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日立ハイテク

電子顕微鏡から広がる世界 第7回 東京都立小石川中等教育学校 高度な観察技術で進化する金樹研究。電子顕微鏡が切り開いた新たな可能性とは?

東京都立小石川中等教育学校は6年間を通じて教育を行う中高一貫校であり、教育の柱として「小石川教養主義」「理数教育の充実」「国際理解教育」の3つを掲げている。科学分野においては、高度な理数教育と課題探究学習を通じて、課題発見力・創造的思考力・継続的実践力を育成することを目標としている。そのため、大学や企業、研究施設との連携に加え、海外の高校や大学との研究交流を幅広く実施し、科学的思考力を備えたグローバルリーダーの育成に取り組んでいる。
今回は、「金樹の作成手法の改良と比較」をテーマに研究を進め、日本顕微鏡学会でポスター発表を行い優秀賞を受賞した三宅明信さん、その研究を指導した加藤優太教諭、部活動指導員の土屋徹先生に、研究活動の詳細や電子顕微鏡との出会い、その果たす役割について話をうかがった。

美しい金樹を簡単に作る方法を求めて研究を開始

教務主任 加藤優太 主任教諭

教務主任 加藤優太 主任教諭

三宅 明信さん 東京都立小石川中等教育学校5年生

三宅 明信さん 東京都立小石川中等教育学校5年生

部活動指導員 土屋徹先生

部活動指導員 土屋徹先生

加藤本校は文部科学省からSSHの指定を受けており、国際社会でリーダーとして活躍できる科学技術人材の育成を目指した教育活動を行っています。また、1~6年すべての学年で「小石川フィロソフィー」という探究の授業があり、科学に限らず、自分の興味があることを科学的に追究する探究活動が行われています。三宅君は、この環境の中で「金樹」をテーマに研究を進めてきました。


三宅:小石川に入学してすぐ化学研究会(化研)に入ったのですが、他の部員がコンテストなどで成果を出す中、自分はテーマがなかなか見つかりませんでした。そんなとき、部活の指導をされている土屋先生が教員研修の予備実験で金樹を作成しようとしていた際、うまくいかなかったことを知りました。それをきっかけに、「金はイオン化傾向が小さく、固体で安定しているので、金樹はきっと簡単にできるはずだ。もっと簡単に、光沢のある美しい金樹を作る方法を開発しよう」と考え、研究を始めました。


土屋他の金属樹の研究や実験を行っている人はいますが、金樹の研究をしている人はほとんどいません。一番の理由は、実験に使う塩化金酸が高価で、部活では経済的に難しいからです。たまたま私が管理していた塩化金酸があったため、「ぜひ自分がやりたい」と言う三宅君に、「じゃあやってごらん」ということで研究が始まりました。

前例のなかった「生徒からの要望」による電子顕微鏡の貸し出し

電子顕微鏡を使って金樹の様子を観察中(中央が三宅さん)

電子顕微鏡を使って金樹の様子を観察中(中央が三宅さん)

(金樹の中間部のSEM像)

金樹の中間部のSEM像

(金樹の先端部のSEM像)

金樹の先端部のSEM像

三宅現在は、水中に溶けた金を固体として取り出し、木の枝のような形状に成長させる「金樹」を作成する方法の改良を進めています。なぜ金樹がうまくできないのか、より美しい金樹を作るための条件を探り、成長する様子の観察を重ねながら失敗した部分を見つけ、条件を改良することを繰り返しています。当初は加藤先生から借りたカメラのマクロレンズで金樹の変化を撮影していましたが、被写界深度などの関係で限界がありました。そのため先生に相談したのが、電子顕微鏡を使わせていただくことになったきっかけです。


土屋幸い、私の教え子が東海大学の教授をしており、そのつながりで電子顕微鏡を使わせていただけることになりました。


三宅東海大学の電子顕微鏡は非常に高度な研究用機器で、専用の部屋が必要なくらい大きな顕微鏡でした。「少し触らせてもらえればいいな」と思ってお願いのメールを送ったのですが、「この電子顕微鏡は車で言えばフェラーリのようなもの。免許を持たない人にフェラーリを運転させるわけにはいかないです」と返信が来ました。ただし、「横で見ているだけなら良い」ということだったので東海大学に出かけたところ、実際にはピントを合わせる作業などをやらせていただけました。それが電子顕微鏡との最初の出会いです。


加藤その後、三宅君が日立ハイテクさんの電子顕微鏡貸出プログラムを知り、「先生、すぐに連絡してください!」と言ってきました。問い合わせたところ貸出予定が1年先まで埋まっているとのことでしたが、三宅君は諦めず「少しでもいいからお願いしてください!」と熱心に頼み込まれました。そこでかなり無理にお願いしたのを覚えています(笑)


日立ハイテク担当者それまで先生からのご依頼でお貸出しする形が多く、生徒さん自身からここまで熱意ある要望をいただいたのは初めてでした。驚きとともに大きな喜びでした。そこまでやる気のある生徒さんのために、何とかしてあげたいと思い、機材をお貸しすることにしました。


金樹の研究を介して広がる世界

受賞の対象となった電子顕微鏡学会でのポスター発表の様子

受賞の対象となった電子顕微鏡学会でのポスター発表の様子

化学研究会の仲間たちと

化学研究会の仲間たちと

三宅光学顕微鏡やマイクロレンズの場合、被写界深度(ピントが合う幅)が浅いため、一か所にしかピントが合いません。また、金樹の各部分にピントを合わせて階層別に撮影を行うと膨大な手間がかかりました。さらに、金属であるため反射が生じ、思うような綺麗な写真も撮れませんでした。こうした状況の中で、この先研究をどう進めるべきか悩み、先生にも相談していました。


土屋三宅君の場合、その時点で研究の内容が高校の実験道具のレベルを超えていました。三宅君の研究を進めるためには、もっと高度な道具が必要だったのです。


三宅お借りできた電子顕微鏡は、こうした課題をすべて解決してくれました。それが今の成果につながったと思います。最初に電子顕微鏡を使ったときは、気軽に観察ができるうえ、金樹の美しい構造を目にすることができて、とても感動しました。電子顕微鏡を使ったことで、一つの枝のように見えていた金樹が、実は小さな枝状結晶が集まったものであることが分かりました。この発見により、次のステップへ研究を進めることができました。
その後、先行研究の作成手法で作成した金樹と、改良した作成方法で作成した金樹では、枝状結晶の太さが異なることや、金樹の先端に析出する形状が異なる物質であることも分かりました。こうした積み重ねの結果、光沢のある非常に美しい金樹を作成できるようになりました。


加藤このように、実験と観察を繰り返す必要のある研究では、高度な機械を使わなければ確認できない部分が必ずあります。確認ができて初めて次のレベルの研究に進むことが可能です。その意味で、電子顕微鏡が三宅君の研究を大きく前進させたと思います。


三宅今回の電子顕微鏡もそうですが、やりたいことや悩んでいることを先生や大人の方々に相談すると、皆さんがいろいろ手を尽くしてくれました。分からないところは優しく教えていただき、ご協力いただけることに本当に感謝しています。実験に行き詰まったときも、先生方が方向性をアドバイスしてくださり、いつも見守ってくれました。
先日、電子顕微鏡学会(※1)の第一回高校生向けポスター発表会が幕張で開催されることを日立ハイテクさんに教えていただき、参加しました。そこでは、金属化学や工学の専門の先生方とお話する機会があり、初対面にもかかわらず親切にアドバイスをいただきました。


土屋私は三宅君をはじめ研究を行う生徒たちに、「実験ができるだけではダメだよ」と必ず伝えています。挨拶をしっかりすることや礼儀作法を身につけることが重要です。これによって私たちや大学の先生方とのネットワークを築き、自分の力を超えていくことができます。三宅君はその力をしっかり身につけてくれたと思います。それが本当に嬉しいことです。


※1 日本顕微鏡学会
日本顕微鏡学会は、顕微鏡学の学理探求と顕微鏡学に関連する様々な研究開発を振興し,それらを生命科学や材料科学をはじめとするあらゆる学問領域に活用し,その発展を通じて,社会や文化の発展に貢献することを目的とする学術団体。将来の日本の基礎研究,産業の発展を担う、顕微鏡に興味を持つ若手の裾野拡大を図るため、学童期から顕微鏡の面白さ,科学への興味・関心を高めてもらうように、小中高生を対象に、「ジュニアメンバー制度」を創設した。


東京都立小石川中等教育学校×Miniscope®

東京都立小石川中等教育学校

平成18年よりスーパーサイエンスハイスクール事業(SSH)の指定を受けている小石川中等教育学校は、国際社会でリーダーとして活躍できる「課題発見力」「継続的実践力」「創造的思考力」を兼ね備えた科学技術人材の育成を目指している。各生徒は小石川フィロソフィーのもと、6年間を通した課題研究を持つのが大きな特長の一つ。中高一貫教育校の特徴を活かし、1・2年で課題研究の基礎的スキルを学び、 3・4年でプレ課題研究や発信力の向上に取り組み、5年で課題研究を深め、6年では各自で取り組んだ課題研究のまとめを行う。これらの取り組みにより、生徒たちは科学的な見方・考え方を深め、国際的な舞台で活躍する力を養っている。

  • 第1回

    埼玉県立川越高等学校
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