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技術機関誌 SI NEWS日立ハイテクノロジーズ

鈴木 裕志

はじめに

コンビニエンスストアを訪れると、様々な食品が多彩なパッケージで包装されているのを見かける。その中で煎餅とポテトチップスの包装を思い浮かべて欲しい。煎餅の袋は商品名やイラストなどが印刷されているが、透明のフィルム材料が使われている。一方で、ポテトチップスの袋は内側が銀色になっていて、外から中身を見ることはできない。通常、煎餅の袋はPET(polyethylene terephthalate)フィルムで、ポテトチップスの袋はアルミ蒸着フィルム(PETフィルムの表面にアルミを真空状態で蒸着したフィルム)で構成されている。
アルミ蒸着フィルムの方がコストは高いのだが、もしポテトチップスが透明なPETのフィルムで包装されていた場合、酸素や光が袋の外から侵入して酸化で変色してしまう。また水蒸気が侵入した場合には食感の低下を引き起こす。コストの高いアルミ蒸着フィルムを使用するのは、袋の外から品質の低下に繋がる水蒸気、酸素、光を侵入させにくくするという理由がある。
一般的に樹脂フィルムの水蒸気や酸素を透過させにくい性質のことを『ガスバリア性』と呼ぶ。フィルムメーカーはガスバリア性の高いフィルムを現在も開発している。前述のように食品の保存性を高める以外にも、例えば電子部品を劣化させないなどの用途がある。当然、試作したフィルムがどれくらいの水蒸気や酸素を透過するのかを評価する必要があり、その際に多くの開発者が使用するのが図1に示すmocon社製ガスバリア試験装置である。日立ハイテクサイエンスは、長年にわたり日本国内の総代理店を担っている。

図1 mocon社製ガスバリア試験装置の概観
図1 mocon社製ガスバリア試験装置の概観

ガスバリア試験法

図2に、主なガスバリア試験法を示した。まず等圧法と差圧法の二つに大別される。この違いはフィルムの両面が同じ気体圧力下で測定されるか否かである。

図2 ガスバリア試験法の分類
図2 ガスバリア試験法の分類

図3の左はmocon社製ガスバリア試験装置からフィルムを設置するサンプルセルを取り出す様子で、右は取り出したサンプルセルを拡大した写真である。

図3 サンプルセルの取り出し(左)と外観(右)
図3 サンプルセルの取り出し(左)と外観(右)

測定中のサンプルセル内は図4の模式図のように示される。ここでは水蒸気透過を測定する時の様子を表しているが、フィルムに対して下側を加湿された窒素ガス(テストガス)、上側を乾燥した窒素ガス(キャリアガス)が流れる。ガスは流れているが、どちらも大気圧下であるため等圧法となる。フィルムを挟んで水分子の濃度差が発生しているので、拡散現象によって水分子は下側から上側に移動しようとする。フィルムを透過してきた一部の水分子はキャリアガスによって流路の後方に運ばれる。その先には検知器があり、どれくらいの水分子がフィルムを透過してきたかを測定する。

図4 測定中のサンプルセル内の様子
図4 測定中のサンプルセル内の様子

検知する方式としては、クーロメトリックセンサー、IR(赤外)センサー、感湿センサーなどがあり、測定者が目的とする感度に合わせて装置を選択する。酸素の場合はフィルムに対して下側を酸素ガス、上側を主に窒素ガスが流れる。水分子の時と同様に酸素分子に着目すると上側と下側で濃度差があるので、これを駆動力に一部の酸素分子がフィルムを下側から上側に透過する。酸素の検知にはクーロメトリックセンサーを用いるが、検知器には何種類かのグレードがあり、感度を選択できる。ガスバリア試験では水蒸気がどれくらい透過するかを表す単位として水蒸気透過率[g/m2/day]、酸素がどれくらい透過するかを表す単位として酸素透過率[cc/m2/day]が使われる。
実際の測定ではフィルムの測定面積は一般的に50 cm2で、時間も分単位で行われるが、透過する量が少ないため、1日あたり、1 m2あたりに換算されて表記する。フィルムの片側を真空状態にする差圧法と比較して等圧法のメリットとしては、
①サンプルに物理的なストレスがかからないため自然な状態で測定ができる
②フィルムのどちらの面をテストガス側に設置しても測定することができる
③フィルムだけではなく容器状のサンプルの測定もできる(後述)
ことなどが挙げられる。
これらに加えて、古くからガスバリア試験装置を手がけていることもあり、mocon社はNIST(アメリカ国立標準技術研究所)から認証を受けて、標準フィルムの製造および販売を行っていることも強みである。会社名がそのまま測定法名として通用するほど、ガスバリア試験においてmocon社製の装置が主流となっている。

測定例

ここまでガスバリア試験の目的や背景、測定方法を記してきたが、実際にフィルムサンプルを測定した例を紹介する。市販されていたポテトチップスと煎餅の袋を切り出して、水蒸気透過率と酸素透過率を測定した。
図5が水蒸気透過率で、図6が酸素透過率である。横軸は測定開始からの経過時間、縦軸は透過率をプロットしている。測定開始直後の透過率は上昇傾向または下降傾向を示しているが、これはフィルム中に含有していた水蒸気や酸素の量に起因するもので透過率には関係しない。測定時間が経過していくにつれて透過率は収束していき、収束した段階を定常状態と呼ぶ。定常状態に達して測定を終了した時の最後の測定値がそのフィルムの透過率とするのが一般的である。
図5を見ると、開始から約40時間で煎餅の袋は測定終了して、透過率は1.9 g/m2/dayという結果が得られた。一方、ポテトチップスの袋は約120時間後に1.0 g/m2/dayであった。このことからポテトチップスの袋で使われているアルミ蒸着フィルムは煎餅の袋で使われているPETフィルムと比較して、約半分の水蒸気しか通さなかったことが言える。二つのサンプルで測定時間は異なるが、これは複数の材料を積層させた複雑なフィルムでは定常状態に達するまでに時間を要するためである。また、バリア性の高いフィルムは高感度測定が要求されるため、バリア性の低いフィルムよりも測定時間は長くなる傾向がある。

図5 水蒸気透過率の測定例
図5 水蒸気透過率の測定例

一方、図6の酸素透過率はどちらも約24時間で透過率は一定になり、煎餅の袋が2.6 cc/m2/day、ポテトチップスの袋は1.6 cc/m2/dayという値が得られた。ポテトチップスの袋の方が酸素の透過量は約40%少ない。フィルムを袋状にする工程や流通過程の物理的なストレスで、フィルム自体のバリア性は低下していると考えられるが、消費者が口にするまではアルミ蒸着フィルムの方が水蒸気も酸素も通さないことがわかる。
本題とは異なるが光の侵入を防ぐ効果も高いのは、目で見て理解いただけると思う。ポテトチップスの袋にアルミ蒸着フィルムが使われているのは、これらの特性があるためということは想像に難くない。

図6 酸素透過率の測定例
図6 酸素透過率の測定例

容器測定

ガスバリア性の良いフィルム材料を使用することで容器自体のガスバリア性も良くなることは期待できるが、実際に食品などが包装されているのは袋状などの成形した容器である。フィルムから容器に成形するには屈曲や接着などの工程が入る。
屈曲したフィルムには物理的なストレスがかかり、ガスバリア性は低下する。また、フィルムは水蒸気や酸素をわずかにしか侵入させないとしても、接着部からそれらが侵入することも考えられる。蓋のある容器では蓋と容器が接触している箇所からも侵入する。以前はガスバリア性の高いフィルムを開発して、それらを使用することで容器のガスバリア性を高めてきた。しかし、先ほど述べたようにフィルム以外からの侵入もかなりの量になるため、最近は最終的な容器形状でガスバリア試験を行うニーズが高まってきた。
mocon社のガスバリア試験装置は等圧法であるため、容器のガスバリア試験を行うこともできる。図7は容器測定時の模式図と装置の外観である。ここではペットボトルの酸素透過を測定している様子を表している。ペットボトルに2本の配管が接続されており、片方からはキャリアガスが入り、もう片方から出て検知器に入る。
一方、ペットボトルの外側にはビニール袋が被せられており、テストガスの酸素が供給されている。自然拡散によって外側の酸素はペットボトルを透過して、内部に侵入しようとする。侵入した酸素はキャリアガスによって運ばれて、検知器で測定される。
このように、キャリアガスの入口と出口を接続することができれば容器の水蒸気や酸素の透過率測定が行え、目的に応じたアダプターを準備することでキャップ部分や接着部分をターゲットにしたガスバリア試験も可能である。詳細は割愛するが医薬品の錠剤が入ったPTP(Press Through Pack or Push Through Pack)包装のガスバリア試験なども行われている。

図7 容器測定の模式図(左)と装置の外観(右)
図7 容器測定の模式図(左)と装置の外観(右)

医薬品に関しても水蒸気や酸素の侵入による品質の劣化を防ぐため、長期保存が可能な容器を使用する流れが広がっているようである。また、装置の近くに設置した恒温恒湿槽に配管を延ばし、温度85℃、湿度85% RHという条件で測定を行うこともできる。レトルト食品は密封後に加熱殺菌処理されるが、加熱はレトルトパウチにもストレスを与えてガスバリア性を低下させる。この影響を調べるのが測定の目的である。他にも車載部品や電子機器は高温高湿環境での使用が想定され、そのような環境で水蒸気や酸素がどれくらい侵入してくるのかを調べたいという要望も多い。

おわりに

地球規模で考えた場合、人類の人口は増加傾向をたどっている。しかしながら、資源の面から食糧の生産量には限界があり、世界的な食糧不足が近い将来に起こると言われている。
そのような状況で食品ロスを抑えるために、より長く食品を保存できる技術のニーズが現在よりも高まると思われる。ガスバリア性の高い容器に収められた食品は消費期限を延ばすことが可能である。食品ロスを抑えるためにも、水蒸気や酸素を通さないフィルム材料の開発や密閉性の高い容器が必要になってくる。こういった研究開発にmocon社製ガスバリア試験装置が今後も更に貢献していくものと思われる。

出典

月刊誌「工業材料」11月号掲載

著者紹介

鈴木 裕志
(株)日立ハイテクサイエンス 応用技術部

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