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イベントレポート
2026
日本再生医療学会
[再生医療事業化ストーリー]
第25回日本再生医療学会総会
2026.06.12
再生医療は、いま産業化の正念場を迎えています。細胞を培養し、品質管理を行い、患者のもとへ届ける――その一連のプロセスを、誰が、どのように設計するか。技術の進歩が加速する一方で、工程をつなぐ「連携の設計」が、この分野の社会実装に重要な要素として浮かびあがってきました。2026年3月、神戸国際展示場で開催された第25回日本再生医療学会総会。日立グループは「One Hitachi」の名のもと、施設・装置・製造管理・データ基盤において専門性を持つ4社・部門が連携し、再生医療のバリューチェーン全体を一気通貫で支えるという提案を携えてブースに立ちました。本記事では、「連携の設計」という問いに対して「One Hitachi」が提示した、再生医療の未来図を紹介します。
2026年3月19日(木)~ 21日(土)
再生医療の現場では、ひとりの患者に届くまでに、じつに多くの組織が関わっています。細胞を採取する医療機関、運ぶ物流企業、加工・製造する製薬企業や医薬品の製造を受託する企業(CDMO)、そして投与する病院。それぞれが異なるシステムで動き、情報の分断が起きていました。施設の整備から装置の選定、記録の管理、トレーサビリティの確保まで、バラバラに調達・構築しようとすれば、コストも運用の負担も大きくなります。
今回の展示で日立グループがめざしたのは、この分断に対して「ひとつの物語」として答えることでした。
今回出展した4社の役割
こうした役割分担により、「施設・環境」と「データ・IT」という二つの軸を交差させたグループ連携の骨格が浮かびあがります。
■ソリューションの概要・特長
再生医療等製品のバリューチェーンには、医療機関・物流企業・製薬企業・CDMOなど多岐にわたるステークホルダーが関与する。日立グループはIT・OT両面からこの全体像を支えるソリューション群を展開している。(日立製作所提供)
再生医療製品の製造における重要な課題のひとつが、品質の再現性です。ヒトの細胞は繊細で、培養条件のわずかなばらつきや作業者の手技の違いが、製造品質に直結します。熟練者の経験と勘に頼ってきたこのプロセスをどう標準化するか――その問いに、日立ハイテクとHPSは異なる技術の切り口から向き合っています。
[1] 製造プロセスの自動化: 日立ハイテク
日立ハイテクが展示した細胞自動培養装置「iACE mini (アイエースミニ)」は、2025年10月に製品化された浮遊系細胞培養をターゲットとした小型モデルです。細胞の播種・培養・培地サンプリング・上清回収・細胞回収の各工程を自動化し、人の手技に依存しない均質化を支援します。G-Rex100M-CSの市販容器に対応し、完全閉鎖系の流路キットで無菌性を維持する設計です。タッチパネル操作とステータス表示LEDによって装置の状態をひと目で把握できる点も、現場での使いやすさを意識した工夫のひとつです。
細胞自動培養装置「iACE mini」。細胞の播種から回収まで各工程を自動化する小型モデルとして、2025年10月に製品化されました。
iPS細胞等の接着系細胞の大量培養に対応した「iACE2(アイエースツー)」は、最大10個の大容量培養容器(512 cm3)を搭載できるモデルです。バリデーション(システムの信頼性検証)(CSV※含む)が可能な設計、監査証跡機能、過酸化水素ガスによる除染を考慮した筐体など、商用製造の現場が必要とする管理機能を備えています。
■完全閉鎖系の模式図
iACE2の完全閉鎖系流路の概念図。培養容器や培地の流路を密閉システムで構成し、無菌環境での細胞培養を可能にする設計です。
[2]エンジニアリング・品質管理:日立プラントサービス
一方、HPSが担うのは「製造施設そのものの品質」という領域です。薬機法・GCTP※に対応した細胞培養加工施設の設計・施工において20年・50件超の実績※を持ち、大学・研究機関から製薬企業・医療機関まで幅広い導入実績があります。高い清浄度と厳格な品質管理が求められる施設において、HPSはその設計・構築をワンストップで支援しています。
日立プラントサービスが手がけた細胞培養加工施設の施工事例。薬機法・GCTP対応の施設設計・構築において、20年・50件超の実績*を持ちます。(HPS提供)
自動化による製造プロセスの均質化と施設の品質管理。両者が揃うことで、安定した品質の再現に寄与します。
[3]施設(CPF)の設計・構築: 日立グローバルライフソリューションズ
その土台となるのが、日立GLSが展示した次世代モジュール型細胞培養加工施設(CPF)です。ダクトを省略したモジュール構造で設計・施工期間の短縮が見込めるほか、IoTインターフェイスを介した多拠点管理や製造データの蓄積・活用にも対応しています。
次世代モジュール型CPFの構造比較図。従来のダクト方式に比べ設置スペースの制約を受けにくく、また、お客様の事業計画に応じ異なる建物環境にも同一環境を複製しやすい利点があります。(日立GLS提供)
直近の導入事例として紹介されたのは、アイパークインスティチュート株式会社およびMinaris Advanced Therapiesとの協業による湘南アイパーク内の賃貸型細胞培養加工施設です。GMP・GCTP準拠の施設を自社で持つには高額な費用と専門人材が必要になりますが、この賃貸型施設は、スタートアップや研究機関が製造に踏み出しやすくなる選択肢として位置づけられます。施設があってこそ、製造データが生まれ、管理・追跡の基盤が動き出します。
湘南アイパーク内に新設された賃貸型細胞培養加工施設。日立GLSが開発したモジュール方式が採用されており、2025年11月に稼働を開始しました。(日立GLS提供)
[4]情報基盤: 日立製作所
製造の現場を自動化・可視化するだけでは、再生医療の産業化には完結しません。その先にあるのは、バリューチェーン全体をデータでつなぎ、情報の分断を解消するという課題です。日立グループはここにも、IT・OTの両面から取り組みを進めています。
日立製作所の「HITPHAMS for RM (Hitachi Pharmaceutical Manufacturing Execution System)」は、製造指図・実績・品質記録を電子化し、製造現場と経営層をつなぐ製造管理システムです。製造実行システム(MES)とも呼ばれるこの仕組みにより、バーコードによる取り違え防止、音声・画像による作業支援、フロー図での手順定義など、再生医療分野の製造現場が必要とする機能を一元的に管理します。
再生医療分野向け製造管理システム「HITPHAMS for RM」の機能概要。製造指図から品質記録、出荷判定まで、製造現場に必要な機能を一元的に管理します。(日立製作所提供)
一方、「HVCT RM (再生医療等製品バリューチェーン統合管理プラットフォーム:Hitachi Value Chain Traceability service for Regenerative Medicine)」は、その製造現場の外側──病院・物流・製薬企業・CDMO(受託製造企業)といった複数の関係者が、細胞の採取から投与までのプロセス全体をリアルタイムで共有・追跡できるクラウドサービスです。患者ごとに細胞と製品を紐づける個体識別(COI)と、流通過程全体の追跡管理(COC)を支援し、取り違えリスクの低減と規制への対応の両立を支援します。
再生医療等製品のバリューチェーン全体における情報連携を支援する「HVCT RM」の概念図。患者ごとに細胞と製品を紐づける個体識別(COI)と、流通過程の追跡管理(COC)を通じて、医療機関・物流・製薬企業などの関係者間で情報を共有し、取り違えリスクの低減やトレーサビリティの確保に寄与します(日立製作所提供)
これまでこの2つのシステムは独立して動いており、製造現場のデータをバリューチェーン管理システムへ連携するには、担当者が手作業で転記する必要がありました。その分断を解消する新機能が、2026年3月18日に提供開始となりました。製造現場のデータと流通・治療スケジュールの情報がシームレスに連携することで、これまで電話・メール・紙による手作業が多かった工程間の情報共有が、リアルタイムで可視化されます。
さらに日立は、この連携によって蓄積されるデータを活用し、ドメインナレッジと先進AIを組み合わせた産業分野向け次世代ソリューション群「HMAX Industry(エイチマックス インダストリー)」の再生医療分野への展開にも注力しています。製造効率化や開発期間の短縮など、現場のさらなる革新をめざした取り組みが続きます。
施設、装置、製造管理、データ基盤――異なる専門性を持つ4社・部門が連携することで、個々での対応が困難だった問いに答えられます。「One Hitachi」とは、そのための構造であり、再生医療の産業化に対する日立グループの姿勢そのものです。
再生医療の実用フェーズが加速するなか、日立グループはグループ横断の連携をさらに深めながら、この分野の可能性を広げていきます。
2026年3月20日、玉田耕治先生(山口大学大学院医学系研究科 免疫学講座 教授)の座長のもと、日立製作所の大熊敦史さん(Next Research 主任研究員)と吉村昭彦先生(東京理科大学大学院 分子病態学部門 教授)が登壇。「自分の免疫細胞でがんを治す」その可能性を追う最前線が共有されました。いま注目を集めているのが、CAR-T細胞療法※の研究です。患者自身の免疫細胞を遺伝子改変してがん細胞を攻撃させるこの技術は大きな可能性を秘めている一方、「細胞が疲れてしまう」「高齢者では効果が出にくい」といった課題も残っています。
大熊さんは、AIとロボットを活用してより優れた細胞候補を効率よく探し出す「デザイン細胞開発プラットフォーム」を紹介しました。従来は時間と手間のかかっていた細胞の設計・評価のプロセスを大幅に自動化する取り組みであり、研究開発のスピード向上が期待されています。
続いて吉村先生からは、細胞が疲弊しにくく長く働き続けられるよう、培養方法や遺伝子改変によって細胞の質を高める研究が報告されました。特定の培養条件や遺伝子の改変を組み合わせることで、高齢ドナー由来の細胞でも改善の可能性が基礎研究の段階で示されています。
いずれも現時点では研究・開発段階であり、実際の治療への応用にはさらなる検証が必要です。設計から製造・情報管理までを支える日立グループの取り組みと、こうした細胞の質そのものを高めようとする研究が交わるところに、CAR-T細胞療法の次のステージが見えてきます。