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日立ハイテクサイエンス

微量元素抽出(ICP)の原理と応用例をご紹介しております。是非ご覧下さい。

解説: ICP発光分光分析(ICP-OES) 原理と応用

1. はじめに

ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、ICP-OES/ICP-AES)が普及し始めて約25年が経過し、現在においては無機分析の最も汎用的手法の一つとして幅広く利用されている。その特長は、原子吸光分光法と比較されるケースが多い。原子吸光分光法の空気-アセチレン炎は励起温度が2000~3000Kであるのに対してアルゴンICPの励起温度が5000~7000Kと高温で多くの元素を効率よく励起する。また、不活性ガス(アルゴン)を用いると酸化物や窒化物が生成し難いことなどが知られている。

2.ICP発光分光分析法の原理

ICP(高周波誘導結合プラズマ)は英文のInductively Coupled Plasmaの頭文字をとったものであり、発光分光分析法の一つの手法です。分析試料にプラズマのエネルギーを外部から与えると含有されている成分元素(原子)が励起されます。その励起された原子が低いエネルギー準位に戻るときに放出される発光線(スペクトル線)を測定する方法です。発光線の位置(波長)から成分元素の種類を判定し、その強度から各元素の含有量を求めます。プラズマの生成には、アルゴンガスを流し、トーチ管の先端部においたワークコイルに高周波電流を流します。高周波電流によりトーチ管内に生成される電磁場によりアルゴンガスが電離されプラズマを生成します。このプラズマは高い電子密度と高温(10000K)を持ち、このエネルギーにより試料を励起発光させます。溶液試料は霧化された状態でトーチ管の中央の細管よりプラズマ内に導入されます。

3.ICPの分析化学的特長

ICP発光分光分析法は同様の目的で使用される原子吸光法と比較して以下に示す特長を持ちます。

  1. 多元素同時分析、逐次分析が可能
  2. 検量線の直線範囲が広い
  3. 化学干渉、イオン化干渉が少なく高マトリックス試料の分析が可能
  4. 高感度である(検出下限は大半の元素に対して10ppb以下)
  5. 測定可能元素が多い、原子吸光法で困難なZr、Ta、希土、P、Bなども容易に分析できる
  6. 安定性がよい

これらの特長の大半は光源としているプラズマの構造、特性により生じています。

4.装置

1) シーケンシャル型

回折格子を回転させ、波長をスキャンすることにより目的の元素の波長を取り込みます。高い分解能が得られるため、金属をはじめとした多くの材料分析に広く普及しています。 回折格子は分光器の分解能を決める重要な要素のひとつとなっています。回折格子の刻線数が多いものが、波長分解能が高くなります。焦点距離75~100cmの分光器では、一般的に1800~2400本/mmの刻線数の回折格子が使用されます。更に高分解能を得る目的で3600本/mmやそれ以上の刻線数を使用する場合もありますが、その場合は400nm以上の長波長側の測定はできません。

発光分光分析装置は、高周波電源部、分光部、検出部、データ処理部などから構成されています。分光部、検出部の違いにより、いくつかの形式に分かれますが、以下に代表的なツェルニータナー型を例として説明します。

[ツェルニータナー型]
入り口スリットから入った光が、コリメーティングミラーで平行光となり、回折格子で分光されてカメラミラーにより出口スリットを中心に分散され、スペクトルを結像します。スペクトルの中でスリット上に集光した波長のみが検出器に導かれます。回折格子を回転させることで回折方向が変わるのでスペクトル上に集光する波長を変えることができます。成分元素のスペクトル線の波長に合わせて回折格子を回転させて目的元素の存在を確認します。


図1 シーケンシャル型ICP発光分光分析装置

2) 多元素同時分析型(マルチチャンネル型)

シーケンシャル型との大きな違いは回折格子を固定していることです。回折格子を固定し、分散された光を一度に同時に検出器に取り込む方式です。光の分散のさせかたにより、エシェル型とパッシェンールンゲ型の2つの方式があります。

[パッシェンールンゲ型]
入り口スリットの反対側に凹面回折格子を設置します。格子面の曲率半径を直径とする円(ローランドサークル)を仮定すると、回折された光は分散されて反対側の円周上に焦点を結びます。この焦点上に検出器を配置し、成分元素のスペクトル線を測定します。最も明るい1次光のみを測定対象とするので、感度は高くなります。


図2 多元素同時分析型ICP発光分光分析装置(パッシェンールンゲ型)

[エッシェルクロス型]
分光部にはエッシェルクロス型のものを使用し,検出部にはCCD等の半導体検出器を使用したものが代表的です。エッシェルクロス分光器はプリズムとエッシェル回折格子を組み合わせることにより測定可能な波長域の光を検出器上に二次元に分散させる分光器で、これとCCD検出器と組み合わせることにより任意の波長の多元素測定を行うことができます。この装置の特長は高速測定にあり、通常1~2分程度の測定で測定可能な72元素全てについての知見を得ることができます。


図3 多元素同時分析型ICP発光分光分析装置(エッシェルクロス型)

5. 応用例

1) 鉄鋼分析 ICP発光分光分析の主要な応用分野のひとつが素材分析です。鉄鋼資料の分析を行った例を示します。

  • 装置: シーケンシャル型ICP発光分光分析装置SPS3000型
  • 試料: JSS鉄鋼標準試料150番台(強靭鋼)0.5gを塩酸―硝酸の混酸に溶解し100mLとしたもの
  • 標準液: 純鉄(99.99%)0.5gを溶解し100mLとしたものをブランクとし、これに測定元素8元素の標準液を添加したものとで検量線を作成した(マトリックス合わせ法)
  • 分析条件: このような高マトリックスの試料ではマトリックス元素(この場合は鉄)などによるスペクトルの重なりが発生することがあるためスペクトルプロファイルを確認し、もっとも最適な分析波長を選択し測定を行う。
  • 分析結果: 測定した3件の試料についての結果と標準試料としての認証値を表に示す。非常に良好な一致を示していることがわかる。
  • 分析結果: 測定した3件の試料についての結果と標準試料としての認証値を表に示す 非常に良好な一致を示していることがわかる

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2) バストネサイトの分析

バストネサイトはランタニド希土類の鉱石です。希土類は原子吸光法で分析する場合には光源ランプが入手しにくいことや、希土類が酸化物を生成しやすく原子化が行いにくいなど問題点が多いが、ICP発光分光分析ではこれらの問題はほとんどないため、ICP発光分光分析が多用される分野のひとつです。希土類を分析する場合の大きな問題点は希土類の発光線の数が多いため分析波長に対する近接線の干渉がおきやすい点です

  • 分析条件: バストネサイト 0.5gをフッ化水素酸、硝酸、過酸化水素水で処理し溶解し100mLとした。
  • 分析結果: 希土類以外の元素と希土類の分析結果を表に示す。含有量30%の酸化セリウムから含有量0.11%の酸化ユーロピウムまで定量できている。


表2 バストネサイト分析結果

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3) 毛髪分析

人の毛髪は、健康の履歴がある程度残されていると思われること、体内に入った重金属類のひとつの排泄器官となっているのではないかなどの点で注目されています。しかし、使用できる量が少ないこと、多元素に関する知見が要求されることなど分析を行う上での問題も多々あります。多元素同時分析型の装置を使用することにより、少量の試料で有益な知見を得ることが可能となります。

  • 装置: 多元素同時型ICP発光分光分析装置 Vista-PRO
  • 試料: 毛髪を洗浄後 0.5g秤量しこれを分解容器中で硝酸により分解しこれを10mLとしたもの
  • 分析結果: スペクトルプロファイル、分析結果の一部を示す。


表3 元素分析結果

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4)環境水

環境水の模擬資料として塩化ナトリウム3%溶液の4時間連続噴霧測定を、 アルゴンガスを半減した低消費プラズマを構築するためのシステム Active Flowを用いて行いました。

  • 装置: シーケンシャル型ICP発光分光分析装置SPS35DD+Active Flow
  • 試料: NaCl3%水溶液に標準溶液を1ppmになるように添加
  • 測定内容: 検量線を作成後、試料溶液を4時間連続噴霧。約6分間おきに42回測定。
  • 分析結果: 海水相当の塩化ナトリウム3%溶液において、長時間安定した測定が可能となっています。
表4 測定結果
元素名 B Cd Co Cu Fe Mg Ca Mo Si V Sb
平均 0.97 0.99 1.00 0.98 0.99 0.97 1.01 0.99 0.97 0.98 0.97
CV% 1.3 1.3 1.2 1.1 1.2 1.2 0.7 1.1 1.6 1.0 2.5

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6.まとめ

ICP発光分光分析法は現在、汎用の分析手法としては高く評価されており、国内での装置稼働台数は2000台を超えています。 環境測定の手法としても原子吸光法、ICP質量分析法と並んで重要な地位を占めており、今後さらに利用が拡大すると推定される手法です。

解説: ICP質量分析装置(ICP-MS)の原理と応用例

1. はじめに

ICP質量分析装置(高周波誘導結合質量分析装置、以下ICP-MS)は1980年はじめにHouk、Grayらによって発表されその数年後の1983年に製品化されて以来、約20年経過しており、現在様々な業界で幅広く普及されている。特に半導体業界での利用は多く、時代とともに要求が厳しくなる高純度物質の品質管理のための分析法として活用されている。また、環境試料中の微量の有害金属分析等への応用が期待され、特に最近は、環境分野における各種公定法の改正に伴い、環境基準値、排水基準値の低下に対応するためICP-MSが採用されている。

ICP-MSは次のような特長を有する。

  1. 高感度分析が可能。ほとんどの元素の検出下限値がpptからppqオ-ダ-である。
  2. 多元素同時分析が可能である。
  3. 定性、定量が迅速にできる。
  4. ダイナミックレンジが8桁と広い。
  5. 同位対比の測定が可能である。

2. ICP-MSの構成

ICP-MSはイオン源(ICP)、サンプリングインターフェイス、イオンレンズ、質量分析計、検出器から構成される。
イオン源であるICPは質量分析のためのイオン化源としては理想的であり、多くの元素が90%以上イオン化する。ICP内で生成したイオンは、サンプリングインターフェイスを経て質量分析部に導かれる。サンプリングインターフェイス部はサンプリングコ-ン(オリフィス径0.5から1mm程度)とスキマーコーン(オリフィス径0.5から1mm程度)の2つの金属でできた円錐状の形をしたもので構成され、この両者の間はロータリーポンプにより約数百Paに排気される。サンプリングコーンとスキマーコーンを通して引き込まれたイオンは、イオンレンズによりその軌道を質量分析計へ収束される。イオンレンズ、質量分析部はタ-ボ分子ポンプによりそれぞれ10-3、10-4Paに排気される。質量分析計により質量選別されたイオンはイオン検出器により検出される。

3. 応用例

3-1 極微量濃度の分析

ICP-MSの問題点の一つに、目的元素と同じ質量数のイオンや分子イオンのスペクトルが重なり干渉を及ぼすスペクトル干渉がある。このスペクトル干渉を分類すると次のとおりになる。

  1. アルゴン起因の分子イオン(ArO、ArH、ArOH、ArN、ArCl、ArC、ArArなど)
  2. 試料中の主成分元素起因の分子イオン(CaO、CaOH、NaO、NaOHなど)
  3. 試料の液性が原因となる分子イオン(ClO、SS、NOなど)

特に1)は、プラズマガスであるアルゴン(Ar)が主要因になるため、どの試料においてもまんべんなく干渉を及ぼす。したがって、Ar分子イオンの干渉を受ける元素は、測定時にバックグランドが高い状態で測定することになり、極微量濃度の測定においては、非常に不利な状態になる。


表1にAr起因の分子イオンの影響を受ける主な元素を示す。特に、K、Ca、Feの元素に及ぼすAr分子イオンのレベルは、それぞれの元素の濃度に換算して数十ppbから数百ppbになり、この状態下でのpptオーダーの分析はほとんど不可能になる。そこで、Ar分子イオンの影響を受ける元素の極微量濃度の分析手法としてクールプラズマによる測定法がある。クールプラズマとはその名のとおり、通常のプラズマに比べ、温度の低いプラズマ状態を指す。クールプラズマの状態では、Ar分子イオンはできにくい状態になる。そのため、バックグランドが極力低くなる。その結果、検出下限が向上する。表2にクールプラズマ条件による検出下限値(DL)とバックグランド相当濃度(BEC)を示す。バックグランドのレベルが1ppt以下に低減できるため、pptオーダーの分析が可能になる。

3-2 環境分析試料の測定例

河川水や湖沼水、海水といった環境試料には測定元素以外のマトリックス成分が多く含まれる。このマトリックス成分はICP-MSで測定を行う場合、いろいろな問題が発生する。その一つにはクールプラズマの説明で述べたスペクトル干渉がある。クールプラズマはアルゴン起因の分子イオンは低減できるが、試料中に含まれる元素の分子イオンは逆に多くなる。またマトリックスによる感度の減感作用が大きいため環境試料には事実上用いることができない。したがって別のアプローチを用いてスペクトル干渉を低減する必要がある。分子イオンには何種類かの形態があり、そのなかで特に酸化物の分子イオンの影響が大きい。酸化物イオンの生成は試料中の水(H2O)の酸素から酸化物イオンになる割合が大きい。したがって試料の水分の割合を減らすことによって酸化物の生成はかなり低くすることができる。また、プラズマ条件や真空部のサンプリングインターフェイスの形状などによっても酸化物の生成割合は大きく変わるため、これらを最適化することにより酸化物の生成を下げることができる。SPQ9000では、微少量ネブライザー(水分量を低下)、スプレーチャンバーの冷却(脱水効果)、環境分析試料用のプラズマトーチ(プラズマ条件を分子イオンができにくい状態にする)、環境分析試料用のコーン(分子イオンの生成を低くする)を用いることによりスペクトル干渉を少なく測定が可能になる。

表3に日本分析化学から販売されている標準河川水(JAC0031)の測定例を示す。

3-3 クロマトとの接続例

有害元素にはヒ素やクロム、臭素などのように化学形態によって毒性の異なるものがある。ICP-MSで測定する場合、トータルの濃度の情報しか得られないので毒性の大きさまではわからない。そこで最近では化学形態別に分析するためにイオンクロマト(以下IC)、液体クロマト(以下HPLC)といったクロマト装置と接続する手法が注目されている。この場合、ICP-MSはクロマト装置の検出器として活用され、クロマト装置単体のときに比べ高感度化を図ることが可能である。ここではICと接続して水道水中の臭素酸イオンと臭化物イオンを同時に分析した例を紹介する。

臭化物イオン自体には有害性はないが、水道水の消毒にオゾン処理を用いると副生成物として臭素酸イオンが生成される。この臭素酸イオンには有害性がある。そこで臭素が臭素酸イオンとしてどのくらい含まれているか判明することは重要である。ICはダイオネクス株式社製DX-500を用いた。

図4にICと接続したときの臭素酸イオンと臭化物イオンの測定結果を示す。


また、表4には、IC単体で測定した場合(IC法)とICP-MSと接続したとき(本法)の検出下限を示す。


注入量を500µLにした場合ではICのみに比べ検出下限が20倍以上向上した。

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