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北海道大学総合博物館 准教授 Ph.D.(Southern Methodist University)小林 快次氏
北海道大学総合博物館 准教授 Ph.D.(Southern Methodist University)小林 快次氏

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INTRO

恐竜研究の原点は、中学生のころ毎日のように行った化石採集。石を割ると中から出てくる葉っぱやアンモナイトにワクワクを止められなかった少年は、周囲の期待に流されるまま大学に進学し、アメリカに留学する。迷いの時期を経て、日本で初めての恐竜の博士号を習得。アメリカの恐竜関連の書籍に「世界をリードする33人の古生物学者」として紹介される。

発掘調査では1日に30kmも歩き、足の裏はマメだらけに。それでも翌日になれば身体は自然に動きだす。研究や論文も同じで、「没頭しはじめると、どんどんやってみたいことやアイデアがわく」のだとか。言葉や理屈ではなく、恐竜は身体の一部のような存在と話す。「恐竜研究をすることで、自分がサイエンスを通じて何ができるのか」を模索しながら、1年の半分を海外で過ごしている。

手のひらに広がる
何千万年前の記憶に
心を躍らせた少年時代。
導かれるように
人生が進んでいく。

化石と出会ったのは中学1年生のとき。軽い気持ちで入った「理科クラブ」で、化石採集に連れて行かれたのが最初です。故郷の福井県は、化石の宝庫のような土地です。一度採集がうまくいったらまたやりたくなり、そのあとは毎日のように友人と一緒に出かけていました。
慣れてくると「石を読む力」がつきます。石の外側にある情報が読めるようになるのです。これだ、と思った石を手に取り、ハンマーで叩く。パリンという音と共に、1500万年前の葉っぱや、時には1億5000万年前のアンモナイトが出てきます。あの非日常性。自分の手のひらの上に、何千万年前の美しい自然の造形が存在している。それだけで、心が震えていました。
福井へ調査に来ていた研究者や学生と知り合うことがあった。いつしか彼らに「化石少年」のように呼ばれていました。その縁がきっかけで横浜国立大学の生物学科に進学。さらに、ある方に「アメリカ行くか?」と聞かれ、気軽に「はい」と応えてしまったことで、本当にアメリカに留学することに。ところが行ったのは、テキサス州の中でも特に日本人がいない地域で、自分はろくに英語も話せないのにスペイン語まで飛び交っている。もう、どうしたらいいのかわからないまま、全く勉強もせず1年間を遊んで過ごしました。

言い訳をなくし、貪欲に、が
「Nature」の論文につながった

言い訳をなくし、貪欲に、

が「Nature」の論文に
つながった

当時は「帰国したら、『自分に研究は無理でした』と言えばいいんだ」と考えていました。その反面いつも「これでいいのか?」と自分に問い、葛藤していました。今から思うと一番つらかった時代です。

当時、「ノストラダムスの大予言」というのが流行していて、1999年に地球が滅んでしまうといわれていました。もちろん頭から信じていたわけではありませんが、もしも本当なら、自分は28歳で死んでしまう。このままでいいわけがない。悶々としていた中で観たのが「いまを生きる」*1という映画です。「やりたいことをやらずに終わる人生は無意味だ」と考えるようになりました。その映画に出てくる「Carpe Diem(ラテン語:いまを掴め)」のセリフは今も座右の銘にしています。

自分で本当にやりたい何かを見つけて、それをやろう…そう思ったものの、何をやったらいいのかわからなかったころ、たまたま手にしたのが恐竜の本。開いたとき、純粋に心がときめいたんです。これだ、と。少年のころのあのワクワク感がよみがえってきました。これがあるじゃないか。やり直そうと両親に頭を下げ、再びアメリカへ渡り、ワイオミング大学に入学しました。

そのときに決めたのは、言い訳を捨てようということ。自分はまだ何も知らない、だから何でも吸収するんだ、と。出席したすべての授業を録音し、完全に暗記するという勉強法が功を奏し、飛び級で主席での卒業となりました。そして念願の恐竜研究ができるサザンメソジスト大学大学院へ進学しました。
しかし、ここでも壁にぶつかります。大学で積み上げてきた知識を、研究というフェーズで生かす方法がわからなかったのです。試行錯誤を繰り返しては、教授に「違う」「だめだ」といわれ続け、悩みました。そしてある日、自分でも気付かないまま何かが「カチッ」と合わさるようにうまくゆき、そこから周囲にも認めてもらえるようになりました。やがて、初めて書いた論文が「Nature」*2に掲載されるという幸運にも恵まれたのです。ここで学んだ一番大きなことは、研究は名声のためではなく、サイエンスへの貢献であり、人類に新たな知的財産をもたらすものである、ということでした。

*1 「いまを生きる」:原題「Dead Poets Society」。1989年、ロビン・ウィリアムス主演、ピーター・ウィアー監督で制作されたアメリカ映画。第62回アカデミー賞脚本賞受賞。
*2 「Nature」:1869年にイギリスで創刊された総合学術雑誌。世界で特に権威のある学術雑誌のひとつといわれており、世界中の研究者の優れた学術論文が掲載される。

規格外に巨大化した恐竜
大進化の謎に迫る

恐竜研究の面白さはいろいろありますが、最も興味深いのは、その規格外のサイズでしょう。
なぜあれほどまでに巨大化したのか。ある時代、私たちの想像を超えた、とてつもなく大きな恐竜たちがそのあたりをわが物顔で闊歩していました。この事実が教えてくれるのは、人間のちっぽけな思考の枠組みをはるかに超える、生命の力です。そしてその形も、ツノがあったりして実にユニーク。なぜあんな形になったのか? 敵味方を見分け、交配相手を探すなど、種を残すための進化だと考えられています。

46億年の地球の歴史、生物の進化の流れの中で、種の領域を超えてしまう「大進化(マクロ・エボリューション)」が何度か起こっています。この大進化により、魚類から両生類が誕生し、は虫類からは鳥類、あるいはほ乳類が誕生しました。ここで注目していただきたいのは、恐竜は、は虫類が鳥類へ大進化を遂げる中間段階の存在であることです。
一般に、進化を遂げるのは強者だ、と思われがちですが、食性に注目しながら鳥類に進化した恐竜について調べてみると、植物食の恐竜が鳥類に進化したことがわかってきました。植物食、つまり弱い動物が進化を遂げた。これはとても興味深いことだと思います。
恐竜をさらに研究すれば、大進化のメカニズムを説き明かせる可能性があります。

もう一点、恐竜研究が教えてくれるのは、物事を考える際の時間軸のとらえ方だと思っています。恐竜は約1億6400万年もの間、地球の支配者でした。この時間を俯瞰(ふかん)して眺めた時に、人類は大きな事実を突きつけられています。
それは、地球が第6の絶滅期に入っているという恐ろしい事実です。

大繁殖した人類は
恐竜から何を学ぶべきか

人類の誕生は約20万年前であり、その生存期間は、恐竜たちの長い歴史のわずか0.1%強に過ぎません。にもかかわらず人類は大繁殖する一方で、地球が支えきれないほどの生命体となり、ほかの生物種を恐ろしい勢いで滅ぼし続けている。過去のどの生物も持ち得なかったほど脳が発達したために、地球上の他の生物と地球そのものに取り返しのつかないダメージを与えている。
これが第6の絶滅期の実態です。
人類の大繁殖により地球が滅びるのなら、人類などいなくなるべきです。さっさと滅びるのが地球のため、だというのが自分の考えです。とはいえ人類にはかすかな望みが残されてもいる。
恐竜と比べれば、人類は2つだけ恐竜になかった力を持っています。
それは、『考える力』と『伝える力』。
人類がこれほどまでに繁殖できたのも、いま地球を滅ぼしかねないのも、この2つの力のおかげです。
『考える力』と『伝える力』をうまく使い、70数億人が一つの方向に進めば、とんでもない威力を発揮して地球を延命できる可能性が出てくる。かすかだけれど確かな希望がある。だからといって難しいことをする必要はないのです。各自が日常生活レベルで地球のためにできることを考え、身近な人にも行動を促すよう伝えるだけでいい。節電節水、ゴミの分別などささいな行動でも、70数億倍となるととてつもない力となります。
仮に全人類が、そうした行動を取ると何が起こるでしょうか。死に向かっている地球を延命できる。恐竜たちは滅びたけれども、人類は生き延びられるかもしれないのです。

一人ひとりに求めたい
サイエンスマインド

人間が持つ『考える力』と『伝える力』は、無限の可能性を秘めています。この力のおかげでサイエンスは進化を続けてきました。
サイエンスは諸刃の剣とはいえ、ベクトルさえ正しく定めれば無限の力を発揮します。人間がサイエンスの力を使い、技術、文明、文化を発達させてきたからこそ、今の世界がある。特に医療・衛生の進化により人類は大繁殖に至ったのです。人類の未来は、サイエンスの活用にかかっている。
だからといって、みんながノーベル賞をめざさなくていい。誰もが考える力を持っているのだから、それを使って自分なりの発見をすればいいのです。日々の暮らしの中でほんの少し考える力を使ってクリエイティビティを発揮し、それを身近な人に伝える。その成果が集まれば、必ず全体の底上げに繋がります。
だから今、ひとりでも多くの人に伝えたいのは「サイエンスマインドを少しだけ働かせてください」ということです。わずかでもいいから、地球のため自分のできることをやり続ける。人類の絶滅を防ぐために、まず一歩踏み出し、一歩進んだら、次の一歩へと歩み続ける。
そうすれば、人類はきっと、恐竜とは異なる未来へとたどり着けると思っています。

PROFILE

小林 快次

1971年、福井県生まれ。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学総合学術博物館招聘准教授。モンゴルや中国、米国アラスカ州、カナダなど海外での発掘調査を行う。米国ナショナルジオグラフィック協会の研究探検委員(CRE)。2004年には、恐竜研究のバイブルである「Dinosauria」の一部を、日本人で唯一執筆した。2017年には、北海道・むかわ町で国内最大の恐竜の骨格標本(むかわ竜)も発掘している。著書に「恐竜は滅んでいない」(角川書店)、「大人のための「恐竜学」」(祥伝社新書)など

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