マテリアリティ3 科学と産業の持続的発展への貢献
基本的な考え方・めざす姿
科学や産業の発展には、それを支える高度な技術が不可欠です。当社グループは、「計測・分析技術」「自動化・制御技術」「モノづくり力」を最大限に活用・高度化することで、研究開発や生産現場の生産性向上、製品の品質向上を支え、科学と産業の持続的な発展に貢献します。また、自社製品を活用した社会貢献活動の実施により、次世代人財の育成にも貢献します。
活動目標
1. 科学技術の発展
高精度な観察・分析が可能な電子顕微鏡の開発・提供により、材料・デバイス工学分野や科学理論の検証・研究の発展に貢献します。また、卓上型電子顕微鏡を活用した理科教育支援活動を通じて、子どもたちの科学技術への興味関心を喚起し、「理科離れ」という社会課題の解決と科学技術の発展に貢献します。
2. 生産現場のレジリエンス実現
「見る・測る・分析する」に関連するコア技術、AI や IoT 技術といったデジタル技術、そして各プロセスから収集されるデータの分析・活用により、生産現場の効率化、柔軟で強靭な生産体制構築を実現することで、モノづくり企業の生産性向上、製品品質の向上に貢献します。
活動計画

アナリティカルソリューション
ナノテクノロジーソリューション
バリューチェーンソリューション
コアテクノロジーソリューション
取り組み内容の詳細
活動目標1 科学技術の発展
2021年度実績
質の高い理科教育支援活動をグローバルに展開
コロナ禍においても、リモートによる出前授業を推進することで、当社の卓上型電子顕微鏡を活用した理科教育支援活動を継続実施しています。2021年度はグローバルで約61,800人に対して授業を提供し、体験者数が、日本・アジアも含めたグローバルで増加しました。特にアゼルバイジャン共和国での授業は、日本との外交関係樹立30周年記念交流事業の一環として、日本大使館と連携し、日本の代表として参画しました。2021年度は新たにウェブコンテンツ「電子顕微鏡から広がる世界」の連載を開始しています。本コンテンツでは、当社が貸し出した卓上型電子顕微鏡にふれたことをきっかけに、科学の道へ進んだ方の体験談を掲載しています。貸出先の学校が、装置の活用により科学や理科教育のコンテストで受賞する例も続いており、理系分野へのさらなる興味喚起の材料となるよう、取り組みを進めています。
2024中期経営計画に向けた取り組み
1 材料開発ソリューションの提供
マテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics。以下、MI)で新しい知見や実験の検証に貢献するとともに、開発スピードを高速化し新素材の開発・提供に貢献

環境負荷の少ないプラスチック素材など、材料開発の多様化に応えるため、AIやシミュレーション技術を用いたMIの活用が期待されています。当社は、2021年度より国内ベンダーに先駆けてMIの知見を確立した日立製作所と共同し、MIソリューションを事業化しました。MIを活用することで、従来の発想にはなかった材料の配合や組み合わせ候補の提示が可能となり、新しい知見や実験の検証に貢献し、新しい材料を生み出すシミュレーションを可能にします。加えて、材料開発における実験の、原材料、工数、回数、コスト、期間などの削減とともに、消費電力だけでなく、実験に使われる原材料の調達・輸送、発生する廃棄物の処理に伴い発生するCO2など、サプライチェーンの上流から下流に至るCO2排出量も削減できます。当社のモノづくり力や樹脂材料に関する知見を活用しながら、モノづくり企業の新素材・部材開発力向上に貢献するとともに、日本のモノづくりレベル向上支援や、中小企業も含めた生産性向上に寄与します。また、導入が容易なクラウド型であり、短期間契約を可能にするなど、フレキシブルなサービスを提供でき、多種多様な企業で活用いただくことで、世の中に広く貢献していきます。

2 卓上型顕微鏡を活用した理科教育支援活動
卓上型電子顕微鏡とSDGs関連教材を活用したリモート出前授業により、グローバルでの学びの場を提供
自社製品である卓上型電子顕微鏡を用いて、1990年代から理科教育支援活動を継続しています。今後は離島やフリースクール、特別支援学級など、これまで活動が届きにくかった地域や子どもを対象とした活動を推進し、より多くの子どもが授業を受けられる機会を拡充していきます。2022年以降は、世界中で年間5万人に授業を提供することを目標にしており、SDGsに対する理解を促進する目的で、地球規模の環境変化によって起こる身の回りの災害と防災について考える新しい教材も制作中です。提供する地域の拡大も図ります。22年度は、新たに3つの国/地域で実施し、22年度以降、グローバルで合計15の国/地域での実施を継続します。今後、より多くの国や地域に対し、科学技術に関する興味関心の喚起と研究活動支援に寄与することで、科学・医療技術等の発展につながる人財(次世代研究者)育成への貢献をめざします。

Topic
卓上顕微鏡・TMシリーズによる、医療技術面での貢献をめざして
LiB製造の品質検査などで活躍する当社の卓上顕微鏡が、医療分野に応用できる可能性を探っています。患者の腎臓等の診断において生体組織を観察する際、現在は透過電子顕微鏡で検査を行っています。透過電子顕微鏡は高分解能の画像が得られる一方、試料の作製と画像の解析に高度な知識と技術を要し、診断の確定まで数週間かかることもあります。一方で卓上顕微鏡は、操作が簡単で、光学顕微鏡用の組織切片を特別な前処理をせずに観察することができます。この特長を生かし、診断に卓上顕微鏡が使用できれば検査の大幅な時間短縮が期待できます。また厚みのある試料を観察することで三次元的な形状把握ができ、より詳細な組織変化を観察することができるのも利点です。卓上顕微鏡を活用することで、診断に必要な情報を迅速に提供できる可能性が広がっています。当社は、早期に卓上顕微鏡の技術が医療に応用できることをめざし、取り組みを進めています。
活動目標2 生産現場のレジリエンス実現
2021年度実績
デジタルエンジニアリングソリューションの提供により、製造現場の生産性向上に貢献
モノづくり企業にIoTシステムや製造実行システム(MES)を提供することで、設計・製造現場で情報を共有し、事前検証の精度向上、設備の配置改善、作業指示明確化の実現を後押ししています。また、製造現場のデータを一元管理し、生産現場の業務効率化に寄与する、PLMソリューション※1も提供しています。日立ハイテクグループ内では、海外拠点での作業指示の効率化を図るため、AR※2を活用したソリューションも開発中です。実現すれば誰が見てもわかりやすい作業指示を示せるようになり、製造現場におけるミス削減に貢献します。

※1 PLM(Product Lifecycle Management):製品ライフサイクル管理。利益の最大化をめざし、製品の計画・設計・生産・販売・廃棄まで一連の工程における情報の管理を示す。
※2 AR(Augmented Reality):拡張現実
2024中期経営計画に向けた取り組み
3 高効率な半導体生産を可能にする製造・検査ソリューションの提供
半導体製造における技術革新支援拠点を米国に設立し、顧客の技術・経営課題解決を推進することで、半導体の生産性向上に貢献
現在のデジタル社会を支える半導体分野では、先端ロジック半導体の生産は、国家戦略・安全保障の領域に達しており、開発スピード加速のためにも不具合の発見・分析・対策を確実かつスピード感をもって実行する必要があります。その半導体の製造において、当社は加工・検査・計測工程をカバーする装置を提供しています。現在、顧客である半導体製造メーカーと当社が協力し、半導体の製造工程において、当社が提供する各装置のデータをモニタリングし、製造しながら製品検査と装置の異常を検知する取り組みをテスト的に進めています。この取り組み(統合ソリューション)が確立すれば、半導体の開発期間・コスト・電力使用量等の削減および生産性向上につながります。2022年8月には米国に新たな統合開発拠点「協創センター」が竣工の見込みです。当該施設の完成により、当社の統合ソリューションをさらに推進し、高性能・低価格な半導体の生産に貢献することで、産業の生産性向上と安定化によるデジタル社会の進展に貢献していきます。


4 サプライチェーン共通プラットフォーム事業の推進
モノづくり企業のサプライヤーに対し、質の高い監査・検査を代行することにより、生産現場の効率化とサプライチェーン全体の業務・品質向上をめざす
世界で最も先進的な品質プロバイダーの一社、TRIGO社と連携し、サプライヤーに対する監査・検査の質の改善に取り組んでいます。2021年は、中国における当社のサプライヤーに対し、TRIGO社の現地スタッフを派遣し、業務を洗い出し、監査・検査を実施しました。TRIGO社を活用するメリットは、明確な審査基準を基に、第三者の視点で監査・検査を行うことにより、業務の標準化・見えなかったコストの可視化が可能になることです。これによりデジタル化の加速やマネジメントの向上につなげることができます。また製品の品質改善にもつながるので、返品で発生する輸送コストや検査工程が減らせるなど、生産の効率化、製品品質の向上にも貢献します。さらに、監査・検査部門の人員リソース不足の問題にも柔軟に対応できます。2023年度には日立グループ会社に導入し、2024年度には日立グループ外の企業に対してもサービスの提供を開始し、顧客のサプライヤーの品質向上を通じて、顧客の生産現場の効率化と製品品質の向上とともに、サプライチェーン上の個々の企業の業務・製品品質向上に貢献していきます。

