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  • ペロブスカイト太陽電池の先端研究を担う 東京大学生産技術研究所にHF5000・NX5000を設置

カーボンニュートラルを実現する鍵の1つが太陽電池です。なかでも「ペロブスカイト太陽電池」は、次世代太陽電池として期待されています。社会実装に向けて世界中がしのぎを削る中、東京大学生産技術研究所にHF5000・NX5000が設置されたことは、研究開発を加速するものとして注目を集めています。そこで、研究責任者である瀬川 浩司教授(東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻長)、内田 聡特任教授(東京大学先端科学技術研究センター)にインタビューを行うとともに、2024年6月4日に行われた超高分解能電子顕微鏡計測実験室の開設式の様子をレポートします。

東京大学 大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 瀬川 浩司 教授

東京大学 大学院
総合文化研究科
広域科学専攻
瀬川 浩司 教授

ペロブスカイト太陽電池の研究で世界をリードする強力なツールを得ました。

今、日本の再生可能エネルギーの主力を担っている結晶シリコン系太陽電池は、2023年末で7,200万 kWに達しています。しかし日本では大規模なメガソーラーを置ける平地面積が限られており、既に太陽光発電の導入が頭打ちになっています。一方、工場や体育館の屋根など日当たりの良い場所はあるものの耐荷重の問題で重たい太陽光パネルの設置が困難です。今後、政府がめざしている2030年の再エネ電力比率36~38%を達成し、さらに5割を超えて増やしていくには、軽量で高性能の太陽電池が必要になります。ペロブスカイト太陽電池は、セル変換効率が26%を超える高性能でありながら、結晶シリコン系太陽電池の約1/10の重さであり、体育館の屋根、ビルの壁面や電気自動車、駅のホーム屋根など、これまで設置が難しかった場所への設置も可能です。また、発電層の厚さは結晶シリコン太陽電池の1/100以下で省資源であり、1メガワットの発電に必要な材料は結晶シリコンの場合トンレベルになるのに対し、ペロブスカイト太陽電池ではヨウ素は僅か16 kg、鉛は8 kgで済みます。さらに溶剤にも溶解させやすいので廃棄やリサイクルも容易でサーキュラーエコノミーにも対応しており、結晶シリコン太陽電池に比べると最終的な廃棄物の量も1/10以下に減らすことができます。これらの長所を生かし、高性能を維持しつつ、いかに均一に大面積化していくかが今後の課題であり、膜内部の構造を確かめ、添加する材料の物性を調べ、あるいは劣化が起こった場合に結晶自体がどう変化したのかを知ることが重要になります。基礎科学に立ち返ってペロブスカイト太陽電池の開発を進める上で、今回導入した超高分解能の電子顕微鏡は、日本がこの分野で世界をリードするための非常に強力なツールになると期待しています。

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東京大学 先端科学技術研究センター 内田 聡 特任教授

東京大学
先端科学技術研究センター
内田 聡 特任教授

ペロブスカイト太陽電池の実用化には、科学の眼で見ることが欠かせません。

多くの研究者がペロブスカイト太陽電池の変換効率を上げるために、組成の変更や添加物、表面処理などの工夫を行っていますが、操作と結果をつなげるサイエンスの部分はあまり明確ではありませんでした。ところが電子顕微鏡では、操作した条件が一体どういう形で影響を及ぼしたのかを映像で明らかにできます。私たちは、カリウムをごく微量添加すると、耐久性が向上し、ヒステリシス(Hysteresis)を著しく減少させることを発見しました。通常のペロブスカイト太陽電池を電子顕微鏡で観察したところ、1つの粒子だと思っていたものが、実はもっと小さい10から20ナノメーターほどの粒子の集まりであることが判明しました。更にカリウムを添加することで、粒子と粒子の境界が消失し、電子の流れが改善されることを、おそらく世界で初めて確認することができたわけです。今回、その電子顕微鏡が本研究所に設置されるということで、研究開発が一気に加速することは疑いないでしょう。ところで、電子顕微鏡の性能を生かすためには、観察の前段階でいかに良い試料を提供するかも重要です。日立ハイテクの電子顕微鏡の最大の特色は、その連携です。サンプルを加工して、スムーズに大気暴露せずにステージに載せられる利点は、ペロブスカイトを研究する上で大きなアドバンテージになります。日立ハイテクとのお付き合いは10年来になりますが、多くの観察の機会をいただいたこと、そして、その成果として超格子構造を世界で初めて確認できたことに大変感謝しています。今後は、この電子顕微鏡を活用し、産学連携のもと、変換効率と耐久性を高める鍵を突き止め、実用化への知見を提供したいと考えています。

■2024年6月12日、超高分解能電子顕微鏡計測実験室の開設式が開催されました。

開設式の冒頭では、今回の電子顕微鏡導入にご尽力いただいた関係者の皆さまに対し、当社執行役員コアテクノロジー&ソリューション事業統括本部長 飯泉 謙より謝辞を述べました。その後、東京大学副学長の岡部 徹 教授からは駒場分析コアという分析設備の一環としてサブナノの領域まで観察できる電子顕微鏡が加わったことへの喜びの言葉をいただき、同大学生産技術研究所所長の年吉 洋 教授からはエネルギー問題は喫緊の課題であり、この場所から部局連携の新しいソリューションが生まれることを望むと期待を込められました。また、同大学大学院総合文化研究科広域科学専攻長の瀬川 浩司 教授からは、去る5月に政府がペロブスカイト太陽電池を日本の最重要課題として後押しすると決定したことに触れ、その最もコアな研究を担う設備が東京大学生産技術研究所に置かれたことの意義の大きさを語られました。当社は、こうした最先端の研究開発に関わる機会をいただいたことに感謝し、今後の研究開発に微力ながら貢献したいと考えています。

(取材・記事 : SINEWS編集事務局)

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