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技術機関誌 SI NEWS日立ハイテク

分光蛍光光度計を用いた蛍光を有する物体の光学的画像解析
—反射・蛍光の画像分離と分光スペクトルの面内分布の推定—

Spectral Analysis and Visualization of Fluorescent Materials Using Fluorescence Spectrophotometer Equipped with CMOS Camera
–Estimating spatial and spectral distribution of reflective-fluorescent scenes–

国立情報学研究所 教授 東京工業大学工学院情報通信系 特定教授 東京大学情報理工学研究科コンピュータ科学専攻 教授 佐藤 いまり 博士(学際情報学)

国立情報学研究所 教授
東京工業大学工学院情報通信系 特定教授
東京大学情報理工学研究科コンピュータ科学専攻 教授
佐藤 いまり 博士(学際情報学)

国立情報学研究所 准教授 総合研究大学院大学 准教授 鄭 銀強 工学博士

国立情報学研究所 准教授
総合研究大学院大学 准教授
鄭 銀強 工学博士

(株)日立ハイテクサイエンス 堀込 純

(株)日立ハイテクサイエンス
堀込 純

(株)日立ハイテクサイエンス 大川 拓樹

(株)日立ハイテクサイエンス
大川 拓樹

はじめに

蛍光材料は、白色LEDや衣服の蛍光増白、有価証券偽造防止のためのセキュリティインクなど生活に密着した製品に応用されている。これら蛍光試料の分光特性は、一般的に分光蛍光光度計を用いて分光スペクトルを評価することが多い。分光スペクトルは、蛍光波長を固定して励起光(照射する光)の波長を走査することで励起波長における蛍光強度の関係を表す励起スペクトルと、励起波長を固定して、蛍光の波長を走査することで蛍光波長における蛍光強度の関係を表す蛍光スペクトルがある。このスペクトルの形状が試料の色味を反映することになる。励起波長、蛍光波長および蛍光強度をまとめて測定する三次元蛍光スペクトルは、波長走査速度の高速化に伴い評価方法の一つとして浸透してきた。この三次元蛍光スペクトルを取得すると、蛍光物質の波長特性を網羅的に把握することが可能である。三次元蛍光スペクトルは、試料に含まれる有機物質の蛍光特性を反映し、種類や状態などを識別する指標となることから、蛍光指紋と呼ばれることがある。身近な応用例として、エキストラバージンタイプとピュアタイプの異なるグレードのオリーブオイルの三次元蛍光スペクトルを測定すると、その違いが蛍光パターンとして検出される。
しかしながら、これまでの分光蛍光光度計による測定は、励起光が照射された部分(単点)の平均的な蛍光スペクトル情報を得るに留まっていた。そのため、蛍光成分が不均一に含まれている試料の場合、試料面内の蛍光発光の分布を把握することは不可能であった。
そこで、分光蛍光光度計に新たにCMOSカメラユニットを搭載し、蛍光スペクトルの測定と試料画像を同時取得し、光学的画像解析により蛍光の面内分布推定を試みることとした。

実験

装置構成と取得データ

今回検討した装置構成を図1に示す。従来の分光蛍光光度計(F-7100形)の試料室に積分球を配置した。試料は積分球の上部のポートに設置した。分光蛍光光度計からの励起光は、励起光入射ポートより積分球内部に取り込み、一旦積分球内部で拡散させることで均一化させ試料に照射させた。励起光入射ポートと90度の位置に設けた蛍光出射ポートより試料からの光を蛍光側分光器に取り込み、分光スペクトルを測定した。CMOSカメラは積分球の下部のポートに設置し、励起光を照射した試料を撮影することとした。
分光蛍光光度計の励起波長を0次光とすることで得られる白色光を試料に照射し、白色光下における試料画像を取得した。その後、励起波長を一定間隔で照射し、蛍光側分光器では、各励起波長における蛍光スペクトルを測定し、三次元蛍光スペクトルとした。同時に、CMOSカメラにて各励起波長における試料画像を取得した。

図1 装置構成図
図1 装置構成図

反射と蛍光発光のメカニズムの違いに基づく画像解析

蛍光を発する試料(対象物体)に光を照射した際、観測される光は試料からの蛍光成分と照射した光の反射成分からなることになる。ここで、反射光は入射光と同じ波長であるのに対し、蛍光の波長は入射光よりも長波長となる。このような入射光に対する蛍光と反射のメカニズムの違いを積極的に活用することによって、対象物体の蛍光成分と反射成分を画像解析から分離・観察することができる。
図2に蛍光のスペクトル概念図と蛍光を含んだシーンの分離例を示す。図2上に示されるように蛍光素材に単波長の光が入射したとき、観測される光は同じ波長の反射光だけでなく、より長い波長にスペクトルを持った発光を行うことが知られている。この性質を用いることで、観測された画像の反射・蛍光成分の分離を行う様々な手法が開発されている。

図2 観察画像とスペクトルにおける蛍光と反射光の関係図(蛍光と反射光の総和が観察される)
図2 観察画像とスペクトルにおける蛍光と反射光の関係図(蛍光と反射光の総和が観察される)

図2下に分離手法の一例を示している。試料である対象物体から観測されるR/G/Bチャネルの画像にはそれぞれ、反射成分と蛍光成分の両方が含まれている。これら対象物体の蛍光特性をモデル化することで、成分の分離や反射・蛍光スペクトルの面内分布推定を画像から行うことが可能となる。
次に、分離に用いられるモデルについて紹介する。対象物体から観測される光は、式1のように反射成分の光と蛍光成分の光の総和として表すことができる。

I = IR + IF
IR = R(λ)L(λ),    IF = aF(λ)

(1)

I:試料のカメラ観察値
IR:試料の反射成分の値
IF:試料の蛍光成分の値
L:照明の分光強度

R(λ):試料の分光反射スペクトル
a:試料の吸収係数
F(λ):試料の蛍光スペクトル

ここで、Iは対象物体から観測される光を示す。なお、IRは対象物体からの反射光、IFは対象物体からの蛍光である。Lは照明の分光強度、Rは分光反射率、aは素材の吸光度、Fは素材の蛍光スペクトルをそれぞれ示している。対象物体から観測される反射光IRは、照明の分光強度Lと分光反射率Rの積として表すことができる。一方、対象物体から観測される蛍光IFは、素材の吸光度aと素材の蛍光スペクトルFの積として表すことができる。
カメラは、R/G/Bチャネルで構成されているため、ある画素の観測値IはR/G/Bチャネルのそれぞれの観測値(IrIgIb)として観測される。ここで、カメラのR/G/Bチャネルには図3に示すような分光感度特性(CrCgCb)がある。そのため、R/G/Bチャネルのそれぞれの観測値(IrIgIb)に対して、カメラの分光感度特性(CrCgCb)を補正する必要がある。ある画素のR/G/B観測値は式2のようにそれぞれのチャネルの分光感度を畳み込み積分したものとなる。

Ir = I(λ)Cr(λ)dλ = R(λ)L(λ)Cr(λ)dλ + aF(λ)Cr(λ)dλ
Ig
= R(λ)L(λ)Cg(λ)dλ + aF(λ)Cg(λ)dλ
Ib
= R(λ)L(λ)Cb(λ)dλ + aF(λ)Cb(λ)dλ

(2)

I(λ):試料のカメラ観察値
IrIgIb:試料のR/G/Bチャネルの観測値
CrCgCb:カメラのR/G/Bチャネルの分光感度
R(λ):試料の分光反射スペクトル
L(λ):照明の分光強度
a:試料の吸収係数
F(λ):試料の蛍光スペクトル

図3 カメラの各チャネルの分光感度特性
図3 カメラの各チャネルの分光感度特性

このモデルを解くためには、対象物体の分光反射率または蛍光特性(吸光度を示す励起スペクトルと発光の分光分布を示す蛍光スペクトル)のいずれかが既知である必要があり、RGB画像では詳細な波長情報が記録できない課題があった。
分光蛍光光度計では単波長の光を励起光として対象物体に照射し、そのときに放射される光の波長情報を測定しており、励起波長を変化させながらそれぞれ記録することで対象物体の蛍光特性を網羅的に計測している。励起波長は一定の波長間隔で設定されたN個の励起波長まで順次設定されるため、k番目(k =1,2, ..., N)の励起波長下での反射蛍光モデルは式2より次のように求められる。

(3)

Rk:k番目の波長における試料の分光反射率
Lk:k番目の波長における照明の分光強度
a'k:k番目の波長における試料の蛍光強度の係数
Fr、Fg、Fb:k番目の波長における試料のR/G/Bチャネルの蛍光換算値
Irk、Igk、Ibk:k番目の波長における画像のR/G/Bチャネルの観測値
Crk、Cgk、Cbk:k番目の波長におけるカメラのR/G/Bチャネルの分光感度

k番目の波長における反射成分の値は、反射率Rkと照明の分光強度Lk、カメラの分光感度特性(CrCgCb)の積として表される。k番目の励起波長における蛍光成分の値は、強度に関わる係数a'kと蛍光分布(FrFgFb)の積として表される。式1より、蛍光成分の値は素材の吸光度aと素材の蛍光スペクトルFの積として表されるが、蛍光スペクトルの測定値FをR/G/Bの値である蛍光分布(FrFgFb)に変換するため、素材の吸光度aを強度に関わる係数a'kとして置き換えた。
推定モデルと手法の概念図を図4に示す。式3におけるは(LkCk)標準白色板を用いた撮影によって測定され、蛍光分布(FrFgFb)は分光蛍光光度計を用いて測定した蛍光スペクトルFと既知のカメラの分光感度特性(CrCgCb)より得ることができる。これにより式3における未知数は波長kでの反射率Rkと蛍光成分の係数a'kのみとなり、任意の手法で解くことができる。

図4 推定モデルと手法の概念図(入力画像は励起光波長400 nmでの例)
図4 推定モデルと手法の概念図(入力画像は励起光波長400 nmでの例)

これを全ての励起波長(波長k)について計算することで、反射・蛍光の分光特性、全ての画素で計算することで面内分布を得ることができる(図5・図6)。

図5 対象物体の反射・蛍光特性の面内分布画像化
図5 対象物体の反射・蛍光特性の面内分布画像化

図6 対象物体の反射・蛍光特性の各領域のスペクトル化
図6 対象物体の反射・蛍光特性の各領域のスペクトル化

結果

データの検証

  • 分光反射率:反射スペクトル
    分光光度計で予め反射スペクトルを測定した試料を用い、モデルより算出した分光反射率の妥当性を確認した。面内分布の無い均一で反射スペクトルの分布が異なる4種類の試料を用意した。測定結果を図7に示す。それぞれの試料で既知の反射スペクトルと良好な一致を確認することができた。

図7 反射スペクトルの妥当性確認結果
図7 反射スペクトルの妥当性確認結果

  • 蛍光特性:蛍光スペクトル
    同様に、分光蛍光光度計でアーティファクトが重複しない標準的として表面測光が可能な固体試料ホルダを用いて蛍光スペクトルを測定し、算出した蛍光スペクトルの妥当性を確認した。面内分布の無い均一で蛍光スペクトルの分布が異なる3種類の試料を用意した。測定結果を図8に示す。蛍光波長が異なる試料においても既知の蛍光スペクトルと良好な一致が確認された。

図8 蛍光スペクトルの妥当性確認結果
図8 蛍光スペクトルの妥当性確認結果

実試料の測定

実試料として、蛍光反射シートを測定した。蛍光反射シートは蛍光を有すると共に視認性を向上させるために微細構造が施されている。
試料に入射光として、400 nm~700 nmの単波長の光を25 nm間隔で照射し、三次元蛍光スペクトルと各波長の画像を得た(図9)。試料はΦ20 mmのスポットに観察される。周辺部は白色の硫酸バリウムで塗布された積分球の内壁面に相当する。三次元蛍光スペクトルより、本試料は400 nm~500 nmの波長で励起されることが分かる。各撮影画像に着目すると、この間の励起波長における試料の画像は緑色の蛍光発光が確認される。一方、500 nmよりも長い励起波長においては、試料は周辺部と同様の色味であり、蛍光を含まない反射成分が主体であると推測される。蛍光が発している励起波長460 nm および500 nm の試料画像では、緑色の蛍光が試料全面より発していることが見て取れる。一方、蛍光発光が無くなる520 nmおよび580 nmの試料画像では、反射光が強く明るい領域と反射光が低く暗い領域に分かれていることが分かった。蛍光は方向依存性が少なく、試料全面から放出されるが、反射は方向依存性があり、構造に由来する反射分布を反映していると推測される。
次に、画像分離アルゴリズムにより、撮影した画像を反射成分と蛍光成分に分離した結果を図10に示す。画像を拡大すると反射板の微細構造はおよそ200 µm周期であることが分かった。反射成分は橙色であり、蛍光成分は緑色の画像となった。それぞれ反射スペクトルと蛍光スペクトルに相当する分光色と一致している。本試料は、橙色の反射光と緑色の蛍光が合算して黄色に見えていると思われる。また、分離をしていない観測画像において蛍光が無くなる520 nm付近を境に画像パターンが変化したが、今回分離した反射画像と蛍光画像で同様のパターンの画像が得られた。単色光照射時に波長によって画像パターンが異なる際には、反射成分と蛍光成分が寄与し、面内分布がある試料の場合、分離された反射画像と蛍光画像を確認する有効性を見出すことができた。

図9 各励起波長における取得画像と三次元蛍光スペクトル
図9 各励起波長における取得画像と三次元蛍光スペクトル

図10 微細構造素材の反射スペクトルと蛍光スペクトル分離
図10 微細構造素材の反射スペクトルと蛍光スペクトル分離

まとめ

分光蛍光光度計は、励起・蛍光スペクトルにて波長特性など試料の蛍光特性を把握するのに有効な分析機器である。従来行われていたスペクトル評価は試料の特定箇所における平均的な光学特性を把握するに留まっていたが、近年ではCMOSカメラを搭載し、試料の蛍光発光の面内分布の観察が可能となった。更には画像分離アルゴリズムを用いることで、反射画像と蛍光画像の分離、領域ごとのスペクトル構築など多彩な解析が可能となった。

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