企業は経営効率化や生産性向上を目的に「DX推進」を掲げ、業務のデジタル化を加速させています。製造業にとっては、工場など生産現場の効率化に不可欠な生産に関するデータを連携させ、コスト効果の大きい最適生産を実施するのがIoTの狙いです。すでに工作機械や製造装置のデータを吸い上げ企業情報システムと連携させ、受発注や原材料の需給状況に応じて生産をコントロールすることでコスト最適化を図る取り組みは進められています。
最近では保守サービス人員の不足に対応し省力化を図るためにもデータ活用はいっそう不可欠となりました。こうした中で生産現場のIoTだけでなく、自社製品である精密機械や医療機器、製造装置などの稼働データを収集・監視し、予防保全による保守サービスの効率化や故障の早期発見などに効果をあげる「製品IoT」を活用するケースが増えています。
日立ハイテクは、そうした製品IoT分野で強みを発揮しています。製品IoT分野の開発や提案、サポートに携わる日立ハイテクのデジタルエンジニアリング部のメンバーが、IoTの狙いや将来的な目標などについて語ります。
近年、DXというワードが一般的になっています。経営層から現場までもっとデジタルを活用できるインフラを整備して、経営効率化といった課題を解決するのが目的です。製造業の場合、その重要なデータはどこにあるかというと、製造現場であり世界中で稼働している製品です。つまりDXを進める上で、まず最優先で取り組むべきはIoTだと考えています。
すでに世界中で多くの実績があるソリューション、米PTC社のIoTプラットフォーム「ThingWorx」を日立ハイテクとして提案しています。「ThingWorx」自体は製造現場のIoTなどで幅広くユーザーを増やしていますが、日立ハイテクが今、注力しているのは製造された機器のIoTであり、とくに医療機器メーカー向けに実績を増やしています。X線やCTなど画像診断用の医療機器はトラブルが起きれば、診療活動ができないといった大きな影響が出てしまうため病院で使用している機器の稼働状況をモニタリングするのに使用されています。
医療機器のメーカーにとっては稼働状況が見えることで、部品交換などの予防保全をタイミングよくおこなえることや、万が一のトラブルの際にも原因を迅速に把握して対応することが可能になります。そのほか、リモートで内部エラーの修正をおこなうことも容易になります。さらに製品の稼働状況データを見ることで、BIツールと組み合わせてお客さまの行動を予測したり、次の製品開発の方向性を決めることにも役立ちます。
日立ハイテクは医療機器業界のお客さま、特に国内のCTとMRIといった主要な画像診断系装置メーカーのほとんどで採用実績があり、あるお客さまではグローバルで1万2000台もの画像診断装置に 「ThingWorx」を導入いただいております。「ThingWorx」はIoTツールですが、できることが非常に幅広いことが特徴で、なかでもリモートメンテナンスやアフターサービスの効率化という点で高く評価されています。MRI 超電磁石用冷凍機へ「ThingWorx」を導入したケースでは、グローバルで600台超ほど稼働しているMRIで故障などによるダウンタイムを16.3%減少したという事例もあります。
今まで搭載していなかった機能が入ることで、例えば医療機器メーカーにとっては製品開発や保守体制を含めてインフラ整備といった投資も必要になります。しかし短期ではなく中長期で考えた場合、病院や検査機関などのお客さまから、故障対応といったようなその都度の保守費用ではなく、リモート保守などによるサブスクリプション契約で安定的に保守料を得ることが可能になります。投資が確実に保守の収益につながるというわけです。
この製品の利便性や効果をお客さまに理解してもらうためには、まずプロトタイプを開発して、お客さまの環境を変えなくてもリモートでつながるということをお見せすることで実感していただき、まずはスモールスタートから、そして段階的に拡大していくことが最適です。医療機器に限らず、IoTを搭載することで製品の機能の優劣だけでなく、保守の迅速化や予防保全によるダウンタイムの削減などお客さまからも価値を認めてもらえると考えています。IoTは効率化を実現する便利機能と思われがちですが、もはやIoTは優位性をさらに高め、競合に勝つためには必要不可欠になっています。
セキュリティに関しては「ThingWorx」側で担保されています。通信ネットワークとしてインターネットVPNを使用しますが、さらにセキュアな環境としてIP-VPNの専用線を使うことも可能です。通信方式にも特徴があり、まず通信を開始するのは監視対象の装置からとなっています。装置にはグローバルIPアドレスが振られていないので、外部からウイルスを送り込まれたりDDoS攻撃を受けたりすることはなく、監視対象の装置を外部から侵入して見ることもできません。また強固なファイアウォールや、基本的ですが暗号化もおこないます。さらにアプリケーション側の機能としてユーザーごとやユーザーグループ別に細かく権限を設定できることも特徴となります。監視対象となる装置は「ThingWorx」サーバーにデータを送信しており、監視側はそのサーバーにWebアクセスでデータを確認することになります。
IoT化が進み、市場ではさまざまなソリューションが提供されています。その一方で「ThingWorx」には明確な競合製品がないというのが実情です。ハイエンドなIoTを構築するために必要な機能を網羅していることで優位性を保っており、監視する装置に対してPLC経由で要求したり、遠隔地から装置のメンテナンスを可能にしたりするツールは実質的にほとんどないと言えます。もちろん「ThingWorx」はワールドワイドで製造現場のIoTとしても活用されていますが、日立ハイテクとしてはハイエンドな機能を生かして製品IoT向けに注力してきました。どちらかというと工場IoTが先と考えられるお客さまが多いと思いますが、中長期の視点から言えば工場IoTと製品IoTが完全に分かれているわけではなく、製品IoTで得られたデータは、製品の改良や開発をはじめ製造IoTで活かすことも考えられますし、統合されたデータを活用することで製品の価値向上や生産面では効率化が図れると考えています。
日立グループでもさまざまな産業機器を提供していますが、そうした機器にも導入事例が増えてきました。工作機械など産業機器メーカーは独自に製品のリモート監視システムを開発している企業は少なくありません。そうした企業では製品開発だけでなく、リモート監視システムの開発や保守にも多大なコストがかかっているはずです。そうした企業向けに、すでにIoTに必要な基本的な機能を幅広く取り揃えている「ThingWorx」を活用した製品IoTのソリューションを提供していきたいと考えています。さらに大企業だけではなく、中堅・中小の機器メーカー向けにも、最適なコストで製品IoTの導入が可能になる点を提案していきます。日立ハイテクは、「ThingWorx」以外にも、IoTを活用した製造業DXを支援するためのさまざまなツールやノウハウを提供することが可能です。お客さまの要望に柔軟に対応し、IoTの浸透、ひいては製造業DXの深化をめざしていきます。
※ThingWorx、Kepwareは、PTC Inc.の米国およびその他の国における商標または登録商標です。