制度も進んでいます※1

世界最大の水素市場の一つが中国です。中国では2018年からFCV分野に多くのメーカーが参入し、サプライチェーンが構築され、関連企業数は現在2,000社を超える規模に成長して市場をリードしています。国土が広いため太陽光パネルの設置や風力発電などの再生可能エネルギーが手に入りやすく、これらの電力を活用して水電解によるグリーン水素の大量生産が可能になります。さらに再エネ設備・グリーン水素製造設備に対する補助金制度も充実していることがその主な理由です※3※4

中国が規模の面で水素市場をリードするのに対して、日本は技術的な面でリードしています。国内のFCVメーカーや部材メーカーの技術は注目されており、私たち日立ハイテクもそれらのパートナーと連携しながら、燃料電池部材の拡販や市場拡大に注力しています。現在は主に中国市場でマーケティングや事業開発を進めていますが、今後は北米や欧州、インドなど他アジア地域への展開も視野に入れています。

精密金型メーカーとの協業により、事業基盤を構築

燃料電池や水電解装置は、各部材の品質が性能や寿命に直結します。例えばセパレータの流路形状や高さのばらつき、セパレータ自体に反りがある場合、水素、酸素ガスの流れに影響が出ます。シミュレーション通りのガスの流れが実現できないと電池としての性能が低下し目標の出力が得られません。また、セパレータの反りは後工程のコーティング処理やガスケットの付与で不具合を発生させるなどセルやスタック製造全体に影響を及ぼします。そのため、複数の技術要素を組み合わせた、一貫した品質保証が最大の課題です。当社は各サプライヤーとの責任範囲を明確にしながら、検査条件の擦り合わせや情報共有を密に行い、品質をともに高める協働体制を築いています。

2018年度から、精密金型メーカーの株式会社ニシムラ(以降、ニシムラ)(愛知県豊田市)との協業を開始しました。ニシムラは2000年頃から水素事業に参入し、燃料電池用の金属セパレータを製造。その高い技術力が評価され、国内外のメーカーからのオファーが相次いでいた企業です。素材事業で取引のあったニシムラの水素事業領域での営業フロントとしてニシムラとの協業がスタートしました。

ニシムラの高い技術力は、プレス加工の限界に挑戦するような要求にも応えられます。例えば「ガスや冷却水が流れる流路の溝を高くしたい」「流路間の溝の間隔を狭くしたい」といった要求に対しても、高精度な金型設計と加工技術で対応が可能です。また通常は、プレスして金属板を延ばすと反ってしまいますが、ニシムラが製作した板は全体的な反り量を2mm以下に抑えることができます。こうした技術力が、セル全体の性能と品質を支える基盤となっています。

現在、当社はニシムラのグローバルフロントとして営業支援を行い、連携して開発を進めながら、国内外の燃料電池メーカーや水電解装置メーカーに高品質の金属セパレータを安定供給する体制を構築しています。

ドメインナレッジを生かした事業拡大

これまでのセパレータの事業を通じて、当社の中国拠点には水素分野のドメインナレッジ(専門知識)が蓄積されました。また、中国の燃料電池メーカー数十社との接点を持つ中で、「セパレータ以外の部材も探してほしい」「良い代替メーカーを紹介してほしい」といった具体的な相談を受けるようになりました。そうした幅広い対話から新たなプロジェクトが生まれ、さらなる当社の強みになってきています。2025年からは新たに、触媒や交換膜などの他部材の取り扱いも開始しました。

持続可能な社会への貢献をめざして

当社ではセパレータや触媒の取り扱いに加えて、水電解装置向けの電解膜技術も支援しています。海外メーカーと連携し、CO2をエチレンやメタノールなどの有用な物質に変換する研究も進めています。クリーンエネルギーの循環型社会実現には、電気、水素、カーボンニュートラルの3つのサイクルが連動することが重要です。水電解技術を水素の製造だけでなく、CO2削減やカーボンリサイクルなどの領域にも応用することで、環境課題の解決に貢献していきます。

私たちの強みは、日立グループ全体のアセットを活用したOne Hitachiとしてのトータルソリューション提案力にあります。商事事業としてお客さまとの接点を自ら開拓し、ドメインナレッジを蓄積することで、単なる部材供給を超えた価値提供が可能になります。現在の電池関連事業に加えて水素バリューチェーンの構築に取り組むことで、環境・エネルギー領域における事業間シナジーを創出し、さまざまな領域での事業展開が期待できると考えています。

水素領域での事業拡大は、脱炭素化に向けた水素社会の実現を後押しすることにつながります。私たちは企業としての成長と、社会の脱炭素化という二つの価値を両立させたいと考えています。水素分野で培ったドメインナレッジとネットワークを活用し、国内外のパートナーとともに、持続可能な社会の実現に取り組んでいきます。

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