液体クロマトグラフ質量分析計、疾病メカニズムの解明に貢献
2008年6月4日
株式会社日立ハイテクノロジーズ(執行役社長:大林 秀仁/以下、日立ハイテク)は、株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)と共同で開発した、疾病に関連するタンパク質の解析精度と測定速度を向上させた液体クロマトグラフ質量分析計「NanoFrontier eLD」の販売を、このたび開始しました。
近年、遺伝子情報に基づいて体内で生成されるタンパク質や代謝物が、疾病や健康状態に直接関わっていることが明らかになり、疾病メカニズムの解明や新薬開発の研究現場では、それらの物質を高感度で高速かつ正確に解析する質量分析装置の重要性が増大しています。タンパク質の解析は、液体クロマトグラフで測定試料を分離しながらイオン化し、そのイオン化された試料を分子量の小さな断片に解離したものを質量分析することで行われています。
通常の質量分析計では、イオン解離法として、中性ガスの衝突を利用する「衝突誘起解離法(Collision Induced Dissociation/以下、CID)」が用いられています。しかし、タンパク質解析にCIDを用いると、アミノ酸間の結合部位で試料が均質に切断されなかったり、タンパク質の機能解析で重要となる、リン酸や糖鎖などが結合した特定のアミノ酸の修飾部位(*1)が切断されやすいなど、タンパク質の解析精度を低減させるといった課題があります。
今回開発した「NanoFrontier eLD」は、従来は大型の質量分析計(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計等)でのみ実現されていた「電子捕獲解離法(Electron Capture Dissociation/以下、ECD)」を適用し、高周波リニアイオントラップ技術を応用することで、小型化、高速化を実現しました。この高速ECDでは、1電子ボルト程度の低エネルギー電子を試料イオンに照射することで、タンパク質のアミノ酸間の結合を特異的かつ一様に切断するため、修飾部位の情報を含んだ高精度なタンパク質の解析を行うことができます。
「NanoFrontier eLD」は、CIDとECDという反応原理の異なる2つの解離法を持つことにより、CIDのみでは実現できなかった解析が可能となります。
日立ハイテクと日立は、2005年4月にタンパク質解析用質量分析計を共同開発し、国内外の市場に投入しています。今回、解析スループットと精度を向上させた「NanoFrontier eLD」を発売することで、疾病メカニズムの解明や新薬開発など、最先端の研究ニーズに応えていきます。
本体定価は8,700万円。2008年6月から出荷を開始し、2009年度に50台の販売を見込んでいます。
なお、本製品技術の一部は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構助成事業「バイオ・IT融合機器開発プロジェクト」の一環として開発されたものです。
高周波イオントラップ(*2)内で動作するECD技術を開発しました。 従来イオントラップ質量分析装置では、イオントラップ内への低エネルギー電子の導入が困難であるため、ECDには利用できないと考えられてきました。高周波リニアイオントラップ(*3)をECDセルとして用いることで、その中心軸上には高周波電場が存在せず、低エネルギー電子を安定的にリニアイオントラップ内に導入することが可能になりました。この技術により、世界で初めて液体クロマトグラフと結合して動作する高スループットECDを実現しました。
TOF(Time-of-Flight; 飛行時間型分析計)内を飛行するイオンの平行度を向上させることで質量分解能が向上し、さらに温度変化による影響を最小限としたイオン光学系の採用により、質量精度の高い測定を可能としました。TOFは極めて短時間にフルマススペクトルが取得可能という特長があります。この優れた特長をさらに向上させるため、日立は、リニアイオントラップから排出されたイオンをTOFに導入するイオン光学系に、新設計のRF電界レンズを搭載し測定スループットを向上しました。
液体クロマトグラフ質量分析計「NanoFrontier eLD」
「NanoFrontier eLD」 製品詳細ページ
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