ページの本文へ

Hitachi

技術機関誌 SI NEWS日立ハイテクノロジーズ

高分解能ICP発光分光分析装置 PS3500DDIIの紹介

Sequential-type high-resolution ICP emission spectrometer PS3500DDII

添田 直希*1

はじめに

誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置は、試料中に含まれる元素をプラズマ内で励起し、放出される光を測定することで定性、定量分析を行う装置である。
近年、材料の多様化に伴い材料の純度、組成比等分析に求められる要求が高度になり、より高い分解能、より高い精度が求められている。その市場要求に応えるために、波長分解能(半値幅)を当社従来機の0.0045 nm から世界最高水準の0.0030 nmへと向上させ、繰り返し性も当社従来機比1/2に向上し測定結果の信頼性を高めたPS3500DDIIを開発した(図1)。

高分解能ICP発光分光分析装置 PS3500DDIIシリーズの外観図
図1 高分解能ICP発光分光分析装置 PS3500DDIIシリーズの外観図

ICP発光分光分析装置の役割

ICP発光分光分析装置は、光源に高周波誘導結合プラズマ(ICPを用いる。分析試料を霧化してICPに導入し、ICPのエネルギーにより試料中の原子を励起、発光させる。放出されたスペクトルは各元素の固有の波長を持つため、波長の値から定性分析を、発光の強度から定量分析を行うことが出来る。ICP発光分光分析装置のプラズマは、一般に温度が5,000~8,000 Kと高温であるため、ほとんどの元素を励起発光させることが可能である。
ICP発光分光分析法は以下に示す特長を持つ。

  1. 75元素の測定が可能。
  2. 多元素一斉分析が可能。
  3. 高感度である。(検出下限はほとんどの元素に対して10 µg/L以下)
  4. 検量線の直線範囲が5から6桁あり、測定ダイナミックレンジが極めて広い。
  5. プラズマの温度が極めて高いことから、共存元素による化学干渉やイオン化干渉が少ない。
  6. 安定性が良く、測定値の繰り返し性が良い。

これらの特徴からICP発光分光分析装置は、有機・無機材料、環境、食品、薬品などの幅広い分野の元素分析ツールとして用いられ、多くの公定法にも採用されている。

ICP発光分光分析装置の構成例
図2 ICP発光分光分析装置の構成例

ICP発光分光分析装置は、図2のように試料導入部、光源部、分光器、検出器で構成される。分光器、検出器の違いにより、逐次測定のシーケンシャル形と多元素同時測定のマルチ形に分類される。シーケンシャル形はマルチ形と比較して2~3倍の分解能を有している。材料分析では、マトリックスを起因とするスペクトル干渉の問題から高分解能のシーケンシャル形の装置が一般に適用されている。

PS3500DDIIの特長

高い波長分解能

シーケンシャル形の最大の特長が波長分解能である。材料分析では、その主成分を起因とするスペクトル干渉があるため、測定の可否を決定するうえで分解能は重要な因子となる。PS3500DDIIは光学系の最適化と改良、光学素子の精密加工などの技術により当社従来機の0.0045 nmから世界最高水準の0.0030 nmへ波長分解能を向上させた。併せて回折格子を駆動させる高分解能ダイレクトモーターをより細かく制御することにより0.00065 nm以下のスペクトルスキャンを実現し、近傍の干渉線との区別が明瞭となった。図3にHg404.77 nmのスペクトルプロファイルを従来機種とPS3500DDIIで測定した結果を示す。従来の装置ではピークに対して低波長側のスペクトルが重なり、主ピークプロファイルの肩になっているが、PS3500DDIIでは低波長側のピークが分離し、ピーク形状も明瞭になっているのがわかる。通常、分解能を高くすると感度が犠牲になる。PS3500DDIIは光学系の最適化・改良により、感度の減少を最小限に抑え高い分解能を実現した。

Hg404.77 nmのスペクトルプロファイルの比較
図3 Hg404.77 nmのスペクトルプロファイルの比較(左:弊社従来装置 右:PS3500DDII)

精度・再現性の向上

ICP発光分光分析装置が広く利用される理由の一つに、繰り返し性が挙げられる。PS3500DDIIはPS3500DDから採用したダイレクトドライブ機構を継承している。シーケンシャル形は回折格子と呼ばれる光学素子を駆動させ、目的の波長を検出器へ導く。それまでの装置は間接的な駆動機構(ボールネジ・サインバー等)を使用して駆動させていたが、本機構は高精度・高分解能モーターに直接回折格子を取り付けることで高速・高精度駆動を実現した。これにより、これまでのシーケンシャル形のイメージを一新し、高速・高精度な測定を実現した。さらに、PS3500DDIIでは装置構成と試料導入系を改良することで霧化試料の導入安定性が増し、繰り返し性が当社従来機比1/2に向上した。

アプリケーション例:磁性材料中主成分分析

磁性材料はモーターの駆動部をはじめ、自動車や電気電子分野で多く使用されている。近年、ネオジム磁石をはじめとした希土類磁石の使用が増加している。磁石の性能は成分比が大きく影響するため、分析に求められる精度は厳しくなっている。
高精度分析を行う場合、内標準法を用いて測定することがほとんどである。内標準法は測定元素と内標準元素の強度比から定量値を算出する方法で、繰り返し性を高める効果がある。内標準法を使用する場合、測定元素と内標準元素の強度変動が外因に対して同じ挙動を取るのが望ましく、PS3500DDIIには測定元素と内標準元素の強度変動の相関を測定できる内標準バランスモニタが搭載されている(図4)。
ネオジム磁石(成分:Fe、Nd、Pr、B)を測定した結果を表1に示す。主成分のFe、Ndと微量成分のPr、Bを同時に測定でき、かつ相対標準偏差(%RSD)が主成分で0.1%、微量成分でも0.4%程度と高い繰り返し性で測定可能である。また1試料の分析時間は約1分程度と、短い時間で測定することが可能である。

表1 ネオジム磁石の繰り返し測定結果
測定元素 Fe Nd Pr B
Sample 1 65.34 22.81 4.121 2.017
Sample 2 65.28 22.83 4.119 2.018
Sample 3 65.25 22.80 4.111 2.017
Sample 4 65.29 22.80 4.112 2.000
Sample 5 65.27 22.81 4.110 2.016
Sample 6 65.37 22.84 4.152 2.003
Sample 7 65.30 22.84 4.132 2.019
Sample 8 65.33 22.83 4.136 2.005
Sample 9 65.30 22.83 4.114 2.011
Sample10 65.15 22.80 4.120 2.015
平均値 65.29 22.82 4.123 2.012
標準偏差 0.060 0.016 0.013 0.007
%RSD 0.092 0.072 0.326 0.347

濃度単位:mass%

内標準バランス測定結果
図4 内標準バランス測定結果

おわりに

PS3500DDIIは従来機種の優れた機能を継承し、さらに高い分解能と優れた再現性を有している。特に高分解能、高精度な分析ニーズが強い金属、セラミックスなどの高機能材料分野を中心に更なる普及が期待できる。

著者所属

*1添田 直希
株式会社日立ハイテクサイエンス 東京応用技術一課