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田中SEM研究所通信 低真空走査電顕観察「虎の巻2」

大岡信氏の「折々のうた」の中で、「鶏頭に秋の哀れはなかりけり」(高桑蘭更)の句を見つけて、「うまいもんだ」と感心した。鶏頭自体は秋そのものなのだが、確かに、あのボコボコした形に哀れの語は似合わない。対比の妙というのか、意表をついた表現というのか、「うまい」と思った。
こんなことを書いていると、そんなことどうでもよい、早く本論に入れといわれるかもしれない。
しかし、あわててはいけない。自然を鑑賞し、美を求める心こそが、いいSEM写真を撮る心にも通じるのである。
ただただブラウン管上に現れた像をやみくもに撮るのなら誰にでも出来るだろう。しかし、見る人に感動を与え、画面の奥に何かしら物語性を秘めた写真をとるには、その人の豊かな感性が必要になってくる。だから、ただ一枚のSEM写真を撮るにも、技術的な知識だけでなく、芸術、文学等々、広い教養を身に付けることが大事だと思うからである。

作動距離を短く取ろう

LVP-SEMで像を出すにはコンデンサーレンズを開いて試料電流を増す必要のあることを述べたが、もう1つチェックすべき点として作動距離(レンズ下面と試料上端との距離)がある。

通常のSEMの場合は、試料室のなかが高真空なので、作動距離が多少長くなっても、像がノイズっぽくなることはない。しかし、LVP-SEMの場合は試料室内にガス分子が多いから、作動距離が長いと、それだけビーム電子は走行中に散乱され、試料電流は減衰してくる。
また、反射電子検出器は対物レンズの直下にあるから、作動距離が長くなれば、試料と検出器の距離も長くなり、試料から射出された反射電子が悪い真空中を長く走ることになって、像のシグナル/ノイズ比は劣化し、像が悪くなってくる。

通常のSEM観察の場合は、特別に高分解能像を狙う時以外、作動距離は15mmくらいを使用することが多い。これは、試料が装置の下面に衝突するのを避ける意味でも、妥当な距離であり、使用説明書にも大体このあたりの距離が標準としてあげられている。
確かに通常のSEMの場合はこれでなんの差し障りはない、むしろ倍率を特別に低くしたい場合、あるいは焦点深度を深くしたい場合には、作動距離を長く取った方が有利でさえある。

しかし、LVP-SEMの時には、作動距離の長短は像の良し悪し(特に観察CRT像の良し悪し)に直接関係してくる。したがって、作動距離は出来るだけ短くした方が有利である。
ではどこまで短くすれはよいのかという事であるが、装置の使用説明書にはZ軸の上限が記載されてあり、大体、10mmとなっている。だから、ここまで挙げて使うと良い。
もし、試料の下面が検出器に触りはしないかと心配があれば、付属の治具(ゲート)を試料室の入り口につけて、触らないことを確かめながら挿入するとよい。

以上、作動距離を10mm位とし、コンデンサーを前回の記述のように開けば、たとえ試料室の真空度が270Paであっても、十分良い像を得ることが出来るであろう。
なお、もし読者が、細胞内構造などの研究において、特に高倍率の像を望むときには、さらに作動距離を短縮するといい結果を得る事が出来る。
しかし、その方法は、充分に装置に馴れてからでないと危険であるので、ここでは述べない。
いずれまた次の機会に述べることにしよう。

実習:馬鈴薯(男爵)のデンプン

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図1:馬鈴薯(男爵)のデンプン
撮影条件:130Pa、-20℃、WD=10mm
コンデンサー目盛り=150、400倍

馬鈴薯は何時でも、簡単に手に入る便利な材料である。デンプン粒の像は美しいし、扱い易い。
今回はクールステージを使用している。使用しないと、水分の蒸発によって細胞内のデンプン集塊が下に沈下してくる。
より自然の姿を得るために使用した。なお、イモ類は自然に氷晶防護性を持っているので、クールステージ使用に際しDMSOの前処理をしても、しなくてもいい像が得られる。


試料作製法:塊状の馬鈴薯から、平行板状の小片をカミソリの刃で切り出し、その切断面を観察する。試料台に少量のヤマト糊で固定する。

Tanaka SEM Inst.

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