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日立ハイテク

鍋島 貴之

はじめに

ハンドヘルド型蛍光X線分析装置をはじめとする可搬型分析装置は、サンプルをラボに持ち込むことなくその場でオンサイト分析を行うことができ、分析対象に対する判断の効率化を可能にした。また、これらの分析装置の利点はオンサイト分析だけにとどまらず、従来のラボの分析装置内に設置することが困難な大型のサンプルを直接分析できることも、特長のひとつとしてあげられる。
可搬型分析装置は、近年その性能の向上により、使いやすさに加え、正確な分析能力、導入の簡便さ、携帯性などを併せ持つことで、従来のラボ用分析装置と比較して、より多くの分野で利用されるようになってきた。
今回紹介する日立ハイテクサイエンスの可搬型分析装置は、元素を対象として分析を行うためのハンドヘルド型及びモバイル型の元素分析装置である。ここではそれぞれの装置の特長、特性とそれらが貢献する代表的な対象分野について紹介する。

ハンドヘルド型・モバイル型元素分析装置のラインアップとその原理

日立ハイテクサイエンスは、さまざまな分析ニーズに応じていくつかのハンドヘルド型および、モバイル型元素分析装置のラインアップを提供している(図1)。

図1 日立ハイテクサイエンスの可搬型元素分析装置のラインアップ
図1 日立ハイテクサイエンスの可搬型元素分析装置のラインアップ

それぞれのラインアップで用いる分析手法は異なる。以下にその分析原理と、それを利用した製品の特長を示す。

蛍光X線分析

蛍光X線分析では、試料中の原子を励起するためにX線が使用される。測定対象にX線が照射されることにより測定対象の内殻電子が励起され空孔が生じる。この空孔に外殻の電子が遷移し、電子軌道が正常な状態に戻るときに特性X線を放出する。照射されるX線を一次X線、放出される特性X線を二次X線と呼ぶ。この特性X線の波長やエネルギーは元素ごとに異なる。特性X線の放出された量を検出器によって検出することにより、試料中に存在する各元素の量を判断することができる(図2)。
蛍光X線分析の最大の特長のひとつは非破壊分析であり、分析対象の表面に痕跡を残さないことである。
蛍光X線分析はエネルギー分散型蛍光X線分析装置と波長分散型蛍光X線分析装置に分類される。日立ハイテク サイエンスのハンドヘルド蛍光X線分析装置はエネルギー分散型である。エネルギー分散型は特性X線のエネルギー毎にその量を検出できる検知器を用いており、装置の小型化に適している。X-MET8000シリーズはX線の発生にはX線管球が用いられ、検出器にはSDD(Silicon Drift Detector)という小型で高分解能な検出器が搭載されている。

図2 蛍光X線分析の原理
図2 蛍光X線分析の原理

レーザー誘起ブレークダウン分光分析

レーザー誘起ブレークダウン分光分析は、LIBS(Laser-induced Breakdown Spectroscopy)と呼ばれることが多く、励起源としてレーザーを使用している。測定対象をレーザーによってスパッタリングすることにより、測定対象の照射された部位の内殻電子が励起され空孔が生じる。この空孔に外殻の電子が遷移し、電子軌道が正常な状態に戻るときに各元素に対応した特長的な波長の光が放出される。放出された光は分光器によって波長ごとに分散され、その量が検出器によって検出される(図3)。

図3 レーザー誘起ブレークダウン分光分析(LIBS)の原理
図3 レーザー誘起ブレークダウン分光分析(LIBS)の原理

LIBS は試料表面をスパッタリングし分光分析することから、破壊検査となる。ただし、LIBS において試料に照射するレーザーは非常に小さく絞られるため、試料の痕跡は最小限に抑えられる。またLIBS は、蛍光X線分析と比べて軽元素の検出感度が高いのが特長である。
日立ハイテクサイエンスのハンドヘルド型LIBS 装置であるVULCAN +シリーズは、用いられるレーザーの特性、出力より測定対象が金属に限定される。パルスレーザーによる短時間の照射で分析を行うことにより、約1秒で分析結果が出ることも特長のひとつである。

OES(Optical Emission Spectrometry:発光分光分析)

OES はLIBS と同じ分光分析技術を用いた分析手法である。LIBS が励起源としてレーザーを使用しているのに対し、OES はアーク放電またはスパーク放電のいずれかで測定対象をスパッタリングしている。スパッタリングにより測定対象を励起した後の原理はLIBS と同様である。
OES もLIBS と同様に試料表面をスパッタリングし分光分析することから、破壊検査となる。LIBS と比較し、照射エネルギーが大きいことから、試料の痕跡は残るが、感度が高く、測定対象元素が多いことがその特長である。
日立ハイテクサイエンスのモバイル発光分光分析装置PMI Master シリーズは、測定対象が金属に限定されるが、特にPMI Master Smart は、測定が困難な条件の厳しい場所でも高精度の分析を行うことが可能な、世界最小・最軽量クラスの発光分光分析装置である。

対象分野とその重要性

以上のように、それぞれのラインアップで用いられる原理が異なるため、測定対象や必要とする情報によって最適な装置を使用し、分析を行うことが重要である。ここでは、代表的な対象分野とその重要性についていくつかピックアップする。

金属加工分野と品質管理の重要性

今日の金属加工産業では、納入業者の材料証明書だけを頼りにするのではなく、正しい材料が使用されていることを確認するために、合金分析装置を使用することが重要になってきている。間違った材料を使用することで事故や製品トラブルが引き起こされる事例が報告されているためである。
航空宇宙、自動車、石油化学をはじめとする多くの産業において、原材料を分析し、証明書の記載と実際の仕様が合致しているかの検査は、その企業に安全性と信頼の確保をもたらす。
製造業でのニーズは多様であるが、納入した材料を検査するために倉庫内で分析が行われる場合が多い。また、材料の受領印や証明書を紛失したような場合には、材料の取り違えを防ぐため工場のフロアでも分析が行われる。その場で結果を得ることが重要なため、外部委託をはじめ、分析室に持ち込んでの分析では要求に十分には応えられない。
日立ハイテクサイエンスの合金分析装置のラインアップには、超高速のハンドヘルドLIBS 分析装置、非破壊式のハンドヘルド蛍光X線分析装置、高精度のOES 分析装置など、顧客の要件に応じた分析ソリューションがそろっている。
例えば全数検査をはじめ、検体数が多い場合には分析速度が重要となるためハンドヘルドLIBS 分析装置が求められ、完成品の検査を行う場合には非破壊であることが重要となるためハンドヘルド蛍光X線分析装置が求められる。

金属生産分野と精度の重要性

金属生産においては、メーカーの仕様を満たす高品質な製品を提供するため、最高水準の精度が必要になる。したがって、納入した材料の検査から製品の品質管理に至るまでの全工程にわたって分析が行われる。納入した金属くずの選別にはハンドヘルドLIBS 分析装置VULCAN +シリーズを用いることもできるが、さらに高精度の分析を要する場合はOES 発光分析装置を用いることが望ましい。
OES 発光分析装置は金属生産の工程において、すべての重要元素に対し、最高水準の精度と非常に低い検出限界によって監視を行うことができる。またOES は、鋼材の最も重要な合金元素である炭素を高精度に分析することが可能な重要な技術である。測定の難しい低レベルのホウ素や窒素でさえも、OES 分析装置あればppmレベルまで正確に測定することができる。
日立ハイテクサイエンスのモバイル発光分光分析装置PMI-Masterシリーズは高い信頼性から、金属メーカーで重要な役割を果たすことが可能である。
また据え置き型のOES 発光分光分析装置であるFoundry-Masterシリーズもラインアップしている。

金属リサイクル分野における成分分析と混合物特定の重要性

金属は何度も溶解させて原材料として使用できることから、理想的なリサイクル資源である。また、金属リサイクルは環境負荷が少なくエネルギー効率がよい。例えば、金属くずからアルミニウムを製造した場合、ボーキサイト鉱石を原材料として使用するのに比べて最大95%のエネルギーを節約できる。また金属リサイクルにおいては、通常、保証された最小限の組成に基づいて評価されるスクラップ合金の塊を購入し、ハンドヘルド型の分析装置を使用して金属を仕分けした後、価値の高い部分を販売することで利益が得られる。
その他、金属の再利用における課題のひとつは、再利用を繰り返すために汚染が蓄積されることである。汚染された材料は金属生産において重大な問題を引き起こす可能性があるため、低レベルの混合物を調査・特定することがますます重要になりつつある。金属くずを炉に入れる前に、そうした金属に含まれる銅、スズなどの元素を特定しなければならない。
日立ハイテクサイエンスのハンドヘルドLIBS 分析装置VULCAN +シリーズは、SUS やアルミ合金の等級をわずか1秒で特定でき、大量のスクラップであっても素早く効率的に仕分けすることが可能である。一方、ハンドヘルド蛍光X線分析装置は、特に混合物などの分析で威力を発揮する。

その他のアプリケーション

LIBS、OES の技術は金属を対象としたものであるが、蛍光X線はプラスチックや鉱石、土壌なども測定対象となる。樹脂中のRoHS 分析をはじめ、木材、塗料、自動車触媒などさまざまな元素を対象とする分析需要があり、オンサイトでの分析、大型サンプルの分析に貢献している。

おわりに

現時点では、迅速な仕分けから高精度の元素分析まで、すべての用途に対応した単一の装置は存在しない。日立ハイテクサイエンスは、金属産業にとどまらず、さまざまな元素分析ニーズに応えるべく、多様な製品ラインアップで多くの ソリューションを提供していく所存である。

著者紹介

鍋島 貴之
(株)日立ハイテクサイエンス XR 営業部

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