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技術機関誌 SI NEWS日立ハイテクノロジーズ

西村 雅子*1中島 里絵*1長谷川 伸一*2砂押 毅志*3

はじめに

走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、SEM)を用いたナノメートルオーダーレベルの高倍率観察、低加速電圧による試料の最表面観察においては、観察時に微細な表面構造が徐々に不明瞭になったり、倍率を下げると今まで観察していた領域が黒くなる、といった現象がしばしば見られる。これは、試料表面および周辺の炭化水素系のガス分子が、電子線照射によって重合、架橋し、試料表面に凝集、固着することにより、試料から発生した二次電子が堆積した物質に吸収されるためと考えられており、この現象はコンタミネーション(試料汚染)と呼ばれている。
コンタミネーションを低減するには、①電子顕微鏡の試料室内に存在する残留ガス分子を減らす、②試料や試料台の表面、内部に吸着している試料由来の炭化水素系ガス分子を少なくすることが必要となる。
具体的な対策として、①については冷却したトラップ板にガス分子を吸着させるアンチコンタミネーショントラップやオイルフリーのドライ真空排気系のように、装置本体にコンタミネーション対策を施し、極力残留ガス分子が試料に付着しないように設計されているが、②については電子顕微鏡の試料室に入れる前に処理を施すことが望ましい1)、2)
そこで今回、観察前の試料に紫外線を照射することにより、試料表面に吸着した炭化水素系ガス分子を減少させ、試料にダメージを与えることなくコンタミネーション付着を低減できる装置として電子顕微鏡用のサンプルクリーナーZoneII for SEM(以下、ZoneII for SEM)を発売した。本稿では、ZoneII for SEMの概要と観察例について紹介する。

ZoneII for SEMの概要

装置の外観と仕様

図1にZoneII for SEMの装置外観、表1に主な仕様を示す。
本体寸法は300 mm(幅)×262 mm(奥行き)×326 mm(高さ)、重さは約18 kgであり、小型・軽量化を実現している。また、一般的なAC100 Vアース付き3Pコンセントのみで稼動できるため、設置場所の制約が少ない。
試料は最大φ100 mm、高さ37 mmまで対応し、試料台をホルダーから外すことなくクリーニングすることが可能である。また、試料室内の真空度を変えることで、酸素濃度に依存するオゾン量を可変でき、試料に応じた条件を登録することができる。

図1 電子顕微鏡用サンプルクリーナー ZoneII for SEMの装置外観
図1 電子顕微鏡用サンプルクリーナー ZoneII for SEMの装置外観

表1 主な仕様
項目内容
UVランプ波長185 nm、257 nmほか
装置寸法300 mm(W) × 262 mm(D) × 326 mm(H)
装置重さ約18 kg
最大試料サイズΦ100 mm、高さ37 mm
処理モードUVクリーニングモード(レシピ機能搭載)真空保持モード
真空設定100段階の真空度に設定可能
処理時間設定1分~約24時間
オゾンスクラバー触媒式オゾン除外装置内蔵
真空ポンプダイヤフラムポンプ(オイルフリー)

紫外線による試料クリーニングの原理

ZoneII for SEMの紫外線ランプからは、図2に示すように、炭化水素除去に効果的な185 nmと254 nmの2波長の紫外線が照射され、有機化合物(炭化水素)の化学結合を切断する。また、同時に185 nmの紫外線は、低真空に制御した試料室内の酸素分子(O2)を酸素原子(O)に分解し、酸素分子(O2)と酸素原子(O)の結合によりオゾン(O3)を生成する。

 O2 → O + O
 O + O2 → O3

254 nmの紫外線は、オゾン(O3)を分解し活性酸素原子(O)と酸素分子(O2)を生成する。

 O3 → O + O2

このように、オゾン(O3)の連続的な生成と分解の過程において発生した活性酸素原子は、試料表面の炭化水素と化学的に結合し、分子量の小さいCO2やH2Oなどの揮発性分子に分解されて試料表面から脱離し、真空排気される。

図2 紫外線による試料クリーニングの原理
図2 紫外線による試料クリーニングの原理

応用例

カーボン支持膜上の金粒子の観察

図3はカーボン支持膜上の金粒子を照射電圧30 kV、30万倍で観察後、電子線によるコンタミネーションの付着具合を確認するため、10万倍に倍率を下げて観察した結果である。紫外線クリーニングを実施せずに観察した試料では、(a)に示すようにコンタミネーションの付着により観察領域は暗いコントラストとして観察された。一方、観察前に紫外線クリーニングを支持膜の片面4分ずつ実施した試料では、(b)に示すようにコンタミネーションの付着は観察されなかった。

図3 カーボン支持膜上の金粒子観察結果(照射電圧30 kV、倍率10万倍)
図3 カーボン支持膜上の金粒子観察結果(照射電圧30 kV、倍率10万倍)

シリカ粒子の観察

図4はシリカ粒子を有機溶剤で分散後、アルミ箔の上に塗布し、照射電圧500 V、20万倍で観察した結果である。各画像の左上には、観察後に倍率を下げてコンタミネーションの付着具合を確認した画像を示す。シリカ粒子などの多孔質材料は、コンタミネ―ションの原因となる分散媒などからの炭化水素を孔の中に内包しやすい。紫外線クリーニングを実施せずに観察すると、(a)に示すようにコンタミネーション付着により、20 nm以下の微細な孔が埋もれてしまい、試料本来の構造の観察が困難となる。一方、観察前に紫外線クリーニングを5分実施した試料では、(b)に示すようにコンタミネーション付着はほとんど観察されず、試料本来の微細孔の構造を明瞭に確認することができた。

図4 シリカ粒子の観察結果(照射電圧500 V、倍率20万倍)
図4 シリカ粒子の観察結果(照射電圧500 V、倍率20万倍)

ガラス基板上のITO 薄膜の観察

図5はガラス基板上のITO薄膜を照射電圧1 kV、15万倍で観察した結果である。
各画像の左上には、図4同様、観察後に倍率を下げてコンタミネーションの付着具合を確認した画像を示す。高倍率での観察要求が多い薄膜試料は活性な物質が多いため、コンタミネーションが付着しやすい。紫外線クリーニングを実施せずに観察すると、(a)に示すようにコンタミネーション付着により、構造は不明瞭になってしまうが、観察前に紫外線クリーニングを5分実施した試料では、(b)に示すようにコンタミネーション付着は低減され、微細な構造を明瞭に確認することができた。

図5 ガラス基板上のITO薄膜観察結果(照射電圧1 kV, 倍率15万倍)
図5 ガラス基板上のITO薄膜観察結果(照射電圧1 kV, 倍率15万倍)

おわりに

電子顕微鏡用サンプルクリーナーZoneII for SEMの概要と観察例について紹介した。ZoneII for SEMは観察前の試料に185 nmと254 nmの2波長の紫外線を照射することで、生成するオゾンと活性酸素により試料表面に吸着した炭化水素系のガス分子を減少させ、SEM観察時に発生するコンタミネーションを効果的に低減させることができる。ナノメートルオーダーの高倍率観察や低加速電圧による試料の最表面観察に有効であり、試料本来の微細構造を明瞭に観察することが可能となる。今後は材料、半導体、バイオロジー分野など幅広い分野の試料で活用されることを期待している。

参考文献

1)
D.A. Cullen, et al, : "Utility of the Hitachi 'ZONE' UV Cleaning System for Mitigating Contamination Effects during STEM Imaging" Microsc. Microanal. 18(Suppl 2), pp.1240~1241(2012)
2)
竹内秀一、砂押毅志、高須久幸:UV クリーナーによる電子顕微鏡サンプルの清浄化、「センターニュース」、36、1、pp.5~7、九州大学中央分析センター(2017)

出典

月刊誌「工業材料」10月号掲載

著者紹介

*1 西村 雅子、中島 里絵
(株)日立ハイテクフィールディング  科学・医用システムサービス本部 電装部アプリサポートグループ

*2 長谷川 伸一
(株)日立ハイテクフィールディング  科学・医用システムサービス本部 電装部東京サービス課

*3 砂押 毅志
(株)日立ハイテクノロジーズ 科学システム製品本部 アプリケーション開発部 電子顕微鏡アプリケーショングループ

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