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株式会社 日立ハイテクノロジーズ

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電子顕微鏡でなぜ生物試料が観察できるのか。
この単純な疑問は観察法や試料作製技術の開発の原点である。如何なる構造情報が像形成に寄与するかを知れば、それに合わせた試料作製法を考えられる。 難しい結像理論はともかくとして、電子顕微鏡の論理的な概要を知ることは正しい像解釈をする上で(生物試料観察でも)大切である。
ここでは、簡単な結像原理と電子線像の持つ意味を解説する。

(1) 電子顕微鏡と光学顕微鏡:像形成における類似と相違

電子顕微鏡の光学設計は基本的に光学顕微鏡と同じで、光(光線)の代わりに電子(電子線)を用いた顕微鏡である。しかし、光線を電子線に変えることにより、動作環境は著しく異なる。
電子は色として肉眼で識別できないだけでなく、電荷を持ち透過力が弱く、真空中でなければ他の粒子との相互作用で消滅し、電子線として取り出すことができない。したがって、光学系は真空中に置かなければならない。
また、電子線はガラスレンズでは屈折させることができず、磁気レンズ(電子レンズ)を使用する。
最終的な拡大像は蛍光板で電子を可視光に変換して観察する。 このような光学系のため、試料は真空中で維持でき、かつ電子線が透過できるほど薄くなければならない。これに伴い観察試料の作製過程も、ここまで解説してきたように光学顕微鏡とは大変異なる。 しかし、電子顕微鏡による像形成を理解するには光学顕微鏡の光学設計を学習することが必要である。
光学顕微鏡の歴史は長く、それだけ洗練された光学系の上に成り立っている。実際、最近の電子顕微鏡では光学顕微鏡では当然とも言えるケーラー照明法の採用を試みており、コンデンサー絞り、 対物絞りともそれぞれのレンズの焦点(クロスオーバーポイント)に挿入するなど、光学顕微鏡の良い点を意識したつくりになっている。
図1と図2はそれぞれ光学顕微鏡と電子顕微鏡の像形成の光学系(optical pass)である。この図から分かるように光学顕微鏡では対物レンズ群と接眼レンズ群の2群から構成されており、 試料は対物レンズにより拡大され接眼レンズの前焦点距離内に実像として結像される。さらに、この像を接眼レンズにより拡大し明視の距離に虚像として結像させている。 一方、電子顕微鏡では接眼レンズに相当する部分は投射レンズであるが、対物レンズとの間にはさらに中間レンズが存在し、変倍に寄与している。
最終的な拡大像は光学顕微鏡では光の吸収、回折によって生じる光子の密度分布像、また電子顕微鏡では電子の回折、散乱によって生じる電子の密度分布像である(強度コントラスト(amplitude contrast)像)。

光学顕微鏡では無染色の培養細胞は通常位相コントラストで観察する(位相差顕微鏡)。 これは位相を観察するわけではなく、位相板により背景光を1/4波長ずらし、試料により回折された光と干渉させ強度コントラストに変換し観察しているのである。すなわち位相は干渉させて初めて分かる情報である。
電子顕微鏡でも固定、染色を施さない試料を観察する時(クライオ電顕法)は、試料による回折のため位相がずれた電子を背景電子と干渉させて、強度コントラストに変換する手法をとる。 しかし、位相板は使用せず、5~10ミクロン程度不足焦点(under focus)とし、結像面で回折波の位相をそろえず、位相変化のない背景電子と干渉させるのが一般的である。

一方、荷電している電子とそうでない可視光とでは見える物も多少異なる。例えば、電子顕微鏡では電子線と相互作用するものであれば、リアルな物質でないもの、例えば磁束の動きや電流なども観察できる。
生物切片のように光学顕微鏡、電子顕微鏡どちらでも観察できる試料についても光学的には像質が異なる。それは図3に示しているようにレンズの性質に依存することである。
レンズの最外周部から試料表面を見込む「見込角」(開口数)が電子レンズの方が小さいため焦点深度が深く、試料のZ軸方向の大半にピントが合う(ボケが少ない)。 いいかえれば観察像は完全な投影像となる。一方、光学レンズでは電子レンズに比べ見込角が大きいため焦点深度が浅く、形成される像はいわば光学的切片像となる。

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