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技術機関誌 SI NEWS日立ハイテクノロジーズ

液体クロマトグラフィー用高機能充填剤

High-functional packing materials for liquid chromatography

武庫川女子大学 薬学部 教授 萩中 淳 博士(薬学)

武庫川女子大学 薬学部
教授
萩中 淳 博士(薬学)

液体クロマトグラフィー(LC)の今日の発展は、高性能充填剤の開発に負うところが大きい。しかし、現在開発されている、C18充填剤に代表される高分離能LC充填剤(微粒子、モノリス、コアシェル充填剤)が医薬品の分析に万能であるとは言い難い。医薬品分析のためのLC用高機能充填剤である、浸透制限型充填剤、光学異性体分離用充填剤および分子インプリント充填剤について、筆者らの研究を紹介したい。

浸透制限型充填剤

血清などの生体試料中の分析対象物質を前処理操作なしで、直接注入分析を行うためには、タンパク質が変性することなく溶出され、分析対象物質が疎水性相互作用により保持される浸透制限型充填剤 [Restricted Access Media (RAM)] を合成することにより可能となる。RAMのさきがけである、Pinkerton内面逆相充填剤は、シリカゲルの細孔内表面に疎水性相、外表面に親水性相を有している。しかし、細孔内表面と細孔外表面は明確に区別される必要はなく、疎水性相と親水性相が内表面および外表面にバランスよく存在する充填剤を合成することにより、生体試料の直接注入による対象物質の分析が可能であることを見出し、この充填剤を混成機能相 [Mixed Functional Phase (MFP)] 充填剤と命名した。疎水性相としてオクチル基、フェニル基およびブチル基、親水性相としてグリセリルプロピル基を導入した。さらに、キラル相としてβ-cyclodextrinを導入することにより、血清中の光学異性体の分析も可能となった。現在、MFPの概念に基づく浸透制限型充填剤が市販され、生体試料中の薬物および代謝物の分析に利用されている。

タンパク質固定化充填剤

ヒトα1-酸性糖タンパク質(AGP)、血清アルブミン、ニワトリオボムコイド(OVMという商品名で市販)などのタンパク質固定化充填剤が、種々の光学異性体医薬品の光学分割のために開発され、市販されている。しかし、ニワトリオボムコイド(学術的にはOMCHIと略称)ドメインの光学認識能を精査する過程で、市販のOMCHIの純度に注目し、粗OMCHIのイオン交換クロマトグラフィーによる分画、得られたタンパク質画分のキャラクタリゼーションおよび光学認識能の検討を行った。その結果、(1)分子量約30,000の糖タンパク質 [オボグリコプロテイン(OGCHI)と命名]が粗OMCHI中に約10%含まれている、(2)純OMCHIはほとんど光学認識能をもっていない、(3)OGCHI は優れた光学認識能をもっていることを明らかにした。また、OGCHIのアミノ酸配列を決定するとともに、哺乳類および鳥類のAGPとのアミノ酸配列の相同性の比較から、OGCHIをニワトリAGP(cAGP)と命名した。さらに、cAGPは183個のアミノ酸から成る糖タンパク質であり、4~5本のN型糖鎖が結合(Asp62は、糖鎖含有あるいは糖鎖不含有)しており、2つのS-S結合を有していることが明らかとなった。すなわち、市販のニワトリオボムコイド(OVM)固定化充填剤の光学認識能は、粗ニワトリオボムコイド中に約10%含まれていたcAGPによるものであることが明らかとなった
光学異性体分離用新規充填剤として市販のOVM充填剤に比べて、優れた光学認識をもつcAGP固定化充填剤を開発した。また、cAGP固定化充填剤の光学認識能およびカラム性能に対する粒子径の影響を詳細に検討し、従来の5 µmおよび3 µmのシリカ基材より、2.1 µmのシリカ基材が高いカラム性能を与えることを明らかにした。

分子インプリントポリマー充填剤

分子インプリントポリマー(MIP)はアフィニティーメディアとして分析対象物質の特異的認識に利用されている。従来、MIPは非水系で塊状重合法により調製され、LC用充填剤として利用するためには、破砕、微粉化した後、分級するという煩雑な操作が必要であった。また、カラム性能が悪い、水系での分子認識能が低いという欠点も有していた。そこで、多段階膨潤重合法を用いた、粒子径の均一なMIPの調製法を新たに開発するとともに、薬物、生体関連物質および環境汚染物質の水系での分子認識あるいは光学認識に適用した。
また、in situで親水性モノマーを用いてMIP表面を選択的に親水化したMIP [浸透制限型MIP(RAM-MIP)と命名]を調製するとともに、生体試料あるいは環境試料の直接注入による薬物および環境汚染物質の選択的濃縮分析に適用した。超微量の医薬品の分析においては、MIPからの鋳型分子の漏出が定量の妨害となる。そこで、擬似鋳型分子を用いることにより、医薬品の高感度・高選択的分析が可能となった。さらに、擬似鋳型分子として、分析対象物質の同位体置換化合物を用いる同位体インプリント法を考案した。分析対象物質 ビスフェノール A(BPA)の重水素置換体である、BPA-D16を鋳型分子としてMIPを調製し、質量分析法と組み合わせることより、漏出鋳型分子BPA-D16(実際には、BPA-D14)の妨害を回避した生体試料および環境試料中のBPAの高感度分析法を開発した。
さらに、粒子径の均一なMIPの調製法である、沈殿重合法の欠点として、水溶性の高い化合物に対するMIPを調製できないことがあげられる。テンプレート分子をあらかじめ極性溶媒に溶解し重合を行う、新たな沈殿重合法[修正沈殿重合法(modified precipitation polymerization method)と命名]を開発し、親水性化合物に対するMIPの調製に適用した。新たに開発した修正沈殿重合法は、水溶性化合物である糖、アミノ酸およびペプチドに対するMIPの調製とそれらの分子認識、ならびに糖鎖およびタンパク質の分子認識への適用が期待される。
筆者らの開発した医薬品分析のためのLC用高機能充填剤について紹介したが、今後も、目的、用途に応じたLC用高機能充填剤の開発が期待される。

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