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自動分析装置 お客様の声(製品導入事例)
- LIGARE 血液内科太田クリニック-

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これより先のページは、日本国内の医療関係者の方を対象に日立ハイテク製品に関する情報を提供することを目的としています。
一般の方および日本国外の医療関係者への情報提供を目的としたものではありませんのでご了承ください。

血液疾患専門クリニックの先駆け

2020年5月に開設2周年を迎えるLIGARE 血液内科太田クリニック・心斎橋(大阪市中央区)は血液疾患の専門クリニックのモデルケースになるという日本では前例がない目標実現に向けて実績を積み重ねてきた。血液疾患を取り巻く状況と医療政策のミスマッチを解消する架け橋のような医療機関が地域に必要なのではないかと院長の太田健介氏が発想した。開設時の思いや現状、今後の展望について話を聞いた。

血液疾患専門クリニックの先駆け
太田 健介氏
太田 健介氏

―開設の経緯を教えてください。
太田氏 背景には2つの危機感がありました。まず血液内科という診療科に特有の問題です。悪性リンパ腫や白血病といった血液疾患は抗がん剤や免疫抑制剤などによるフォローが難しく、患者さんの100%近くが病院で治療を受けています。近年は高齢化に加えて、治療法が進歩したことで闘病期間が長期化しており、患者数は年々増えています。それに対して専門医は充足しているとはいえない状態が継続していて、未来のビジョンを描けないのです。

そうした全国的な状況は私が当時勤務していた大阪府済生会中津病院(大阪市北区、712床)でも同様で、血液内科部長として赴任した2006年からの10年間で患者さんは10倍近くに増えました。これに医師数の増加が追い付かず、受け入れを制限せざるを得ない状況が生じていました。
もう一つはいわゆる2025年問題です。団塊の世代が後期高齢者になる2025年の医療提供体制について、内閣府は2015年に病院完結型から地域完結型に転換する方向性を打ち出し、急性期病床を30%程度減らすべきだという試算を示しました。しかし、問題になるのが、血液疾患の患者さんの病院への一極集中という事情です。急性期病床が減ることはその分、血液疾患の受け皿が減ることを意味します。専門スタッフにも、患者さんがあふれているのに職を失ってしまうのではという危機感があります。
当時私は55歳でした。このままでは患者さんと医療関係者の双方に極めて困難な状況が生じることが予想される。患者さんを地域でしっかり支える血液内科の専門クリニックがあれば、患者さんだけでなく基幹病院の専門医にも喜ばれるのではないか、と思いついたのです。

地域医療のハブとして

―どのような機能・役割を担おうと考えたのですか。

太田氏 近隣のかかりつけ医とは、当院が血液疾患の専門的な検査や治療のみを引き受けるという形で診療連携体制を構築します。一方、基幹病院の血液内科には無菌管理や移植といった特殊治療を必要とする患者さんを紹介し、その後の外来化学療法などは当クリニックが受け持つといった役割分担をするイメージです(図)。機能が異なる複数医療機関の“ハブ”としての役割を担うことができれば地域医療に貢献できると考えました。

ハブとしての専門クリニックの役割

母校である大阪市立大学の医局に専門クリニックのコンセプトを理解していただき、済生会中津病院から多くの患者さんを引き継いで2018年5月に開設しました。場所は大阪市立大学医学部附属病院(大阪市阿倍野区、980床)と済生会中津病院の中間に決めました。愛称の「LIGARE(リガーレ)」はラテン語で「結ぶ」を意味します。専門医やそれ以外の医療関係者とのさまざまなつながりを構築しながら、長期化した血液疾患患者さんの闘病生活をクリニックが中心となって支えていくモデルケースとして発展させたいという思いを込めました。

スペシャリストを採用

ハード面では血液検査、尿検査、骨髄穿刺検査、超音波検査、心電図、がん化学療法、輸血などを提供できる装置・設備を導入、人材もスペシャリストを採用して基幹病院の外来と遜色がない体制を整えました。臨床検査技師は「認定血液検査技師、骨髄検査技師」の資格を持っていますし、「がん化学療法看護認定看護師」「外来がん治療認定薬剤師」の有資格者にも参加してもらいました。受付のクラークも含めて患者さん中心の医療をチームとして提供しています。

―診療実績はいかがですか。

太田氏 開設当初の延べ患者数は月に150人程度でしたが2019年12月には4倍強に増えました(図2)。疾患の内訳はリンパ系の腫瘍では悪性リンパ腫や多発性骨髄腫、骨髄系では本態性血小板血症や慢性骨髄性白血病が多くなっています。非腫瘍系の疾患は、多くが特発性血小板減少性紫斑病と鉄欠乏性貧血の患者さんです。2019年の1年間で見ると約6割が他院からの紹介で受診された患者さんです。紹介状がない残り4割のうち半数程度は健診で異常を指摘されて受診した方でした。

図2 開院以来の延べ患者数の推移

院内検査は絶対必要

血液内科は「検査結果は後日お知らせしますね」では成立しないため、院内で当日のうちに検査をする意義は絶対的なものがあります。受診したその時の状態で、血液や尿の検査をする。血球の形態分析も顕微鏡を見て行わなければ状態を正確に把握できません。
生化学自動分析装置は、凝固検査も同時に測定できる点を評価して日立自動分析装置 3500の採用を決めたのですが、測定時間が約10分のため、採血から30分後には診察を始められます。開設から約2年経過しましたが、これまでに故障などもほとんどなく、高い信頼感があります。血液疾患の診療に必要な機能をワンフロアに集約し、隣室で行われる院内検査と連携を取りながらワンストップで提供できるのが病院にはない強みになっています。
診療時間の短縮は、患者さんが仕事や自分の時間を大切にできる療養環境を提供する上で重要です。多発性骨髄腫の患者さんで、採血から検査結果に基づく問診と抗がん剤の点滴をして、2時間後には会計が終わったケースもあります。

―今後の展望を聞かせてください。

太田氏 基幹病院の外来と同等の診療機能をワンストップで提供できるのが当クリニックの特色です。ある面では病院を超えたと感じています。ただ医業収益の面では課題があり、例えば診療報酬上の「造血器腫瘍遺伝子検査」は、病院のような24時間診療体制が条件となる検体検査管理加算(II)の施設基準を満たせないため算定ができません。抗がん剤も安全キャビネットと閉鎖式接続器具を使用して薬剤師が調製していますが、病院ではないため無菌製剤処理料を算定できないといった保険診療にまつわる課題を抱えています。
がん対策基本法は、「がん患者がその居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切ながんに係る医療を受けることができるようにする」ことを基本理念の一つに掲げています。一方で、先に述べたように血液疾患を巡っては患者数の増加と受け皿となる急性期病床の削減という状況が生じていますので、当院のような専門性を持ったクリニックがそうした矛盾を解消し、地域のセーフティーネットになり得るのだという事実を国に認識していただきたいと思います。

血液内科の崩壊防ぐ

例えば、健診で貧血だと言われて来院される若い女性が少なくありません。鉄欠乏性貧血ならいいのですが、ごくまれに骨髄異形成症候群のように専門治療が必要な方が混じっています。かかりつけ医の先生方が基幹病院への紹介をためらう、そうした症例に当クリニックが対応することは患者さんにとって朗報になります。同時に基幹病院の専門医の負担も減って専門治療に専念できるため、血液内科の医療崩壊を防ぐ役割も果たしているのです。
ただ当院のような専門クリニックが、地域のセーフティーネットとして存続するためには経営基盤の安定化が不可欠です。血液疾患だけでなく、大腸がんや肺がんでもハブとしての専門クリニックというモデルは成立すると感じており、診療報酬上の課題が制度的に是正されれば、私のような考えを持つ先生方も、それぞれの地域で専門クリニックを開設する勇気をもらえるはずです。

最適診療を支える検査室 臨床検査技師 村瀬 幸生氏
検査技師に第3のキャリアパスをメーカーも支援

村瀬氏
村瀬氏

採血した検体を日立ハイテクの自動分析装置「3500」で測定する間に、血球の目視分類をしていた臨床検査技師の村瀬幸生氏(認定血液検査技師・骨髄検査技師)が「先生、芽球が増えています」と院長の太田健介氏に報告する。同じ顕微鏡をのぞいて細胞形態を確認した太田氏が、バックヤードで待機中の薬剤師に治療内容の変更を指示すると、調剤室では速やかに抗がん剤の無菌調製等の準備が始まる。

LIGARE 血液内科太田クリニック・心斎橋では血液内科診療のプロフェッショナルたちによるチーム医療が日常的に繰り広げられている。3ブースある診察室、臨床検査室、化学療法室、調剤室が待合室を時計回りに取り囲むように配置されたこのクリニックは、専門治療に必要な機能がワンフロアに集約され、その患者にとって最適の医療を迅速に提供できる機動力が強みだ。
村瀬氏は、大阪府や近畿支部の臨床検査技師会で血液部門の責任者を務めた。太田クリニックが開設に向けてスタッフを募集していた時、「臨床検査技師を探してほしい」と血液内科の旧知の医師から依頼された。当時は松下記念病院(大阪府守口市、323床)の臨床検査科で技師長職にあったが、太田氏の理念に賛同した村瀬氏が自ら手を挙げた。
「血液疾患を形態学的に診断するのが好きだ」と話す村瀬氏は、開院から3カ月遅れの2018年8月から太田クリニックで勤務を始めた。「3500」の選定時にも、生化学検査と凝固検査を1台で行える利点を太田氏に助言。前任地でも日立ハイテクの自動分析装置の使用経験があったため「3500」の操作はほどなく習熟した。
「3500」の有用性ではまず生化学検査と凝固検査を1台でできることを挙げる。凝固系はPT、APTTを採用し、1日10件程度を測定する。生化学ではIL-2の測定意義が大きい。重要なマーカーであるBNPも今後散乱光で測定する試薬の検討を計画する。試薬については品質・データ共に「全般的にかなり安定している」と評価する。
採血を終えて結果が出るまでの21~25分の間に村瀬氏は複数の業務(目視分類等)を並行的にこなす。診療機能をさらに充実させたいという太田氏の方針を受け、村瀬氏もマルチタスクに対応できる検査技師を育てることも考え始めた。検査技師の主なキャリアである病院と衛生検査所に加え、専門クリニックという第3の道があることを2019年の日本検査血液学会学術集会で同僚の藤原氏が報告するなど、クリニックの技師(常勤2人、アルバイト2人)で、臨床検査技師向けの情報発信にも取り組む。
マンパワー不足のクリニックでは臨床検査技師が目配りできる範囲にどうしても限界が生じる。村瀬氏は「メンテナンスや試薬の管理をメーカーに対応してもらえるのでありがたい」と話し、「3500」について日立ハイテクの試薬サポートを評価する。

「3500」の試薬サポートプラン
日立ハイテクグループがトータルで支援

日立ハイテクは、自動分析装置「3500」に関し、導入前の試薬の検討から稼働後の分析装置のアフターケアに至るまで同社の専任スタッフ(写真)がワンストップで対応する「試薬サポートプラン」を展開。グループとして分析装置の確実・迅速な立ち上げから導入後の安定稼働の継続を支援する環境を整えている。
装置操作に関わる説明はもちろん、酵素・脂質といったさまざまな体外診断用医薬品の導入前検討、導入後のサポートまでを専任スタッフが対応する。動作原理、操作方法をより深く知りたいユーザー向けには、日を改めて研修センターにて講習会を開催する。
「3500の操作が分からない」「検査データが気になる」といった稼働後の疑問にはコールセンターが365日24時間体制で対応するため、夜間検査を担当する不慣れな臨床検査技師にとっても心強い。試薬サポートプラン専任のスタッフも定期的なユーザー訪問を通じ、「3500」の保守・点検やユーザーのちょっとした疑問に答える。

「3500」の試薬サポートプラン
「3500」の試薬サポートプラン

本記事は株式会社じほう社刊 THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2020年4月21日 第1500号を元に著作権者の許可を得て、二次使用するものです。