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日立ハイテク

白井 学*1

イオン液体は真空中でも液体状態を保持することができるため、電子顕微鏡の新たな観察手法として注目されている。イオン液体を電子顕微鏡の様々なアプリケーションに応用するためには、電子線照射下におけるイオン液体の帯電に関する知見が必要となる。本稿では電子線ホログラフィーを用いてイオン液体の帯電特性を評価した結果を報告する。
イオン液体はFIBで加工した白金線上に保持し(図1)、HF-3300形TEMを用いて加速電圧300 kVで同一視野のホログラムを撮影しながら、電子線照射による外部電位の時間変化を観察した。図2は電子線束密度2 × 1017 e/m2sで電子線照射を行ったイオン液体の位相再生像の観察開始直後から90分間の時間変化である。電子線開始直後にもイオン液体を中心として周辺の位相分布が観察されており、イオン液体は電子線開始直後から微小な電位を持ち、プラスに帯電していることがわかる。照射時間が進むにつれて位相分布の変化が大きくなり、帯電量が増加するが、90分照射後もTEM観察には影響しない程度の帯電量である。このような微小な電位変化は通常のTEM観察やローレンツ観察での検出は難しく、電子線ホログラフィーを用いて初めて評価することができた。

観察試料の模式図
図1 観察試料の模式図

電子線照射によるイオン液体の位相再生像の変化
図2 電子線照射によるイオン液体の位相再生像の変化
(加速電圧300 kV, 電子線束密度2 × 1017 e/m2s)

電子線照射によりイオン液体の電位が増加することが明らかになったが、このような変化はイオン液体の表面物性に影響すると考えられる。そこでNB5000 FIB-SEMに搭載されているマイクロプローブを用いてイオン液体の表面状態の確認を行った。図3は電子線照射を行っていないイオン液体と電子線束密度2 × 1017 e/m2sで3時間電子線照射を行った後のイオン液体のプローブ接触後におけるSEM像である。電子線を行っていないイオン液体はプローブが触れると、試料がプローブに付着しており、液体状態であることが確認できる。一方、電子線照射を行ったイオン液体はプローブが接触してもその形状は変化せず、固体状態であることがわかった。以上より電子線照射によりイオン液体が帯電し、固体化するということが明らかになった。今後、イオン液体を電子顕微鏡に応用するためには、固体化が起こらない適切な観察条件の検討や固体化のメカニズム解明を行っていく必要がある。

電子線照射後及び未照射のイオン液体におけるプローブ接触後のSEM像
図3 電子線照射後及び未照射のイオン液体におけるプローブ接触後のSEM像

著者所属

*1
白井 学
株式会社日立ハイテク 科学・医用システム事業統括本部 科学システム設計開発本部 アプリケーション開発部

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