日立ハイテクグループでは、会社のコア技術・製品である卓上顕微鏡 Miniscope®(以下、ミニスコープ)を活用した理科教育支援を展開している。若年層の理科離れが課題とされる中、子どもたちに少しでも理科への興味を抱いてもらうことを目的に、当社CSR経営の重要施策として持続的な活動を行ってきた。当社CSR本部、株式会社日立ハイテクフィールディング、日立ハイテクノロジーズアメリカ会社でそれぞれ展開する理科教育支援活動に焦点を当てる。
「出前授業は毎回、真剣勝負。何が起こるかわからない。子どもたちの心をつかむまで、一瞬も気を抜けません」。こう語るのは、理科教育支援活動を実践する、CSR本部CSR推進グループの寺田大平担当部長代理。ミニスコープを携えて全国各地を巡回し、子どもたちに、身近な昆虫や植物のミクロの世界を見せる日々を送る。
寺田は「一番受ける画像は、蚊です。蚊に刺されたことのない子はいませんから。身近な害虫の細部を目の当たりにすると、『やだー』『すごーい』といった声が飛び交います。この声を聴けたら成功です」と語る。
電子顕微鏡の緻密な世界を、誰でも手軽に体験できるのが、ミニスコープの良さだ。当社では、通常の100Vコンセントを用いてわずか3分で立ち上がる装置の特質をフルに生かし、理科教育支援活動を全国展開している。活動は2005年、ミニスコープ発売と軌を一にして営業サービスの一環として始まった。ユーザーの大学教官の依頼を受け、学会主催の子ども向け理科体験イベントなどにミニスコープを出展、ミクロの世界を覗くデモンストレーションを行った。活動はその後全国に拡大し、科学館などでのサイエンス教室、小中高校への出前授業、SSH※1校向けの装置巡回など、多種多様な形態へ幅を広げていく。これまで延べ36,000名に及ぶ参加を得ている。
これについて、寺田は「当初は利益に直接結びつかない活動ゆえの苦しさもありましたが、CSRの重要性が社会的に認識される中で、理科離れ対策という当社にとって意義深い活動に定着し、戦略的CSRの大切な柱として成長を遂げてきたのです」と振り返る。
理科教育支援活動の一例に、電子顕微鏡の産みの親、只野文哉博士※2の出身地である宮城県岩沼市でのプログラムがある。岩沼市では2009年より、教育委員会がミニスコープを購入し市内小学校・図書館で利用する、全国でもまたとない活動を行ってきた。当社はそのサポートを行いつつ、ニーズに沿った「理科大好きフェスティバル」に2011年より協力している。CSR推進グループの濱敦司は、こう語る。
「すでにミニスコープのある恵まれた環境ですから、その活用にとどまらない独自プログラムの開発に努めました。簡易分光器でオーロラの原理を学んだり、モミジの種を模したロケットリーフを作って飛ばしたり。最近では、株式会社日立ハイテクサイエンスとのコラボレーションで、蛍光X線測定装置を使ったプログラムも始めました」。
これら新企画は雛形として、他のプロジェクトへも随時活用する。一方、従来からの出前授業は、本社のある東京都港区の小中学校などに加え、震災復興支援としても広げてきた。2014年度より福島県内の小学校を巡回し、出前授業を行っている。2016年度からは、ミニスコープの稼働台数が3台から10台へと増える。
「より多くの子どもたちに理科の楽しさを伝えられるよう、質の向上も図ります。日立ハイテクサイエンスとのコラボのように、グループの技術資産を生かした企画も強化し、アジア地域などワールドワイドな展開にも取り組みたいですね」と寺田は意気込みを語る。
日立ハイテクフィールディングは、創立35周年を迎えた2001年、記念事業として、近隣の新宿区立花園小学校で、電子顕微鏡を利用した体験学習を実施した。理化学機器を取り扱う会社として、理科離れ問題の解消に貢献したい思いが根底にあった。だが当初、学校側の反応は薄かった。「機器の売り込みか」と警戒されたのだ。ついえるかと思われた頃、新展開があった。「総合的な学習」のテーマを探していた教務主任が、企画に興味を持ってくれたのだ。その後はとんとん拍子に話が進んだ。当時からの担当者、総務部の山本典子はこう振り返る。
「4年生の学習に組み込まれましたが、先生のご提案で、子どもたちの緊張をほぐすため、給食を一緒に食べるなどひと工夫しました」。
結果、授業は大成功。日立ハイテクフィールディングの地域社会貢献活動として定着し、2016年の今年で15年を数える長期プロジェクトとなった。途中、対象学年の変更はあったが、途切れることなく活動し、最近では株式会社日立製作所および日立ハイテクサイエンスOBの永田文男氏の協力を得て、一味違う解説も加えている。電子顕微鏡の操作にあたる電装部の長谷川飛鳥は、授業の感想をこう語る。
「新しいおもちゃを見つけたように、興味津々で来る子がいますね。その姿を見て、私自身、理科が好きだという純粋な気持ちを思い出しました」。
山本も「授業を終えた後で、驚くほど高度な質問をしてくる子もいます。ここから将来、科学の道に進む子が出てきてほしいと願っています」と語っている。
理科教育支援は国内のみならず、海外にも活動の幅を広げている。
米国では、2011年から日立ハイテクノロジーズアメリカ会社(HTA)が政府のSTEMプログラムに対する取り組みの一環で設立されたNPO団体の一員として、地域貢献活動「教育アウトリーチ・プログラム」を実践している。ミニスコープを学校や科学館でのデモンストレーションに活用し、教師や生徒にナノ世界を体験してもらう活動のほか、教師を対象としたセミナーなども開催、2011年9月からこのプログラムは全米で累計500件(2016年1月まで)実施している。「電子顕微鏡『ミニスコープ』のプロモーション活動と子どもたちの科学教育支援活動の両立が今後のミッションの一つだ」とシニア・エグゼクティブのロバート・ゴードンは語る。この活動は、日立ブランドの価値向上に貢献した活動を表彰するInspiration of the Year Global Awardの米州地域グランプリ(2015年)を獲得した。