Characterization of Nanomaterials by Capillary Electrophoresis

徳島大学大学院 社会産業理工学研究部
応用化学系
教授
髙栁 俊夫 博士(工学)
筆者らは、内径50 ~ 100 μmの溶融シリカキャピラリーを分離場として用いるキャピラリー電気泳動法(CE)により、ナノ物質のキャラクタリゼーション法を開発してきた。ナノ物質は一般的な分子やイオンとは異なり、形状やサイズに多様性を伴うことが特徴で、平均粒子径や平均電荷量で評価される。ナノ物質のキャラクタリゼーションは主に電子顕微鏡で行われる。電子顕微鏡はサイズ分布に関する情報を得るための強力な手法ではあるが、観察視野にあるものでしか判断できず、対象を留めて観察するために乾固後の測定が一般的である。ナノ物質を溶液中で分散状態のまま測定する手法として動的光散乱法(DLS)があるが、DLSでは小さな粒子の情報が大きな粒子により影響を受けるといった欠点がある。分散状態のナノ物質を直接測定する手法として分離分析があるが、ナノ物質は一般的な分子やイオンよりもサイズが比較的大きいことから、充填剤カラムを用いる液体クロマトグラフィーでは充填剤固定相への保持が難しく、凝集体がある場合にはカラムの目詰まりも懸念される。一方、CEでは泳動液を充填した中空キャピラリーを用いるので目詰まりすることなく分離分析が可能である。本稿では、それら研究成果の一部を紹介する。
カーボンナノ物質は、フラーレンの発見から始まり、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェンへと展開してきた。フラーレンは0次元物質であり、フラーレンC60は単一の物質、フラーレンC70は異性体を含む物質であり、分子の延長線上で理解することができる。実際、HPLCにより分取、精製されている。一方、一次元物質のカーボンナノチューブは、単層や多層を含むチューブ径の多様性、キラルベクトルによる構造の多様性を伴う。また、グラフェンは二次元物質であり平面形状に自由度を有し、酸化グラフェンでは置換基のバリエーションもある。
CE法は栓流の電気浸透流に基づいて分離性能が高く、分子種やイオン種ではエレクトロフェログラム上で理論段数の大きいシャープなピークとして得られる。一方、ナノ物質は粒度分布や形状をはじめとした多様性を伴うため、ナノ粒子のCE測定ではそのような多様性を反映して検出器で連続して検出され、ブロードピークとして得られることが特徴である。図1に、グラフェンをCEにより分離分析した結果を示す1)。泳動液は水系の溶媒であり、疎水性の高いグラフェンを水系溶媒に分散させ、電荷を有さないグラフェンに電荷を付与して電気泳動分離するために、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)を用いている。試料として用いたグラフェンは様々な形状のものを含んでいるため、DBSが吸着したグラフェンはブロードなピークとして観測されている。水中に分散したナノ物質では再現性の高いブロードピークが得られるが、しばしば再現性のないショットシグナル(スパイクピーク)を伴う。これらのショットシグナルはナノ物質の凝集体に帰属される。また、図1の測定試料には酸化グラフェンを添加しており、酸化グラフェンはグラフェンとは異なる泳動時間で分離検出されている。
CNTも界面活性剤の添加によりCE分離が可能であったが、分散に用いた界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムが有効であった2)。平面性の高いグラフェンに対するπ-π相互作用、曲率を有するCNTに対する疎水性相互作用と、ナノカーボンに対する界面活性剤の親和性で理解できる。また、カーボンナノ物質として、電気炉を用いてグルタミン酸から調製したカーボンナノドット(CND)はそれ自身が負電荷を有する蛍光ナノ材料であり、界面活性剤を用いない通常のキャピラリー電気泳動によりCNDのブロードピークが観測された3)。

図1 グラフェンと酸化グラフェンのCE分離(文献1より改変)
金属で構成されるナノ粒子は粒径が1 nm ~数100 nm程度の粒子であり、化学計測においては、ナノ粒子化することで生じるプラズモン共鳴を生体関連物質の検出に利用している。表面修飾したナノ粒子と測定対象物質との反応によるナノ粒子の凝集に基づく可視光領域での呈色の利用である。また、表面増強ラマン散乱の媒体としても活用されている。
金ナノ粒子をCE測定した例を図2に示す4,5)。グラフェンと同様に、サイズや形状の分散を反映して金ナノ粒子がブロードなピークとして観測されている。ナノ粒子が凝集して沈殿が生じた場合には沈殿に由来するショットシグナルが検出されるが、用いた金ナノ粒子はそれ自身が負電荷を有しており静電反発で水溶液中での分散性を保ち、金ナノ粒子のブロードピーク近辺にショットシグナルは見られない。一方、分散した金ナノ粒子にNaClやエタノールを添加することで、金ナノ粒子が分散状態から凝集状態へ変化することがCE測定により観測された。CEはナノ粒子の分散安定性を調べる手法として有用であることが示された4)。さらに、図2の測定試料では金ナノ粒子の架橋剤として少量のヘキサン-1,6-ジチオールを添加しており、架橋された金ナノ粒子の二量体が単量体ピークから分離されて検出されている5)。二量体の生成はTEM測定によっても確認されている。

図2 ジチオールにより架橋された金ナノ粒子の分離(文献5より改変)
金ナノ粒子はチオール系の物質を不可逆に化学吸着するので、CE測定により飽和吸着量を測定する手法を開発した6)。吸着物質としてシステインを用い金ナノ粒子の分散液に添加し、一定時間静置後に金ナノ粒子の分散液を直接CE測定した。図3に示すように、飽和吸着までは金ナノ粒子のブロードピークだけが得られた(a,b)が、飽和吸着量よりも高濃度のシステインの添加では残余のシステインが通常のピークとして得られた(c-e)。添加するシステイン濃度に対して、残余のシステインのピーク面積は正のx切片を有する直線性の高い検量線となり、x切片の値が飽和吸着量に相当する。LC測定でもチオール物質の飽和吸着量を測定することが可能であるが、LCでは金ナノ粒子を遠心分離後に上清を測定する必要がある。一方、CEでは上記のように測定前の分離操作を必要とせずに測定できる利点がある6)。

図3 金ナノ粒子へのシステインの飽和吸着量の測定(文献6より改変)
システインの飽和吸着までは金ナノ粒子のブロードピークだけが得られる(a-b)が、飽和吸着量以上では残余のシステインが分離検出されている(c-e)
ナノ物質を含めた様々な物質は、物質が有する色々な特性を有しており、測定対象となる物質から得られる情報はどのような測定法を用いたとしても用いた手法により制限される。ナノ物質を「溶液中で」、「分散状態で」測定する手法としてCE法は有用な方法であり、電子顕微鏡により直接的に得られるサイズや形状の情報や、ICP発光分光方法により得られる濃度の情報と組み合わせることで、ナノ物質を多面的に評価することができる。本稿ではナノ物質のCE測定に関して述べたが、分析機器による測定に限らず、身の回りの様々な事象を多面的に見ることにより本質に迫りたいし、総合的な判断をしたい。
参考文献
登録記事数 203件
まだまだあります。