ページの本文へ

Hitachi

社会課題解決のストーリー株式会社 日立ハイテク

含有化学物質管理サービス「chemNEXT」

化学物質を適切に管理し、健全な地球環境を次世代へ

人々の健康や地球環境を守るため、EUの「REACH(リーチ)規則」や米国のTSCA(有害物質規制法)、日本の化審法改正など、有害な化学物質を管理する規制が、世界各国で厳しくなっています。製品に含まれている化学物質を管理するにはサプライヤーの協力が不可欠ですが、数千種類にも上る化学物質を把握するのは容易ではありません。そこで、日立ハイテクグループでは、サプライヤーの業務負担を減らしながら、適切に化学物質を管理するために、クラウド型の定額制含有化学物質管理サービス「chemNEXT (ケムネクスト)」を開発しました。2021年2月にサービスを開始し、安全で透明性の高いモノづくりをサポートしています。

高まる有害物質への懸念、世界で規制が強化

「私たちには健全な地球環境を次の世代に残していく責任があります。人の健康や地球環境を守るためには、化学物質を適切に使い、管理しなければなりません。一方で、中小のサプライヤーの皆さんが時間やコストをかけてすべてを管理するのは難しいのが実情です。ですから、できるだけ工数や手間を減らし、管理しやすい仕組みを提供することで、自社の取り組み状況を『見える化』し、少しでも環境問題に貢献していることを実感していただきたかったのです」

含有化学物質管理サービス「chemNEXT」を開発した、日立ハイテクネクサスのソリューション事業推進本部デジタルサプライチェーン推進部 課長の工藤健一郎は、事業の意義を語ります。

家電や電子機器といった工業製品には、数多くの化学物質が使用されています。しかし、それらが製造や廃棄段階で放出されると、大気や水、土壌を汚染してしまいます。使用される化学物質のなかには、生殖機能に悪影響を与えたり、発がん性があったりするものもあり、健康被害も問題になっています。

2007年6月に施行され、化学物質管理の先行モデルとなっているEUの「REACH規則」は、企業に製品の安全性の立証責任を求めるものです。企業は製品に含まれる化学物質の含有量を把握し、有害性が懸念される化学物質(高懸念物質:SVHC)については、その含有の有無の把握と情報提供が義務付けられています。SVHCは2021年7月時点で219種類ありますが、その数は改訂ごとに増え続けています。

日本企業が国内の法令を遵守することは当然ですが、完成品が海外に輸出されている場合、輸出先の国や地域の法規制にも従わなければなりません。含有物質の届出義務を負うのは最終製品を販売するメーカーですが、製品はさまざまな部品から成り立っているため、サプライチェーン全体で情報を伝達していくことが必要です。

サプライチェーン上の化学物質管理のイメージ
サプライチェーン上の化学物質管理のイメージ

化学物質のデータ管理を効率化し負担を軽減

「REACH規則だけではなく、米国のTSCA、日本の化審法なども規制が強化されており、化学物質を取り巻く状況は目まぐるしく変化しています。私たち日立ハイテクネクサスは、専門商社として、日立グループの各工場に材料や電子部材を納めていますが、特にこの数年、各工場から、仕入先となるサプライヤーがどのように化学物質を管理しているのか、製品には何が含まれているのか、問い合わせを受けることが増えてきました。そこで実態を聞いて回ったのです」(工藤)

ヒアリングしていくと、工場ごとに化学物質を管理しているものの、サプライヤーから情報を吸い上げるのに苦労していることが分かりました。サプライヤーに対して、部品構成ごとに1件1件データ入力を依頼するという、気の遠くなるような作業も必要でした。50社近くサプライヤーを訪問すると、「まず何をしたら良いか分からない」「集めたデータをどう管理すれば良いか分からない」といった声が聞こえてきました。

「例えば、ネジ1本でも、母材、防錆のメッキ表面処理、接着剤などで構成され、その一つひとつのデータを管理しなければなりません。バッテリーパックとなれば、約600もの物質の管理が必要です。国内5万社に上る日立のサプライヤーは大部分が中小企業ですから、人手や費用をかけることもできず、ほとんどがエクセルや紙でファイリングし、四苦八苦していました」(工藤)

こうして、彼らが直面する課題を解決しようと、誕生したのが「chemNEXT」です。「chemNEXT」は、経済産業省が主導して制作した無償の含有化学物質管理データ作成ツール「chemSHERPA(ケムシェルパ)」と補完関係にあり、集めたデータをクラウド上で一元管理できるサービスです。

「chemNEXT」によってデータ管理の進捗状況をクラウド上のシステムで可視化することで工数を大幅に削減します。サプライヤーへのデータ請求は、過去に入手済みのデータを参照して自動で判断し、必要なデータだけを自動で依頼することができるようになります。

含有化学物質を管理する「chemNEXT」。データ作成から提出までの進捗管理を効率化する
含有化学物質を管理する「chemNEXT」。データ作成から提出までの進捗管理を効率化する

「IT化が進み、情報があふれ、企業同士がつながりやすくなっているなか、日立ハイテクネクサスの『パーパス(存在意義)』とは何か、考えるようになりました。商社として培ってきた情報やネットワークをどのように社会に貢献できるのか、当社でなければできないこととは何か。そう自問自答するなかで、開発したのが『chemNEXT』です。ようやく当社らしい『存在意義』が一つの形になったと思います」(工藤)

chemNEXTの料金体系は、契約社が毎月使用料を支払うサブスク型としました。「管理を見える化し、工数を変えずに月々10万円なら、負担も少なく、化学物質管理の担当者を増やさずに済むはず」(工藤)と見込んでいます。

データ管理から透明性の高いモノづくりへ

もともと負担感が強いサプライヤーが多いなか、新たなツールを理解してもらうことは並大抵のことではありません。「chemNEXT」の担当部署では、サプライヤー向けの説明会を実施し、これまで約300社が参加しました。各社から率直な意見や質問を引き出せるようにしたり、必要なアドオン機能の聞き取りをしたりするなど、工夫を凝らしています。

「本当に少しずつですが、理解が深まるにつれ、設計の初期段階から有害物質を減らさなければいけないといった意識の変化が起きています。データ管理の進捗を可視化することは、有害化学物質の少ない、安心して使える製品づくりを後押しすることにもつながりそうです」(工藤)

今後は日立ハイテクグループの「見る・測る・分析する」という技術の強みを生かし、規制動向の情報提供や事前の分析サービスなど、製品開発段階での化学物質のトータルソリューションという形で貢献できないかを検討しています。

「chemNEXT」を通じて実現した、サプライチェーンをつなぎ、情報を伝達していく仕組みは、CSR(企業の社会的責任)の範囲が広がり、企業の対応力が問われる中で、幅広く応用できそうです。

「原材料の調達は、環境問題や人権問題などにもかかわってきます。BtoB企業の『ありたい姿』として、サプライチェーンマネジメントのデータベースを作り、さまざまな分野の情報を統合して管理していくことができれば理想的だと思います。サプライヤーだけではなく、ユーザーや開発者、技術者ともつないでいけるかもしれません。日立ハイテクグループの『見る・測る・分析する』技術、そして商社機能を持つ日立ハイテクネクサスの強みを生かして、環境に負荷をかけない、安全で透明性のあるモノづくりを実現していきたいです」(工藤)

2021-09-07