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技術機関誌 SI NEWS日立ハイテクノロジーズ

堀込 純

はじめに

軽油には軽油引取税が課税されるが、周辺油種(A重油、灯油)には軽油引取税は課税されない。自動車用課税軽油に周辺油種を混入させ軽油引取税相当分を脱税する行為を未然に防止するために、灯油とA重油には軽油識別剤としてクマリンが規定濃度添加されている。軽油中にクマリンは本来検出されない成分で、これを分析(クマリン混入率を測定)することによって灯油やA重油の混入の有無を判断する。クマリンは、アルカリ加水分解によりシス-o-ヒドロキシケイヒ酸となり、これを紫外線にて異性化して生じるトランス-o-ヒドロキシケイヒ酸からの蛍光を測定することで灯油やA重油の混入率を判別する。
軽油識別剤クマリンの測定方法は、石油学会規格『石油製品—クマリンの求め方—蛍光光度法』に規定されている。今回、この石油学会規格の定量法(A法)に対応したクマリン測定の自動システムについて検討したので紹介する。自動システムは、図1に示すように試験管ラックとX-Y移動可能なシリンジを備えたオートサンプラー部分と試料吸引のためのポンプ部分、試料導入のフローセルを備えた蛍光光度計部分から構成される。

図1 クマリン自動分析システム外観
図1 クマリン自動分析システム外観

測定の原理と構成

従来のA法(手動方法)と今回検討した自動化方法の測定フローを図2に示す。A法は前処理から測定までを全て試験管の中で行う方法であり、使用する試薬量が少量化されるとともに、器具洗浄など後処理の手間が少ない方法である。
手動方法では、まず、専用試験管に検量線用のクマリン標準液もしくは試料検体を1 mL採取する。次に、n-ドデカン6 mL、アルカリ溶液5 mL、アルコール溶液8 mLを試験管に加える。この時、紫外線照射による異性化を均一化する目的で、スターラーチップを試験管に入れる。検量線用標準液は、試料のクマリン濃度を挟み込むように混入率0%を含めて4点以上用意する。
次に、振とう回数240回/分以上で3分間振とうする。振とう器を用いる際には、振とう器に複数検体の試験管をセットして振とうを行う。5分間静置した後、3層に分離されていることを確認し、予備照射として紫外線照射機で紫外線を約5分間照射する。紫外線照射機は複数の試験管をまとめて処理できるため、照射機を用いると作業時間を短縮化できる。紫外線照射機を用いない場合は、1本ずつではあるが分光蛍光光度計にて異性化を行うことができる。クマリンはアルカリ加水分解されてシス-o-ヒドロキシケイヒ酸となり、360 nm付近の紫外線を照射することで、異性化されて緑色の蛍光を発するトランス-o-ヒドロキシケイヒ酸となる。
続いて、分光蛍光光度計に試験管をセットし、一定時間紫外線照射させ、完全に異性化をさせる。この時、スターラーチップを回転させ試料を撹拌することで均一的に異性化をする。その後、励起波長360 nmにおける蛍光スペクトルを測定し、ピークトップが500±10 nmであることを確認し、蛍光強度値を得る。定量の際、標準溶液にて濃度と蛍光強度値の検量線を作成し、検量線を元に試験試料のクマリン混入率を得る。
ここで、分光蛍光光度計による操作は、紫外線照射による異性化と蛍光強度測定を試験管1本1本に対して行う必要があるため、多検体の測定の際、蛍光光度計の前に拘束される時間が生じてしまう。試料数が多くなればなるほど拘束時間が長くなる。
次に自動方法では、試料採取および振とうは手動方法と同じ作業を行う。振とうが完了した試験管を試験管ラックにセットし、既定の測定プログラムを実行する。ここまでが測定者の拘束時間となる。その後、測定プログラムにより標準試料で検量線が作成され、試験試料の定量値が算出される。各試料では、試料吸引、紫外線照射、蛍光強度測定、試料廃液が一連の動作で実施される。
手動方法と比較して自動方法では、試料はオートサンプラーで導入されるためスターラーチップを入れる作業は不要である。また、紫外線照射機による異性化もフローセル内で測定と一連のプログラムで実施されるため予備照射作業は不要である。試料は規定量吸引され、フローセル内にとどまった状態で異性化される。この時、励起光に対してフローセルの体積が十分小さく、励起光である360 nmの紫外線がセル全面に照射されるため均一かつ短時間で異性化が完了する。

図2 手動方法と自動方法の比較(測定フロー)
図2 手動方法と自動方法の比較(測定フロー)

時間変化モードでクマリン1 ppm溶液にて各工程(洗浄、安定化、試料吸引、異性化、測定)の蛍光強度の変化を確認した(図3)。フローセルの洗浄時間は60秒とすることで蛍光強度がバックグラウンドレベルまで低下した。UV照射は15秒程度で異性化され蛍光強度値が最大となった。異性化後の安定した10秒程度を測定時間とした。1検体当たりの全行程は125秒となった。

図3 測定シーケンスの確認
図3 測定シーケンスの確認

拘束時間と全所要時間を表1(手動方法)および表2(自動方法)に記す。
手動方法では、前処理から測定まで立ち会う必要があるため、拘束時間=所要時間となる。20検体の場合52分、50検体の場合130分、100検体の場合247分となる(標準溶液+試験試料の検体数)。一方、自動方法では、試験管をラックにセットし、測定プログラムを実行するまでが拘束時間となる。全体の所要時間は手動方法と比較して1.5倍程度長くなるが、拘束時間は20検体の場合26分、50検体の場合65分、100検体の場合127分と半分程度となる。多検体であるほど拘束時間への効果が大きい。

表1 手動方法の拘束時間と所要時間
検体数 20本 50本 100本
拘束時間 52分 130分 247分
所要時間 52分 130分 247分
表2 自動方法の拘束時間と所要時間
検体数 20本 50本 100本
拘束時間 26分 65分 127分
所要時間 76分 190分 377分

自動測定システムの実試料の測定への適用

自動方法にて各濃度のクマリン標準液(混入率:0%、20%、40%、80%、120%)より検量線を作成した。それぞれの濃度におけるスペクトル重ね書きと得られた検量線を図4に示す。検量線の決定係数(R2)は、0.99996の良好な検量関係が得られた。
クマリン混入率が100%になるように調製した標準液を測定し、検量線の妥当性を確認した。その結果を表3に示す。クマリン混入率は103.8%と良好な結果が得られた。試験試料として、灯油および軽油中のクマリン混入率を測定した。灯油およびA重油には、クマリンが1 mg/Lの濃度(混入率100%)となるようにあらかじめ添加されている。灯油サンプルA、B、Cからは97.0~105.2%の混入率が得られた〔資源エネルギー庁石油部長通達(1991年3月22日)では、クマリン濃度は、1 mg/L(100%)に対して±15%の基準で添加〕。軽油サンプルA、B、Cは0%付近の混入率となった。このことから、灯油やA重油が混入していないことが確認された。
本クマリン自動測定システムは、低い濃度領域でも高精度の測定が可能であることが分かる。

図4 自動分注によるクマリン各濃度の蛍光スペクトルと検量線
図4 自動分注によるクマリン各濃度の蛍光スペクトルと検量線

表3 実試料の測定結果
サンプル 蛍光強度 クマリン混入率(%)
1 標準液(100%相当) 114.2 103.8
2 灯油サンプルA 115.8 105.2
3 灯油サンプルB 106.8 97.0
4 灯油サンプルC 111.8 101.6
5 軽油サンプルA 0.574 0.268
6 軽油サンプルB 0.431 0.139
7 軽油サンプルC 0.506 0.207

まとめ

構築したシステムは、試薬および試料を試験管に分取、撹拌後の試験管をオートサンプラーにセットするだけで、試料吸引・蛍光光度計の励起光で紫外線照射・蛍光強度が測定され、検量線の作成および試験試料のクマリンの定量が自動で行われる。
前処理の際、従来、試験管1本1本にスターラーチップを入れていたが、その作業が不要となること、異性化のための紫外線予備照射装置が不要となるという利点もある。フローセル全体に紫外線が照射されることで照射ムラがなくなり、均一に異性化されることで分析精度の向上も期待される。定量測定時、同時に蛍光スペクトルを取得されるため、スペクトルによる解析が可能である。本システムを用いることで、高い分析性能を保ちつつ拘束時間を約50%減らすことが可能となった。

謝辞

本測定システムの開発に際し、(一社)全国石油協会品質試験室・田中 立二様にはシステムの評価にご協力いただき、親切ていねいな御指導をいただきました。ここに感謝の意を表します。

出典

月刊誌「工業材料」2019年5月号掲載

著者紹介

堀込 純
(株)日立ハイテクサイエンス 光学設計部

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