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技術機関誌 SI NEWS日立ハイテクノロジーズ

構造と機能

Structures and functions

一般財団法人 ファインセラミックスセンター 執行理事 ナノ構造研究所副所長 平山 司 博士(工学)

一般財団法人 ファインセラミックスセンター
執行理事 ナノ構造研究所副所長
平山 司 博士(工学)

元素の周期表に表されているとおり、地球上にはわずか100種類余りの元素しかない。しかし、その100種類余りの元素の組み合わせや結晶構造の違いにより、星の数ほどの種類の物質ができる。その中で、有用な機能を持ち安全で安価な物質が工業材料として使用される。そして、より優れた「機能」を持つ工業材料を開発するために「構造」を積極的にコントロールする研究開発が盛んに行われている。

構造をコントロールするためには、まず構造を「観る」必要がある。構造を調べる手法はたくさんあるが、顕微鏡は結果を最も直感的に理解しやすい便利な道具である。原子レベルで構造を「観る」ためには透過電子顕微鏡がよく使われる。透過電子顕微鏡が結晶構造だけでなく材料の機能を支配する結晶欠陥の解析に非常に有効であることが認識されて久しいが、近年の収差補正技術の実用化によってその分解能は一気に0.1 nmを割るレベルに達し、材料の構造評価にはなくてはならないものとなっている。また、透過電子顕微鏡では試料は真空中に置かれるというかつての常識を破り、ガス中あるいは液体中で観察ができるような環境制御型電子顕微鏡もますます進化している。

一方、「機能」には、機械的機能、生物学的機能、電磁気的機能などたくさんの機能があるが、たとえば電磁気的機能を「観る」手法として、日立製作所基礎研究所にいらっしゃった故外村彰氏が開発された電子線ホログラフィーがある。電子線ホログラフィーを用いると、材料のミクロン~ナノメートル領域の磁性体磁区構造や半導体内あるいはイオン伝導体内の電位分布などを直接観察できるため、微小領域の磁気的または電気的機能の直接観察手法として活用することができる。

材料の構造と機能を「観た」ら、次にそれらの関係を調べなくてはならない。ある材料の中に特徴的な構造と優れた(あるいは劣った)機能が観られたとしても、実は両者に直接的関係が無い場合もある。観察結果が真実であったとしても、不十分な考察によって間違った結論や開発指針が示されれば、材料やデバイスの開発担当者はたまったものではない。

構造と機能の間の関係を正しく理解する最も確かな方法は、最近の第一原理計算等の理論計算の活用である。これは、量子力学の基本原理(シュレディンガー方程式)だけを使って、様々な物質の特性を理論的に計算するもので、最近では、結晶の相転移温度、強誘電体の特性、イオン伝導体のイオン伝導率などをかなり正確に示すことができるようになってきている。さらに、計算によって新しい材料の設計指針を示すことができた例も報告され、新材料の開発創成にはなくてはならぬ分野に成長しつつある。

筆者の所属する一般財団法人ファインセラミックスセンターでは、ちょうど10年前に以上記述したような研究分野の将来性に関する議論を行い、その結果、電子顕微鏡解析と理論計算を研究の二本柱とするナノ構造研究所を設立した。そして、自分たちが研究を行うだけでなく、この研究手法と研究設備を企業の研究開発にも活用していただくために、企業からの出向者を受け入れ、企業の業務をファインセラミックスセンターの設備を使って実施して頂く「オープンラボ制度」を作り、企業の皆様との共同研究実施体制を整備した。お陰様で、多くの企業の方々との共同研究が成立し、学会発表や学術論文だけでなく、新聞記事やテレビ放送になる結果にも結びつき、今日に至っている。企業の利益に直結する製品開発や不良解析に貢献する例も出始めた。

研究者である限り、自らの思考と決意によって学問や技術の地平を切り開くことを目指すことは当然であるが、企業の人々からの要請は、「世の中は何を求めているのか」、「何をすれば社会的価値があるのか」を学び理解することにものすごく役立つ。天才であれば、自分の考えだけで突き進めばいい結果が得られるかもしれないが、私のような凡人は、自ら考えることと他の人から要請されることの両方を考えてバランスを取ると最大の結果が得られるように思う。まさに孔子が説いた「学而不思則罔、思而不学則殆(学びて思わざれば則ち罔(くら)し、思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し)」でもあり、本多光太郎先生の「産業は学問の道場なり」でもある。若いときは自分の思いだけで突っ走ろうとしたこともあったが最近こんなことを思うのも、60歳になり「六十にして耳順う」ようになったからであろうか?

構造と機能の研究は、学問と産業両方を発展させる。この重要な研究の中で、いままでお世話になった方々に恩返しができれば、それ以上の喜びはない。そして、この分野で重要な計測・観察装置を世に出しておられる株式会社日立ハイテクノロジーズへの期待は非常に大きい。

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