サステナビリティへの取り組み
SDGsが持続可能な世界への目標年とした2030年まで残り4年、カーボンニュートラル目標年の2050年までは25年を切りました。これらの達成には、脱炭素やサーキュラーエコノミーにつながる新素材や新製法の開発を、スピード感を持って進める必要があります。そこで大きな役割を果たすのが、製造業(モノづくり)です。
これまで日立ハイテクは、電池、半導体、高機能素材などのさまざまなモノづくり現場を支援し、生産性向上や技術革新の一翼を担ってきました。これらの技術や得られたナレッジと、最新AIエージェント を組み合わせたのが、HMAX Industryです。
このソリューションは、計測装置の使い方や最適プロセスを提案するフィジカルAIにより、材料開発や製造の高度化実現をめざします。
HMAX Industryを構成するAIをはじめとするDX(デジタル・トランスフォーメーション)技術を統合して誕生したソリューション群が「PROACCELA(プロアクセラ)」です。
PROACCELAを活用することで、一部のベテランの経験や勘に依存し、膨大な時間やコストをかけて行っていた開発プロセスを効率化。導入した現場では、大幅な期間短縮を実現できている事例も出ています。
運用にあたっては、カスタマーサクセスとデータサイエンティストが伴走し、課題の抽出や解決をサポート。「AIと人のチーム」が革新的な製品や素材の誕生を後押しし、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
脱炭素やサーキュラーエコノミーの実現には、革新的な新製品や新素材を、これまで以上のスピードで世に送り出すことが求められます。希少金属を使用しない電池、環境負荷の低いプラスチック、CO2を吸収する新素材や廃材のアップサイクル技術など、ほぼゼロベースからの開発を要するケースも少なくありません。
しかし、研究開発から量産までには、膨大な時間やコストなど多くの壁が立ちはだかります。ベテラン技術者の経験と勘に依存する部分も多く、こういった人財の退職や少子高齢化による人手不足も深刻化しています。
こうした課題をワンストップで解決するために、日立ハイテクが提供するのが「PROACCELA」。電池、半導体、高機能素材などさまざまなモノづくり現場の課題解決を通して蓄積してきた知見と、産業用AIをはじめとするDX技術を統合した新しいソリューションです。
PROACCELAはデジタル技術を活用し、R&Dから量産立ち上げのフェーズで、データ利活用・データ収集・データ探索という3つの役割を担います。そのために「Analyst(アナリスト)」、「Discoverer(ディスカバラー)」、「Coordinator(コーディネイター)」という3つのソリューションを展開しています。
PROACCELA Analystは、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)やプロセス・インフォマティクス(PI)と言われるインフォマティクス技術を活用し、高度な開発や量産立ち上げを支援し、開発の加速や歩留まりの改善をサポートします。
過去の実験や試作データをAIが学習し、試作をせずに性能予測を行うことや、次に試すべき実験や試作の条件を抽出することが可能です。
こうして、ベテランが経験と勘によって当たりを付けて実験を繰り返す方法から、データ駆動型に転換することで、実験や試作回数を削減し、開発期間を大幅に短縮します。また、実験や試作に使用する材料や廃棄物の量を削減できるため、コストやCO2排出量の削減も可能になります。
生成AIやケミカルズ・インフォマティクス(CI)を活用した短期間で高度な探索をサポートするのがPROACCELA Discovererです。
特許や事例の探索に、研究者は多くの時間を費やしています。生成AIは探索時間を短縮するだけでなく、実験や試作フローのプロセス条件の確認を行えます。
例えばリチウムイオン電池の製造工程にある、スラリーの製造プロセスを表形式やフロー図などで抽出が可能。次の一手を思考するAIパートナーです。
CIは化合物の探索を行えます。全世界1億件以上の化合物データを網羅し、その中からAIが素材開発に有望な化合物の組み合わせを探索。約8,300万件 の特許情報や論文とも紐づき、権利侵害などのリスクを回避し、特許空白地帯の開発を可能にします。
データを活用するにあたり、データ収集やデータ管理などをサポートするのがPROACCELA Coordinatorです。
お客さまの実験や試作、評価データなどの一元管理を行い、利活用を目的としたデータセットを作ります。また、さまざまなデータの結合をするデータ管理システムにより、より活用しやすいデータに整えます。
産業・社会インフラ事業統括本部 インフォマティクス推進部 ・主任の川中理佐は、PROACCELA誕生の背景をこう説明します。
「研究開発者に向けて2017年にMIの、20年にCIのサービスを始めました 。そこに実験データ収集サービスや、量産設計の段階を担うPIや生成AIも加わり、これらを統合したソリューションとしてPROACCELAが誕生しました。そもそもデータを作る部分には、ハイテクの計測装置があります。開発現場や量産立ち上げ時の課題解決に貢献するサービスをワンストップで行うことで、日立ハイテクとして提供できる価値を高めたいと考えました」
PROACCELAの本格的なサービス展開は始まったばかりですが、すでに国内では課題を解決した複数の事例があります。
従来は「試作条件の設定・試作・評価」を200サイクル繰り返していたのを、MIによって100サイクル以上短縮。先入観を持たないAIによって、過去に思い付けなかった新しい試作条件も発見した。
生分解性プラスチックの加水分解性と強度の両立が可能な添加剤をCIによって探索し、31万通りの組み合わせから3種類を選定。人の手で3年かかっていた素材選定・評価の期間を2ヵ月に短縮し、特許申請を果たすこともできた。
半導体に使用する金属薄膜材料の候補を、CIが60万通りの組み合わせから2種類に絞り込んだ。さらに、MIが過去の実験データをもとに製造条件を最適化。素材選定の実験回数を90%以上、製造条件の実験回数を約80%削減した。
データ利活用による「仮説検証型」×「データ駆動型」への変革を実現すべく現場課題の整理を行い、スピード感を持った戦略立案を実施。実現に向けた伴走支援により、データを活用して意思決定を行う組織変革を支援。
SEM(走査電子顕微鏡)が撮影したリチウムイオン電池の中間工程品(試作品)の画像データをもとに、PROACCELA Analystが量産時の性能を高精度に予測。現場で根拠をもって予測結果を活用できるようになり、製造ライン立ち上げ時の試行錯誤や作業者負担の削減に寄与。
上記以外のお客さまからは「これまで開発者の育成に2〜3年かかっていたのが、MIによって未経験の若手が2〜3ヶ月でベテランに近い考察が行えるようになった」という声も上がっています。PROACCELAは、人財育成のスピードアップにも貢献できる可能性が示唆されました。
5つの事例が示す通り、PROACCELAを構成するコア技術の一つが製造業に特化した産業用AIです。私たちの身近に普及している汎用AIに対し、産業用AIは特定の産業のニーズを満たす高度な機能を搭載しています。
例えば実験プロセスの効率化を目的としたPROACCELA Analystの場合は、配合比率や製造プロセス条件から生成物の仕上がりを予測する「順解析」と、目標とする生成物から配合比率や製造条件を割り出す「逆解析」を行うことができます。
身近な例に例えると、パンづくりのようなイメージです。材料をこねる回数や焼く温度から仕上がりの味や食感を予測するのが順解析、目標とする味や食感から作り方を割り出すのが逆解析といえます。PROACCELA Analystではこれら2つを必要に応じて使い分けることで、実験にかかる時間や手間、コストの大幅な削減を可能にしました。
AIは人では到底把握できない膨大な量のデータを網羅し、その中から短時間で最適解を提示できます。しかし、AIに全てを任せれば良いわけではありません。
例えば「実験データ」といっても数値や画像などさまざまなデータの種類があり、これらをAIが取り込みやすいよう収集・管理する必要があります。AIが出力したデータを正しく読み解いたり、AIの提示した内容が本当に正しいのかを判断したりするスキルも求められます。
さらには、開発現場のどこにどんな課題があるのかを発見し、その解決にどのようにAIを活用するのか、全体的な構想を描くことが何よりも重要です。これらの役割は「人」にしか担えません。
そこで活躍するのが、データ分析、データの利活用方法を提案する「データサイエンティスト」、製品やサービスを利用するユーザー体験全体を設計する「UXデザイナー」、課題解決に必要な要件を把握し、最適なシステムを構築・導入する「ITコンサルタント」といった各分野のスペシャリストです。
これらのスキルを持った人財がお客さまへのヒアリングやコンサルを通して、PROACCELAの導入効果を最大限に発揮できるような設計を行います。実際に設計した仕組を運用するために伴走支援があり、データサイエンティストとカスタマーサクセスがお客さまに寄り添った活用支援を実施します。
産業・社会インフラ事業統括本部 インフォマティクス推進部 兼 コアテクノロジー&ソリューション事業統括本部 事業戦略本部 ソリューション事業創生部 兼 Lumada事業推進本部Lumadaソリューション支援部・ 主任技師の林貴之は、こう説明します。
「『カスタマーサクセス』という視点を持つことがとても重要と考えています。単にプラットフォームをご提供するだけではなく、目の前のテーマ・データに対してどのようにインフォマティクス技術を適用していくか?適用することでどのような成果につながるか?いつまでにその成果を出すことを目標とするか?という点まで伴走し、丁寧にサポートさせていただきます。このように、お客さまが課題解決につなげていただけるようにサポートする点も我々の仕事であると考えています」
すでに、「過去の実験データを探し出せない」「データがあっても結合できない」といった課題を抱える開発現場を伴走支援し、PROACCELA Coordinatorを活用して整備しインフォマティクス技術を活用できる環境を整備した事例もあります。
産業・社会インフラ事業統括本部 インフォマティクス推進部 の齊藤快は、続けます。
「まず、お客さまは何を望んでいるのか。ありたい姿を実現するにはどんな課題を、どう解決すれば良いのか。道筋を整理することが大切です。対話を重ねる中で、お客さま自身も気づいていなかった課題が明らかになるケースも少なくありません。どんなにAIが進化しても、困り事を解決するパートナーを担えるのは人だと思います」
今後は、他のソリューションとの連携も強化していく方針です。一例として、日立ハイテクは電子顕微鏡をはじめ計測・分析・解析を行う装置の幅広いラインナップを有しており、これらとPROACCELAを組み合わせることで、さらなる価値向上をめざします。
海外展開も視野に入れています。産業用AIを開発・運用するノウハウは、さまざまなモノづくり現場の課題解決に貢献してきた日立ハイテクが得意とするところです。こうした強みを生かし、グローバルなレベルでお客さまや社会の課題解決を担えるソリューションへの進化をめざします。
産業・社会インフラ事業統括本部 インフォマティクス推進部 ・主任の川中理佐は、PROACCELAの導入効果についてこう考えを述べます。
「世の中では『 AI が人の仕事を奪う』といった声もありますが、それは違うのではないかと考えています。PROACCELAが効果を発揮できるのは、研究開発者や量産設計者が長年培ってきた知見やデータがあるからこそ。現場の皆さまはPROACCELAによる効率化で生まれた時間を活用し、より高度な研究や意思決定に集中できるようになることで、さらなる高度化や加速につながると考えています」
日立ハイテクグループは日立グループサステナビリティ戦略PLEDGES*のもと、一定のプロセスを通じて選定した経営上の重要課題を「サステナビリティ注力領域」として定めています。
*PLEDGES:日立グループの持続的成長のためサステナビリティを経営戦略の中核に据えた「サステナブル経営」の深化をめざし、グループ全体で取り組んでいくサステナビリティ戦略。
モノづくりの現場に変革をもたらすPROACCELAとの関係が最も深いのは「科学と産業の持続的発展への貢献」です。海外が主導する汎用AIに対して、産業用AIは日本が強みを発揮できる領域です。日立ハイテクはその一員として、日本の産業力強化に貢献していきます。
PROACCELAは、他の4つの領域にも間接的に貢献します。PROACCELAのサポートを得て生まれた新製品や新素材は「持続可能な地球環境への貢献」や「健康で安全、安心な暮らしへの貢献」を実現します。
研究開発がスムーズに行えるようになることは製品化が加速し「健全な経営基盤の確立」につながります。さらに、ベテラン技術者の経験と勘に依存していた開発プロセスを若手がデータをもとに考察することも可能になり「多様な人財の育成と活用」も大きく前進します。
産業・社会インフラ事業統括本部 インフォマティクス推進部 兼 コアテクノロジー&ソリューション事業統括本部 事業戦略本部 ソリューション事業創生部 兼 Lumada事業推進本部Lumadaソリューション支援部 の 柘植悠太は、こう未来を見据えます。
「近年は技術トレンドが高速で進化しており、少し前には考えられなかった技術が次々に実用化されています。日立ハイテクとしてもスピード感を持ってソリューションを提供する必要がありますが、どんなに優れた技術でも社会的なニーズがなければ意味がありません。引き続きお客さまの課題を発見し、その解決に貢献していきたいですね」
「PROACCELA」という名称は「プロフェッショナルに加速すること」に由来します。DXやデータ利活用のプロとしてモノづくりの現場を支援し、革新的な新製品や新素材の開発を加速させる。それが、さまざまな社会課題解決の「加速」にもつながっていきます。