ページの本文へ

Hitachi

技術機関誌 SI NEWS日立ハイテク

高橋 秀裕*1柴田 健一*2

はじめに

材料の耐熱性評価、寿命予測、成分定量などに有効な手段である熱重量測定TG(Thermogravimetry)は熱分析手法の一つである。温度制御された加熱炉の中に試料を入れ温度を一定速度で変化または保持させる過程で起こる試料の分解反応や昇華、蒸発、酸化反応などに伴う試料の質量変化を温度または時間の関数として捉える技法である。
しかし、TGから得た情報だけでは質量変化の原因を推察するのは困難なことも多い。そのため、TG と示差熱分析DTA(Differential Thermal Analysis)や示差走査熱量測定DSC(Differential Scanning Calorimetry)を組み合わせたTG/DTA、TG/DSC が普及している。近年では、さらに多くの情報を得るため、デジタルカメラを装備させて、測定中の試料を観察する技法も注目されている。
当社では1970年代以降、水平差動方式のTG/DTA を自社開発し、世界中に販売してきた。2013年には水平差動型のTG 装置として世界初の試料観察型TG/DTA(Real View®)を発売した。第7世代となる新シリーズは、シリーズ名をNEXTA®とし、DSC 測定機能を搭載したTG/DSC 3機種をリリースした(装置名:STA200、STA200RV、STA300)。図1左は、試料観察ユニットを付属させたSTA200RV の外観である。
TG の解析は、質量減少が発生する前後の質量差を読み取るが、TG のベースラインにドリフトが発生している場合、この読み取り値に装置由来の質量変化が加わってしまう。測定精度を高めるためにはベースラインの性能が重要である。本シリーズではベースライン性能を向上させるため、新しく設計した天秤安定技術を搭載した。
ここでは、本シリーズで取り入れた新技術を説明するとともに、この装置によって得られた特徴的なデータを紹介する。

図1 NEXTA ® STA外観(左)と天秤機構概略図(右)
図1 NEXTA® STA外観(左)と天秤機構概略図(右)

ベースライン安定性

NEXTA® STAでは、天秤制御部の温度をつねに均一に保つことにより、表1に示すように、安定したベースラインを実現した。
図2は、従来機とNEXTA® STA にて同条件で得られたTG のベースラインデータの重ね書きである。従来機と比較してドリフトが減少していることが確認できる。
ベースラインドリフトが低減した結果、図3に示すような1%程度の微量の質量減少も高精度にとらえることができるようになった。

表1 NEXTA® STAの主な仕様
  STA200 STA200RV STA300
天秤方式 デジタル水平差動型
温度範囲 室温~ 1,100℃ 室温~ 1,000℃ 室温~ 1,500℃
TGベースライン性能 < 10 μg(室温~ 1,000℃昇温過程)
< 10 μg(1,000℃等温保持時)
DSC 機能 標準搭載
比熱容量測定 可能(オプション)
試料観察オプション 非対応 オプション 非対応
ガスコントロール マスフローコントローラー標準搭載

図2 ベースライン安定性
図2 ベースライン安定性

図3 微小混入量の定量例
図3 微小混入量の定量例

ガス置換性の向上

TG 測定は一般的にガスを流しながら測定する技法であり、流すガスの種類によって試料で発生する反応が変わる。窒素をフローしながら測定する場合、多くの場合は酸化による反応を抑制しながら測定することを目的としている。金属試料の場合、測定系に酸素が混入すると測定中に試料が酸化し、試料本来の反応が発生しない可能性がある。また、高分子試料においては、分解開始温度が酸素濃度の影響を受けるケースも見受けられる。
当社のTG はガス置換性に優れた水平型の天秤機構を採用しており、他の天秤機構よりもガスフローを多くすることが可能であった。さらに、NEXTA® STAではガス流路の最適化も行っており、従来よりもさらに置換性能を向上し、残留酸素濃度を5 ppm まで低減することが可能となった。
図4は鉄粉を窒素雰囲気中で、1,400℃まで昇温測定した結果である。従来機と比較してTG の質量変化がほとんど確認できないことから、測定雰囲気中の残留酸素濃度が充分低いことがわかる。また、DSCチャートに現れた各転移のピーク温度が、純鉄の転移ピークであることも、試料が酸化していないことを示唆する結果となっている。

図4 鉄粉のSTA測定結果
図4 鉄粉のSTA測定結果

温度変調DSC機能による比熱測定

NEXTA® STAでは、温度変調DSC(TM-DSC)測定が可能である。本機能は一定速度昇温に小さなサイン波状の温度変調を重ねた温度制御をする測定手法である。このデータを専用ソフトウェアで処理することにより、試料の比熱容量を算出できる。
図5は、モリブデンを測定した処理前のデータである。図6および表2は、比熱容量を算出した結果をNIST 認証値1)と併せて示している。認証値とTM-DSC による測定結果がよく一致していることが確認できる。
熱分析装置で比熱測定を行う場合、汎用DSC を用いて、実試料、基準物質、空容器の3回の測定により比熱容量を求める方法が一般的であるが、その方法と比較して、NEXTA® STAを用いたTM-DSCによる比熱容量測定には以下のメリットがある。

  • 都度の基準物質測定が不要。
  • 高温までの広い温度域の一括測定が可能。
  • 残留酸素が少ない雰囲気で測定可能であるので、比熱測定中に試料が酸化するリスクが低い。

図5 TM-DSC測定データ
図5 TM-DSC測定データ

図6 モリブデンの比熱容量
図6 モリブデンの比熱容量

表2 モリブデンの比熱容量読み取り値
  226.85℃ 426.85℃ 626.85℃ 826.85℃ 1026.85℃ 1226.85℃
実測値(J/g・℃) 0.27 0.28 0.28 0.29 0.30 0.31
認証値(J/g・℃) 0.27 0.28 0.29 0.30 0.31 0.33

試料観察熱分析の強化(色解析機能)

試料観察熱分析装置(Real View®)は、従来不可能であった熱分析測定中の試料を観察することを可能とした。得られた試料観察画像は、熱分析データと同期しているため、例えばDSCピーク時の試料画像を表示することも容易に可能となった。
これまで観察だけではなく、デジタルズームに対応、長さ測定機能などの機能強化を続けてきた。NEXTA® シリーズでは新たに画像の色解析機能が付加された。色解析機能は収集した試料観察画像における任意のエリアの色相について、例えば赤(R)、緑(G)、青(B)の3種の数値で表現する手法である。本シリーズでは、RGB 以外に、CMYK、Lab の解析が可能である。
これまでは、測定中に色の変化があった場合は人の目による判定をしていたが、色解析を取り入れることで色の変化を定量的に評価することができるようになった。
図7は、硫酸銅5水和物の測定結果である。この試料は昇温により多段階に脱水による質量減少が起きることはよく知られている。脱水過程の試料観察画像を見ると、室温で鮮やかな青色であった試料が、次第に鮮やかさが消えながら、青色から白色へ変化している。この画像について、色解析(RGB)を実施して得られたR、G、B 各信号を同じチャート上に表示した。
全ての色は、R、G、B 各数値の組み合わせで表現できるが、室温近傍のR、G、B 値と一段目の質量減少後(10 ~ 20分近傍)のR、G、B 値は大きく変わっている。水和物がすべて脱水したと考えられる温度の画像も一見、グレーにみえるが、若干B(青色)成分を含んでいることがわかる。
ここでは、無機物の脱水過程における色変化を数値化したが、高分子のSTA 測定では、熱分解を測定することが多い。
この場合、白色もしくは透明な高分子が黄変し、さらに昇温すると炭化していくが、この過程の評価にも適応が期待できる機能といえる。

図7 試料観察TGの色解析例
図7 試料観察TGの色解析例

まとめ

NEXTA® STA はベースライン性能、ガス置換性能の向上、DSC 機能、試料観察機能を搭載した製品である。測定精 度に課題を抱えている方、測定中に残留酸素で酸化反応が起きてしまっている方に最適なシステムになっている。色解析 を新しく搭載したReal View®では、サンプルの色の変化をソフト上で定量的に評価できるようになり、より幅広い用途へ の応用が期待される。

参考文献

1)
NIST SRM 781D2

1. "NEXTA®" および"Real View®" は株式会社日立ハイテクサイエンスの日本およびその他の国における登録商標です。

出典

月刊誌「工業材料」2019 年10 月号掲載

著者紹介

*1
高橋 秀裕
(株)日立ハイテクサイエンス アプリケーション開発センタ
*2
柴田 健一
(株)日立ハイテクサイエンス マーケティング部

関連製品カテゴリ

関連する記事

さらに表示

卓上顕微鏡| Miniscope TM4000/TM3030Plus/TM3030 スペシャルサイト

ハイテクEXPO

走査電子顕微鏡 FlexSEM 1000

中型プローブ顕微鏡システム AFM5500M