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日立ハイテク

山田 充子

はじめに

現代の大量生産大量消費を行う社会では、不要になった大量の廃棄物が日々捨てられている。廃棄物処理を適切に行わないと深刻な環境問題を引き起こす恐れがあり、廃棄物の発生抑制(Reduce)、再使用(Reuse)、再生利用(Recycle)が求められている。図1は廃棄物の処理工程を示した図である。廃棄物の種類や工程によって有効利用の仕方が異なり、それに伴って必要となる分析も異なる。ここでは灰およびスラグについて取りあげる。

図1 廃棄物の処理工程

図1 廃棄物の処理工程

灰やスラグは、建材やコンクリートに再利用する際、有害元素の濃度が基準値以下か、建材やコンクリートに使用可能な組成であるかを分析し管理することが求められている。その分析方法は「JIS M 8815-1976. 石炭灰及びコークス灰の分析方法」および「JIS K 0058-2:2005. スラグ類の化学物質試験方法 第2部:含有量試験方法」に定められている。しかし、これらの公定法では操作や前処理が煩雑となるため多数の試料を迅速に分析することが難しいという課題がある。そこで煩雑な前処理不要、固体・液体・粉体を測定可能、非破壊分析および多元素同時測定が可能なエネルギー分散型蛍光X線分析法によるスクリーニング分析がしばしば用いられている1)

エネルギー分散型蛍光X線分析装置EA1400

今回、灰とスラグの分析にエネルギー分散型蛍光X線分析装置EA1400(日立ハイテクサイエンス製)を用いた。EA1400は試料台の下にX線発生部の管球と半導体検出器が配置されている。試料を設置して数分の測定をすることで、試料を構成する元素(11Na~92U)の定性および定量分析を行うことができる。EA1400には高分解能・高計数率の新型シリコンドリフト検出器(SDD)と真空システムが搭載されており、従来のエネルギー分散型蛍光X線装置と比べて、高感度で高スループットな測定が可能である。法規制されている元素のスクリーニングや品質管理などに多く用いられ、その他にも文化財や環境分析など様々な目的で広く利用されている。

図2 蛍光X線分析装置EA1400

図2 蛍光X線分析装置EA1400

試料および測定条件

灰の試料として石炭灰認証標準物質(JSAC 0522)、スラグの試料として独自入手した水砕スラグを粒径φ0.25 mm以下に粉砕した試料を用いた。底面にポリエチレンフィルムが貼られた内径φ24 mm、高さ22 mmの分析用カップを二つ用意し、各試料約10 gをそれぞれ分析用カップに入れて紙で蓋をした。測定にはEA1400を用いた。原子番号の小さい元素(~20Ca)の蛍光X線の感度を上げる目的で試料室はロータリーポンプで真空雰囲気とし、測定時間は400秒とした。

表1 石炭灰認証標準物質JSAC 0522と水砕スラグの測定条件

表1 石炭灰認証標準物質JSAC 0522と水砕スラグの測定条件

結果および考察

分析結果を表2に示す。石炭灰(JSAC 0522)では分析結果を認証値と比較した。スラグ試料では分析結果をICP発光分光分析装置(ICP-OES)の分析値と比較した。

表2 蛍光X線分析値と認証値およびICP-OES分析値の比較

表2 蛍光X線分析値と認証値およびICP-OES分析値の比較

EA1400で認証値およびICP-OES分析値と近い結果を得ることができたのは、表3に示す要点を周到した結果であると考える。

表3 蛍光X線分析における主な要点

表3 蛍光X線分析における主な要点

蛍光X線分析では試料が均質であることを前提条件としている。均質な状態にするために今回スラグを粉砕した。試料量を10 gにしたのは試料厚さをバルク領域にするためである。バルク領域とは、試料の厚さを変化させても蛍光X線強度は変化しない厚さの領域のことである。バルク領域は測定元素の蛍光X線エネルギーと試料の主成分で決まる。灰とスラグのバルク領域の目安は厚さ5 mm以上である。今回、定量方法としてファンダメンタルパラメーター法(FP法)を用いた。蛍光X線分析法では、試料の組成(含有元素および含有量)がわかれば、蛍光X線発生の原理に基づき、測定条件とファンダメンタルパラメーター(物理定数)を用いて、蛍光X線強度を理論的に計算することができる。FP法とは、この理論強度計算を利用して、測定強度から組成を求める方法である。測定強度から直接含有量に変換することは計算式が複雑で困難であるため、逐次近似計算法を用いる。FP法の計算の流れは、まず試料の組成を初期仮定し推定強度を計算する。次に推定強度と実測強度を比較する。推定強度と実測強度の差が大きければ、組成の仮定を変更して推定強度を計算し、実測強度と比較する。推定強度と実測強度の差が小さくなるまで組成の仮定を変更し続け、推定強度と実測強度が一致したときの仮定した組成を分析結果とする2)。灰やスラグ中の主な元素は酸化物として存在することが知られているため、今回、蛍光X線で測定された主な元素は代表的な酸化物の構造で試料中に存在すると仮定した。表3の要点を周到して分析した結果、EA1400で石炭灰や水砕スラグの主成分だけでなく石炭灰中の微量成分(Cr、Pb)の同時分析も可能であった。蛍光X線分析は簡便な分析でありながら公定法と近い分析結果を得ることが可能であり、リサイクル材料分析においても役立つ分析法であると考えられる。

結言

エネルギー分散型蛍光X線分析法は、煩雑な前処理不要、固体・液体・粉体を測定可能、非破壊分析および多元素同時測定が可能であり、多数の試料を迅速に分析することが必要なリサイクル材料のスクリーニング分析に役立つ分析法であると考えられる。蛍光X線分析における主な要点を周到することで、公定法に採用されている分析法と近い結果を得ることが可能である。幅広い分野で利用される蛍光X線分析がリサイクル材料分析においてもますます広く活用されることを期待したい。

参考文献

1)
槇石規子, 佐藤重臣, 永嶋仁, 蛍光X線分析法による精錬スラグのオンサイト迅速分析技術, JFE 技報, No.13(2006年8月), p.48-53.
2)
中井泉, 日本分析化学会X線分析研究懇談会, 蛍光X線分析の実際 第2版, 朝倉書店(2016).

著者紹介

山田 充子 
(株)日立ハイテクアナリシス アプリケーション開発センタ

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