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Hitachi

技術機関誌 SI NEWS日立ハイテクノロジーズ

日立高速液体クロマトグラフ用 Chromaster 5610質量検出器(MS Detector)の紹介

Introduction of Hitachi Chromaster 5610 MS Detector for High Performance Liquid Chromatograph

豊崎 耕作*1

はじめに

高速液体クロマトグラフ(以下、HPLC)市場において、近年、薬局方の試験法に質量分析法が新規収載され、主に製薬市場において、一般のHPLCユーザにおいても質量分析による構造確認が求められている。しかしながら、HPLC市場はWorld Wideにおいて200,000を超えるLCシステムが導入されているが、質量分析計の接続率は20%以下であり、HPLCユーザにとって、質量分析計は導入障壁が高く、HPLC用光検出器と比較した場合、導入率はまだまだ低いのが現状である。
導入率の低い要因として、質量分析計の設置環境、メンテナンス性、操作性、装置価格等が大きな導入障壁となっており、本製品である高速液体クロマトグラフ用質量検出器(Chromaster 5610質量検出器)は、HPLCユーザの障壁となる問題を改善した新しいHPLC向け質量検出器である。

図1に装置外観及び大きさ・重量を示す。設置面積としては、Chromasterシリーズ高速液体クロマトグラフとほぼ同等であり、装置の高さは、ポンプモジュール3台分である。

日立高速液体クロマトグラフChromaster 5610 質量検出器
図1 日立高速液体クロマトグラフChromaster 5610 質量検出器
装置本体 外形寸法:440(幅) x 610(奥行き) x 430(高さ)mm、重量:約51 kg

製品の概要

本製品の主な概要として、HPLCで一般的に用いられる光(UV/FL)を利用した検出器と同等な使い勝手、設置性を確保した質量検出器であり、以下の特長を実現した。

  1. 省スペース、コンパクト設計によりHPLCシステムと同等の設置面積を実現、200 V電源の追加設備なしに実験台上に設置可能とした。
    • 国内100 V 電源対応、窒素ガス使用量および有機溶媒噴霧量を削減
    • 小型高精度QMF・小型TMPの実装による装置の小型化を実現
  2. ロバスト性及びメンテナンス性の向上。
    • 大気圧化でのイオン分離による真空内部への導入イオン種の選別
    • 真空停止の必要無く、大気圧化にある部品洗浄によるメンテナンス

イオン光学系の概略

ESI イオン源にて生成されたイオンは、カウンターガスプレートとの電位差により大気圧イオンフィルター(AIF)に導入される。イオン化部で生成したイオン流れに対して、大気圧イオンフィルター内のイオン流れは直交しており、装置のロバスト性確保のためにも利用している。大気圧イオンフィルターではその電荷と分子構造で決定される移動度により分離し、ノイズとなるメタステーブルイオンやクラスターイオンを除去する。そして、AP1から真空内部に入り、イオン導入軸とイオン光軸(AP2以降の電極軸)をずらすことで、電極汚れを防止する。次にイオンは2段目の真空隔壁であるAP2を経由し、Q0に導入される。Q0では中性分子と衝突することで、エネルギーを均一化する。そして、3段目の真空隔壁であるAP3を経由し、Q1以降の分析部に導入される。Q1では、RFにDCSweepを重畳するRF/DC方式により質量分離を行い、計測するイオンを選択する。そして、検出器への引き出しを担うEndcapを経由し、検出器(Detector)に導入される。DetectorはConversion DynodeとChanneltron® Detectorで構成され、Conversion Dynodeにおいてイオンを電子に変換し、その電子をChanneltron® Detectorにて増倍後、電圧パルスとして検出される。

イオン光学系のイメージ図
図2 イオン光学系

イオン源は、HPLCやシリンジポンプより送液された試料をイオン化するユニットである(図3)。本製品でのイオン源は、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)に対応しており、ESI法は、キャピラリと対向電極間に数kVの高電圧を印加することで、静電液滴を生成し、液滴の体積収縮により試料をイオン化する方法である。
本製品ではイオン化部前段において、試料溶液をスプリットし、その流量を数uL/minに低減してイオン化する。そのため、イオン化時に必要となる窒素ガスの使用量も削減が可能となっている。また、イオン源内に装着されているAIF(図4)は、大気圧下に置かれた二つの電極間に、非対称な波形の交流電圧と可変の直流電圧を印加して、移動度に基づいたイオンの分離を行う電極である。AIFはカウンターガスプレートと一体型の構造となっており、真空停止無しでイオン源内より取外すことで、メンテナンスが可能である。

イオン源内部写真 大気圧イオンフィルター(AIF)

アプリケーション

インフュージョン分析による経口糖尿病薬の分析

Chromaster5610質量検出器とシリンジポンプを使用することで、サンプル溶液をダイレクトに質量検出器に導入し質量情報を取得することができる。これにより、合成化合物の質量情報の確認や、合成条件検討の際の化合物確認の簡易モニタリングが可能である。図5に経口糖尿病薬として使用されているピルダグリプチン、ピオグリタゾン、リナグリプチンをモデルサンプルとした測定例を示す。

5610質量検出器による測定例
図5 5610質量検出器による測定例

測定条件

Chromaster5610 質量検出器

  • イオン化法: ESI
  • イオン化モード: Positive
  • イオン化電圧: 2,300 V
  • 測定モード: Scan mode
  • ガス流量: 0.6 L/min
  • IS/AIF 温度: 70°C /120°C
  • ポンプ流速: 2 µL/min(インフュージョン測定)
  • 濃度: 各10 ppm
  • 溶媒 :10 mM HCOONH4:CH3CN:HCOOH=500:500:1

PDA検出器および質量検出器を用いたメチルキサンチン類の分析

図6にカフェイン等のメチルキサンチン類の測定例を示す。これらの成分は、コーヒーやカカオ製品のほか栄養ドリンクなどによく含まれている。メチルキサンチン類は、分子の基本骨格が共通しているため、UVスペクトルのパターンが良く似ており、これだけでは判別が難しい。しかし、質量検出器を組み合わせることで、成分固有の質量情報が得られるため、同定精度が向上する。

LC-PDA検出および質量検出による測定例
図6 LC-PDA検出および質量検出による測定例

測定条件

  • カラム: HITACHI LaChromII C18(3 µm)4.6 mm I.D. x 100 mm
  • 溶離液: A. 0.1%ギ酸水溶液, B. 0.1% ギ酸含有MeOH
  • B10%(0 min) - B50%(5 min) - B10%(5.1-8 min)
  • 流量: 1.0 mL/min(sprit)
  • カラム温度: 50°C
  • UV 検出: 275 nm
  • 注入量: 10 µL

質量検出器

  • イオン源: ESI source
  • イオン化電圧: 2,800 V、Positive
  • 測定モード: スキャン、m/z 100-300
  • ガス流量: 0.7 L/min
  • IS/AIF/API温度: 120°C / 170°C / 170°C
  • 第一細孔電圧: 50 V
  • 第二細孔電圧: 10 V

殺菌剤の分析(トリクロサン)

図7 に殺菌剤(トリクロサン)の測定例を示す。
トリクロサンは一般細菌に対する殺菌剤として、薬用せっけんや歯磨き粉などのヘルスケア用品から、子供用玩具などのプラスチック・布製品に広く使用されている。Chormaster 5610質量検出器は複雑な条件設定が不要であるため、UV検出器と同等な操作性で質量情報を取得し、検量線を作成することができる。

LC-UVおよび質量検出による測定例
図7 LC-UVおよび質量検出による測定例(10 µg/Lトリクロサン)

測定条件

  • カラム: HITACHI LaChromII C18(3 µm) 3 mm I.D. x 100 mm
  • 溶離液: メタノール
  • 流量: 0.3 mL/min(sprit)
  • カラム温度: 40°C
  • 検出波長: 286 nm
  • 注入量: 10 L

トリクロサンの構造式
[トリクロサンの構造式]

質量検出器(MSD)

  • イオン化法: ESI
  • イオン化モード: Negative
  • イオン化電圧: 2,300 V
  • 測定モード: SIM: m/z 288.6
  • ガス流量: 0.6 L/min
  • IS/AIF 温度: 70°C / 120°C

まとめ

Chromaster 5610質量検出器は、従来の質量分析計の課題であった導入障壁を回避したHPLCユーザーのための新しい検出器である。新たに質量情報が得られることで、定性分析の信頼性を大幅に向上させることが期待されている。

著者紹介

*1豊崎 耕作
株式会社日立ハイテクサイエンス 光学本部 光学技術部 光学技術一グループ