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日立ハイテク

電子顕微鏡から広がる世界 第9回 福島県立会津学鳳高等学校 電子顕微鏡が支えた、高校生のCu₂O研究。太陽光発電を見据えた探究と学び。

福島県立会津学鳳高等学校の開校は大正13年。若松女子高等学校など、いく度かの校名変遷を経て、平成14年に男女共学の全日制総合学科高等学校となった、100年以上の歴史と伝統を持つ学校である。平成19年には、会津学鳳中学校と会津学鳳高等学校を併設した、福島県初の中高一貫校となった。
同校は、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校として、中高6年間を貫く探究活動を実践している。全学年を通じて(1年次はSSH産業社会、2・3年次はSSH探究を中心に)、すべての学習活動において「探究活動」に力を入れ、探究活動を通して、課題発見力、創造的思考力、情報活用能力、コミュニケーション力、グローバルリーダーシップを身に付ける教育を一貫して行っている。
同校SSH探究部化学班では、「アラニナト銅水溶液中の赤色薄膜の解明」をテーマに研究を続けており、その成果は非常に高い評価を得ている。令和6年度スーパーサイエンスハイスクール(SSH)生徒研究発表会ではポスター発表賞を受賞した。「清流の国ぎふ総文2024」(全国高等学校総合文化祭)自然科学部門ポスター部門において、全国第2位にあたる文化庁長官賞を受賞している。さらに、第68回日本学生科学賞においても文部科学大臣賞を受賞している。
今回は、SSH探究部化学班でこの研究に取り組む中川太玖さん、出村胤英さんと、SSH探究部顧問の大橋謙太郎先生に、研究活動の内容や電子顕微鏡との出会い、その果たす役割などについて話をうかがった。

未知の赤色物質からCu₂Oへ――安全・安価な生成法の確立

SSH探求部顧問 大橋 謙太郎 先生

SSH探求部顧問 大橋 謙太郎 福島県立会津学鳳高等学校 教諭

中川 太玖 さん 福島県立会津学鳳高等学校2年生

中川 太玖 さん 福島県立会津学鳳高等学校2年生

出村 胤英 さん 福島県立会津学鳳高等学校2年生

出村 胤英 さん 福島県立会津学鳳高等学校2年生

大橋わが校では、会津地区で唯一のSSH校として、「充実した設備」「中高一貫の継続性」「実践的なカリキュラム」という3つの柱を中心に、生徒が高度な研究に没頭できる環境づくりに努めています。
なかでも、一般的な学校では考えられないほど実験の回数が多いのが特長で、化学の授業は週に4回程度実施され、その約半分を実験に充て、年間で20回以上行われます。これにより、知識を単なる暗記ではなく、実感を伴う「感覚」として化学を習得することができます。また、授業の一環として、生徒が自身の興味あるテーマを深掘りする「探究活動」の時間も設けています。


中川今回私たちが行ったのは、「アラニナト銅水溶液中に生じるCu₂O結晶の特性と選択的合成」をテーマにした研究です。硫酸銅、水酸化ナトリウム、アラニンを混合すると赤色物質が生じたため、この物質の正体を特定すること、そしてその生成過程の解明に取り組みました。もともとこの物質は、先輩たちが研究の過程で偶然発見したもので、先行研究がほとんどない未知の物質でした。


出村私たちの研究は、先輩たちの発見をさらに深化させることを目的としたものです。発見された物質の正体が何なのかを特定し、さらに完成度を高めていくことをめざしました。その結果、Cu₂O(酸化銅)の結晶を安価かつ安全に生成する手法を確立することができました。


大橋生徒たちが研究の中で得た結晶の正体を明らかにするため、福島大学に依頼してXRD(X線回折)分析を行いました。その結果、Cu₂O(酸化銅)であることが判明しました。Cu₂Oは、特定の波長の光を吸収し発電効率を高める特性を持ち、太陽光発電においても重要な素材です。しかし、従来の製造方法では多額の費用や手間がかかるうえ、危険を伴う場合もありました。これに対し、彼らは「室温で放置する」という非常に簡便な方法で作製できる手法を見出しました。この「安全・安心・安価」な手法は、既存の工業的プロセスを覆す可能性を秘めた、非常に画期的なものだと考えています。


中川この研究を通して、簡単な作業でCu₂Oの八面体結晶からなる薄膜を形成することができました。今後、この薄膜の密度をさらに向上させることで、太陽電池の発電効率の向上が見込まれ、関連するデバイスの性能向上にも大きく寄与する可能性があります。その点について、専門家の皆さんからも高い評価をいただくことができました。


電子顕微鏡が支えた、薄膜高密度化への挑戦

電子顕微鏡を用いたCu₂O結晶の観察。密度や形状の違いを可視化する。

電子顕微鏡を用いたCu₂O結晶の観察。密度や形状の違いを可視化する。

八面体結晶として成長したCu₂O。薄膜化に向けた構造の確認。

八面体結晶として成長したCu₂O。薄膜化に向けた構造の確認。

電子顕微鏡画像(Cu₂O結晶)

電子顕微鏡画像(Cu₂O結晶)

電子顕微鏡画像(アラニナト銅の結晶)

電子顕微鏡画像(アラニナト銅の結晶)

中川この研究の目標の一つとして、太陽光パネルへの応用が挙げられますが、Cu₂Oがパネルの素材として機能するためには、一定以上の密度が必要です。密度を向上させることは、次世代のエネルギー技術(安価で安全な太陽電池など)へとつなげるための、不可欠なステップです。密度を高めていくには、実験でさまざまな組み合わせを繰り返し検証する必要があり、その結果を電子顕微鏡を通じて確認できることは、研究の精度や再現性を証明するうえで非常に重要でした。


出村この研究において、電子顕微鏡の存在は非常に大きなものでした。電子顕微鏡を用いた観察により、Cu₂Oが「八面体結晶」という特徴的な形状をしていることを、初めて確認することができました。生成されたCu₂Oをさらに実用面で生かしていくためには、この結晶をスライドガラス上に「薄膜」として定着させる必要があります。密度を高める必要があるのは、この薄膜化の過程です。そのためには、ひたすら実験と結果の観察を重ねることが求められ、電子顕微鏡による確認が不可欠でした。


大橋彼らは「どの溶液比率であれば最も緻密な構造がつくれるか」を、無駄な作業を一切恐れない、ある意味では高校生らしい「力技」による「全条件」の検証を通じて追求しました。もともと「室温で放置する」という方法も、こうした地道な作業の積み重ねの中から見いだされたものです。もしかすると高校生の時代にしかできない、この「力技」による研究の場に電子顕微鏡があるというのは、本当に素晴らしいことだと思います。


ミクロの世界との出会いが広げた学び

ミクロの世界に触れることで広がる、新たな発見と探究心。

ミクロの世界に触れることで広がる、新たな発見と探究心。

中川研究は本当に面白いです。今後も、より結晶性の高い薄膜形成が可能な方法を、さらに解明していきたいですね。研究に取り組んできたことで、自分なりに答えのない課題に粘り強く向き合い、失敗を分析して次に生かしながら行動できるようになったと感じています。それに、出村君と一緒に研究ができたことも大きかったです。


出村お互いに、どちらかが問題点や疑問を投げかけ、もう一方が悩んだり、やり直したりする。そうした積み重ねも、協力しながら作業を進めてきたからこそできたのかもしれません。私は、今の研究や実験の活動を通して、その面白さとともに、研究結果をまとめていくための情報分野での技術の活用や、データ収集の効率化といった点にも興味が広がっています。


大橋こうした彼らの研究活動に限らず、通常の授業においても、電子顕微鏡は多くの発見を私たちにもたらしてくれています。例えば、教師から基本的な操作を教わった後は、夏休みなどの期間を利用して、生徒が自由に来て操作し、写真撮影や観察を行っています。普段手にしている物質の裏側にある「ミクロの世界」に直接触れることは、生徒にとって大きな衝撃や感動を伴う体験となり、探究心を深める重要な契機となっています。
また、授業の探究活動の時間においても、電子顕微鏡は活躍しています。例えば、お米の保存方法に関する研究(コメの表面のひび割れの撮影)や、シジミの貝殻における蛍光部位の撮影など、生徒の探究心に応えてくれる存在となっています。生徒たちは、目で見えるマクロな世界とは異なる微細なミクロの世界に、圧倒的な完成度や「宇宙」のような広がりを感じています。高校生の時代にこの感動を得られることは、本当に素晴らしいことだと思います。


福島県立会津学鳳高等学校×Miniscope®

福島県立会津学鳳高等学校の理科教育

会津地区で唯一のSSH校として、生徒が高度な研究に没頭できる環境づくりのため、「充実した設備」「中高一貫の継続性」「実践的なカリキュラム」という3つの柱を備えている。
●「充実した設備」
生徒は、高校では珍しい電子顕微鏡や蛍光度計など、大学レベルの高度な分析機器を自ら操作しながら研究を進めることができる。教師は基本的な操作を指導した後は生徒に任せる方針をとっており、生徒が主体的に試行錯誤できる環境が整えられている。
●「中高一貫の継続性」
SSH校としての強みを生かし、中学校から高校までの6年間を見据えた教育体制が敷かれている。先輩から後輩へと研究テーマが引き継がれる「伝統」があり、過去の知見をベースに、さらに高度な研究へと発展させることが可能である。また、「科学部」よりもさらに探究に特化した「SSH探究部」が設けられており、科学に強い興味を持つ生徒が集い、切磋琢磨する場となっている。
●「実践的なカリキュラム」
普通の学校では考えられないほど実験の回数が多いことも、大きな特長の一つである。年間で20回以上の実験が行われ、知識を単なる暗記にとどめず、実感を伴う「感覚」として習得することができる。また、授業の一部として、生徒が自身の興味あるテーマを深掘りする「探究活動」の時間が設けられている。

  • 第1回

    埼玉県立川越高等学校
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    岡山県立玉島高等学校
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