那珂地区は、当社の中核的な生産拠点として、数々の世界最先端の製品を送り出している。その生産のパワーを支えるのが、製造現場における繊細かつ多種多様な技能である。那珂地区では、製造現場でのOJTをベースにしながら、技能五輪への取り組みなどを通じて、技能の向上と継承を推進している。
電子顕微鏡、医用システム、測長SEMなどの半導体関連装置。那珂地区が送り出す製品群は、先進の設計技術による世界最先端クラスのものばかりである。それらのキーパーツは、そのほとんどを他に頼らず自前で作り上げていくスタイルが、大きな特色となっている。これを支えるのが、那珂地区で日々培う技能である。
長年、フライス盤の技能者として活躍し、「現代の名工」である製造部機械課OB上遠野徹はこう切り出した。
「製品のライフサイクルは短く、最新のものが次から次へと生み出されていきます。常に最先端を実現するには、それに見合うモノづくりの技能・技術を創り出さなければなりません。そこに大きなチャレンジがあります」
基本となる技能に習熟することはもとより、高度な要求スぺックを具現化するために、設計者とともに新しい技能・技術にチャレンジし、作り込んでいくのだという。製造現場では、熟練した技能を伝承する側面と、チャレンジングに新たな技能・技術を獲得して、それを製品の製造に生かし続けることを大切にしており、結果的にそれが「技能のちから」の継承となっている。
那珂地区では、愚直なOJTをベースとして、先輩から後輩への働きかけにより、技能の創造と伝承を行っている。そうした取り組みのひとつが、技能五輪である。さまざまな技能分野で、新入社員の中から選抜した選手を訓練し、国内外の大会へ派遣、毎年好成績をおさめている。
自身も1973年の技能五輪国際大会で金メダルを受賞した上遠野は、その経験を踏まえて、選手に選ばれたことで得られるかけがえのない価値について語る。
「日々厳しい課題に臨み、レベルが上がっていく中で、自然に自分と向き合うことになります。私は、不器用な自分の限界を思い知り、だからこそ結果を出すために、考え抜いて工夫する姿勢が身につきました」。
2007年の技能五輪国際大会CNC旋盤職種で金メダルを受賞した生産技術部藤本アキラも、こう語る。
「入社後すぐに選手に選ばれ、明確な目標ができたことがその後の成長につながりました。技能五輪では『訓練は本番の如し、本番は訓練の如し』という格言があります。これを座右の銘にして取り組み、よい結果を出すことができました。何事も準備が大事だと身をもって知ったのです」。
技能五輪は、選手だけの取り組みではない。技能五輪事務局スタッフである、技能訓練グループの脇嘉人主任はこう述べている。
「技能五輪を通じて、現場のリーダーとして活躍できる人財育成をサポートするのが、私たちの役割です。それは選手を育てることにとどまりません。かつて選手だった人が指導員となり、彼らが選手と二人三脚で臨むことが重要なポイントです。選手を導くことを通じて、指導員自身もさらに成長していきます。選手と指導員の両者を同時に育てる。それが那珂地区の育成システムの特徴です」
かつて輝かしい成績をあげた選手であっても、指導者の立場になるとなかなか指導がうまくいかない場合が多いという。
「国際大会の指導員になったばかりのころ、自分が受け持つ選手が伸び悩んで自分の指導に問題があるのではと思ってずいぶん悩みました。選手とじっくり話してみて、私が選手の理解を置き去りにして一方的に教えていたことが原因だということに気づき、もう一度基礎からやり直しました」と藤本は振り返る。
「元選手は誰もが、そうした罠に陥ってしまいます。その壁にぶちあたってはじめて技能を伝える難しさを知り、的確な指導法を培っていく。基本技能のティーチングは誰でもできます。しかし、コーチングを通じて選手を目標へ導くのは大変難しい。そこが核心なのですが」と上遠野は指導員の成長にも温かなまなざしを向ける。
技能訓練グループの菅野和寿は、ポイントはコミュニケーション力を含めた人間力と位置づけ、こう補完する。
「技能五輪への取り組みで、指導員も選手も、モノづくりに何が大切なのかを身につけていきます。中でも重要なのが、コミュニケーション力を筆頭とする人間力。指導員は選手本位に考えることで成長し、選手は先輩との密な話し合いから人間としてのあり方、モノづくりの考え方、チャレンジの意義などを学び取っていくのです」。
技能五輪へのチャレンジを終えた選手たちは、それぞれ現場に入ることになるが、同期入社の社員より2年、3年遅れたスタートを切る。
「技能五輪に出たから偉いわけじゃない。現場の技能者のリーダーには、選手未経験の人も多くいます。製造現場では皆、平等に評価される。結局、現場での経験がその後の技能者としての成長の決め手になるのです」と上遠野はその後の大切さについて語る。
「ほとんどの選手は、現場で『できない子』になるため悩みますが、先輩たちのフォローを得ながら乗り越えていきます。それももう一つの成長のポイントですね」と菅野も語る。
技能五輪の取り組みは、現場にとって技能向上に欠かせない重要な位置づけとなっている。真剣勝負に立ち向かう選手と指導員は悩みながら成長し、戻ってからは先行して現場に入った同期の社員とともに成長を遂げていく。現場で社員同士が切磋琢磨する環境があることが那珂地区の強みであり、優れた技能を育む揺るぎない土台になっている。