フリーズフラクチャーやフリーズエッチング法は構造細胞生物学的に超薄切片法とは違う重要な構造情報をもたらすにもかかわらず、普及しなかったのは技術取得に時間がかかること以外に、重大な欠点があった。
それは物質を同定できないと言うことである。
前述のようにフリーズフラクチャー法では膜蛋白質を膜内粒子という形で観察できるし、また、フリーズエッチング法では細胞骨格を立体的に観察できる。
蒸着による分解能低下もコントラストが増加するのでそれほど大きな問題ではない。ただ、観察対象の膜内粒子あるいは線維の構成成分がわからないと言うのでは、たとえそれらが特殊な分布や立体構築をしていたとしても科学的には意味がない。
そこで構成成分を同定すべく考え出されたのが、免疫フリーズレプリカである。
しかし、後述するようにフリーズフラクチャー法とフリーズエッチング法では標識法が全く違う。これは白金蒸着で覆われる場所が異なることによる。
フリーズエッチング法では固定、標識後に凍結、蒸着してレプリカを採集するが、フリーズフラクチャー法ではこれが出来ない。すなわち、フリーズフラクチャーでは細胞骨格や膜の細胞質側表面が露出されないため、
標識金コロイドを蒸着によりしっかりと構造に固定できない。そのため、蒸着後に標識しなければならないが、蒸着後通常のレプリカ採集のように強い洗剤で洗うと脂質も膜蛋白も溶解するため、抗原性を維持したままそこに残すのは難しい。
このような困難を乗り越え内在性膜蛋白質を標識できるようになったのは藤本和博士の貢献によるものである。
フリーズフラクチャーにより膜が疎水性面に沿って割断され、
脂質二重膜の疎水性面が露出されそこが白金/カーボンにより蒸着させた場合、その膜の半葉はかなり安定で表面活性剤などでは溶けないと彼は考えた。
そこで、イムノブロットで用いられるSDS(sodium dodecyl sulfate)という表面活性剤をブリーチなどの漂白剤のかわりに用いてレプリカの洗浄をすることを考えた。つまり、SDSは洗浄力が弱いが、標本を化学固定することなく急速凍結し、
型のごとくフリーズフラクチャーレプリカ作製をおこない、そのレプリカをSDSで洗浄し回収すれば膜の半葉と膜蛋白はintactのままレプリカに付着し、残存していると考察した。
そしてこの蛋白が残存しているレプリカを免疫抗体で標識すれば膜内粒子が如何なる蛋白質から構成されているかを明らかにできる。
まことに素晴らしい発見と思われる。ただこの方法では膜内在性蛋白質の細胞質側表面に露出している部分を認識する抗体を使用しなければならない(図1参照)。
実際の手順:
この方法をより詳しく知りたい方は開発者の以下のオリジナル文献を参照されたい。