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日立ハイテク

電子顕微鏡から広がる世界 第5回 大妻嵐山高等学校 普段の生活では見ることのないミクロの世界。電子顕微鏡が教えてくれたワクワク感が研究活動のきっかけでした。

大妻嵐山高等学校は科学教育において、すべての学びの土台となる「論理的思考力」や「問題解決力」を身につけることを目標としている。そのため、年間50回の化学基礎の授業の1/3を超える時間を生徒実験に充て、実体験を通して探求する力を育成している。
こうした活動は授業だけでなく生徒自身による探究活動にもつながり、科学に関する課題研究に興味を持った生徒が、自分自身の意思で放課後に課題研究に取り組み、教諭が熱心にその指導にあたっているのも大きな特徴だ。その結果、過去には第65回日本学生科学賞、文部科学大臣賞をはじめとした数多くの賞を受賞している。
今回は、「界面活性剤を用いたパラジウムめっきとグルコース燃料電池への応用」をテーマに研究を続け、「第73回埼玉県科学教育振興展覧会 県議会議長賞」など数々の賞を受賞した藤野美沙希さんと、藤野さんの指導にあたられた鈴木教諭に、研究活動のお話や電子顕微鏡との出会い、その果たす役割などについておうかがいした。

普段見ることのない世界を見ることで知った、ワクワク感

藤野 美沙希 さん 大妻嵐山高等学校3年生

藤野 美沙希 さん 大妻嵐山高等学校3年生

パラジウムめっき表面の電子顕微鏡写真(界面活性剤なし)

パラジウムめっき表面の電子顕微鏡写真(界面活性剤なし)

パラジウムめっき表面の電子顕微鏡写真(界面活性剤あり)

パラジウムめっき表面の電子顕微鏡写真(界面活性剤あり)

鈴木私が授業で一番大切にしているのは、生徒が大人になったときに自分の子どもに「化学の授業が楽しかったよ!」と言ってもらえる授業づくりです。日立ハイテクさんにお借りしている電子顕微鏡はその意味で、一度使ってみると世界観が変わる、化学に対する視点を一瞬で変えてしまう、凄い装置だと思います。

藤野高校に入学したときは理科への興味は特にありませんでした。クラブ活動に選んだのは書道部です。最初に化学を楽しいと感じたのは、高校一年生のときに受けた鈴木先生の授業でした。初めて電子顕微鏡を使ったのもはっきり覚えています。高校二年生のとき、アリの複眼を観察したのですが、六角形の眼が規則正しく並んでいる構造にとても興味を持ちました。普段見ることのない世界を見ることができて、本当にワクワクしました。

鈴木(満面の笑顔)

藤野本格的に化学と向き合うようになったのも高校二年生のときです。友人が大会やコンクールを目指して楽しそうに研究活動する姿を見たのがきっかけです。私も学会やコンクールに参加したい、そこに向かって何か研究をしたいと思いました。自然の豊かな地域で暮らしていて自然と接する機会も多いので、環境問題やエネルギーに関するテーマの研究ができないか鈴木先生に相談したところ、「電池はどうだろう」とアドバイスいただき、今の研究を始めました。

鈴木もともと電池、酸化還元に関することが私自身の研究テーマでもありましたので、そんなアドバイスをさせていただきました。

藤野環境負荷の少ない燃料電池を作ることを目標として始めたのが「界面活性剤を用いたパラジウムめっきとグルコース燃料電池への応用」でした。大妻嵐山高校では、2021年から金属めっきに関する研究が行われています。金属のめっき液に界面活性剤を加えると均一で美しいめっきが得られることが電子顕微鏡観察や測定から明らかになっていました。その手法をパラジウムめっきに応用すれば、グルコース燃料電池の性能を向上させることができるのではないかと考えました。この燃料電池に使用されているグルコースは、自然界に最も多く存在するもので、バイオマスエネルギー源になります。生体への安全性が高いことから、体内埋め込み型の電池として開発が行われるなど、現在注目されている燃料電池です。

鈴木燃料電池は劣化しにくいという特性が重要になりますが、化学反応の触媒となるパラジウムめっきが剥離しにくいほうが電池の性能が長持ちします。より滑らかで、剥離しにくい表面を実現するために界面活性剤の濃度を変化させてめっきしたものを、電子顕微鏡で観察することを繰り返しました。すると界面活性剤の濃度によって明らかに表面の様子が変化することが分かりました。また、もっとも剥離やひび割れが少ない表面を作るために、最適な界面活性剤の濃度がどれくらいかということが、電子顕微鏡写真を使うと目で見てすぐにわかりました。

失敗の繰り返しのなかで学んだあきらめない気持ち

鈴木 崇広先生

鈴木 崇広先生
藤野さんの指導にあたられた鈴木先生自身も、創意と工夫によって著しい教育効果をあげた中学校・高等学校等の理科の教員に授与される第54回東レ理科教育賞において最高の「文部科学大臣賞」を受賞している

研究の成果を英語にして発表する藤野さん

研究の成果を英語にして発表する藤野さん

藤野4時すぎに授業が終わって下校するまでの2時間半から3時間が研究の時間です。でも、うまく結果が出ない日も多くありました。この前と同じことをやっているのにどうして違う結果になってしまうのか? どうやっても電気が流れない状況が2週間くらい続いたこともあります。濃度を変え、結果を見ながら電子顕微鏡でめっき表面のひび割れや剥離の状態を観察する。その繰り返しでした。

鈴木彼女の作業は本当に大変なものでした。失敗がほとんどといってもよいくらいの作業です。一年間やって「よし!きた」という瞬間は数えるほどしかなく、先が見えない、うまくいく可能性があるのかさえ分からない作業の繰り返しでした。本当に良くあきらめなかったと思います。

藤野作製した燃料電池に電流が流れるのか、モーターにつないだプロペラの回転で確認していました。条件を変えながら何回も何回も試行錯誤し、ついにプロペラが回ったときの鈴木先生目の輝きが強く印象に残っています。 私自身がやりたいと思って始めたことなので、私が最初に投げ出すわけにはいかない。私がやりたいと思った以上、最後までやりたいという気持ちでやり通しました。

まだ解明できない謎を突き止めるため、進学後も研究を続けていきたい

Miniscope を使用する鈴木先生と藤野さん

Miniscope を使用する鈴木先生と藤野さん

藤野さんは書道部でも活躍中

藤野さんは書道部でも活躍中

藤野この研究は大会を目指して一度結果をまとめてきましたが、その過程でさらに分からないことがたくさん出てきました。例えば、二酸化炭素を入れると電池の性能が良くなるという現象を研究の過程で見つけました。お線香など火が付いたものを酸素の中に入れると、火が激しく燃え上がります。逆に二酸化炭素の中に入れると火は消えてしまいます。同じように酸素を入れたら電池の性能は良くなり、二酸化炭素を入れれば電池の性能は悪くなるのではという仮説を立てました。ところが試してみたところ、二酸化炭素をいれると逆に性能が良くなるのです。何度やっても同じ結果になりました。しかし、その理由がわかりません。この原因を解明したいと思っています。

鈴木研究しているのは酸素によってグルコースを酸化させるという仕組みの電池ですので、酸素をなくしたら当然電池の性能は落ちると考えられます。ならば、どれくらい性能が落ちるのかを知るために行った実験でした。しかし、予想とは全く逆の現象が起こりました。これは世界の論文を調べても紹介されていない現象ですし、大学の先生に現象を伝えても驚かれます。この原因が解明できたら本当に素晴らしいことだと思います。今、彼女の研究論文を英訳中で、学会に送る準備もしています。

藤野研究はこの1年を思い出しても苦しいことばかりだったような気がします。失敗したらそのときだけ落ち込むようにして、明日から違う方法で試して、また落ち込んでということの繰り返しでした。作業自体を苦しいと思ったこともありますが、その工程が長いだけであって、楽しいなと思える結果に出会える日がくることを思って続けています。
今、私は高校三年生なのですが、大学でもできればこの燃料電池に関する研究を続けたいと思っています。そしていつか、二酸化炭素で電池の性能が良くなる理由を解明したいと考えています。将来は燃料電池をきっかけに、環境やエネルギーなど、社会に貢献できる研究の道に進みたいと思っています。

大妻嵐山高校×Miniscope®

大妻嵐山中学・高校の理科教育

授業で理科の実験を扱う機会が少ない学校が多いなか、大妻嵐山では教科書に出ている実験をすべて生徒自らが行う。特に中学ではほぼ毎時間実験を行うと共に、自分たちで問いを立てて取り組む探究活動の一環として、全員が科学論文に取り組んでいる。また、グループでテーマを決めて研究し、その成果を口頭発表している。

  • 第1回

    埼玉県立川越高等学校
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    長崎県立長崎西高等学校
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  • 第5回

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    愛媛大学附属高等学校
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