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電子顕微鏡から広がる世界 第3回 長崎県立長崎西高等学校 詳細な画像が発見や解明の裏付けに。電子顕微鏡によって生徒たちの研究がより深いところまで到達できるようになりました。

長崎県立長崎西高等学校は、平成17年度から文部科学省のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されていて、理数教育の先進的カリキュラムの開発や、科学技術人材の育成を実践している。同校のSSH事業は全国でも珍しい全員参加型で、1年生から3年生まで理系文系の全員が各Missionに取り組んでいる。また、課外活動の科学系部では物理、化学、生物、地学の各分野で課題研究を進め、全国レベルの研究発表大会で数多くの受賞実績を残してきた。今回は、長年にわたり生物部の顧問を務められている長嶋哲也先生と、農学博士として研究を続ける非常勤講師の安永智秀先生、ハナアブのホバリングに関する研究でJSEC2021のグランドアワードを受賞した3年生の石橋 侑葉さんに、同校の研究活動の特長や電子顕微鏡が果たしている役割などをうかがった。

※ JSEC:Japan Science & Engineering Challenge  高校生・高専生 科学技術チャレンジ

多様なフィールドに囲まれる中で、受け継がれてきた活発な研究活動。

長嶋 哲也 先生
長崎県立長崎西高等学校

安永 智秀 先生
アメリカ自然史博物館 リサーチ・アソシエイト

長嶋長崎西高校の科学系部活動には毎年100名ほどの生徒が参加しています。私がこの学校に赴任してから17年になりますが、その前から先生方の熱心な指導によって日本学生科学賞やJSECといった全国レベルのコンクールに応募しようという姿勢で研究活動に取り組んでいました。そうした学校内の雰囲気と、周辺の多様な自然環境が継続的な研究実績につながっていると思います。

安永そうですね。例えば大村湾というのは、海に住んでいるアメンボが何種類も生息しているなど、日本国内だけでなく世界でも珍しい環境を保っている海域です。数年前に生徒たちの研究でアメンボの新種が発見されたように、そうした場所や環境が学校の近くにあることも一つの財産といえます。フィールドで実物を調査することの大切さは、どんな研究活動にも共通していますから。

長嶋そうした場所へ連れていくと、生徒たちの目が輝いてスイッチが入ることがよくあります。生物部では伝統的に、入部した1年生に学校で育てている生き物の飼育や植物の栽培を体験してもらうことにしています。その経験は、2年生からの自分たちの研究活動の中で、実験生物の飼育維持に大いに役立っていると思います。

石橋私が生物部に入ったきっかけは、部活動見学のときに3年生の先輩がすごく丁寧に自分たちの活動を紹介してくれたことでした。じつは入学前には長崎西高がSSHであることや受賞の実績も知らなくて、電子顕微鏡の知識もありませんでした。そんな私にも分かるように、高度な研究の内容をかみ砕いて説明してくれたことで、生物部に魅力を感じました。

長嶋そうした熱心さや研究の内容を分かりやすく伝えようとする姿勢も、生物部に受け継がれているものなのかもしれません。石橋さんたちの研究テーマ「ハナアブのホバリングのメカニズム」も、先輩たちの内容をさらに進めたものでしたね。

先輩の研究からホバリングに興味を持ち、独自の測定装置と電子顕微鏡で解明。

石橋 侑葉 さん
長崎県立長崎西高等学校3年生

Miniscope®を使用する安永先生と石橋さん

石橋先輩たちが昆虫のホバリングについて先行研究をしていて、そのなかでもハナアブのホバリングはとても巧みで面白いというのを聞いて、その続きをやってみようと思いました。それで、同じようにホバリングに興味を持っていた古堅さんと二人で研究を始めました。

長嶋彼女たちのすごいところは、翅(はね)の動きを再現して前に進む力と、真上に向かう力を、それぞれ「やじろべえ」のような仕組みで測定できるようにしたところでした。その装置には、物理の先生も感心していました。翅の部分には湿布薬の裏のシールを使っていましたが、そうした自由な発想やあきらめずに解決まで持っていったがんばりにも驚きました。

石橋測定装置を完成するまでには試行錯誤がありましたが、もともと図工が好きだったので楽しんでやっていました。湿布薬のシールは、自分が学校の競技会で筋肉痛になって湿布を貼っているときに、これなら翅の微妙なしなりを再現できるのではと思いつきました。

長嶋この研究では、ハナアブが翅の角度を筋肉によって変えられることを発見したことがポイントになりました。その動きを可能にする独特の構造を確かめるのに大きな役割を果たしたのが卓上型電子顕微鏡「Miniscope」です。私は、日立ハイテクさんから電子顕微鏡をお借りできるというという話をいただいたときから、これで生徒たちの研究がより深いところまでたどり着けるようになると期待していましたが、彼女たちの研究でもそれが証明されたと思っています。

石橋電子顕微鏡は思っていたより小さくて、操作も簡単でした。その画像で実際に筋肉が動いているのを確認できたときには感動しました。現在はISEF※での発表に向けて、古堅さんと英語での説明や質疑応答などの準備を進めています。ハナアブのホバリングには、まだまだ研究対象になる課題があるので、後輩たちがそれをやりたいと感じて、さらに進めてくれたらうれしいです。

※ ISEF:International Science and Engineering Fair 国際学生科学技術フェア

~ 共同研究者の古堅 乃唯さん(研究時、長崎西高等学校2学年在籍) ~

古堅 乃唯さん
今回の研究で特に印象に残っているのは、自分たちの作った装置でまだ誰も知らないであろう実験結果を出せたことです。初めて電子顕微鏡を使ったときは、画像の情報量が多すぎてどこに注目すればいいのか分からなくなりましたが、この研究の大きな発見の一つである翅と胴体をつなぐ独特の構造を見つけるのに役立ちました。将来の夢はまだ決まっていませんが、フィールドワークの楽しさを知ったので大学でも続けたいと思っています。

卒業生のご紹介

大村湾で野外調査の
楽しさと大変さを実感。
大学でもアメンボを研究中。

~ 大村湾の海水域で新種アメンボを発見。「ナガサキアメンボ」と命名。 ~

JSECファイナリスト
朝鍋 さん 2018年度卒業 東京大学教養学部学4年
長崎西高校の研究活動で印象に残っているのは、アメンボを採集するために大村湾沿岸を奔走したことです。野外調査の楽しさや大変さを実感しました。電子顕微鏡に関しては、ありきたりですが、おお〜すごく細かいところまで見える!という感動がありました。卵の表面構造や産卵管先端の構造の違いを発見できたのは、電子顕微鏡のおかげです。高校での経験を通じて生き物が好きだというだけでなく、研究者として社会に貢献したいと考えるようになりました。大学では淡水性アメンボの塩水適応について研究をしています。将来の目標もアメンボの研究者になることです。水面という特殊な環境に適応した生態や進化プロセスについて興味がつきません。

電子顕微鏡で発見した
謎の孔(あな)が研究成果のきっかけに。

~ ソデフリカスミカメムシの前胸背小孔を発見。集団生活をする種に共通の構造であることを解明。 ~

JSECファイナリスト
本村 佳凜さん 2019年度卒業 佐賀大学理工学部4年
研究ではソデフリカスミカメムシの生体構造を調べるために電子顕微鏡を使いました。文献や資料に記載されているような画像が、自分たちが研究している生物で見られて感動したことが強く印象に残っています。大学では電子デバイスに関する研究を進めています。

JSECファイナリスト
池田 菜々子さん 2019年度卒業 佐賀大学農学部4年
ソデフリカスミカメムシは体長3mmほどなので、形態の観察には電子顕微鏡がとても役に立ちました。研究活動を通じては、自分で考え調べる習慣が身につきました。将来は、生命科学や食糧科学への理解を深め、学んだ知識を世の中のために生かしたいと考えています。

JSECファイナリスト
田川 晶悠さん 2019年度卒業 長崎大学環境学部4年
電子顕微鏡を初めて使ったときには、それまでの自分の顕微鏡のイメージが覆りました。研究活動によって変わったのは、さまざまなことに好奇心を持つようになったことです。将来は、海外で特に途上国の発展に貢献できるような仕事をしたいと思っています。

国際大会で世界の
同年代の研究者の発表から大きな刺激を。

~ ハシリカスミカメムシの発音器官を電子顕微鏡で確認し、その発音パターンを検出。 ~

JSECファイナリスト、ISEFにてアメリカ音響学会1等賞受賞
日南 さん 2020年度卒業 佐賀大学農学部3年
体長が3mmほどしかない昆虫が音を出しているところを自分たちの目で確認できたらすごいと思い研究を始めました。主に発音器や臭腺の構造を確認するときに電子顕微鏡を使ったのですが、発音器の突起が浮かび上がるようにはっきり見えたことに驚いたのを覚えています。研究活動を通じて未知の事柄を解明していく楽しさやチームメンバーと協力して課題を乗り越えたときの達成感を学ぶことができ、大学でも研究を頑張ろうと思うきっかけになりました。国際大会の場では、世界の年齢が近い研究者の発表を見て刺激を受けました。将来は、昆虫とその生息環境の関係などについて研究し、生態の解明や生態系の保全などに貢献できたらと思っています。

SSHの課題研究の授業で、
形態学的特徴を
発見して論文に。

~ ヒョウタンカスミカメムシ類の胸部微細構造に、分泌線と推測される器官を発見。 ~

福田 憲士郎さん 2021年度卒業 久留米大学医学部1年
私たちの研究は、部活動ではなくSSHの課題研究の授業でのものでした。発見した構造は肉眼ではツルツルしているように見えましたが、電子顕微鏡で見ると突起物がたくさんあり、そこから分泌物を出していると推測できました。私たちの班には生物を選択している者がいなかったので研究を最後まで進められるのか不安でしたが、班員と協力し、たくさんのカメムシと触れ合うことで、論文までたどりつけました。努力次第で結果を出せることを証明でき、自分の自信にもつながりました。大学では、医学や物理、化学、生物を勉強しています。今は支えられている自分ですが、将来は支える側となり、どんな場所に行っても頼られる医師になりたいと思っています。

長崎西高校×Miniscope®

飼育と栽培が、
観察や研究の礎に。

長崎西高校の校訓は「自律」。SSHの活動においても、その精神のもとに生徒たちが各分野で自主的な挑戦を続けている。そうした研究活動の基礎を築くために生物部で伝統的に行われているのが、1年生が入部時に任せられる飼育と栽培。デグー、イモリ、クサガメ、スッポン、コダカラベンケイソウといった生き物の世話を先輩から受け継ぐことで生態への興味や観察する力が養われ、研究時の生物の飼育維持にも役立っている。

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