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田中SEM研究所通信 低真空走査電顕観察「虎の巻3」

LVP-SEMの第一の特徴は、水を含んだ試料をそのまま観察出来ることである。しかし、この装置にしても、室温・高真空状態で含水試料が観察出来るわけではない。その時は試料室のなかにそれなりの環境を造ってやらねばならない。
含水試料でも、含水程度の低い試料、例えばカビ類の場合は、室温でも真空度を130-90Pa位に下げれば不都合無く観察できる。昆虫なども同様である。しかし、動物組織とか、最近実験によく用いられる培養細胞など含水度の大きいものになると、上述のような条件では、試料が乾燥して微細構造がつぶれてしまう。
ではどういう条件にしたら、このような多含水試料を乾燥萎縮させることなく観察出来るか。以下、その基本事項について述べてみよう。

試料の冷却と乾燥防止

試料が乾燥するということは、試料中の水分が蒸発することである。試料を洗濯物と置き換えて考えてみよう。洗濯物は暑い夏の日には良く乾くが、寒い冬の日には乾きが悪い。すなわち、温度が高ければ水分は蒸発し易く、低ければし難い。

観察試料の場合も、温度を下げてやれば、同様に水分の蒸発を押さえることが出来るわけである。そして、温度をしだいに下げていって、試料まわり雰囲気の水蒸気圧が飽和になったら、もはや試料からの水分の蒸発は起こらない筈である。
従って、この条件を観察に応用すればいいということになる。

飽和水蒸気の環境を形成する条件は、温度と真空度に関係するが、両者の関係は飽和水蒸気圧曲線(図1)に見ることができる。

温度が高ければ真空度も高い。例えば、室温(25℃)であれば、水蒸気圧は3170Paで飽和になる。すなわち、試料室の真空度を3170Paまで下げれば、水蒸気圧は飽和となり、室温でも試料を乾燥させることなしに観察出来るわけである。
しかし、N-SEMのような反射電子検出型LVP-SEMの場合は、3170Paではシグナル電子が散乱され、像を得ることは出来ない。また、装置もそこまで真空度を下げるように造られていない。
ではどうするか。

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図1:飽和水蒸気圧曲線

無いものねだりをしても仕方がない、この装置で像を得ることの出来る真空度の範囲内で、うまく条件を調えるようにする。すなわち、その真空度で水蒸気圧が飽和になるように、試料を冷却してやるのである。

N-SEMで一応良い像を得ることの出来る最低の真空度というと270Paである。
この値を図1の曲線に当てはめてみよう。-10℃ということになる。-10℃、270Paならば水蒸気圧は飽和になる。これが、N-SEMでの試料を乾燥させないで観察するための条件の一例である。
もちろん、試料をさらに冷却すれば、-15℃、200Paでも、-20℃、130Paでもいい。要は飽和蒸気圧曲線の条件を満足するようにしてやればよいのである。
学会などで、ときどき、この条件を満たさない条件で撮影された含水試料の写真を見かけるが、これでは本当に試料が含水状態で撮影したかどうか疑われても仕方がない。
気をつけるべきである。

さて、試料の冷却そのものは、付属のクールステージを用いれば簡単に必要な低温を得る事が出来るのだが、ここで1つ問題がある。試料を0℃以下に冷却すると、試料中の水分が凍結し、氷晶障害を起こすことである。
これを避けるためには、試料を観察前に氷晶防止剤で処置してやる。通常の場合、20%DMSO(dimethyl sulfoxide)液に15~30分、浸漬処理をしてやればよい。
氷晶防止剤としてはグリセリン、アルコールなどもあるが、DMSOのほうがグリセリンより粘性が少なく浸透し易いし、アルコールより蒸発し難いので使い易い。
なお、濃度は試料によって、多少変えた方がいいこともあるが、一般的には20%がいいようである。

以上、多含水試料の冷却による観察方法について述べてみた。要約すると、

  1. 試料を20%DMSOに15~30分浸漬する。
  2. 試料を試料台に付ける。その際、試料表面のDMSOは濾紙でおおまかに取っておく。
    (なるべく多量のDMSOを試料室内に待ちこまないために)
  3. クールステージを作動させ、大気圧状態で所定の温度(-10℃ 乃至 -20℃)になるまで待つ。(2~3分)
  4. 目標の真空度(270~130Pa)まで真空を引き観察する。

このようにすれば、多含水試料でも乾燥することなく、撮影することが出来る。

実習:培養した神経細胞の成長端

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図2:培養した神経細胞の成長端
白金ブルー染色、DMSO処理、-10℃、270Paにて撮影。
撮影倍率:800倍

像の出し始めには、試料の表面を凍結したDMSOが被っていることがある。しばらくそのまま待ってもいいが、少し真空度をあげると速やかにDMSOが昇華して、試料が現れてくる。その時すかさず写真を撮ると良い。
もし時間が掛かりそうであれば、270Paにかえして、ゆっくり良い場所を選んでから撮影すると良い。他の培養細胞でも同じことである。

Tanaka SEM Inst.

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