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電子顕微鏡から広がる世界 第1回 埼玉県立川越高校 肉眼では見えない構造をもっと知りたい!電子顕微鏡との出会いが、生物への興味をより深めてくれました。

2015年にノーベル物理学賞を受賞された梶田 隆章氏(東京大学卓越教授・特別栄誉教授・宇宙線研究所所長)の出身校でもある埼玉県立川越高等学校は、理科教育に力を入れており、文部科学省のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定された実績がある。

現在は「世界をリードする科学技術人材育成事業」という埼玉県の取り組みや、「川高サイエンス探究」という独自のカリキュラムを行っている。

2017年には、日立ハイテクが貸出した電子顕微鏡「Miniscope®」を使用して、同校の生物部が体長わずか0.2ミリメートルのツノトゲクマムシを撮影し、その画像の希少性と高校生の活躍が話題になった。

今回は生物部顧問の佐藤 健先生と、同校卒業生で元生物部の大附 祐也さんに、当時の思い出をうかがった。

初めて見たのはダンゴムシ。細部まで観察できた感動。

大附 祐也 さん
埼玉県立川越高等学校 2018年3月卒
早稲田大学 先進理工学部 電気・情報生命工学科

佐藤当校はSSHに指定されていたこともあり、日立ハイテクさんに電子顕微鏡をお借りすることができました。通常、高校生が使えるような装置ではないんです。

大附大学でも予約しなければ使えない貴重なものです。それが高校の生物室で、自由に使うことができました。初めに見たのは校内で捕まえた小さなダンゴムシです。ダンゴムシは肉眼でも確認できる大きさですが、目には見えない口や脚などの構造が細部まで見えて感動したことを覚えています。

佐藤高校生でも簡単に使えるのに、いろいろ見られるのがすごいですよね。

大附夢中になって生物室にある標本を手当たり次第に電子顕微鏡で観察しました。せっかくなので、見たことのない世界を見たいと思って。肉眼では見えない生物の構造が見られるのがとてもおもしろかったです。

佐藤光学顕微鏡では見えないものでも、電子顕微鏡では表面の構造までよく見えます。生徒たちにとって本当によい環境を提供していただいたと思っています。

ミクロの世界に見せられて。マムシからクマムシへ。

佐藤 先生
埼玉県立川越高等学校 主任実習教員 生物部顧問

電子顕微鏡が捉えたツノトゲクマムシ

大附子どもの頃から生き物が好きで、虫や恐竜、は虫類などに興味がありました。高校進学を決める際にも、川越高校のくすのき祭(文化祭)で生物部を見学して、ここに入りたいと思ったんです。

佐藤川越高校の生物部では、一人ひとりが担当の生き物の世話をしています。大附くんは最初マムシを研究したかったんだよね?ところが、専門家の先生に危ないからやめろと言われて。私がクマムシの話をしたら興味を持ってくれました。

大附佐藤先生にクマムシの話を聞いておもしろそうだと思いました。クマムシは水の中で生活する生物です。クマムシには陸生の種類もいるのですが、その多くは乾燥耐性を持ち、水がない場所では「乾眠(かんみん)」と呼ばれる仮死状態になります。乾眠中のクマムシに水をかけると活動を始めます。この「生きている状態」と「生きていない状態」を行ったり来たりする生態に興味を持ちました。
クマムシは身近なところでも捕れるんですよ。たとえば校内の乾燥したコケの中にもいます。乾燥したコケを水に浸して、その水を実体顕微鏡で観察するとクマムシが見つかることがあるんです。

佐藤大附くんがクマムシに興味があるということで、慶應義塾大学でクマムシを研究されている堀川 大樹先生に連絡を取って、研究用のクマムシを譲り受けました。また、高大連携ということで同大学のクマムシ研究の第一人者である鈴木 忠先生や、クマムシゲノム解析のスペシャリストの荒川 和晴先生に相談を受けていただくなど、とても懇意にしていただき、本校のクマムシ研究の素地ができあがることになりました。彼の「もっとクマムシを研究したい」という熱意が、電子顕微鏡でのツノトゲクマムシ撮影の成功につながる大きな一歩だったんです。

「Miniscope®」で、貴重なツノトゲクマムシの撮影に成功。

クマムシへの思いは今も変わらない

川越高校敷地内から発見された異クマムシ

佐藤クマムシは水の中でないと本来の姿を現してくれません。しかし電子顕微鏡で見るには、乾燥状態にしなければならないので、プラスアルファの工夫が必要でした。それを一緒に考えてくれたのが大附くんです。

大附乾燥した状態でもクマムシ本来の形が保っていられるように試行錯誤しました。それに、いろいろなところでクマムシが住んでいそうなコケを集めました。

佐藤ツノトゲクマムシは、私が家族旅行で鹿児島に行ったときに採集したコケから見つかりました。日本で見つかったのは3例目ぐらいだったのではないでしょうか。

大附今でもどこかに行くたびに紙の封筒を持ってクマムシが住んでいそうなコケを採集しています(笑)。紙の封筒を使うのは、湿ったコケを適度に乾燥させて、クマムシを仮死状態にするためです。捕獲したクマムシの撮影が成功したときは本当にうれしかったですね。

佐藤何度も失敗しましたから。いろいろ試した結果、最終的にはフリーズドライで標本を作るという方法にたどりつきました。電子顕微鏡でのツノトゲクマムシの撮影は、テレビや新聞のニュースでも取り上げていただきました。

大附私の学年の生物部は2人だけでしたが、今では全体で30人も部員がいるそうです。

佐藤大附くんが一所懸命やっていたクマムシの研究のおかげで、興味を持って入部した生徒もいるんですよ。

高校時代の経験で、生物がもっと好きになった。

Miniscope®を使用する佐藤先生と大附さん

実験中の川越高校生物部の皆さん

大附クマムシが「生きている状態」と「生きていない状態」を行き来する生き物ということで、「そもそも生きるとは?」ということに興味が湧いて、大学でも生物学の研究をしています。今後は大学院に進む予定ですが、その後は高校の教員になりたいと思っています。

佐藤今は大学4年生で今年6月には教育実習に来てくれました。

大附佐藤先生のおかげで高校時代は自由に生物の研究をさせていただきました。充実した生物部の活動の中で、いろいろなことに興味を持って取り組みたいという意欲を高めてくれたのは、電子顕微鏡だったと思います。先生のように生徒自身が自分の好きなことを高められる、取り組める環境を用意できる教員になることが目標です。

川越高校×Miniscope®

生物部は元気に活動中!

川越高校生物部には約30名の部員が在籍。全員が担当生物を飼育・研究し、電子顕微鏡による観察も行っている。毎年9月に行われる「くすのき祭」では、乾眠状態のクマムシを復活させる実演などを行い、来場者の人気投票では常に上位にランクインしている。