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技術機関誌 SI NEWS日立ハイテクノロジーズ

岐阜大学 工学部 教授 竹内 豊英(工学博士)

岐阜大学 工学部
教授
竹内 豊英 (工学博士)

はじめに

筆者らはC30などの疎水性固定相に物理的にコーティングしたポリエチレングリコールによって疎水性陰イオン(硝酸イオン、ヨウ化物イオンおよびチオシアン酸イオン)の保持を観察した1)。溶離液の濃度を増加させると試料陰イオンの保持が増大することから、高濃度の溶離液を用いることによって海水中のヨウ化物イオンおよびチオシアン酸イオンの定量に成功している2)。陰イオンはポリエチレングリコール相への分配により保持されていると推定している。ここでは固定相の安定性を改善するためにポリオキシエチレン基の化学結合型固定相の開発を試みた。
新しい固定相の開発による新規な機構に基づく分離の発現を期待して本研究を行った。C18を代表とする従来の固定相と比較して固定相にエーテル性酸素原子が複数含まれることから、その酸素原子の効果を期待することができる。

固定相の調製

アミノプロピルシリカ(0.2 g)およびメチルポリエチレングリコールN-ヒドロキシコハク酸(NHS)イミドエステル試薬(0.1 g)をリン酸緩衝溶液(pH7.0)に加えて室温で30分間放置した後、水、メタノールで洗浄後フューズドシリカキャピラリーに充填した。期待される反応スキームを図1に示す3)。反応に用いるNHSイミドエステル試薬は高価なので少量の固定相でカラムの調製が可能なキャピラリーLCは有利である。
環状ポリオキシエチレンであるクラウンエーテルの化学結合型固定相は下記のように調製した。シリカゲル(0.2 g)にグリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(0.2 mL)および乾燥トルエン(1.2 mL)を加え110°Cで20時間反応させグリシジル基を導入後、2-アミノメチル18-クラウン-6-エーテル(60 mg)および乾燥トルエンを加えて90°Cで18時間反応後、メタノールおよび水で洗浄した。残存グリシジル基を開環する目的で10 mM硫酸の20%アセトニトリル水溶液を加えて40°Cで4時間反応させた後、フューズドシリカキャピラリーに充填した。期待される反応スキームを図2に示す4)

ポリオキシエチレン固定相の調製
図1 ポリオキシエチレン固定相の調製

クラウンエーテル固定相の調製
図2 クラウンエーテル固定相の調製

結果と考察

ポリオキシエチレン基を結合させた固定相によって、溶離液の濃度が高くなると保持が減少したことおよび間接吸収検出が可能なことより陰イオンがイオン交換モードで分離できることがわかった5)。オキシエチレンユニット数が2の固定相においてもイオン交換モードで陰イオンが分離できたことより、溶離液中の陽イオンが複数のポリオキシエチレン基に配位して陰イオン交換サイトとして働いていることが推定された。分離例を図3に示す3)。亜硝酸イオンと臭化物イオンの分離ができなかったが、溶出順は通常のイオン交換モードと同じであった。唾液中の硝酸イオン、ヨウ化物イオンおよびチオシアン酸イオンの定量が可能であった。また、溶離液として高濃度(70%)のアセトニトリルを用いると、ポリオキシエチレン固定相はHILICモードで作用することがわかった3)。さらに、溶離液にドデシル硫酸ナトリウムを加えると、ナトリウムイオンがポリオキシエチレン基に配位し、ドデシル硫酸基が対イオンとして結合するため、固定相の疎水性が増加し、逆相系分離が達成できることがわかった3)。以上のようにポリオキシエチレン固定相は溶離液を選択することによって分離モードを選択できることがわかった。
一方、18-クラウン-6-エーテルを結合した固定相においても、クラウンエーテルに溶離液中の陽イオンが錯形成され、トラップされた陽イオンが陰イオン交換基として作用することが考えられた4)。この場合、溶離液中の陽イオンの種類によって保持の大きさが異なり、クラウンエーテルと安定な錯体を形成する陽イオンほど大きな保持を与える傾向があった。

ポリオキシエチレン固定相による陰イオンの分離
図3 ポリオキシエチレン固定相による陰イオンの分離

今後の期待について

以上のように、開発したポリオキシエチレン固定相はイオン交換モードにより無機陰イオンの分離定量に、また、HILICモードによって極性化合物の分離に応用できるものと期待される。

参考文献

1)
L. Rong and T. Takeuchi, J. Chromatogr. A, 1042, 131-135 (2004).
2)
L. Rong, L. W. Lim and T. Takeuchi, Chromatographia, 61, 371-374 (2005).
3)
T. Takeuchi and L.W. Lim, Anal. Sci., 26, 937-941 (2010).
4)
T. Takeuchi, K. Tokunaga and L.W. Lim, Anal. Sci., 29, 423-427 (2013).
5)
T. Takeuchi and L.W. Lim, Anal. Bioanal. Chem., 393, 1267-1272 (2009).

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