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技術機関誌 SI NEWS日立ハイテク

サイズ排除クロマトグラフ
—有機物分析のための新しい検出器—

Size-Exclusion Chromatography: A New Type of Detector for Organic Matter Analysis

中央大学 理工学部 人間総合理工学科 准教授 山村 寛 博士(工学)

中央大学 理工学部
人間総合理工学科
准教授
山村 寛 博士(工学)

HPSEC-OCDの登場

川や湖など、自然の水には様々な有機物が含まれているが、これらの有機物はどこからくるのだろうか?有機物の排出源として、大きく動物由来と植物由来に分類できる。動物由来のものは生活排水、し尿や死体など、動物の身の回りから排出され、腐食したものが主な発生源となる。一方で、植物由来のものは植物の腐食に伴って排出される成分が主な発生源となる。動物由来と植物由来の有機物は共に、排出された時には数百万Da(Da:ダルトンは分子量の単位)の巨大分子であるが、日射や微生物の活動などにより物理的・化学的・生物的に酸化、分解されることで数千Daの分子へと変化する。この自然の分解過程において、タンパク質や多糖類を起源とする高分子の親水性有機物は、不飽和度(二重結合などの割合)を増し、疎水性が高い茶褐色の有機物へと特性が大きく変化することになる。
分解によって生成される数千Daの不飽和度の高い有機物は“フミン質”と呼ばれており、ある意味、自然界の有機物の多くはフミン質を主体として構成されている。このフミン質は、土壌中では貴重な有機物源となり、さらには金属と錯体を形成しやすい性質があることから、森から海まで鉄を運搬するなど、自然界の物質循環にとって、重要な役割を担っている。一方で、水道水を作る浄水過程では、消毒のために加えた塩素とフミン質が反応して発ガン性物質であるトリハロメタンを生成することも知られており、濃度が高い地域ではイオン交換などにより、フミン質を除去して消毒している地域も存在する。このように、自然科学分野および工学分野においてフミン質の挙動や特性の解明は重要であり、これまでにも南極からアマゾンの奥地に至るまで、世界中の様々な水域を対象にフミン質の量や物理化学的特性に関する研究が進められている1)

図1 自然水中の有機物の分解過程
図1 自然水中の有機物の分解過程

フミン質は自然界の有機物が分解された結果生成する成分の総称であるため、幅広い分子量を持った多種多様な成分で構成され、かつ季節や水域によってその構成成分は七変幻する2)。さらに、非常に複雑な化学構造を有していることから、化学構造を一様に決定するのは難しく、一般的にはクロマトグラフィーなどにより類似した物理化学的特性に応じて分画した後に、定性・定量分析されることが多い。特に、サイズ分画クロマトグラフィー(HPSEC: Size exclusion liquid chromatography)は、数千Daから数百万Daまでの非常に広範なフミン質を複数の画分に一度で分画できることから、自然水中の有機物分析手法として昔から利用されてきた。2000年以前は、UV-Visを用いた波長256 nmの紫外部吸光や蛍光を検出器とした構成が多かった。これは、フミン質の不飽和度が高い性質や蛍光分子を有する特徴を利用している。一方で、紫外部吸光や蛍光では多糖類など、一部の有機物が検出できないことから、親水性の高い高分子有機物や低分子有機酸などの挙動を捉えるのは難しいという課題があった。これらの課題を解決するために開発されたのが、検出器として全有機炭素計(OCD: Organic carbon detector)を接続したHPSEC-OCDである。
OCDは、有機物を完全酸化した際に発生するCO2量を定量することで有機炭素量を定量する手法であり、基本的にすべての有機炭素を高精度で定量できる。現在、全有機炭素計は、有機物を高温の触媒で酸化する「乾式酸化法」と有機物を酸化剤とUV照射で酸化する「湿式酸化法」の2種類が存在する。乾式酸化法は数百ppbから数百ppmまでの広範囲な濃度の有機物を定量できる一方で、湿式酸化法は数ppbから数ppmまでの範囲の低濃度の有機物を高感度で測定できるという特徴を有している。さらに、湿式酸化法はインラインで測定ができることから、HPLCへの接続も簡単にできる。Sieversにより開発されたTOC-800型は4秒毎にTOCを測定できるターボモードを搭載しており、2000年にはTOC-800型とHPLCを接続した分析装置を用いたフミン質の分析手法がEnvironmental Science and Technology誌に発表された3)。紫外部吸光や蛍光検出器では検出されないピークが検出できることから、HPSEC-OCDの登場により、これまで確認できなかった高分子親水性の検出が可能となった。

湿式酸化型OCDの測定原理

湿式酸化型OCDは、送液ポンプ、サンプルや溶離液の無機炭酸を抜く脱気装置デガッサー、酸化剤と緩衝液を注入するシリンジポンプ、酸化反応を促進するUVランプ、CO2ガスを定量するガス透過膜式導電率セルが1本のラインで接続された構成となっている。国内ではセントラル科学株式会社が代理店となってTOC-800型の後継機であるM9eシリーズが販売されている。分析フローは以下の図に示した通りである。

  1. 約1 mL/minに調整されたペリスタリックポンプにより、サンプルが連続的に吸引される
  2. サンプルにリン酸緩衝液を添加し、pHを低減することで水中に溶解した無機炭酸をCO2ガスに変換する
  3. 発生したCO2ガスを脱気装置で除去する
  4. サンプルに一定量の酸化剤を注入する
  5. UVランプを照射し、有機物を完全に酸化・分解・無機化する
  6. 無機化で発生したCO2ガスをガス透過膜式導電率セルで定量する
  7. 測定後のサンプルは装置外に排出される

図2 OCD計の測定フロー図
図2 OCD計の測定フロー図

HPSEC-OCDの測定条件4)

流量…OCDをHPLCと接続する際に特に気をつける必要があるのが、OCD計の流量である。SieversのOCDは送液流量が固定されており、この流量に合わせてHPLCのカラムで分離した溶液を供給しなければならない。送液量が不足する場合には、OCDが空気を吸引してしまい、最悪、故障の原因となる。一方、送液量が過剰な場合にはOCDの送液ラインが加圧され、液漏れが発生する原因となる。OCDの送液量はチューブポンプの劣化などにも影響されるため、厳密には一定流量付近を増減していることから、実際にはHPLCとOCDの間に流量調整用のバッファが必要となる。我々はOCDとHPLCとの間に3方コネクターを接続し、HPLCの流量>TOCの流量の際には廃液し、HPLCの流量<TOCの流量の場合には廃液を一部OCDに取り込むように工夫している。分析にあたっては、廃液を取り入れることがないように、常にHPLCの流量がTOC計の流量よりも若干多くなるように、HPLCの送液流量を調整している。この辺は、装置を接続した際に、試行錯誤が必要となる。

カラムの選択…カラムの選定にあたっては、(1)無機系の溶離液が使用できる、(2)1 mL/min以上の高流量で使用できる、(3)数百Daから数百万Daまでを分画できる、という条件をすべて満たす必要がある。特に、1 mL/min以上の流速で広範な分子を分画するには、樹脂サイズが比較的小さく、カラム内滞留時間をある程度確保する必要がある。そのため、既往の研究を含め、多くの場合で直径20 mm、長さ25 cmの極太カラムに東ソー製の樹脂Toyopearl® HW-50sを封入したものを使用している。Toyopearl® HW-50sは排除限界8×104 Daであり、より大きな分子量まで分画したい場合には、排除限界5×106 DaのToyopearl® HW-65sを使用する場合もある。20 mm×25 cmのカラムを使用して、1 mL/min以上で送液した場合、カラム内滞留時間が長いため、1サンプルの分析に120分以上かかり、分析のスループットは低い(1日で12サンプルしか分析できない)。我々は、Toyopearl® HW-65sとTSKgel® G3000SWXLをそれぞれ封入した直径7.8 mm、長さ30 cmのカラムを連結させることで、より高速に高分子有機物とフミン酸を定量する技術を確立している。これにより、従来の半分以下の時間(約50分)で分析できるため、大量のサンプルを分析できるようになった。このように、カラムの選定にあたっては分解能が必要な分子量域を明確にすることで、複数のカラムを連結するなどにより、高速に分析できる条件を見出すことができる。

サンプル注入量…サンプル注入量は、検出器の感度に依存する。溶離液をOCDで計測した際に20 ppb程度を示すことから、この値以下の場合にはピークが検出されない。極太カラムを使用する際には、滞留時間が長く、注入したサンプルが希釈されてしまうため、一般的には1~5 mL程度の大量のサンプルを注入する必要がある。一方で、我々が開発した2本連結カラムを使用する場合には、サンプル注入量は1/3程度にまで低減できるため、通常は500 µL~1 mL程度の試料を注入することが多い。

TOC計の酸化剤とpH緩衝液…サンプルの種類によってOCDのpH緩衝液量や酸化剤量を増減する必要があるが、対象とする水や有機物濃度がある程度決まっている場合には、最適化した後に調整する機会はほとんどない。河川水や湖沼水の場合には、通常リン酸緩衝液を0.75 µL/min、酸化剤を2.5 µL/minに設定している。

HPSEC-OCDの測定例

まずは、Toyopearl® HW-65sとTSKgel® G3000SWXLを連結したカラムを装着したHPSEC-OCDの分子量と保持時間の関係を図3に示す。

図3 分子量と保持時間の関係
図3 分子量と保持時間の関係

図4 HPSEC-OCD計の測定例 HPLCとして日立高速液体クロマトグラフChromaster®を使用。
図4 HPSEC-OCD計の測定例
HPLCとして日立高速液体クロマトグラフChromaster®を使用。

このカラムでは数百Daから数十万Daまでの範囲で線形関係が得られており、2本のカラムを連結することで、幅広い分子を分画できるようになっていることがわかる。特に、10万(105)Da以上の高分子については、数千Daのピークと重なり合うことなく完全に分離されており、ピーク面積から濃度も定量できる。続いて、河川水の分子量分布を分析した結果を図4に示す。これは北海道江別市を流れる千歳川を採水して分析した結果であり、3つの顕著なピークが検出されている。2つめの大きなピークはUV検出器でも検出できていたが、1つめの小さなピークについてはUV検出器では検出できなかったため、1つめのピークはUV吸光度を持たない、多糖類様の成分の存在を示すものであると推測される。このように、HPSEC-OCDを利用することで、これまでの検出器では検出できなかった高分子多糖類成分を検出・定量できるようになる。
本稿の最初に述べた有機物の起源の話に戻るが、動物由来の有機物は特に高分子成分が高いことが明らかになっており、他にも生物活性が高い下水処理水や富栄養化した湖などでも同様に高い値となることが多い。一方で、植物由来の有機物は、一般には十分な時間をかけて分解されるため、高分子成分の濃度は低い。これらのことから、HPSEC-OCDで検出される高分子成分の濃度を測定することで、水の生物活性度や人的汚染度が評価できるとする研究も報告されている5)

図5 膜ファウリングと高分子有機物濃度との関係5)
図5 膜ファウリングと高分子有機物濃度との関係5)

また、膜を使った用排水処理においては、この高分子成分が膜細孔を閉塞される成分であることも明らかになっており、高分子成分の濃度と膜閉塞速度に明確な線形関係が得られている。このように、HPSEC-OCDによる分析は、河川水や湖沼水中の分析だけでなく、食品工業やバイオプロセス管理においても広く利用できる可能性を秘めており、今後の益々の用途拡大が期待されている。
これまで、HPSEC-OCDの利点を中心に述べてきたが、解決すべき欠点も多数存在する。いちばんクリティカルな課題は「OCD計のダウンタイム」である。シリンジポンプで酸化剤とpH緩衝液を注入している以上(図2参照)、一定時間毎にシリンジに溶液を補充する時間が必要であり、その間はデータが欠損することになる。ダウンタイムがピークに被らなければ全く問題ないが、ピーク検出中にダウンタイムが到来した際には、そのサンプルを再度計測しなければならない。この点については、TOC計のモデルチェンジごとに改善が行われている。また、オイルなどの疎水性が高い成分を多く含むサンプルは、カラムにこれらの成分が吸着するため、前処理を施した後に分析する必要がある。さもなければ、高価なカラムの寿命を大幅に縮める結果となる。

HPSEC用新検出器の展望

HPSECの検出器としてOCDの有用性をこれまで説明してきたが、現在、HPSECに分光蛍光光度計を接続した、HPSEC-三次元励起蛍光分析(Excitation Emission Matrix)の開発にチャレンジしている。EEMは簡易かつ高感度にフミン質などを検出できることから、これまで河川・湖沼・海域の水質分析などで多く利用されてきた。特に、近年では多変量解析の一種であるPARAFAC(Parallel factor analysis)分析8)により、重複したピークを分離する技術が開発されて以降、浄水処理や下水処理のプロセス管理、水環境での汚染源特定など、様々な用途が開発されている。一方で、PARAFACにより重複したスペクトルを分離するには、多種多様かつ大量のサンプルを収集する必要があるため、実際にはサンプル数の不足や、多様性が小さなサンプル群では分離が難しい場合も多々遭遇してきた。我々はHPSECでまずサイズ毎に有機物を分画した後にEEM分析に供することで、より少量のサンプルでも正確にPARAFACできる手法を開発している。

図6 4種類のサンプルをPARAFACにより分離した際のコンポーネント成分:(a)得られたスペクトルを直接PARAFACした際の結果、(b)サンプルをLCで分画・分取した後にEEM測定したスペクトルをPARAFACした際の結果
図6 4種類のサンプルをPARAFACにより分離した際のコンポーネント成分:(a)得られたスペクトルを直接PARAFACした際の結果、(b)サンプルをLCで分画・分取した後にEEM測定したスペクトルをPARAFACした際の結果

具体的には、HPSECで分画した後にマイクロプレートに分取し、マイクロプレート付属装置を装着した日立分光蛍光光度計F-7100形で三次元励起蛍光分析測定することで、1サンプルあたり、29個のEEMスペクトルを得ることに成功している。下水処理水など、4種類の試料についてそのままEEM-PARAFACを実施したところ、2成分にしか分離することができなかった。一方で、HPSEC後にEEM分析したものを対象としてPARAFACした結果、2成分多い4成分が分離できた。これらの結果は、これまでサンプル数が限られていたために、PARAFACが活用できなかった場合に極めて有効な手法となりうる。さらに、HPSECとEEMを連結した状態で分析できるようになれば、より簡潔かつ高速に水中の有機物の挙動を解明できるようになると期待している。現在、フローセル付属装置を装着した分光蛍光光度計にHPSECを連結した装置を開発しており、測定条件や分析条件などの最適化を実施しているところである。結果が得られたころに、再度、本誌において紹介したい。

参考文献

1)
石渡良志、米林甲陽、宮島徹、環境中の腐稙物質 その特徴と研究法、三共出版(2011).
2)
J. A. Leenheer, Systematic Approaches to Comprehensive Analysis of Natural Organic Matter, Annals of Environmental Science, Vol. 3, pp. 1-130(2009).
3)
N. Her, G. Amy, D. Foss, J. Cho, Y. Yoon, P. Kosenka, Optimization of method for detecting and characterizing NOM by HPLC-size exclusion chromatography with UV and on-line DOC detection, Environmental Science & Technology, Vol. 36, No. 5, pp. 1069-1076(2002).
4)
H. Yamamura, K. Kimura, Y. Watanabe, Mechanism involved in the evolution of physically irreversible fouling in microfiltration and ultrafiltration membranes used for drinking water treatment, Environmental Science & Technology, Vol. 41, No. 19, pp. 6789-6794(2007).
5)
H. Yamamura, K. Okimoto, K. Kimura, Y. Watanabe, Hydrophilic fraction of natural organic matter causing irreversible fouling of microfiltration and ultrafiltration membranes, Water Res., Vol. 54, pp. 123-36(2014).
6)
S. A. Huber, A. Balz, M. Abert, New method for urea analysis in surface and tap waters with LC-OCD-OND (liquid chromatography-organic carbon detection-organic nitrogen detection), Journal of Water Supply Research and Technology-Aqua, Vol. 60, No. 3, pp. 159-166(2011).
7)
S. A. Huber, A. Balz, M. Abert, W. Pronk, Characterisation of aquatic humic and non-humic matter with size-exclusion chromatography - organic carbon detection - organic nitrogen detection(LC-OCD-OND), Water Research, Vol. 45, No. 2, pp. 879-885(2011).
8)
C. A. Stedmon, R. Bro, Characterizing dissolved organic matter fluorescence with parallel factor analysis: a tutorial, Limnology and Oceanography-Methods, Vol. 6, pp. 572-579(2008).
  1. “Toyopearl®”、“TSKgel®”は東ソー株式会社の日本における登録商標です。
  2. “Chromaster®”は株式会社日立ハイテクノロジーズの登録商標です。

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